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天国の剣  作者: 開田宗介
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ジェイド・ストライク


 一人一殺どころの話ではなかった。

 ロアックの言う通り、俺達は自分で思っていたよりもずっと強くなっていた。

 廊下の各所から信者達が飛び出してくるが、それらの敵をなぎ払いながら、奥へと進んでいく。

 真っ直ぐに続いていた廊下は突然左側へと折れ、その曲がり角の先には、今までとは様子の異なる敵が待っていた。


 猫背で蟹股で四つん這いで歩く人間。その目は白く濁っていて、口からは泡を吹いている。

 グールと呼ばれるアンデッド達だった。

 ダークシックスの信者は彼らが現れると、慌てて扉の中へと逃げ込んでいった。そうしなければ彼らが犠牲者になるからだった。


 この不死者アンデッド達は物理的な攻撃には痛みを感じず、殴ったり蹴ったりするだけではどうにもならない。倒すのであれば、首を切り落とすか、或いは魔法で焼き払うかが効果的だった。

 つまり、アンデッド相手に一番苦労するのは、モンクなのだが、リュージは意気揚々と彼らの方へと突進していった。


「シンタオは、神の力を導く武道! お前達アンデッドを成仏させに来てやったぜ」


 そう叫びながらリュージがグールの顔面を殴りつけると、その殴られた部分が淡く光り、焼けただれた様になっていた。


「これがお前達の墓標だ。ジェイド・ストライク!」


 そう意気込んでリュージが殴ると、そのグールは一瞬で全身が綺麗な緑色の宝石と化してしまった。リュージはその宝石の彫像に蹴りを入れると、粉砕していた。


「不浄に属する存在を神の力で浄化し、翡翠にしてしまうんだ」


「不浄って……つまりアンデッドだけじゃなく?」


「ああ、デビルやデーモンにも効くぜ。この拳が欲しくて修行してたんだ」


 リュージがエル・カシで会得したいと言っていたのは、このジェイドストライクという技だったらしい。


 リュージと共にグールと戦うセリーナスは、光魔法の操り手であり、敵にすると厄介な光線をアンデッド達に向かって放っていた。


 俺とリヒト、ロアックも、リュージ達ほどではないにしても、グールを撃退するには十分な力を持っていた。

 生粋の戦士として、突き、払い、斬り捨てていくロアックと、リヒトの刀身に魔力を乗せてなぎ払っていく俺とで、尻込みする事なく、眼前の敵を切り倒していく。


 通路には扉の代わりに棺桶があり、中からゾンビやマミーなど、他のアンデッド達も現れて、いよいよ闇の神の神殿らしさを増して来ていた。

 真っ直ぐ続く通路が、前方で再び左へと曲がっているのが見えた。ボーグルの森の遺跡と同じく、この遺跡も、神殿中心部に行くためには、外周を回るという構造になっているのだろう。


 無数のアンデッド達を打ち倒し、その曲がり角までつくと、次の曲がり角の先は、壁も床も暗黒に染まった真っ黒な通路だった。

 いよいよ、中心部に近づいていた。

 真っ黒な床の通路に敵が出てくる事は無かったが、その代わりにリヒトが舌打ちをした。


「ここから先は死の領域の影響を受けている。セリーナスの魔法の力は半減する」


 その言葉を聞いて、セリーナスは頷いた。


「死の領域は、光の領域とは相反する世界。リュージさんも光の力を持つ拳は弱くなりますので、気をつけて」


「厄介だな。では、定番の炎にしておくか」


 リュージが印を結んで構えを変えると、身体の周りに一瞬炎が揺らめいた様に見えた。


「私は、あんまり役に立ちそうにないかも」


「キュネイは後ろで控えて、周りを警戒してくれ」


 致命的な一撃も、奇襲もきかない相手に対して、盗賊の戦闘力は限られていた。

 しかし得手不得手は誰にでもある。だからこそこうして仲間と共にその弱点を補っていた。


 周りの空気が澱み、そして視界がぶれていく。

 色という概念が弱くなり、世界は白と黒の二色しかない様に見えた。

 赤い炎は今では白くゆらめく光になっている。


「来たか、スラニルの魔法使い」


 神殿の中央部には祭壇があったが、ボーグルの物とは違い、明らかに禍々しい骸骨と骨で出来た物だった。

 モディウスの大きさは俺達の3倍ほどもある大きさで、にじみ出してくるその妖気は、まさしくこれが本体だと物語っていた。


「あの砦の時から、お前は運が良かった。初めて私の分身がお前にあった時、いきなり聖水を投げつけられ、炎で焦がされた。あの時は完全に不意をつかれた」


「その次に神殿で出会った時、お前は俺を倒すよりも、その娘、光の神の使いの封印を解く事を優先した。お前はあの時、あの棺が私の本体だと言っていたのを覚えているぞ」


「その勘違いがお前を救い。私はここに戻らねばならなくなった。だか、私は首尾良くお前をエル・カシで捕らえることが出来た。勝利は完全に私の物だったというのに、何故かお前は私の呪いをはね除けていた」


 モディウスは黒い尖った爪のついた人差し指で俺を指さす。

 その爪先が額に刺さった時の事を思いだして、嫌な気持ちになった。


「運が良かったんじゃない。必然だ。俺達はお前を倒す為にここに来た。ダークシックスとヴィスカスの関係を知る為に」


「ああ、そうか。お前はあの雌竜を追っていたのだな。そしてここに来たのか。それを必然と言うのならば、お前は神に導かれているとしか思えんな」


 そう言うと、モディウスは祭壇の上にある開かれた本の上に両手をかざした。


「ネザリスの写本がここにある。お前達の知りたい事はここに書かれているぞ。だが残念だったな。この写本は死者達の為の本なのだ。生者はこの死の領域から消え去るが良い」


 ズン、という振動が腹の底に響き、そして身体全体が重くなった。

 身体の動きが少し遅くなっている、まるで水の中にいる様だった。


 モディウスが高笑いをすると、この部屋の床から白い幽霊がふわり、と浮かぶように姿を現した。その数は十体以上、俺達は死の領域に囚われ、そして死の世界の住人達であるレイスに取り囲まれていた。


「気をつけて下さい! 完全に死の領域に引き込まれました。私の治癒魔法は殆ど効果が無いと思います。出来る限りは治癒し続けますが、気をつけて!」


 いつも大人しい口調のセリーナスの語気が荒くなった。


「キュネイは下がれ、セリーナスを守りながら自分を守ってくれ」


「うん。守るだけならきっと頑張れる。シェイも気をつけてね」


 キュネイはそう言うと、俺の頬に軽くキスをしてセリーナスの所に行き、クロスボウを構えていた。


「我が主たる光の竜、ヴィーシアの名にかけて! 必ず、お前達を倒す。主よ、祖先のパラゴン達よ、ナイトロアックに力を!」


 完全なアウェイでの戦いに、気負いをしているのは俺ぐらいだった。

 リュージもロアックもやる気満々で敵を見据え、そして打って出た。


 俺は魔法使いの領分として、自分を含めた前縁三人にヘイストの呪文をかけて高速化する。

 身体を動かすだけでも酷く抵抗感あるが、それでも幾分は素早く動ける様になった。


 目の前にいるレイスの数は20体近く、それと共に3メートルはあるデスドリンカーと呼ばれるクォリが一体。全て打ち払うしかなかった。


 そう心を決めてリヒトの柄に手をかけた時、持っていたリヒトが異様な輝きを発しはじめた。この白黒の世界で唯一、その輝きは七色に変化していた。


「死の領域の敵は我が天敵! 我が主、剣王の命により、お前達、闇の死者を滅ぼす!」


「け、剣王だと……? その剣は?」


 先ほどモディウス自身も言っていたが、以前にモディウスと戦う事になった時、俺はセリーナスの封じられた棺桶に襲いかかってしまった。

 だからこうしてモディウスがリヒトと正面から向き合うのは、これが初めてだった。

 モディウスの言葉通りなら、これもまた、幸運だった。


 今、リヒトは俺の魔力で地水火風の力と純粋な魔法の破壊力を得ていた。

 それに加えてリヒト自身が持つ、俺の知らない力が発動していた。


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