海賊闘技場バトルロイヤル開始!
「知るか。親父の名字がガランだから息子の俺もガランだ」
「どういうこった……お前、自分の名前がどういう意味かしってるのか?」
「だから知ったこっちゃねぇって言ってるだろ」
「竜児=伽藍は、この闘技場の三代目のグランドマスターだ。その名は神の竜の子という意味だ」
「名前が同じなだけだろうが、俺とそいつを一緒にするな。俺がグランドマスターになったなら、同じ名前の奴がまた勝ったって言っとけよ」
「……お前、竜児にそっくりだな。まぁいいわかった。とにかくお前は50位だ」
「おっさん、俺は気が短いと言ってるだろうが……」
「バトルロイヤルがある。50位から11位に一気に勝ち登れるチャンスだ。お前が本当に強いなら、20位と言わず、11位になれ」
「……お、おう……それを早く言えよ」
「おいお前、魔法戦士とコボルド。お前達も当然出ろ。負けたらそれで終わりだ。死ね」
「あの、武器と防具は……」
「こっちで用意する。それ以外は使用禁止だ。魔法は何でも使っていい」
「バトルロイヤルはこの後、二時間後に行う。毎日やる阿鼻叫喚の祭さ、そして毎日、ランク20位以上の奴が雑魚をブチ殺すだけのショーだ」
「わかったら外で腕立て伏せでもしてろ。元々、お前達はそれに出させるつもりだから、何も言わなかっただけだ。ここはランク30位以上の闘士の訓練場だ、低ランクはとっとと出て行け」
アリーナマスターのゴージにそう言われ、俺達は仕方無く、闘技場の外に出た。
中に居る奴と比べれば、確かにこれは負けてしまいそうだと思ってしまう様な、平凡な闘士達が、頑張ってトレーニングをしていた。
などと他人の事を言っているが、俺もリヒトが無ければただのエルドリッチナイトに過ぎない。
(これはちょっと、楽は出来そうにないなぁ……)
勿論、闘士達の中にも魔法使いやエルドリッチナイトは居るだろう。
俺がここまで来れたのは、ほぼ……いや100%リヒトのおかげと言っても良く、てっきりリヒトを使って一暴れすればいいかと思っていた。
(まぁ、とっておきってのは用意しておくものさ)
逆に言えば、リヒトが居たからこそ、使わなかった物がある。
そして、俺の中の『俺』は、実際に自分がどこまでやれるのかをを試してみたくて、気持ちは昂ぶっていた。
二時間が過ぎ、観客のざわめきの『質』が変わってきた。
俺達はアリーナの外でストレッチをしながら、闘技場のドームの中に入っていく荒くれ共を見ていた。
このバトルロイヤルの前に行われていたのは、前座である10位以下のランクマッチで、バトルロイヤルではほぼ常勝している20位から11位までの闘士達の戦いだった。
そして、このバトルロイヤルでは、その20位から11位までの闘士達を含む、50位から11位までの闘士達が乱戦を行う。
このバトルロイヤルの後はメインイベントとして10位から1位のランカーが対戦する事になっていて、今日は8位と7位の戦いが行われるらしい。
前座の戦いは入場料が安く、掛け金も安く、更に賭けようが賭けまいが自由だった。
バトルロイヤルでは入場料はないが、その代わりに必ず掛け金を払い、大抵の場合は大穴を狙う。
上位の者に掛け率は低く、賭けたとしても殆ど見返りはないが、彼ら上位者を応援するという気持ちであり、言わば観戦料でもある。
前座の試合を見ていたのは、暇つぶしの客が多く、単なる遊びだった。
しかし、バトルロイヤルを見る為にドームへと入っていく客は、一攫千金を狙う者も多い様だった。
メンバーリストを作り、出身や得意技などを調べ、今までの戦績を研究し、今日は勝てるかどうかを予想する。
50位に近い者に賭けて最後に立っていれば、配当金はかなりのもので、金遣いの荒い者でもこのデッドフォールで半月は遊んで暮らせるだろう。
ただし、今回は50位のリュージに関しては、倍率は20位に設定されていて、殆ど旨みのない掛け率になっていた。
これは当然、リュージが20位のブルストライカーを倒したからで、観客からも一目置かれる事になった。
そして俺とロアックはランク外であり、掛けの対象ではなかった。
リュージとは違って、俺達はまだ自分の腕前を見せていない以上、これで当たり前だった。
キン、キンと甲高い鐘の音が鳴ると、周りの闘士達が扉の中に入っていく。
おそらくあの音が合図なのだろう。俺達も続いて闘技場の中に入り、彼らの後に続いた。
トレーニングルームに入ると、トップランカーの姿は無く、ぞろぞろと下位ランカー達が通路を歩いて行く。
通路は突き当たりで左右に分かれ、右が赤チーム、左が青チームと壁に塗料で書き殴られていた。
ランカー達は思い思いの方に曲がっているらしく、俺達は右の道を選んだ。
天井が低くなり、通路と言うよりはトンネルと言った方が良いぐらいに狭くなっていた。
そして突き当たりに、筋肉質の男が立っていて、目の前を通る闘士達に武器を渡していた。
突き当たりの右側に武器倉庫があり、そして道は左へと折れている。
倉庫の前で武器を受け取った男達は左側の通路へと入っていった。
「剣を」
そう言うと男は黙ってショートソードを一本くれた。
何の変哲も無い、使い込まれてボロボロになった物で、刃先はこぼれていて切り裂ける様な物じゃない。これは剣の形をした棍棒だった。
「剣と盾を」
ロアックがそう言うと、男はロングソードとバックラーをロアックに渡した。
そのロングソードもお世辞にも良い物ではなく、バックラーに至っては、ただ腕に堅めの皮を縛り付けただけの物だった。
だが愚痴を言った所で仕方が無い。他の奴らも条件は同じだった。
武器を貰って左側に折れると階段があり、そしてその先にアリーナの広大な空間が広がっていた。
低いアーチを抜けてアリーナに出ると、周囲360度全てが観客に囲まれていて、思わず息を呑んで見回した。
これほどの大人数に見られて戦う事なんて、今まで経験した事が無い。
低ランカーの中には、少しは腕に覚えがあるのか両手を高くあげてポーズをとり、一部の観客から声援を貰っていた。
反対側には青チーム側の出入り口から出てきた低ランカー達が見えたが、単純に40人が一度にアリーナに入る為に二手に分かれたに過ぎなかった。
全ての闘士達がアリーナに入ると、ガショオオオン、という鋼鉄の音が背後で響いた。
何かと思って振り向くと、出入り口が鋼鉄の柵で閉ざされて出られなくなっていた。
「さあ皆さん! 今宵も血の饗宴をお楽しみ下さい! アリーナの中にいるのは総勢40名の闘士達。うち上位9名は皆さんもご存じのヒーロー達」
「ただしランク20位のブルストライカーは、新参の闘士に私的な戦いで敗北し、この世を去りました」
「敗者に情けは無用! よって現在ランク20位は空席になっています! 闘士達よ、この席はお前達の物だ!」
この饒舌なしゃべり方をするアナウンスは、その道のプロだった。
どう話せば客が喜ぶかを知っていて、わざともったいぶって話をする。
そして、アナウンスの言葉に乗せられて、俺達は戦い、客は興奮するのだろう。




