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戦う改造人間と笑う人造人間  作者: フロッグ中尉
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第10話 包囲

「あっ!」

 俺の前を駆けて山を下っていた楓は足を滑らせて数メートル転がり落ちた。

「大丈夫か!?」

 駆け寄って手を貸してやる。

「あ、足が……」

 右足首を挫いてしまったようだ。もう少し下れば隠れられる木のある場所なのだが……

「あ、む、向かってきてます……か、数は7人……は、早く行かないと……」

「落ち着け! ほら、手をまわして……」

 楓はかなり怯えているようだ。今までの戦闘とは違い、明らかな殺意を向けられ追われているというこの状況は、かなりの恐怖を感じているはずだ。

 肩を貸してやって何とか進み始める。かなり下ってきたがまだ草木は少なく、身を隠せそうなものはない。

 遠くで大爆発の音が聞こえた。

「なんだ今のは?」

「ヘリが落とされましたね……ですが、ヘリが近づいてきています……」

 どういうことだ?

「数は2機。恐らく、敵を運んできたヘリかと」

 まずいな。空からだと簡単に捕捉されてしまう。

 楓を引きずるようにして進み続ける。痛むのか、苦しそうに息を切らして何とか体を動かしている様子の楓。

「がんばれ。もう少しだ。もう見えてきたぞ」

 背は低いが木が密集して何本か生えた所が見えてきた。

 俺たちの周りを弾が飛ぶ音が聞こえる。追いつかれた。振り返ると、横一列に並んで追ってくるのが見える。距離約1キロだが、間には遮蔽物が何もない。

「あの人たち、研究所を襲ったのと同じ装備ですね」

「スペツナズ……」

 ということは……

 突如、山の峰からヘリが2機姿を現す。ハインドだ……

「いよいよ不味くなってきたな」

「動かず迎え撃っていた方がよかったと思いますよ……」

 あそこで銃撃戦を繰り広げれば、基地の連中にも気づかれてもっとややこしいことになっていただろう……だが、今となっては楓の方が正しい気もする。

 何とか被弾せずに木の陰に隠れる俺達。

「はぁ……はぁ……」

「よく頑張ったな。後は休んでおけ」

「唾で捻挫も治せたらいいのに……」

 楓を座らせてから、俺は銃を構える。スコープ越しに見えたのはやはりロシア人たち。

「妙だな……狙撃手も居るのに、なんで俺達はここまで殺されなかったんだ?」

 山頂でこちらを撃ってきたであろう奴らも見えた。持っているのはドラグノフ狙撃銃。風もそんなに強く吹いていないから、1キロぐらいなら当てられるだろうに。

 消音器付きなので、僅かな音を立てて数発発射。流石に距離があるので1発必中とはいかない。とりあえず狙撃手は厄介なので仕留めておいた。

 反撃で撃ち返されて一度身を隠す。筋力強化のおかげで銃を持った状態でも素早く動ける。銃や装備を身に着けた状態でも身軽な時の倍ほど速くだ。

「キョーキさん、不味いですよ……」

 楓が呟いたと同時に山の陰からヘリが2機姿を現す。ハインドだ。

「こりゃ、確かに不味いな……」

 対人装備しかないし、遮蔽物もただの木だ。

「ヤることヤってから死にたかったなぁ」

「それ俺の! 男のセリフだから!」

 俺のツッコミにケラケラ笑う楓。今この状況がわかっているのだろうか? 本当に死ぬかもしれない。


「おかしいな……」

 ヘリは一向に撃ってくる気配はなく、上空を旋回している。様子を見ているようだ。敵の意図が掴めず様子を伺っていると、敵の部隊長らしき人物が拡声器を取り出した。

 ヘリに怯えて隠れているうちに距離を詰められていたようだ。

「聞こえるかヤマガタ! 銃を捨てて投降しろ! お前達は包囲されている!」

 日本語だ。

「包囲ねぇ……随分と上手い日本語だな」

「一生懸命勉強したんでしょうねぇ。声からすると若いですね、彼」

「どうする?」

「殺す気ならヘリで粉微塵にしてるでしょうし、捕獲する気じゃないですか?」

「高く売れるだろうしな俺達……一応武器は持って出るか」

 俺は銃を捨てずに、両手で持って高く持ち上げて降参の意思表示をしながら木の陰から出る。楓もバンザイの状態で足を引きずりつつ俺の後を付いてくる。

 それを見て指揮官らしい男だけが近づいてくる。部下たちは遠巻きに銃を構えてこちらを取り囲んだ。

「銃を捨てろと言っているだろう!」

「ヤダよ。お前ら撃ってくるかもしれないじゃん」

「駄々をこねるな!」

 見たところ20歳くらい、楓と同じくらいかな? 若い青年が指揮官らしい。

「お前のせいで随分と部下が死んだ。今すぐにでも殺してやりたいところだが、任務はお前達の捕獲だ」

「思いっきり殺そうとしたくせに、よく言うぜ」

「殺す気なら最初の狙撃で殺している。追いつめて投降を促すのが目的だ」

 何ともまぁ回りくどい作戦だこと。

 とりあえず撃ってこない様なので、銃を地面に置いた。楓も手を降ろして楽にする。

「戦闘にならないとお前達は逃げ隠れてしまうからな。その女の能力で……」

 彼は冷たい視線を楓に送る。若いが、体つきはしっかりしており筋肉質で、いかにも屈強な兵士といった感じだ。

「俺はアイザック。本名ではないがこの名で通っている」

「なんで本名じゃないんだ?」

「我々はスペツナズの中でもより特殊な任務をこなす部隊だ。情報漏洩防止のために、隊員同士ですら本名を知らない」

 厄介な奴らだ。


「お前達が研究所で皆殺しにしてしまった彼らは新入りばかりで、随分と粗相をしてしまったようだが……我々は違う」

 黙って聞いていればよく喋る男だ。独りで勝手に情報を喋ってもらおう。

「緻密に作戦を練り、実行する。貴様の突飛な行動に予定を多少狂わされたが、必ず結果は出す。現にこうして捕らえる事が出来た。貴様らには莫大な懸賞金がかかっているからな。我が軍の軍資金のために付いて来てもらおうか」

「売られるなんてまっぴらごめんだ!」

 飽きてきた俺はこっそりピンを抜いておいたスモークグレネードをその場に落とした。

「楓! 伏せていろ!」

 柔道のような感じで襟首を掴み、アイザックを引き寄せそのままの勢いを保って背後に回り込む。左手で首元にナイフを突きつけ、右手でハンドガンを構える。

 スペツナズ隊員達が慌てて銃をこちらに向けてくる。

 開けた山の斜面なので煙幕はすぐに風に流されて視界がクリアになる。

「すぐやられる敵役の共通点はな、べらべらとよく喋ることだ」

「くっ! 舐められたものだ、なぁ!」

 アイザックが語尾に力を込めて何かした直後に、気付くと俺は先ほどまでとは逆の立場になっていた。首元にナイフを突き立てられ後ろ手に拘束される。

 映画のように上手くはいかないもんだな……

「大人しくついて来い。何も殺そうというわけじゃないんだ」

「さすがは精鋭部隊だな」

 落ち着いているように装っているが内心超焦っている。まじでやばいかも。

「俺は祖国に帰りたいだけなんだが? 帰してもらえないかな?」

「キョーキさん!」

 煙幕に咽ながらも、少し距離を取った楓が呼びかけてくる。なぜかスペツナズ隊員達は楓に指一本触れようとはしない。

「あの女には戦闘能力がないことはわかっている。厄介なのはお前だというのはわかっているんだよ」

 なるほどね。

「重要なのは女の方。お前は殺してしまってもいいんだぞ? だから大人しくしていろ」

 楓の方か……俺はついでみたいなものなのかねぇ。

「それなら……!」

 楓が声を震わせながら、あろうことか拳銃を引き抜いて自分の側頭部に銃口を向ける。

「私が死ねばキョーキさんを解放してくれるんですか!?」

「ば、バカな真似はやめろ!」

「そうだぞ! こんな男の為に君が命を捨てる必要はない!」

 俺とアイザックが慌てて止めに入る。

「確かに君が死んでしまっては彼はもう必要はない! だが、君が死んだあと、用無しの彼を始末してしまうかもしれないんだぞ!?」

 アイザックが必死に説得を試みる。

「そ、それでも! また研究所に閉じ込められるくらいならッ……!」

 楓は本気だ。今にも引き金を引きそうだ。

「アイザック、いいからあいつを取り押さえさせろ」

「一歩でも動けば引き金を引くぞ! 彼女が死んでもいいというのか!? 任務達成のためには彼女が必要なんだ!」

「大丈夫だから」

 アイザックは半信半疑な様子だが、部下とアイコンタクトを取ると部下の1人が1歩楓に近づいた。

 それに気づいた楓がついに引き金を引く。

「っ……! ……?」

 銃は金属音を立てるだけで、銃弾は射出されない。

「だからロクなことにならないと言ったんだ」

 こんなこともあろうかと、楓から銃を見せてもらった時に、撃針を抜いておいたのだ。

「一体何なんだお前達は……」

 呆れて唖然としているアイザックから拘束する力が抜け、俺は解放してもらう。

「俺も知りたいよ」

 やれやれと言った感じに軽く両手を上げ、アイザックに向き合う。

「俺達は米軍に雇われてはいるが、条件次第ではお前達に付いて行ってもいい。研究所に連れ戻されるのは御免だが、力になってやってもいいぞ」

「なんだお前、捕虜のくせに偉そうだな」

「わ! ちょっと!」

 一方楓はスペツナズの隊員に取り押さえられ、手錠を掛けられていた。

「我々の任務はお前達を捕らえ、依頼者に多額の報酬と交換することだ。それに、戦力は今のところ足りている」

「じゃぁ、しょうがない。後は山頂からこちらの様子を伺ってる、俺の雇用主と相談してくれ」

「何だと……?」

 俺が言うと同時に、スペツナズ隊員たちが一斉に山頂に向かって銃を構える。山頂にはいつの間にかクロエ率いる1個小隊が展開していた。




「これはこれは、ミス・クロエではありませんか」

「シリア以来だな、アイザック」

 銃のセーフティは外したままだが、にこやかにあいさつをする2人。それぞれの部下達は俺達から距離を置いて待機している。

「知り合いだったのか」

「まぁね。特殊部隊の中でも特殊な部隊同士、時には協力したこともあるのよ」

「間接的にではあるが、敵同士として戦ったこともあるがね」

 友好的なのか敵対しているのか……

「さて、コイツは今のところ私の指揮下にあり、手を出すということは私たちへの攻撃ともとれるのだが……どういうつもり?」

「私も任務なのです……彼らを捕らえる事が……」

 急に弱気になるアイザック。対してクロエは随分と強気だ。

「今回のところは任務失敗として帰ってもらうしかないな」

「そんな……」

「アイザック君……君の対応次第で私は、『あの夜』のことをまたしばらく忘れてしまうかもしれないんだが」

「『あの夜』ってなんだ?」

 クロエの言葉に、アイザックが動揺している

「えっ……! いいでしょう! 今日のところは引き下がります! ですから……!」

 あー……そういうことね。アイザックは何か弱みを握られているらしい。

「また上官からの評価が……」

「まぁ、あきらめろ。例の件が明るみに出れば君は職を失うかもしれないんだからな。ふふっ」

 実に楽しそうなクロエと何かを諦めた様子のアイザック。よほどの貸しがあるようだ。

「それじゃ、もういいかな?」

「あぁ。我々は撤退する」

「それじゃ、キョーキ。迎えが来るまで休んでていいわよ」

 それならば俺はやることがある。俺は解放された楓の元に近寄って行き……

「キョーキさん?」

 グローブを脱いで素手の状態にし、楓の頬を叩いた。

 本気でやると怪我を負わせてしまうので、あくまで手加減をし、だが気持ちはしっかり伝わるように力を込めてだ。

「キョーキ!? あんた何やって……!?」

 クロエが慌てた声を上げるが構わない。

「二度と……二度と俺の為なんかに命を投げ出すようなことはするな!」

 楓は打たれた頬を抑え、呆然と俺を見上げる。

「わ、私は、キョーキさんを……足手まとい……ならな……」

 途切れ途切れに言葉を絞り出す楓。

「俺はお前を死なせる為に連れ出したんじゃない。俺にはあの研究所から連れ出したという責任がある以上、何があってもお前を守るつもりだ。だから! 何があっても死ぬことは俺が許さない」

「キョーキさん……キョーキさぁぁああああん!」

 堪え切れずに泣き出し、飛びついてきた楓を優しく抱きしめてやる。

 クロエは察したのか、何も言わずにただ黙って見ている。気付けばスペツナズ達は姿を消していた。

「すまなかった。お前にあんなことをさせてしまうような状況に陥ってしまって。悪いのは俺だ……だからお前が、楓が死ぬ必要なんかないんだ……」

 楓を叩いた手が痺れるように痛む。


 基地への帰投には輸送ヘリが迎えに来た。その機内で楓は泣き疲れて俺を膝枕にして眠っていた。

「……キョーキ?」

「どっから声出してんだお前は」

 クロエが個人間のみの回線で、インカム越しに話しかけてくる。

「失礼ね、私だって優しい声も出せるわよ」

「へー」

 正直クロエの相手をしている精神的余裕はないのだが……

「思いつめた顔してるわよ。話して楽になりなさいな」

「……晩飯何食おうかなって、考えてた……」

 クロエを見ると、なにやら微笑ましそうにこちらを見ていた。

 まぁ、こいつになら……

「……本当にあれでよかったのかなって……思ってさ。今まで口で叱ったりは有ったけど、楓は女の子だし、研究所育ちだし、叩くのは不味かったかなって……」

「それほど強い思いが有ったんでしょ?」

「……」

 沈黙を肯定と取ったクロエが続ける。

「私にも妹達が居て、私が軍に入るまでは私が世話役だったの。一番下の妹が13歳の時、コンビニで盗みを働いたの。許されない行為だわ。だから私、あなたと同じように叩いて叱ったわ。もちろん家族を叩くなんて初めてのことよ」

「……それで?」

「泣いてるその子を連れて店に謝りに行ったわ。それ以来盗みはおろか、ポイ捨てだってしない良い子になったわ」

 膝元の楓に視線を落とす。俺が叩いた頬は薄ピンク色になっていた。

「叩くことは悪いことよ。それでも必要な時だってある。でも、むやみに叩いてばかりだとそれは暴力、虐待よ。相手が如何に怒っていて、如何に自分が悪いことをしたか。それを理解させられるなら必要な行為よ。相手に手を上げてでも気付いてほしい時、保護者として悪役になる必要がある……」

 クロエもその時のことを思い出しているのか、自分の右手を眺める。

「叩く方だって、辛いもの……」

「あぁ……」

 しばし流れる沈黙。

「……それにしても、あなたもそんなに優しい目ができるのね」

 重い空気を取り払うかのようにクロエが茶化してくる。

「うるさい」

「とか口では言いつつカエデを優しく撫でてるんだから、素直じゃないわよねー」

 言われて気づく。慌てて手を止め、腕組みしてクロエの指摘を無視する。

「まぁ、少しは気持ちが軽くなった。感謝する」

「どーいたしまして」

 気遣いへの感謝を述べた時、ヘリは降下を開始するところだった。


今回は会話多めでお送りしました

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