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天国の剣  作者: 開田宗介
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スラニル平定戦、開始

ハル・ウルゴーの国王となったダイゲンがスラニルに兵を向ける。その数三十万。対するスラニルは武装した市民兵約一万+赤竜+リヒト。スラニルにとって絶望的な最終決戦が始まります。


 賢王ウルゴー一世が失踪し、その死を記した墓石が天頂から玉座の上に落下してから4年の月日が流れていた。


 ウルゴー帝国の前身となったのはミドル・サーンの田舎町シャイアという所で、エルベレイン=ローズウッド=ウルゴーという青年が、その卓越した剣技とカリスマから戦士ギルドのマスターに着任した頃から、時代は動き出していた。


 シャイアの戦士ギルドはウルゴーに技を求める者達で集い、そしてウルゴー自身も剣聖としての修行を成し遂げて戦士の頂点に手を伸ばした。

 その剣聖としての道が、彼に悪政を憎ませ善政を求めた事により、シャイアを中心に人が集まり始め、そしてその付近に存在した小自治区コーンレーンに目を付けられた。


 コーンレーン伯爵はシャイアを領地として併合する事を強行したが、ウルゴーはこの軍に対して完勝し、逆にコーンレーンに攻め入って貴族達を追い出してしまった。

 そしてこのコーンレーンをそのまま居城としてウルゴー自治区として本拠地に据えた。

 シャイアは彼の出生の地として大切に保護され、その後も緑豊かで平穏な村として存続しているという。


 こうして誕生したウルゴー自治区は、近隣にて圧政を行う地主達を次々に陥落、併合し、ウルゴー国と名を改め、次はミドルサーンに同じく勢力を拡大していたホークランド共和国に侵攻。

 この時点でミドルサーンには、ウルゴー国に逆らえる存在は居なくなっていた。


 そして時は過ぎ、青年は老人となり、政治は時と共に腐敗していく。

 未熟な君主制の定めとも言える流れの中で、ウルゴー一世は玉座に座ったまま、その姿を消し、代わりにその玉座に墓石が建てられた……人ならざる何者かによって。


 ダイゲン中将は勇敢な戦士だったが、あまりにも軍国主義的な考え方で、衰えたウルゴー大帝国の政治家と貴族に憎しみを抱いていた。

 その一方で賢王ウルゴーの一族が善人である事も理解しており、善政を敷く者達を擁護し、門閥貴族達を迫害する事により、その勢力を拡大させた。

 ダイゲン中将は、ハル・ウルゴー帝国の当主として独立を宣言し、人々はその姿に賢王ウルゴーの再来をダブらせていた。


 しかし、賢王ウルゴーはそもそも門閥貴族を迫害したり差別したり、宮廷闘争にて他人を陥れたり、最終的には武力によって解決する人間では無かった。

 人々の幻想とは違い、ダイゲン王は単なるケンカの強いお山の大将でしかなかったのだった。


「ダイゲン王率いる主力軍は、スラニルから三日の所に布陣し、そこを拠点として兵糧攻めを行うつもりです」


 国務宰相のホッセ卿は、いくらか痩せた様に見えた。

 この数ヶ月の間、彼は口先だけでウルゴーの進出をなだめすかして食い止める、という重職を負い、見事にその責務を果たしていた。


「我らが英雄シェイと伝説の女帝ヴィスカス殿のご同行は伏せておりますが、あの海賊船が来た事はさすがに隠し通せてはいませんぞ」


 ゴート卿はいつでも戦える様に、重装の鎧に身を固めていた。

 それほどまでに、危機は目前に迫っていた。


「ウルゴーの兵力はおよそ三十万人。スラニルを占領した後は、サゴス、エル・カシも全て手に入れるつもりでしょう。この小国を攻め落とすだけなら八万も居れば十分です」


「ダイゲンは武によって立つ男。以前は八万の占領軍を連れ、そしてシェイの一撃によって浮き足立つ事になった」


「今回の三十万の軍勢は、剣王の助力を受けたこの国をまずは全力で焼け野原にする為の物でしょう。それによってこそ、他の国を震え上がらせ、異世界への助力など無駄だと言う事が出来ます」


「……シェイよ。よくぞ戻ってきてくれた。そちらのヴィスカス姫も、伝説の竜とは思えぬほど高貴な麗人。この国の命運は引き続き汝らに託す。勿論私も先陣に立ち、我が誇りを示すつもりだ」


 これにはゴート卿もホッセ卿も出来ればやめて欲しいと思ったのだが、スラニルが勝つにせよ負けるにせよ、王が逃げたとあっては示しが付かなかった。


「三十万の軍勢か。さすがにわらわでも、それほどの軍勢を相手にした事は無いのう。巨人族と相まみえた時も2万という所じゃった」


「巨人族の2万は、人間なら十万には相当すると思いますぞ」


「なら六倍という所か……さて、緑竜の将軍ドルニエプルならこういうのは得意じゃと思うが、わらわは箱入り娘でな。暴帝だの暴れん坊だの言われておるが、戦いは好きではないのだ」


「ヴィスカス殿が十万、あとはシェイどのご一行に任せて……」


「いやいや、俺はただのシンタオモンクですから。手練れの戦士なんて一度に三人相手にするのが精一杯ですよ?」


「ロアックは5人までならなんとかしよう」


「私、爆弾ってのを作れるようになりましたから、投石機でポイポイしますね。わりと大爆発しちゃいますから、結構行けるかも」


「キュネイってそんなのを作れる様になったんだね」


「ライラット王のピラミッドにあった罠の応用です」


「案ずるな、わらわに考えがある。剣王はわらわ自身の助力よりも、そちらの方を期待している筈じゃ」


「そちらの方?」


「何分にも時間がかかる。我が僕のロアックよ、お前の持つドラゴンシャードは絶対に守り通すのだぞ。それがお前の役目じゃ」


「ロアックはレッドドラゴンの僕じゃない!」


「だから前も説明したであろう? 我々五竜の祖先は三匹の神竜と光の竜なのじゃ。お前の祖先は我々の祖先。だからお前は我々の僕なのだ」


「うーむ。とにかくロアックは、このドラゴンシャードを守る」


「それで良い。それが壊れたら、さすがにわらわにも打つ手がないぞ。300年の間、それを作る事しか、しておらぬのだからな」


「我々竜族はお前達の様に、ドラゴンシャードに影響された運命の戦士達をこう呼んでおる。ドラゴン・シャード・センチネルズと」


「見事、守り通せよ、我が秘宝を。竜水晶の戦士達ドラゴンシャード・センチネルズよ」




 それから一週間。ウルゴーの主力は陣取ったまま、スラニルへの全ての出入りを全て断つ事で、飢えと渇きが十分に高まるのを待っていた。

 魔法で幾許かの食料を召還出来ると言っても、その数には限りがある。国民全員に食料を渡す事など出来なかった。

 次第に飢えて苦しむのは、常に国民達が先だった。

 王宮の食料庫は既に空で、しかも水路を外からふさがれていた為、水の残りも少なくなっていた。


 しかし、それでもスラニルが耐えたのは、ヴィスカスにとって、この兵糧攻めは願ってもない時間稼ぎだったからだ。


 宮廷内での不安は、ヴィスカスはいつになったら動くのかという事であり、ウルゴーが攻めてくるかどうかは二の次だった。

 しかし、時は待ってはくれず、ダイゲン中将の宣戦布告の声が荒野に響く事となった。


「我々、ハル・ウルゴーは、故国ウルゴー大帝国の様な慈悲は持っていない! 機甲涅槃界クロックワーク・ニルヴァーナに助力を乞い、その異世界の力を手にしたスニラルよ! お前達の未来は死と絶望のみ!」


「全軍、三波に分かれて突撃せよ!」


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