死せる王の大ピラミッド
オアシス・ライラットにて、ありふれた宿屋に泊まる事が出来た俺達は、まずは観光程度という事で、ライラット王のピラミッドを見に行った。
マー=ルートさんの甥、ムラキさんに連れられて、まずは大ピラミッドの見学に行く。
正面の入り口は小さく、人一人が入れる扉が二つ並んでいる。
そのうち右側を開けて中に入ると、お香に似た匂いが漂っていた。
「これはカビだったり塗料だったり、お香だったり色々な匂いが混じっているんですが、なぜかあまり臭くは無いんですよね」
壁面には枯れた蔦と新しい蔦が生えていて、小さな花が咲いていた。
地面はひび割れていて、さすがに老朽化が否めない。
入り口の天井は低く、皆がぞろぞろと入ってくると、それだけで満員になっていた。
「ここは玄関なんですよ。この奥が正面のホールです」
この小部屋は薄く広い形になっていて、正面の扉は横に長い長方形になっていた。
その扉には、衛兵達が武器を構えている絵が描かれていた。
「おおお、これはすごい。コボルド達もこういう墓を作りたがるが、上手くいかない」
ロアックは意外にも、美術や装飾といった芸術品に感銘を受ける所があった。
コボルドは光り物が好きだというのは有名だが、当然ドラゴンシャードは水晶竜ヴィーシアの宝として自分達の物だと言い張るぐらいに大切にしている。
コボルドの洞窟には大抵、凝った装飾の彫像があったり、壁画が描かれていたりする。
グランドマスター、ディアックの部屋にも完成度の高い彫像があった。
ロアックがため息と感銘の言葉もらしながら歩いて行くので、ムラキさんとしてはとても嬉しいらしく、上機嫌だった。
ご先祖様の残した物を褒められて、悪く思う末裔は居なかった。
ムラキさんがこの小部屋の右扉を押し開けると、その奥には広大なホールがあった。
左側の扉は蔦が絡みすぎていて、開けるにはその蔦を掃除しなければならない状態だった。
右側の扉だけでも、入り口の扉の数倍の広さがあり、俺達は揃って中に入る事が出来た。
ホールの奥行きと広さは街の中央広場ほどもあり、向こう側の奥に誰かが立っていても豆粒ほどにしか見えないぐらい遠かった。
そして天井もあまりに高すぎて、闇の中に溶け込んでいた。
墓石の中は一定間隔で松明がくべられていて、魔力発電による物ではなかった。
松明の数は尋常ではく、このホールだけでも2~30本はあった。
墓石全体ではいくつあるかわかったものではない。
「この松明はどうやって維持されているんですか?」
「ファイアメフィットですよ。炎の小悪魔が永遠にこの墓石の炎を絶やさない様にしています。キング・ライラット三世とそういう契約をしたのでしょう」
「それは……ずっと昔から?」
「おそらく、そうでしょうね」
ファイアメフィットは下級の小悪魔だが、何百年も火の番をさせられていると思うと、少し可哀想だった。
使い魔とはそういうものなのだろうが。
広大なホールには一つの特徴があり、天井を支える柱が一本もなかった。
それは魔法によるものか、それとも建築技術によるものかは分からないが、王の影響力が偉大だったからこそ出来た事だろう。
そしてご丁寧に全ての壁には彫刻が施されており、古代文字で神話が書かれていた。
ウルゴーの王は既に亡くなったが、このような巨大な墓を作っているだろうか?
巨大な墓を作る事で、その後何百年経っても権力の巨大さを伝える事が出来るが、今のウルゴーにはそういうつもりは全く無いだろう。
ムラキさんに連れられ、ホールの奥まで歩き、階段を昇る。
階段を昇ると舞台があり、巨大な王と王妃のレリーフがあった。
「あれっ? この石版は、何だろう?」
見るとレリーフの下に古代の石版が置かれていた。
ムラキさんが手にとって表と裏を不思議そうに見ていた。
「こんな石版、初めて見ました。誰がこんな所に置いたんだろう?」
「なんて書いてあるんですか?」
「自分には学がないので読めません。魔法使いさんなら読めますか?」
そう言ってムラキさんは俺にその石版を渡した。
石版自体はとても古い物で、やはり数百年の時が経っている様に思える。
そこに掘られた字も古代文字で、魔法の解析呪文で、内容を調べてみた。
「……ようこそ、シェイ=クラーベ。余はお前が来るのを待っておるぞ」
石版の文字は何百年も前の物だった。
何百年も前から、キング・ライラットは俺が来るのを待っていたというのか?
この石版の文字に魔法がかかっていて、好きな様に文字を組み替えられると考えた方が現実的だった。
つまり、このリッチキングは俺達がここに来た事を知っててからかっているのだ。
「悪戯にしちゃ、趣味が悪いな」
「向こうは茶化してるだけだろうね」
レリーフのある所から左右を見ると、登り階段の先に大きなアーチが見える。
左右対象だから、どちらから進んでも同じだとムラキさんは言った。
階段を登り、アーチを潜ると、ミイラが安置されている部屋だった。
「これらのミイラは衛兵のミイラと言われていて、侵入者が来るのを防ぐのが役目だと言われています」
説明を聞きながら、そのミイラの隣を歩いて通り抜ける。
襲ってくるかどうか見ていたが、動く気配はなさそうだった。
「衛兵の間を過ぎると、突き当たりの角までは罠の通路が続きます。今歩いているのは、横から弓矢が放たれる仕掛けのある通路です」
壁には一定間隔事に縦穴があり、そこから矢が放たれる様になっているのだろう。
これも今は機能していない様だった。
「仕掛けはありますけど、もう壊れちゃってますね」
念のために調べてみたキュネイがそう言った。
「かなり昔の物ですからね。何度も盗掘に襲われた時に、その役目を果たし終えたのでしょう」
「次の通路は落とし穴の通路です。この通路は一部の床が薄くなっていて、そこをあるくと床を踏み抜いて下へ落ちてしまいます」
既に壊れた床の下には地下の監獄が見えていた。
「落ちないで下さいよ。戻ってくるのはとても大変ですから」
「戻れるんですか?」
「今は下の監獄も、扉を全部開けてますから、地下道をぐるっと大回りして戻る事が出来ます。地下と言っても、階数的には一階ですね私達は階段を昇ってここに来ていますから」
落とし床の間を越えると、次はとても分かりやすい串刺しの罠だった。
地面と天井から鋭い槍が何本も突き出している。
今は通る為に殆ど折られてしまっているが、こんな風に延々と罠の通路が続くというのは嫌な物だった。
(カッシナーさんが言っていた、立派な罠ってどんな罠なんだ……)
既に観光ツアーで、この罠地獄の通路を歩く事になってしまっていたが、カッシナーさんの話し方から推測するに、もっとすごい罠がある筈だった。
「この突き当たりにあるのは、ピラミッドの東の玄室へと続く階段です。ここから北へ向かうと、同じ様に罠の通路の先に、北の玄室へ続く階段に到着します」
「北の突き当たりを西側に折れ、先へ進むと、西側の玄室へ。最初のホールから左へ折れた時は、西側の突き当たりになり、そこには南側の玄室へと続く階段があります」
説明を聞いただけでも、このビラミッドの巨大さが伝わってきた。




