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天国の剣  作者: 開田宗介
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遠心力で剣を振る方法

「あんまり話せないんだけど、かいつまんで言うと、俺は剣の神様から天命をうけて、この特別な剣を使って、ウルゴーだったり、ドラゴンを倒さないといけないんだ」


「はぁ」


「まずは、ご覧の通り魔法障壁が無くなったから、そのうちウルゴーが攻めてくると思うんだ。その時、この剣を使って返り討ちにしたいんだ」


「ふーん」


「それで、力の無い俺でも、剣を使える様になりたいんだけど、何か良いアイデア無い?」


「……あるよ」


「あるのか!」


「まぁ、そういう事なら……女性が軽い剣を使う時の剣の振り方がある」


「軽い剣でも良いの?」


「ああ。速度が命のやり方だから」


 早速、リヒトに頼んで振り回せる程度の軽さにして貰ったが、本当にこれで大丈夫なのかというぐらい軽くなった。

 箒ぐらいの重さなので、これで頭を叩いても、怪我をするかどうか程度だろう。


 俺が剣をぶんぶん振り回すのを見て、リュージが部屋の隅にある本物の箒を持って構えた。


「持ち方はこうだ。剣は腕に添えるようにして持つ。そしてそのまま両手を振り回す」


 両手をぴんと横に伸ばし、そして腕の上に剣が乗っかる様に持つ。

 そのまま身体を回転させながら、両手をパタパタとさせる。

 しかしこれでは剣を振っている事にはならない。


「剣を身体の一部として振り回す感覚が分かったら、つぎはこう。下から手を回して前に突き出す時に、剣を前方に突き出す」


 それは回転する力を直進する力に変えて、鋭い突きを出すというものだった。


「突き出したら、そのまま剣を納めずに、さっきと同じくぐるぐる両手を回すんだ」


 なるほど、手の先にある剣は、遠心力で空を裂き、全く力の無い俺でも斬撃を繰り出す事が出来た。

 理論としては軽い縄跳びでも、二重跳びをしている時の速度なら空を切り裂く音を出せる程には強くなるという事だった。


「とりあえず、それだけ。それが基本。だいたいその動きを身体に覚え込ませるのに二年ぐらいは同じ事を頑張れ」


「に、二年は遠いなぁ……でも、剣を振り回すという事は出来たよ、ありがとう」


「これでどうかな? なんとかなりそう?」


 そうリヒトに尋ねると、良い答えが返ってきた。


「やってみなければわからないが、ここで力を出すと、建物が壊れかねない。どこか外で練習してみたい」


「それじゃ、外に行きますか」


 リュージが両手をポケットに入れ、やれやれという感じで部屋を出て行く。

 その後ろ姿を見て、俺は心の中で感謝した。

 剣術なんてやった事のない俺に、こんな風に分かりやすく教えてくれるのは、彼だけだった。


 そして数分後。町外れにある建物の近くまで来ると、近くにあった大木相手にリヒトで斬りかかってみた。すると、大木は見事に真っ二つに裂けて倒れてしまった。


「やっべ! 何してんだよ!! あの木、あの家の大切な果物の木なんだぜ!?」


「うわあ悪ぃ、まさかあんなに綺麗に切れるとは思わなかったんだ」


「その剣やべーぞ、とんでもねぇ切れ味だ。岩でも切れそうだ」


 俺とリュージはいたずらっ子が逃げる様にその場から駆けだしていた。

 大剣のまま俺の肩に担がれたリヒトは、それなりには納得した様だった。


「まぁ……あとは私がなんとかする。シェイはとにかくうまく振り回せる様になれ」


 付け焼き刃にしては上々という事で、俺は次の日から毎日、剣を振る練習をする事にした。

 同じ事を繰り返し、身体に覚え込ませるという事は剣術も魔法も同じ。

 基礎練習は飽きるのを通り越えて、自然と身体が動くまでやるものだった。


 ウルゴーが魔法障壁がない事に気づいて、攻めてくるのは何週間後だろうか、と王宮の中でも話をしていた時、もうすぐそこまで大軍勢が押し寄せてきている、という偵察の連絡が入った。


 何が起こったのかはすぐに分かった。

 貴族達が身売りして、自分達の命の保証と引き替えに情報を流したのだった。

 あの、何かというとネガティブな意見でつっかかってきた男の裏切りだった。


 すぐに騎士団は防衛体制をとる様に命令が出され、不慣れながらも白兵戦で外壁を守る体制を整えていた。


「……たった五日しか練習できなかったよ」


「あの貴族共の事だから、さぞやのんびり逃げた事だろう。もし馬に手慣れた者が逃げていたなら、一日でウルゴーの共に行き、三日目にはこうなっていただろう」


 リヒトの冷静な言葉はその通りだった。

 しかし俺は、現実として時間がのびて良かったね、という事ではなく、五日間も頑張って練習した俺を慰めて欲しかった。


(俺……魔法使いなんだよね……剣士じゃないんだよね……)


 そう言えばこの一週間ほど、まともに魔法を使っていない。

 よく考えたら魔法を使う触媒を手に入れる方法も、考えないといけない。

 王宮お抱えの魔法ギルドが無くなった今、触媒は市場などで流通しているものを手に入れなければならなかった。


 剣術は剣術としてこれから覚えていくとしても、元より目指していた魔法使いの道を断念するつもりにもなれなかった。





「スラニルの国民達に伝える。スラニルの魔法使い達は異世界に助力を乞い、我々ウルゴー大帝国に脅威をもたらそうとした」


 ウルゴーの大軍勢は、スラニルの国のすぐ側までやってきて、さあいつでもお前達を攻め落とせるぞ、という圧力をかけつつ陣取っていた。


「この戦は人の世の戦。その戦に異世界の脅威を交える事をウルゴーは絶対に許しはしない。よって我々はこれよりスラニルを掃討、駆逐する。降伏を受け入れる事は無い。国民は全てその命を天に捧げよ」


 マジックマウスを使った宣戦布告は、当然、この小国を震え上がらせた。

 正面から戦ってウルゴー大帝国に勝てる筈が無い。

 しかも魔法障壁もない。たとえ今回を凌いだとしてもいつかは負けるだろう。

 そして女子供を問わず、全員が処刑される事になる。


 国民は家の中で絶望に打ちひしがれるしか無く、そして騎士団はその名誉にかけて必死で己の中の恐怖に耐えていた。

 おそらく、今のスラニルという国の中で、勝算を持っていたのは俺とリヒトだけだっただろう。


「どうか頼む。この国と、国民を守ってくれ」


 誰も居ない謁見の間には、王様と宰相、そして騎士団長だけが残っていた。


「微力を尽くします」


 王様の言葉に答えて一人前の事を言ってみせたが、俺に出来る事は一つ、大軍勢の中に飛び込んで、この天国の剣を振り回す事だけだった。


 外壁に迫るウルゴーの大軍勢は、おそらく本気でスラニルを焼き尽くすつもりで来たのだろう、地平線を埋め尽くすほどの大軍だった。

 さすがにこの無限にも感じられる人数を、全滅させられるとは思えない。


 しかし向こうも、スラニルの外門を出てきて自分達の前にやってきたのが、白い大剣を抱えた俺一人なのを見て、哀れみと呆れた目で出迎えていた。


「お前は、降伏を伝えに来た伝令か?」


 普通はそう思うだろう。

 この小国は怯えている。王は逃げ出しているかもしれない。

 出てきて討ち死にするのも怖い。だから壁越しに徹底抗戦するつもりだが、外壁が壊れたらそれまでだ。逃げ出すしかない。

 まずは、この哀れな青年一人に謝りに行かせよう。

 この青年一人が殺されても、壁の中に居る者達はまだ安全だ。


 そういう風に考えたのだろう。占領軍の隊長は俺に厳しい顔をしながら言いわたした。

 嘲りの笑いや、馬鹿にしたような笑みを浮かべないだけ、この隊長は人としてはマシな方だった。


「先ほども述べたとおり、我々は降伏を受け入れはしない。お前はここで死ぬ」


 そう言うと、数人の剣士達が俺の目の前に盾を構えながら歩み寄ってきた。

 その剣が届くまであと数メートル。それが俺の命の距離だった。


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