援軍きたる
「突撃! 相手は一匹と一人! 轢き殺してしまえ!」
以前の様な脅しは全く効かず、その数に乗じて攻めてくる相手に対し、俺は転じて引き返す他になかった。
スパイダー・ウェブやグリースの呪文を放ちつつ逃げるも、当然焼け石に水でしかない。
そんな俺を援護すべく、スラニルの城壁から、いつくかの火の付いた樽が空を飛んで来るのが見えた。
(も、もしかして、あれって……)
慌てて馬の腹に蹴りを入れ、スラニルの城壁へとむかう。俺のすぐ後を追いかけてきていた敵兵の頭上に大樽が落ちると、その作成者が言っていたとおり、”思ったより”大爆発を起こした。
「死ぬ! あれが直撃したら俺は死ぬ!」
下手をしたらメテオストームほどの破壊力があった。
大樽一個の中に火薬が詰まっているのだから、人一人ぐらい木っ端微塵にする威力はあるだろう。
現に俺を追って居た兵士達5人ほどは吹き飛んでいたし、重軽傷を負った者も居るはずだ。
「全軍! 突撃! 我が国の英雄を守れ!」
正面にはスラニルの正門があり、俺はそこへ逃げ込むつもりで走っていたのだが、その門が開くと、中からスラニル国王と騎士団達が突撃してきた。
「こ、これは……?」
スラニルの騎士団は500人程度の筈だった。それが見る限りは一万近くの兵隊が正門から展開してきていた。
「武器を持つ者は全員武装しております。どのみちここで負ければ皆殺しなのですから」
少し痩せたホッセ卿も重鎧を着けて、長槍を構えながら、そう言った。
そしてスラニルの外周の壁沿いに、オークの集団が現れ、その隣にはどこかの国の軍隊がこの戦場に駆けつけてきていた。
「ダイゲン! 俺を覚えているか! バトルマスターのザーガッシュだ! 貴様に一族を皆殺しにされた恨み、ここに晴らしに来たぞ!」
あの大柄のオークは、ビオ卿で合った時、俺にダイゲンを殺せと言った。
その為に俺達に強くなれといい、闘技場の人形をくれた。
過去に何かのいきさつがあり、ダイゲン中将に恨みを持っていたのだろう。
「おい! 若い魔法使い! マスターゴージには合ったか?」
「ええ、こき使われましたよ」
「そうか。グランドマスターに会う事は出来たか?」
「はい。仲間が宝の盾を貰いました」
「ほう。グランドマスター・ディアックも、ここにむかっているぞ」
「えっ!? ど、どうして……」
「シェイさん、お久しぶりです。覚えておいでですか? バードのボーダウです」
「あれっ? ボーダウさんまでどうして?」
「こちらの国の宰相に脅されましてね。サゴシとエル・カシも援軍を出す事になったのです」
どういう事かと思い、ホッセ卿の方を見ると、ちょいと首を傾げておどけていた。
「唇破れて歯寒しという言葉があるんですがね。スラニルが破れれば、次にはサゴシとエル・カシが狙われるのは必至。ここで合従すべきと申し上げた次第」
「ウルゴーの軍勢は30万と聞きました。これは並ならぬ大軍です。明らかにスラニルを攻略した後は、その勢いに乗って、エル・カシまで来るでしょう」
白馬の背に乗った魔術師は、エル・カシでの俺の師匠、ギルバートさんだった。
かくしてここにスラニル軍1万3000、サゴシ軍3000、エル・カシ軍8000、計2万4000騎の三国同盟軍、そしてスカルバッシュのオーク軍団250が合流した。
対するハイ・ウルゴーの主力は約10倍の27万。
数の上での勝利は揺るがず、そして戦争というのは数が多い者が勝つのが道理だった。
「これが人間同士の戦いでしたら、完敗でしょうな」
とホッセ卿が俺の不安を見抜いて慰めてくれた。
「こちらには魔法障壁がありますから、ウルゴーとしては包囲戦で城壁にとりつく事が出来ません。我々はうまく障壁から出て敵を撃ち、そして攻めて来たら退きましょう」
ゴート卿がそう指示をして、エル・カシとサゴシの兵長達に持ち場を説明していた。
「我々が勝つかどうかは、どれだけ耐えられるかにあります。ヴィスカス殿が一計を案じており、今日明日にも術は完成するとの事。御仁方にはそれに同調して頂こうと考えている次第です」
「つまり、まともに戦う必要は無いって事ですね」
「さよう、ギルバート殿。エル・カシの魔法使いのおかげで魔法障壁はとても強力な状態になっております。感謝の言葉もない」
「我々サゴシの民は、ご存じの様に手慣れた戦士はおりませんが、馬上からの射撃には自身があります。常に敵と距離をとりつつ、特に相手の魔法使いと僧侶の人数を削りましょう」
「バトルマスター・ザーガッシュ。あんたにはちょっと手伝って貰いたい事がある」
見るとレオも馬に乗ってここまで来ていた。
「お前は?」
「元アリーナ11位のソードダンサー・レオだ」
「11位か……チャンピオンには手が届かなかったか?」
「ああ、シェイという奴のおかげでな」
「お前、11位を倒したのか?」
「なんとかね」
「ほう、ふむ……」
「敵前で会合をしている場合でも無いだろう。ザーガッシュは私と共に街の中に戻ってくれ。私達は遊撃を行う」
「たった250のオークで戦場は動かない。だが、奇襲はお前達の本懐だろう?」
「そうだな。奇襲は得意だ」
レオは俺の腕を一度叩いた後、オーク達と共に街へと戻っていった。
さすがはアリーナ11位の事だけはあった。
アナセマの時もリッチキングの時も、彼女の奇襲は最大限の威力で発揮されていた。
さてここからが本番。
この2万7000の兵の前には、ウルゴー軍の中で最も近い、第一波の約8万騎が詰め寄ってきていた。
ヴィスカスも上空から様子を見つつ、無謀に突進してくるなら焼き払うのを狙っていたが、向こうとしてはなんとか弓か魔法で赤竜を追い払いたがっていた。
このドラゴン一匹のおかげで、8万の軍勢が思う様に動けない。
残り19万の軍勢は、距離を取りつつ、スラニルを全方位から取り囲み、隙あらば城壁に接近して壁を壊し、街の中へなだれ込むチャンスを伺っていた。
目の前の軍勢が2万ずつ、4つの部隊に分かれて、半包囲状態で距離を保つ。
リヒトのストームオブブレードとヴィスカスのドラゴンブレスを警戒しての陣形だった。
もし、その一つに俺かヴィスカスが突っ込めば、その一部隊を犠牲にして、俺達を袋だたきにする。
もし、俺とヴィスカスが一つずつ、二つの部隊を攻めたなら、その二つを捨てて、残り二つで俺かヴィスカスのどちらかを倒す。
何にせよ、味方を犠牲にして敵を倒すという犠牲ありきの戦い方だった。
それでも向こうにとっては、どちらかが倒れれば勝ちだった。




