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天国の剣  作者: 開田宗介
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スペシャルマッチ!ミノタウロス・ロード


「果たして、俺達でドラゴンとリッチキングを倒せるでしょうか?」


 素朴な疑問をグランドマスターにぶつけると、彼は俺の目を見て答えた。


「君は負けに行くのか?」


 それは簡潔で、とても力のある言葉だった。

 そんな訳がない。負ける為に向かうのではない。

 俺達は勝つ為に前に進んでいる。

 今の自分の力が、強大な敵に及ぶかどうかに怯えた所で、何も答えは出ない。

 自分が出来る事をするしかなかった。


「……すみませんでした」


「意地悪で言った訳では無いんだ。私にも言えない事が多くある。これでもかなりの事を君達に伝えたつもりだ」


「あとは、君達次第なんだ」


 グランドマスター・ディアックはそう言うと、ヴィーシアの彫像の方を向いて一礼した。


「このデッドフォールより遙か南東。死の砂漠の中央に王墓がある。近くには商人達が集うオアシスがあり、そこで死せる王の歴史を知る事が出来るだろう」


「ゴージに頼んで飛空艇を手配してもらうといい。私からも頼んでみよう」


「ありがとうございます」


 これ以上、ここでグランドマスターから教えてもらう事は何も無いだろう。

 俺達は礼を言うと、ポータルから外に出て、海賊島に戻った。


 その足でマスターゴージの所まで行き、飛空船の手配について尋ねてみると、ブラッドムーンが戻るまで待つという返事が返ってきた。


「もちろん、タルキス船長がお前達を運んでくれる事を期待して待つんだがな、もしそれで断られたなら、改めて考えよう」


「お前達はリッチキングとドラゴンの財宝をタルキスに譲るつもりなんだろう? なら、オアシスまで送るぐらいの事を頼んでも悪くは無いと思うぜ」


 ゴージの意見には俺達も賛成だった。

 しかし、だとすると、問題はいつ船長が戻るか、という事だった。


「明日かもしれないし、来週かもしれない。再来週かもしれないが、飛空艇のメンテナンスの事を考えると、一週間が妥当だ」


 最大で一週間。その間、俺達はゲストの闘士として闘技場で戦い、当面の生活費を稼ぐ事となった。





 しかし、俺達の戦う相手は闘技場の闘士などではなく、とんでもない怪物達が相手だった。


「さぁ皆様! 彼ら異国の冒険者達はゲストとしてこの闘技場に参戦しましたが、その強さは初日のバトルロイヤルをご覧になったとおり、鬼神の強さであります!」


「聞けば彼らは名誉と財宝を求めてこのデッドフォールに立ち寄った強者達。ならば我々は彼らに最高の名誉と財宝を与えるべく、このスペシャルマッチをご用意しました!」


「彼らの敵はミノタウロス・ロードとその配下のミノタウロス・ナイト二匹! ミドル・サーンでも東方、シンの国の近くに住む部族の代表です!」


(牛肉が相手なのか……)


(牛肉だな……)


 俺とリュージはうんざりしながら相手を見た。

 かつてあの村で肉として振る舞われた生物の原型が目の前に居る。


「お前達に勝てば、2000プラチナは俺達の物だ。大人しく降参するなら今だぞ」


 白い髭を顔中にたくわえたミノタウロスの君主がそう言った。


(言葉を話さないでくれ、罪悪感が……)


(やっぱり、こりゃ上の肉は食えそうにないな……もも肉しか)


「ひぃっ!」


 そのリュージの肉食獣の視線に怯えたのは、ロードのおつきのナイト達だった。

 明らかに食われる、という恐怖に怯えて、彼らは立ち竦んでいた。


「リュージ、殺しちゃだめだから。ぶっ倒すだけだから。儲けた金で、本物の牛肉を食べよう」


「ちっ、そうか……殺しちゃ駄目なのか……」


 ミノタウロス達にとっては、勝つとか負けるとかのレベルではなく、生き残るか喰われるかという恐怖のデスマッチになりかけていた。


 しかし世間一般的には、ミノタウロス・ロードに勝てる人間など居ない。

 本当に強い勇者達が相当過酷な冒険の場所で出会う様な相手だった。

 勿論、このミノタウロス・ロードも、何かの理由で金を稼ぎにここへ来たのであって、本来なら部族のボス格だった。


 当然ながら掛け率は俺達の方が高い、つまり俺達が負ける見込みが強くなっていた。

 ミノタウロス・ロードが言った賞金の2000プラチナは、かなりの高額で、一年中高級牛肉ステーキを食べられるぐらいだった。

 もちろん、目の前の彼らではなく、本物の食肉用の王様が食べるような高級食。


 俺達が負ければ、マスターゴージはその賞金を彼らに払う事になる。

 そういう条件で連れてきたのだろう。いい儲け話があるぜ、と。

 そしてそれを阻止するのが俺達の仕事だった。


 ロアックは貰った風の盾を使いたがったが、生憎武器はアリーナ様のなまくらの剣と盾しかない。

 武器依存という意味では、戦士達にとっては若干不利かもしれなかった。


「さあ、冒険者が勝つか、ミノタウロスの王者が勝つか、バトルの始まりです!」


 ゴォン、という銅鑼の音が鳴り響くと、ミノタウロス・ロードはその角を前方に振りかざしながら突進して来た。

 その突進力のすさまじさは、地響きの重さで十分に分かる。

 向こうはこちらを殺すつもりできていた。


 最初の突進を交わして逃げると、護衛のミノタウロスが戦斧を振り回しながら駆け込んでくる。

 ある意味では、やらなければやられる、という覚悟をさせてしまった為、本気にさせてしまったかもしれない。


 ミノタウロス・ロードの全身を包む剛毛は厄介で、四象のどれもを無効化する為、俺の魔法剣では、魔力しかダメージを与える事が出来なかった。

 それはそれで仕方無いにしても、更に斬撃も打撃も和らげられてしまっては、武器の意味が無い。


 リュージが蹴りつけても耐え、ロアックが斬りつけても弾き、俺が魔力で吹き飛ばしても、大した効果は無かった。


 至近距離からのミノタウロスロードの突進をロアックがまともに受け、観客が興奮して歓声を上げるも、身体の小ささが幸いして角で身体を突き刺されるには至らなかった。

 それが俺かリュージだったら、腹部を貫かれ、そのまま内蔵を撒き散らしながら空中へ放り投げ出されていたかもしれない。


 ロアックはミノタウロスの脳天に一撃を加えて、頭頂部から飛び降り、武器を構え直す。

 致命的なダメージではないにせよ、ロードは少しは痛かった様で頭を振っていた。


「殺さないってのは、難しいぞ、こいつは」


 リュージが珍しく愚痴を吐いた。

 殺してしまうのならぱ、何か方法はあるらしかった。

 もちろん俺も、殺すとなれば、相手の魔法抵抗を極限まで下げた後、死の指(フィンガーオブデス)の魔法でしとめるというやり方はあった。


 しかし、そういう生命を直接奪うのではなく、体力を枯渇させて動けなくさせるというのは、この相手にはかなり難しい。


「仕方無い。まずは、雑魚から行くか」


「分かった。俺がボスの相手をするから、ロアックとリュージは手早くやってくれ」





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