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天国の剣  作者: 開田宗介
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闇の神の神殿


 その扉は石でもない鉄でもない、ザラザラとした不思議な材質で出来ていて、表面に描かれた絵は塗られた物でもなく、掘られた物でもなかった。

 軽く叩いて見ると、乾いたコンコンという硬質の音がして、この壁の裏側が空洞である事が分かる。


 真実看破トゥルーシーイングという魔法で確認してみても、この正門には何らかの魔法がかかっているのが分かった。


「どうやって中に入るんだ? もしかしてこの建物には入れないって事か?」


「モニュメントなら、そうかもしれないけど、ただの記念碑に門番なんてつけるかなぁ」


 その門番をしていた用心棒達は、この門が開いたのを見た事が無いと言っていた。


(魔法のかかっている壁で、開いた事が無い……)


「キュネイ、ちょっとこの辺り一帯を調べてみてくれ」


「はーい」


「どうした?」


 リヒトは俺の意図がわからない様で、不安な面持ちで俺の顔を見た。


「用心棒だって一日中ここに居る訳じゃないさ。彼らが居ない時に、ここは開いたんだろう」


「しかし、これは壁であって、扉ではないのだろう?」


「壁が開けばいいのさ」


「んー?」


 リヒトは、ますます訳がわからないらしく、両手を組んで首を傾げていた。

 その仕草は幼い子供の様だった。


「ありました、きっとこれです」


 キュネイがこの不気味な壁の両側に立つ柱の根本を指さした。


「ここ、この柱の一番下です。つま先で押し込むんです」


 柱の付け根にあたる所が四角く切り取られた形になっていて、その部分をつま先で押すと、内側へと凹んだ。

 よくある仕掛け扉という奴だったが、この門の場合は少し違うだろう。


「リュージとセリーナスはそっち側、俺とキュネイはこっち側、せーので押すぞ」


 かけ声をあわせ、四人が同時にその仕掛けをつま先で押し込むと、ゴリッという音ともに、不気味な壁に光で書かれたルーン文字が浮かび上がった。


「仕掛けはこれで作動した……と、あとはどうやって中へ入るか……」


 そう呟きながら壁に手を伸ばすと、俺の手は壁を通り抜けた。

 つまりこの壁は元々が幻影の壁で、それが仕掛けによって物質化していたのだった。

 空間に絵を描いて、それを現実の物にしたから、描かれた絵が彫刻でも塗られた物でもなかったのだった。


 そのまま用心しつつ、壁に首を突っ込んで中の様子を見ると、そこは立派な神殿の内部だった。


「よし、入れるようになったみたいだ」


「でかしたぞシェイ! さぁ悪を倒しに行こう!」


 そう意気込んで、いきなり壁の向こうに入っていったのはロアックだった。

 勇敢と無謀とは異なるという言葉があるが……果たしてロアックはどちらだろうか。


(無謀な所は見た事が無いから……勇敢って事でいいか)


 ともすれば強大な敵が待っているだろうこの本拠地に、先陣を切って乗り込むのは勇気だっだろうか。

 おかげで俺達は、慌ててロアックの後を追って中に入る事になった。


 中に入ると、この神殿がやはり闇の六神の為に造られた物だという事がすぐに分かった。

 天井は高く、それを支える柱には炎と骨と骸骨の彫刻が彫られている。

 俺達の目の前には大階段が下方へと降りていて、それ以外の道は無い。

 この大階段を下りた所に、中心部があるのだろう。


 神殿の中は静かで、物音一つせず、俺達の足音だけが響いていた。

 気温が低いわけでもないのに、肌寒く感じられるのは何故だろうか。

 薄気味悪いというのではない、身の毛もよだつような悪がこの先にいるのだろう。

 もしかしたら神そのものが待っているのかもしれない。

 だとしたら、俺達に勝ち目はあるのだろうか?


 しかし、神が地上に留まっているという話は聞いた事が無い。

 剣王の時もそうだが、神は本来は自分の領域に居て、召喚された時だけこのフェイルーンにやってくる。

 モディウスの様な手下なら、現世にずっと居るのかもしれないが。


 階段を下り続ける事、おおよそ五分。地下深くまで降りてきた所で、俺達は二つの彫像がある所まで降りてきた。


 目の前には青白く光る結界が張られていた。その結界の表面には魔方陣が描かれている。

 結界の透明度は殆ど無く、向こう側は見えない。


 その結界の前に、二体の彫像が立っていた。

 彫像はデーモンと呼ばれる魔物フィーンドの物だった。


「デーモンか……」


 リヒトが彫像を睨みつけて、そう呟いた。


 一般に悪魔と呼ばれる者達は、デーモンとデビルの二種類に分かれている。

 その違いは、デーモンが混沌の存在であり、デビルが秩序の存在である事だ。


 デビル達は上下関係があり、高位のデビルに下位のデビルが逆らう事は謀反とされる。

 デーモン達にも上下関係はあるが、もっと動物的なもので、下位のデーモンが上位を倒せば、それは成り上がった事になる。

 デーモンのボスは常に力で下の者を支配する必要があり、邪魔者に罰など与えるぐらいなら殺してしまうのが常だった。


「この結界は、触ると危ない気がする」


 ロアックのその判断は正しい。

 魔法の光で作られた壁に触ろうものなら、分子レベルにまで分解されかねない。


「こいつは、どうすれば開く?」


 リュージが腰に手を当て、大きな結界を見上げつつ聞いてきた。


「仕掛けはありませんね……」


 二つの彫像と、その周囲を注意深く調べたキュネイがそう言った。


「じゃあ、この彫像を壊してみるか」


 正門もそうだが、この建物は基本的に、誰も守らなくて良いように出来ていた。

 正確に言うと、魔法によって封鎖状態になっていた。


 さすがに素手のリュージは控えて、まずは俺とロアックが彫像を壊しにかかった。

 単純に力任せに剣で斬りつけて壊す。それだけの事。

 何度も何度も剣で斬りつけているうちに、彫像にひびが入り、そして崩れ落ちる。

 すると遙か高く、天井に小さなルーン文字が光るのが見えた。


 もう一つの方も頑張って肉体労働で壊すと、彫像は壊れて天井のルーン文字が光る。

 そして結界は消え……目の前に闇の球体が音もなく現れた。


「な、なんだ? これ?」


 慌てて俺達はその闇の球体に触らない様に避けたが、俺のつま先が触ってしまっていた。

 その瞬間にズドン! という衝撃音と共に、地面の上に隕石が落ちてきた。

 これは神聖呪文のコメットフォールという呪文だった。

 メテオストームとは違い、神の力によって光と炎の彗星を降らせ、その衝撃で相手を転倒させるのが目的だった。


 案の定、俺は衝撃波に飛ばされて壁へと叩きつけられていた。


「痛てて、こりゃ厄介だ……」



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