リッチ・キング、ラー=ライラット三世
「いつの世も、若い者は老いた者達が大切にしている物を邪険にする……我々は地上に危害を加えるつもりなどないと言っておるのに、それでも剣を抜く」
「苦情は剣王に言ってくれ」
俺はリヒトを掲げると、その刀身に魔力を流し込む。
ロアックは風の盾を構え、リュージとレオは横へと展開する。
おそらくリッチキングは、レオが死者を殺す剣を持っている事も知っているだろう。
その一撃さえ入れば、勝機は十分にある。
「スコーチング・レイ!」
「シアリング・ライト!」
俺が火の光線を放ち、そしてセリーナスが合わせて光の光線を放つ。
この二つは不死の者に強いダメージを与える魔法だった。
しかし、その直撃を受けたにもかかわらず、リッチキングは何事も無かった様にこちらを見ていた。
「な、何だ? 魔法が効かないのか?」
「この魔導王に、魔法が効くと思ったかね? 勿論、こちらの魔法はお前達を吹き飛ばすがな!」
肉がそげ落ち、骨と化したその手から、複数の隕石が現れ、俺達に向かって飛んで来る。
サングマの魔法使いが使ったメテオストームだった。
しかも、このリッチキングの放つ隕石は、倍ほどもある大きさの隕石だった。
ゴン、ガン、ゴン、ゴン!! と舞台の上を破裂しながら隕石が着弾する。
その直撃を喰らわない為に、俺達は舞台の上を走るしかなかった。
「ディアス・サーンよ! 燃えろ!!」
再び、リッチキングがそう言うと、舞台の上はいきなり炎に包まれた。
「こっ、この炎、ただの炎じゃない!?」
ロアックは風の盾で防ぐ事が出来、リュージは炎の構えをする事で幾許かのダメージを軽減する事が出来た様だった。
セリーナスとキュネイは後衛同士側にいて、今の魔法の炎の一撃をなんとか火炎防御で凌いだ様に見える。
しかし、この魔炎は何度も食らって良い物ではなかった。後、数回焼かれれば、誰かが確実に命を落とす。それは俺かもしれなかった。
(接近戦で、一気にやるしか!)
皆が同じ事を考え、リッチキングに襲いかかる。
しかし幻術で自分の身体を不明瞭にさせ、しかもジンと同じく、一瞬だがエーテル界へシフトする事が出来るらしく、致命傷となる一撃は悉く交わされていた。
「インセンダリクラウド!」
リッチキングが次に唱えた魔法は、やはり最高レベルの呪文で、空間に地獄の炎の世界を呼び出し、空気そのものを燃やす魔法だった。
一度その空気を吸えば、体内から焼き尽くされる為、防御魔法も効かない。
「どうした? 全く手応えが無いぞ?」
カッシナーさんの話では、ライラット王はそれほどは強くないと言っていた。
しかしそれは、カッシナーさんやガールードさんぐらい強い人達にとっての事で、俺達には強すぎる相手だったかもしれない。
「キュネイさん、絶対に私の側を離れないで」
「はい! 離れろと言われても嫌です! 死んじゃいます!」
(……?)
さて、この状態で、レオはどこに行ったのか。
先ほどの魔炎の時にその姿を見失ってしまっていた。
やられてしまったというなら、その屍が舞台のどこかにあるだろう。
しかし、屍もなく、姿も無い。
どこかに身を潜め、必殺の一撃を狙っている事を願うしかなかった。
「シェイ。ダンス・オブ・ブレードを使う。あれなら効くはずだ」
リヒトがそう語りかけてきたので、俺は剣を掲げ、リヒトに自分の魔力を渡す。
すぐに5本ほどの剣が宙に現れ、リッチキングの身体に突き刺さっていた。
「ぬうっ! 剣王の技か……だが、私は肉体を持たぬ。さほどの事では無い」
骨しかない相手には思ったよりも効果は無く、分裂した刃は集まって元通りに戻っていた。
「ヤッ、ヤッ、ヤーッ!」
ロアックも必死でリッチキングの足下に絡みつき、剣を振り回しているが、数回に一度かする程度で、手応えのある一撃には繋がっていない。
「ネガティブ・ブラスト!」
「ふおお!?」
足下に纏わり付くコボルドが邪魔だと言わんばかりに、リッチキングが片手を振り払い、闇の爆発を自分自身から生じさせた。
その爆風を盾で受けつつも、ロアックは後ろへ数メートル吹き飛ばされていた。
しかもそれだけではなく、闇の爆発の中にいたリッチキングは何だか元気になった様に見えた。
「ディアス・サーンよ! 燃えよ!!」
そしてあの魔炎。リッチキングがその台詞を唱えると共に、俺達はすぐに防御姿勢で身を固め、煉獄の炎から少しでも身を守ろうとした。
「うおおおっっ!!!」
しかし、一人だけ、リュージは所謂、捨て身の覚悟で炎の中を疾走し、そしてリッチキングに見事な跳び蹴りを食らわしていた。
「おぐぅあああっっ!!!!」
「クソッタレが……お前はその技の時だけは、動けない様だな……」
ライラット王は無様にも床に身体を叩きつけられ、二転、三転して、俯せになって倒れた。
「今のは効いたぞ……神道の光拳……生きていた時の痛みを思い出させるとは……」
しかし、あの業火の中を無理矢理に突っ切ったリュージが、無傷で済むはずもなかった。
全身の肌が真っ赤に焼かれ、重度の火傷を負ったリュージに、慌ててセリーナスが治癒魔法をかけていた。
しかしただの炎ではない分、普通の火傷という訳にはいかなかった。
「大丈夫だ。まだ、やれる」
リュージはそう言って立ち上がるが、強がっているのは明白だった。
(何か……何か策を……どうすればいい……? この敵はどうしてこんなに強い? どうしてカッシナーさんは強くないと言ったんだ……?)
心のよりどころは、その言葉だけだった。
それほどは、強くない……。
無茶苦茶強い訳では無い……。
最強という訳では無い……。
弱点は必ずある……。
「あ、ポーラーレイ!」
俺は咄嗟に、氷結光線の呪文を唱え、リッチキングへと放った。
リッチキングはことさらに火炎呪文ばかりを使ってきていた。
そして、一般的な常識として、アンデッドに氷魔法は効かないというものがあった。
「くっっ!!!」
見事、読みは当たった。リッチキングは冷凍光線そのものにはダメージを受けなかったが、身につけているその宝石が数個砕け散っていた。
「見抜いたぜ、キングライラット! お前、魔法が効かない訳じゃないな?」
「……くっ……」




