エピローグ
「何故、このコンストラクトを使わないのですか」
「それは賢王ウルゴーの意志による物なのです、マルニーク殿。いくらあなたが百年に一度の天才と言えど、こればかりは許されません」
「賢王ウルゴーがこの兵器を使えば、兵士を使わずとも、平定できたのではないですか?」
「しかし使わずともウルゴー様は平定された。その方が良いのです。むしろ賢王は、この古代兵器を見つけてしまったからこそ、異世界への干渉を固く禁じたのでしょう」
「……その考え方は正しいだろう。しかし、今のこの乱世は、避けられた事だと自分は考えます。魔法ギルドがこの兵器をもって威圧すれば、ダイゲンという戦士の愚行も、ハイ・ウルゴーの滅亡も防げたでしょう」
「分かりません。もはや賢王は存在せず、その墓石にも、この兵器の封印が神の勅命で記されております。我々はこの兵器を封印し、その鍵をデビル・タングラムと生ける鍵に封じ込み、未来永劫、開く事がないようにいたします」
「……私があと10年早く産まれていれば……」
「そうですな。マルニーク殿が10年早く産まれていれば、私はあなたに仕えていた事でしょう」
(私は諦めない。砂漠を渡り、ノース・サーンでもう一度、ウルゴーの旗を掲げる……いや、それよりももっと高みを目指す事も出来るかもしれない……)
(そうだ。魔法使い達の街を作ろう……この魔力発電の技術とドラゴンネクロポリスがあれば、強固な街を作る事ができる)
(そして、このデビルタングラムがあれば……私は賢王ウルゴーを越える覇者ともなり得るはずだ)
当時、ディアス・サーン大陸はキング・ラー=ライラット三世の墓石がある死の砂漠によって、北部と中部の交通は大きく隔たれていた。
ノースサーンへ向かうには、陸路の砂漠を使うよりも西湾岸のロブニク港から船で北のラヴァニア港へ向かい、そこから東のエルフ達の住む森へむかう方が安全だった。
ノースサーンは、北方に険しい山脈があり、東は黒い森があり、南は荒野が広がり、その先には死の砂漠が広がるという、自然の要害に守られた豊かな土地であり、人が住むには過酷な土地だった。
賢王ウルゴーも一度は砂漠を越えてエルフの森に手を伸ばそうとした事があったが、あまりにも遠すぎて諦めたという過去があった。
一つには北のミソス・テウエルという都に住むエルフ達は、人間達がノースサーンに来るのを快く思っておらず、あらゆる手段でウルゴーの進路を阻んでいた。
それでもラヴァニアを経由して、徐々にノースサーンの土地に根付いていく人間達を、彼らは深い森の中から冷めた目で見守るしかなかった。
かつて、このペインアースにはドラゴンポリスという竜の都があり、そこを統治した五色の竜が居た。
赤竜、女帝の異名を持つヴィスカス。
白竜、魔竜の異名を持つトーラス。
青竜、知将の異名を持つコウゼイアー。
黒竜、幻王の異名を持つガーズール。
緑竜、将軍の異名を持つドルニエプル。
彼らは滅亡戦争から300年経った今も、この世界のどこかに潜んでおり、そしてそれぞれが神竜ヴィーシアの力を持つドラゴンシャードを有していた。
今やドラゴンポリスは屍竜の都、ドラゴンネクロポリスとなり、地上には竜の血を退化させる巨人族の呪いがかかり、彼ら古代竜が姿を見せる事は無い。
その彼らの代わりに、ドラゴンシャードの魔力に導かれ、歴史を動かそうとする者を、五竜はドラゴンシャードセンチネルと呼んだ。
このペインアースは未来永劫に、争いの絶えぬ事を運命づけられた世界。
数十年の短い平和が繰り返される事はあれど、永遠の平穏が訪れる事は無い。
スラニルとハイ・ウルゴーの大虐殺戦争は歴史にその名を刻み、十二の平行世界の神々の支配力に幾許かの影響を与える事になった。
人々は、自分達が神々の影響から逃れられない事を知りつつ、それぞれがそれぞれの理由の元に、己が人生を全うしていた。
(完)




