王の守り手
「……ああ、これは、もしかして四つの区画に分けたらいいんじゃないか?」
何度かの試行錯誤の後に、俺は光の筋が大体予測出来る様になってきた。
レオとキュネイも、わざわざマスを回転させなくても、遠くから見るだけで光がどういう風に辿るのかを追える様になっていた。
「区画毎に分けると……一つだけ、白い宝石が余ってしまいますよ?」
「うん……一度、それを踏まえてやってみない?」
俺の案を試してみる事になり、正方形に並んでいるマスを右上、左上、左下、右下の四つの区画に分けて、その中で綺麗に魔力が通るようにしてみた。
「あっ!」
丁度、余っている宝石以外の全ての白い宝石が魔力を帯びて点灯した時、ボンボンボンという小さな爆発音と共に、宝石が爆発し、その爆発によって残り一つの宝石に、全ての魔力が集まる形になった。
このパズルは二重の仕掛けになっていて、まずどれがハズレの宝石かを見いだし、そしてそれ以外の宝石に魔力を満たす事で、ハズレの宝石が正解の宝石になるというものだった。
「わあ! 旦那様、さすがです!」
目の前で綺麗にパズルが揃い、そして光を放つと、上へと昇る光の階段が現れた。
また、上の階では半透明な廊下も現れていて、この大ホールには見えない床がある事がわかった。
「リュージ、なんとか出来た。先へ行こう」
「……ん? お、おお……出来たのか、すごいな……」
「ほら、起きて、ロアックもいこう」
「んー……あと5分……」
「リュージ、ロアックを引きずってつれてきて。あと5分は絶対に起きないから」
「はいはい」
俺達はピラミッドの最上部近くにあると思われる四角錐の空間を、魔力で作られた床と階段に沿って昇っていく。
落ちてもフェザーフォールの呪文で死ぬ事は無いが、道自体が高い山を登る道のようにクネクネと曲がっていてとても道のりが遠い。
はしごがあればこのような形にしなくてもいいのだろうが、魔法による床と階段でフロアを作ろうとすれば、こうなるのは仕方がなかった。
ようやく上まで登り切ると、床一面が透明な小部屋で行き着いた。
多分、ピラミッドの中でも最も高い位置にある部屋だろう。
俺達全員が部屋に入ると、下へ降りる階段が消え、完全に部屋に閉じ込められた。
それと同時に、目の前につむじ風が現れ、小さな竜巻と化し、そして上半身裸の、髭を生やした男の姿になった。
「私は風の世界からきたジン。王の衛兵長なり」
「ようやく、敵か」
パズルにうんざりしていたリュージとロアックが、これで暴れられるとばかりに身体をの筋肉を軽くほぐしながら構えを取った。
「先に行っておくが、お前達はもう帰る事は出来ない。私を倒したとしても、このピラミッドから出る事は出来ないぞ」
「ご忠告ありがとう。でも、あんたに倒されて帰れなくなるのは嫌なんでね」
リヒトを構え、魔力を注ぎ込むと、リヒトは弱く光った。
「すまないシェイ。このジンは我々の天敵ではないから、闇を滅する力は発動しない」
「わかった。相手は一人、なんとかなるさ」
俺、ロアック、リュージが一度に飛びかかり、レオは隅の方に移動していた。
この部屋には隠れる所が無い為、相手の死角から死角へと移動して、自分の気配を消そうとしていた。
まずはロアックが剣で斬りかかるも、ジンは持っていたシミターでそれを受け流す。
「風の盾、いい盾をもってますな」
ジンはめざとくロアックの盾を見ぬくと、続くリュージの攻撃を身体をひねって避けていた。
そこへ俺がリヒトで刺し貫こうと剣を突き出すと、ジンの身体は一瞬にしてつむじ風になってしまった。
「うお!? おおおおっ!?」
風になったジンは、身体の回りに突風を纏い、すぐ近くにいた俺とリュージを弾き飛ばしていた。
ロアックはその盾のおかげで、突風自体を受け流していた。
しかし困った事に、この風の状態のジンは、どんな攻撃をしても傷一つ与えられない様だった。
キュネィがクロスボウを射るも、風の中に吸い込まれて消え、俺がマジックミサイルを放っても同様に無力化された。
「おそらく、実体はエーテル界にいます。その間は攻撃が届きません」
セリーナスがそう言いつつ、手早く皆の軽傷を癒していた。
『シフト』と呼ばれる異相回避方法があり、現実世界である物質世界と、夢幻界とを行き来する能力を持つ者がいる。
しかし、傷つけられないのは相手が現実世界にいないからであって、実体化している時は普通に攻撃は通る筈だった。
つむじ風の中に実体が見えた時を狙って斬りかかるが、実体化している時は、相手もこちらを攻撃しようとしている時でもあった。
「ハハッ! なかなかお強い!」
しかもこのジンは、自分を王の衛兵長だと名告っただけあって、剣の腕前がかなり上手い。
俺達の中で最も剣技に優れているのはロアックだったが、相手が縦横無尽に動き回るのと、つむじ風になると弾かれてしまう事もあって、本来の強さを発揮出来ていなかった。
ジンは三人の中ではやはり俺の攻撃を一番重視している様で、リヒトの切っ先が確実に当たるという時には素早くエーテル界へと逃げ込む。
ロアックやリュージの攻撃を多少食らっても致命傷にはならないが、リヒトの攻撃が致命的なのを見抜いていた。
「くそっ……風にならなければなぁ!」
リュージの繰り出す拳も、相手が風ではどうにもならない。
実体化して時を狙い、一気に間合いを詰めようとするが、向こうも同じだけ距離をとってしまう。
縮地法と言っても地面を蹴って移動しているのであり、風の精霊ジンが地面を蹴って後退する速度が縮地に匹敵するほど早いため、有効な接近手段になっていなかった。
「うっ!!」
ジンがつむじ風になっている時だった。
次に実体化する時にそなえてリュージが息を整えていると、突然、稲妻が空を走った。
すかさずリュージは飛んで避けたが、どうやらこの風の状態でも、雷の魔法を撃つ事は出来るみたいだった。
(なんとかして実体化している時に、致命傷を負わせないと……)
敵は一体のみだが、今までのどの敵よりも厄介だった。
ミノタウロス・ロードの様な破壊力や、アナセマの様な毒という強さに比べては引けを取るだろうが、この鉄壁の守りに比べれば彼らは格下だった。




