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天国の剣  作者: 開田宗介
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その後のシェイ達


 しかし、何事にも残務処理という一番大変な仕事が最後に残る物だ。


「それで私達の新居はどこなんですか?」


「私は別に一緒に住まなくても構わないが……奴隷でしかないからな」


「シェイはこれからどうするのだ? リュージの様に旅に出ないのか?」


 リュージはセリーナスと正式に結婚し、そして夫婦として旅に出てしまった。

 その理由は、デッドフォールで聞いたグランドマスターの名前、竜児=伽藍という人間がどんな奴だったかを知る為だった。

 しかしリュージ達の旅先であるシンの国は、年中同族殺し戦争をしているという世界一怖い所だとレオも言っている。無事に戻ってこれるといいのだが。


「君は我が国の英雄だから、好きな所に住めばいい。君の一生の衣食住は王宮が保証するし、これからもこの国を守る為に居て欲しい」


 そうゴート卿とホッセ卿に説得されて、適当な所に新居を用意して貰った。

 ウルゴーを退けたはいいが、周りはまだ不安定な情勢であり、魔法障壁もエル・カシの魔法使いが帰ってしまったので、微弱な物に戻ってしまった。

 それをなんとかしたいと思っても、国の金庫も空っぽの為、どうにも動きようがなかった。


 つまり、王宮が言葉通り俺の衣食住を保証できるのは、まだ先という事だ。


「きゃあ、私、こういう所に住んでみたかったんですー! 旦那様素敵ですわー」


 すっかり奥様状態のキュネイは、貴族の住む豪華な屋敷が自宅だと知り、とても喜んでいた。


「あのう、私は奴隷だから、身体とかも好きにして良いんだけど、本当に何もしないの? もしかしてご主人様ってホモなの?」


「えっ、好きにしても良いの? どこまで?」


「いや、だからどこまでも……ご主人様の望む通りに……」


「そんな事より、リヒトと子供を作ろう。せっかく子供が作れるんだから!」


「ええっ、リヒトさんってコンストラクトじゃないんですか!?」


「子供も作れるコンストラクトだ。だから時々お腹が痛くなる」


「あー、女の苦しみも背負ってらしたんですね」


「リヒトとキュネイはどっちが正妻になるんだ? 私はまぁ奴隷な訳だけど」


「レオは奴隷なんてやめて自由にしていいよ。縛りつけたい訳じゃないから」


「そんな事言われても、どうすればいいのか……」


「……まぁ、だから、好きにすればいいって事だよ」


「それじゃあ、これまで通りという事で」


「そ、そう……」


「だって、ここに居る限りは衣食住は保証される筈」


「んー……今、この国はすっごい貧乏だから、そういう訳にもいかないけどね」


「死体から金目のものを漁って来ようか?」


「そういうのやめようよ、あとできっと悪い事が起こるよ」


「そういう変な所は、恐がりなんだな。ご主人様って」


 しかし確かに、この貧乏状態はなんとかしないといけない。

 手っ取り早くお金を稼ぐには、どうすればいいのか?


「盗んできます?」


「闘技場」


「闘技場はちょっと……」


 ロアックはグランドマスターディアックと共にデッドフォールに戻った。

 そしてこの先は、ディアックの従者として仕えるのだそうだ。

 デッドフォールに行けば、マスターゴージはおぞましいスペシャルマッチを組んでくれるだろうが、出来れば避けたいし一生行きたくない所だった。


「じゃあ、剣王様からお金借りる?」


「えっ? そんな事できるの?」


「頼めば、なんとかなるんじゃないかな、だって神様だし」


「お、俺は異世界の神様にお金貸してとか恵んでとか言う勇気無い」


「……わかった、リヒトが頼んでみる」


 そう言うと、本当にリヒトは機甲涅槃界に戻ったらしく、その姿が消えてしまった。


「うわあ本当に行っちゃったよあの子」


「女の子はわがままに育てて貰えるものだと思いますから、きっとお小遣いとか貰えますよ」


「お小遣いってさ、言葉は聞いた事があるんだけど、私は貰った事が無い」


「シンの国では、お小遣いの風習ってなさそうだね……」


「ただいま」


「もう帰ってきた!?」


「剣王様にね、貧乏なんでお金欲しいって言ったら、戦って勝ち取れって言われた」


「甘くないお父さんだったね」


「デーモンが居る場所を教えられた。そいつらを倒してお宝を手に入れてこいって。一応天命らしい」


「は? はあああ? 天命ってそんな気軽にお使い感覚で出していいものなの?」


「貧乏だし仕方無いですよね」


「そうだね。現実は厳しいね。デーモン倒してお金が貰えるなら、行くしかないか」


 こうして俺達はスラニルの財政難を助けるべく、剣王様から教えてもらったデーモン狩りで金を稼ぐことになった。


 だが、世界情勢は時が経つに連れて悪化する一方で、小国のスラニルは生き延びていくだけで精一杯だった。

 俺達は近場の洞窟へ行っては邪教の信者達とそのボスのデーモンを倒し、夜の集会に潜り込んでは勝手にカオスゲートを開ける魔法使い達を倒して、金目の物を奪っていた。


「これってさ、相手が悪い奴か普通の人かの違いはあるけど、やってる事は追いはぎだよね」


「生き延びる為には仕方無いです。ご主人様」


「レオが言うと何でも正当化されるなぁ……」



 幸いな事に、ハル・ウルゴー帝国が解体された後に出来た新興国ノルンホストは、亡き賢王ウルゴーの意志を色濃く受け継いだ騎士団が建てた国で、複数の女神を信仰する神聖魔法を特色とする国家だった。

 ノルンホストは天国の剣リヒトを神の使いとして崇めており、ハイ・ウルゴー軍との戦いの事をよく知っていた。おそらくはあの地獄の様な戦いで生き残った兵士達が、ノルンホスト騎士団に属して、伝えたのだろう。


 それらの兵士達の中には、俺達に煮えたぎるような恨みを持っている者もいた筈だが、騎士団の教えとして、あの無謀な戦いを起こしたのは暴帝ダイゲンである、というのを建前としていた為、怒りを抑えるか、国を去るかしかなかった。

 このおかげで、スラニルはノルンホストから同盟の申し出を受け、スラニルは魔法使いの国、ノルンホストは僧侶達の国として、戦乱の世の中でも生き抜く事が出来る体勢を整える事が出来た。


 リヒトの恩恵は俺達個人にも多大に影響し、俺達はノルンホストの王宮にも新居を持ち、神の剣の使い手として好待遇を受け、二ヶ月に一度はノルンホストへ赴き、リヒトを剣の姫として崇める祭に参加していた。


「いやあ、どうなる事かと思ったけど、ノルンホストのおかげで助かったなぁ」


「本当ですね。またハイ・ウルゴーみたいな国が出来たら、大変でしたものね」


「皆に好かれて、皆に喜ばれるのはいいのだが、どうしてリヒトの服はいつもこう、ここまでなのだ?」


 そう言いつつ、リヒトは自分のへそ下5センチぐらいの所を手で横線を引く。


「これだと馬車の上で立って手を振る時に、丸見えなのだ」


「それを見に来てる人も多いからいいと思う」


「まぁ、減る物では無いからいいが……」


 俺達がこうしてノルンホストと同盟を組んだ事は、全てがいい話には繋がらなかった。

 当然ながらノルンホストは奴隷制度を認めてはおらず、スカルバッシュ、サゴシ、エル・カシとは一線を引く事になってしまった。

 共に戦った仲間達が居る国だというのに、事実上、スラニルはそれらの国との表だった国交はやめ、代わりにギルド間での繋がりを深める事でなんとか体裁を保っていた。


 だが、やはりと言うべきか、サゴシでもエル・カシでも、奴隷制に対する反感は強まってきていて、廃止すべきか、或いは反旗を翻すかという、きな臭い話は出てきていた。

 スラニル、ノルンホスト側としては、奴隷制度は止めて皆で共和国を作り、周りの強国に対抗しようという提案を出していたが、長年続いた制度であり、国の収入源でもある為に、改善の余地は見られそうになかった。

 この先、これらの国々がどのように変わっていくのかは、まだ見えない。


 俺達個人としては、ようやく安寧の地に落ち着く事が出来、色々な意味において『旅の終着点』に辿り着いていた。


 結局俺は三人と結婚する事にした。というのは、レオが奴隷として俺の側にいる事に対して、ノルンホストで白い目を向けられそうになったからだった。

 レオは奴隷ではなく正妻です。と言う事によって、レオ本人も様々な意味で解放されるのだから、それで良かったと思う。

 レオを正妻にするのに、リヒトとキュネイを正妻にしないわけにはいかなかった、という点は、人によってはハーレムかもしないが、俺にとっては気苦労の絶えない毎日になってしまった。

 そんな事で悩める程度に俺達は幸せになり、その後は世の移ろいを見ながら、終生まで平穏に暮らしたのだった。



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