ひとつになりたい
「私はシェイと共に戦う為に来た。シェイが居なくなればまた機甲涅槃界に戻る。それが武器としての私の定め」
「私を使い、そして敵と戦い、それでシェイが負け、滅びるのならば、私はそれを受け入れもしよう。己が非力さを悔いると共に、その悲しみを背負っていこう」
「しかしシェイの身の危険は、私の力が及ばない所でおきてしまうのだ」
「……何故、そうなのか分かるか?」
積もり積もった自分の気持ちを吐露するリヒトにリュージが言う。
「俺の親友は人殺しでもモンスタースレイヤーでもないのさ。サングマの集団パニックの時を覚えているだろ? こいつは出来れば誰にも死んで欲しくないんだよ」
そのリュージの言葉にレオが続いた。
「しかしそれはギリギリまで自分の命を危険に晒す事だ。一刀で斬り捨てれば避けられる危険も、ご主人様は斬らずに済めばいいと考えている。しかし、私が知る限り、そんな甘い奴は早死にする」
「シェイは二度は死んでるよな」
「最初に仲間を皆殺しにされた時の事を合わせたら、三度かな。あの時俺が死んで、別の誰かがリヒトを受け取っていた可能性はあったよ」
「……そうか……もしそうなっていたら、そいつはここまで来れたかな?」
「さぁ……どうだろうね」
「無理だ。ウルゴーを追い返そうとした時に、そいつはそこで死に、ウルゴーもその時に滅んでいる」
「あの一発か……あれはすごかったな」
「あれは私の力ではない。私の力を利用したシェイ自身の力だ」
「へぇ……」
その時、リュージの俺を見る目は、そんな事が出来るのかという驚きだった。
「アナセマの時にもやっただろ。あれはエルドリッチストライクって技だよ。問題は、俺がまだエルドリッチナイトになっていない時に、それが出来たって事なんだけどな」
「なんだよ、お前、魔法使いの才能ないなぁって思ってたけど、今の方が素質があっただけじゃないか」
「……まぁ、もし魔法使いの才能があったら、俺はアークメイジとして剣王様に殺されてたね。良かったのか悪かったのか、いつもギリギリだ」
「それでも、生きれてれば、なんとかなるんだろうよ」
「そうだな。だから、俺が死にかけてしまうのはリヒトのせいじゃないよ」
そう言って、リヒトの頭を撫でると、リヒトはいきなり俺に唇を重ねてきた。
「……私、シェイとひとつになりたい……」
リヒトは本当にそう思って言ったのだろう。こういう時、人は互いに互いを求め合うものだが、リヒトには機能はあっても性衝動は無いらしく、俺の胸に抱きついて顔をすりつけていた。
すっかり甘えん坊になってしまって、最初の高飛車具合はどこに行ってしまったのか……こんな所を剣王様が見たら、どう思うだろうか。
(剣王様……人間の心とか生殖機能とか、ちょっとばかり人に近づけすぎたんじゃないですか……)
リヒトは既に、俺にとって武器以上の存在になってしまっていた。
彼女はアーティファクトであるが故に、命の危機にさらされた事は無いが、もし彼女の命が危うくなる事があるなら、俺は本気で怒る事だろう。
(魔法使いは、向いて無かったかねぇ……)
そういう破壊衝動が自分の心の中にあると思うと、肉体派が向いていたのかもしれない。
マスターウイザードのロディット卿はよく言っていた。魔法を使う時は、心は常に冷静であれ。強力な魔法を使う時こそ特にそうだ。と言っていた。
「ま、誰でも向き不向きはあるさ。要はこの先、死ななきゃ良いのさ」
明日はカッシナーさんの言っていた、小さい方のピラミッドに行く予定だった。
ムラキさんの話では、中を全て見るのに一時間もかからないと言っていた。
でも俺達の本命はその小さな方だった。
大ピラミッドの上層部へ昇る為のポータルゲートを探さなくてはならない。
まずは軽く中の様子を見た後に、本腰で探さないといけないだろう。
翌日、キングライラットのピラミッドの北東に位置する、小さなピラミッドに向かう。
このピラミッドは衛兵長の墳墓で、王が死んだ時に共にあの世に行く為に服毒して死んだという事だった。
今でも王が死ぬと側近の者達がその後を追うという風習は多く残っている。それの最たる例が邪教信仰だった。
「まぁ、中は本当に狭くて、あんまり見る物も無いですが……」
ムラキさんが正面の扉を開けて中に入ると、カビの匂いが鼻をついた。
「こっちは風通しが悪くて、殆ど洞窟に近いんですよ」
ライラット王の墓の様に松明が掲げられていれば、カビの胞子もいくらかマシになっただろうか。
ひとまずは毒耐性の魔法と病気への抵抗力をかけて中に入る。
ムラキさんは持参のマスクをかぶり、そしてカンテラで通路の中を照らした。
通路の高さは大人が少し背を縮める程度の高さで、横幅は両手が伸ばせないほど狭い。
足下にはひび割れた石床に無数の虫が這い回り、まさしくダンジョン状態だった。
「道は簡単です。というか縦横十字にしか続いていません」
南側から入り、十字路に着くと、残り三方に石棺が安置されているだけだそうだ。
まずは北へ行き、何も無く、西へ行き、何も無く、東へ行き、やはり何も無く、十字路に戻ってきた。
「はい、これだけです」
ムラキさんのやる気の無さというべきか、早くここから帰りたいという気持ちが、ありありと伝わってきた。
「ここに残って、細かく調べ物をしてもいいですか?」
「え? あ、ああ……それはどうぞご自由に。そうしますと、夕食はどうします?」
「ああ、いつでも食べられそうな物を用意していただければ」
「わかりました。パンと干し肉など、用意しておきますね」
俺達はそのままピラミッドの入り口に留まり、そしてムラキさんはラクダにのってオアシスへと戻っていった。
「キュネイ、レオ、何かありそうだった?」
「はい。なんだか一杯仕掛けだらけでしたね」
「解りやすい罠は、大抵解除されていたが、放置されてる物もあった」
「それじゃその仕掛けを見に行こうか」
ムラキさんはもしかしたら知っていたのかもしれない。
この小さなピラミッドは危険だから、さっさと帰った方が良いという事を。
俺達がここに留まる事を告げた時、ムラキさんは少し嫌な顔をした。
すぐに食事の話をしたのは、ムラキさん自身の不安を隠す為のように思えた。