表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏切りの勇者  作者: みけねこ
1/1

初動

そこは小さな山に作られた小さな洞穴の中だった。人間の国の端に属す、緑豊かな森の中。外からは見えないように薄く土砂をかぶせられ、日の光もごく僅かしか入り込まないその場所に私はいた。

つい先ほどまでは一切感じられなかった脱力間が全身にまとわりつき、遥か過去に忘れたはずの空腹感があふれ思い出すように襲ってくる。

「ゆるさんぞ・・・」

すぐにでも気を失いそうな飢餓感を堪え、長い爪の中が真っ黒になりながらも必死に土砂を崩していく。次第に光が太くなり、なんとか人ひとりが通れるだけの隙間を開けるのにどれだけかかったのだろう。時間の感覚を失い、私はそこから這いずる虫のように脱出した。

食い物を寄こせ。

そう念じても誰も来なければ何も差し出されない。当然だ。ここは魔物蔓延る名の無い森の中だ。人だって一人もいるはずがない。私はみじめったらしく息を荒げ地を這うと、一つの樹の前までたどり着く。力を振り絞り、どうにかして仰向けに転がるとそこには赤々と輝く果樹が実っていた。

なんてうまそうな果実なんだろう。

私は一度だってあの果実を口にしたことはない。名称すら聞こうとしたことはない。ただ、ゴブリンどもが口にしているのを見たことがあるくらいだ。口にする機会がなかったわけではない。ただ、口にする気も意志も、うまそうなどと思うことだって一度もなかっただけなのだ。

それが今はどうだ。どれだけあれがほしいと願っても、樹に飛びつき上る力も、幹を蹴り倒すだけの力も、空を歩くだけの力ももう残ってはいない。

「かじつもようい、しておくんだったな・・・」

こんなことになるなら、と後悔がよぎる。しかしいくら後悔したところで今がどうにかなるわけではない。しかし今の私には体を自由に動かすだけの力さえもないのだ。もうどうにもならないのだ。

「せめて、このさいゴブリンごときでもいれば・・・」

そう考え目だけを動かし辺り見るが、そのゴブリンも今はいるはずがないとすぐに思い当たった。

そうだった。他ならぬヤツがすべて集めてしまったのだった。あの・・・あの憎き裏切り者が。

あぁ、と息を吐く。もう諦めたほうがいいのだ。きっと、私の生涯はもう決まっているのだ。それはおそらく、このままのたれ死ぬか、もしくは野犬にでも喰われて、それで終わる。なんてあっけない未来だろう。


そんなことを考えているうちに私の眼はいつの間にか閉じていた。きっともう、二度と開くことはないのだろうなと、底に沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ