レッド・ドラゴンとリッチキング
自分がスラニルの魔法使いで、機甲涅槃界に助けを乞い、リヒトを得た事。
そして赤竜ヴィスカスを倒す様に言われた事。
ボーグルの森の奴隷商人達とタークシックスに繋がりがあり、奴隷達を解放した事。
その折にダークシックスの使いであるモディウスが、ヴィスカスの事を知っている素振りをみせた為、サングマまで追ってきた事。
その途中で自分はモディウスに捕まり、奴隷として洗脳されかけた事。
吸血鬼の海賊船長にはそこまで話をした。
「ダークシックスの本殿には何があった?」
「異世界への門と、そこからわき出る無数の暗黒球体。そして混沌の神」
俺が簡潔に言うと、船長は小さく頷いた。
「あそこは彷徨う旅人のシマだったのか。あの神様は乱痴気騒ぎが大好きで、なんでもいいから大勢の人が死ねばそれで満足な神様だから、お宝はないね」
「ではどうします? サングマを襲うのは止めますか?」
「そうだね。シェイとやら、何か金銀財宝の類はあったかい?」
「全く何もありませんでした。あったのはデーモンの巨大な彫像ぐらいです」
「行くだけ無駄さ……でも、女帝ヴィスカスの話は、興味深いね」
そう言いながらタルキスは細くて白い足を組み替え、グラスに入った赤い液体を飲んだ。多分、あれは血だろう。
「残念、これはワインよ。ある死霊術師のおかげで血の呪縛からは解放されたの」
読心術で心の中を見透かされてしまい、なんだかがっかりしてしまった。
こちらの考えている事は全て読まれているとすると、下手な事は考えない方が自分の身のためだろう。
「読心術じゃないわよ。いちいち人の心を読んでどうするの」
「俺がそのグラスを見たから、悟っただけですか。でも、今は読心術を使いましたよね」
「今は、ね。嘘つきが多いから」
遠まわしに、ヴィスカスについて、嘘をつかずに知っている事を話せという事だろう。
そうは言われても、こちらも殆ど何も知らない。
伝説ではなく本当に存在していて、砂漠の王の所に隠れ住んでいるという話を、混沌の神から聞いただけだった。
「死せる砂漠の王……リッチキング……そこに隠れるレッドドラゴン……」
俺が話をすると、そこに出てきた一言一言を噛みしめる様に船長は言う。
そして、冷酷な笑みを浮かべて笑った。
「世界最高の至宝が私を呼んでいるわ!」
「リッチキングとかドラゴンとか、とても強敵じゃないですか?」
「そうね、頑張って倒しなさい」
「倒すのは俺達ですか!? 当然ですよね! その為に俺達は旅をしてるんですから!」
相手がヤバイ船長だという事も忘れて、思いきりツッコんでしまった。
「あはははは! お前は本当に面白いな! そんな風に言い返してきた男はお前とガリエットぐらいだ」
「ガリエット?」
「そういう変わった男が居る。愚かなのか賢いのか分からんが、口は立つ」
(俺は口が達者な方じゃないんだがな……)
「今、お前自身が言った様に、リッチキングとドラゴンを倒すのはお前達だ。そしてその財宝を手に入れるのは私達だ。これで取引は成立だな」
「取引……」
命は助けてやるから、さっさとリッチキングとドラゴンを倒して来いという事だった。
俺はそれでもいい、と思った。
元々大切なのは国を救う事であって、財宝なんてどうでも良かった。
「そうだ。お前達がリッチキングとドラゴンを倒す手伝いをしてやるから、頑張って倒して来い」
「あ……何か……手伝いとか、していただけるんですか?」
「だってお前達、そのままでは負けるぞ。間違いなくな」
「は、はぁ……」
確かに言われてみればそうだ。冷静に考えて相手はリッチキングとドラゴンだ。
リッチキングを倒すだけでも伝説になりそうな英雄譚だ。
ドラゴンを倒せば、ドラゴンスレイヤーと呼ばれるだろう。
どちらも後世まで語り告げられる様な偉業だった。
「何か手があるのか? そのリヒトという天国の剣だのみではないのか?」
「うう……その通りです……」
「だから、手を貸してやろう」
吸血鬼の海賊姫が、お宝と引き替えにリッチキングとドラゴン討伐の手伝いをしてくれると言う。
これはとんでもない幸運では無いだろうか。
「ありがとうございます。俺達に選択の余地は無いですから」
「うむ。良い子だ。悪い様にはしないさ」
実際、他の皆も、悪い顔はしていなかった。
彼らと戦うよりも、戦わない方が楽なのは当たり前の事だった。
「一つだけ、質問してもいいですか?」
「何だ?」
「リッチキングとドラゴンの財宝は、そんなにすごい物なんですか?」
「んー、そうねぇ。あなた達が身の上を詳しく説明してくれたから、私も教えてあげる」
船長が人差し指をぴん、と跳ねると、すぐにお付きの人がグラスにワインを注いだ。
そのワインを一口飲み、そしてにやりと笑って俺達の方を見る。
「女帝ヴィスカスとリッチキングのラー=ライラット三世。この二人が手を組んでいる理由はたった一つ。ドラゴンシャードよ。それも特別強力な魔力を持ち、この世を破滅に導く力があるほどの力を持つ宝石」
「このフェイルーンという世界は、三匹の神竜が作った時にはペイン=アース。苦しみの世界と呼ばれていた」
「最初にこの世界を支配していたのは、巨人族と竜族。この二種族は滅亡戦争と呼ばれる大戦争を起こし、地上から衰退していった」
「その時に使われたのがペインアース・ドラゴンシャード。この世界の根源の力を持つ強力な竜水晶」
「ヴィスカスは、そのドラゴンシャードを欲しがっていて、ラー・ライラットはそれを作れるほどの力があるリッチ。何百年かかって作っているのかしらね」
「それだけの力を持つドラゴンシャードを手に入れて、船長はどうするつもりなんですか?」
「どうもしないわよ。誰も持っていない物が欲しいの。私だけの物にしたいの」
「たった、それだけの事で……」
「あら、たったそれだけって言うけれど、恋も愛も同じじゃない。自分だけの誰かが欲しいんでしょ?」
怪しく笑いながら、船長は俺とリヒト、そしてキュネイの三人の顔を見た。
心の中を見抜いての言葉だろう。
「坊や、覚えておくといいわ。人は男女関係無く、世界に一つしかないって事そのものに恋をする事があるのよ。そして手に入れると興味を失うの」
話はこれで一段落がついた。
俺達はこの吸血姫の助力を得て、リッチキングとヴィスカスを倒す。それで俺の天命は成就され、ドラゴンシャードというお宝はタルキス船長の物になる。
「じゃ、出発しましょうか。デッドフォールへ」
「……えっ?」