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天国の剣  作者: 開田宗介
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届け仲間へ、ボトルレター!


「まだだ、まだロアックは負けてはいない!」


 コボルドにしては威勢の良い台詞だった。

 俺の知る限り、コボルドは生意気な口をきくが、身の危険に晒されるとすぐに逃げる臆病者だった。


 俺は先ほどの魔法、スペルエンチャントを奪った武器にかけ、その刀身を炎で包む。

 これが正しいこの呪文の使い方だった。


 世の中には、炎の剣と呼ばれる魔法の剣が存在するが、その簡易版がこの火の剣だった。

 剣はコボルドに襲いかかっていた見張りの身体を切り裂き、その肉を焦がし、一撃で致命傷を与えて沈黙させた。


「剣を、ロアックにも剣と盾を」


 コボルドは目の前で倒れた見張りの側に近寄ると、その剣と盾を奪い、無慈悲にも死体を蹴り飛ばして、あっかんべーをしていた。


「随分と、気の強いコボルドだな。お前みたいな勇敢な奴は初めて見たよ」


「うむ、もっと褒めてもいいぞ。俺はコボルドナイトのロアック。この島に悪者を退治しに来た」


「コボルドナイトか……へぇ、俺はもうちょっとコボルドについて勉強しないといけないなぁ」


 コボルドは氏族で、戦士や農民という職業身分をもっている事は知っていた。しかしナイトという職業を持つ氏族もいるらしかった。

 さきほどの見張りへのタックルと言い、このコボルドは思ったよりも頼りになる味方になりそうだった。


「よし、では悪い奴を倒しに行くぞ」


 前言撤回。単に無茶な奴だった。


「ちょっと待ってくれ。俺には仲間が居るんだ。先に彼らと合流したい」


「仲間? 仲間が居るのか? どうしてお前は捕まったのだ。仲間は何をしていた」


「誘拐されたんだよ。モディウスに。なんとかして仲間と連絡をとりたい。多分俺を追ってきてる筈だから」


「じゃあのろしでも炊くか?」


「誰に向けて何の合図を送るつもりなんだ! 仲間より先に悪い奴に見つかるよ!」


「それもそうか。シェイにまかせた」


 このままここに居てはまずいので、見張りの死体を隠した後、この島に来た砂浜までもどった。

 当然そこにはもう船など無く、青い海が転がっているだけだった。

 鬱蒼としたジャングルに比べれば、常夏気分で良い景色だったが。


「手紙を書いて、瓶に入れて」


 俺が水平線を左から右へ何か無いかと眺めていると、ロアックが足下でボトルレターを作っていた。


「ロアックは結構物知りだね。でも、もうちょっと確実な方法で連絡をとりたいんだ」


「とりあえず、いっこ流してみる」


「もう作ったのか! 瓶はどこから持ってきたの!」


「そこに落ちてる」


「あ、ホントだ」


 砂浜の端に、ゴミとして空瓶の入った木箱が捨てられていた。


「じゃあ俺もいっこ作ってみようかな」


「もしかしたら、神様が導いてくれるかもしれない」


「そうだな。その可能性はまず無いけど、希望って捨てちゃいけないもんな」


 ”たすけて、リュージ、リヒト、キュネイ、セリーナス”そう紙に書いて瓶の中に入れ、封をして海に流した。


 目の前で海の底に沈んだ。


「何が悪いって言うんだよ、まったく……」


 作ってみると分かるのだが、これは結構難しい。まず瓶を浮かせるには浮力が必要なため、空気を入れて密封する必要がある。

 しかし瓶自体が重いと、空気を入れた所でそのまま沈むのだった。


「にこめも流してみる」


「ロアック器用だな。メッセージはなんて書いてるんだ?」


 見てみると”お金持ちになりたい”と書かれていた。


「これ、今言う事じゃ無いよね? 助かってからでもいいよね?」


「お金持ちになれば、島から脱出出来る」


「間違いでも無いけど、正解でもないからね、それ」


 そうすると”ロアックはここにいるぞ”という風に書き換えた。


「まぁ、俺も同じような事を書いてるね……」


『助けてリュージ』では、リュージが見つけたとしても、どうしようもないだろう。


「いや、だからね、この方法じゃないんだ。別の方法を考えないと」


 真面目にボトルレターを作っている場合じゃなかった。


「島から逃げるって言っても、船も何も無いしな……島に戻ればモディウス達に捕まるだろうし……」


 ひとまずは、海岸線を辿って島の周囲を調査してみる事にした。

 一時間ほど歩いたところで、この島がかなりの大きさで、元の砂浜の所に戻るのも時間がかかる所まで来たが、海岸線はまだまだ先に続いていた。

 戻るよりは離れた方が、捕まる確率は減る。その時に奴らが辺りを探し出したにしても、遠いに越した事はない。


 という判断から、更にどんどん海岸線を進んでいく事にした。

 歩行で移動する最中、俺とロアックはいくつかの非常に古めかしい罠を見つけた。

 それは木の槍が腐り果てて、単なる段差でしかなくなった落とし穴とか、蔦で絡めておき、敵が罠を踏むと作動する丸太の振り子トラップとかだった。

 何故この辺りは放棄されてしまったのか、不思議に思いつつ、そのトラップに使われている細工をいただいて、多少の小さな武器と、皮鎧代わりの服を作った。


 更に先に進み、既に動作した丸太トラップの犠牲者を見て、理解出来た。

 白骨化した死体は大きく分けて二種類あった。

 一つは人間の物。もう一つはトログロダイトというトカゲ人間の骨だった。

 人間の子供ぐらいの大きさしかないコボルドに比べると、トログロダイトの身長は人間と同じか、それ以上の者も居た。


 彼らは、生来持つ硬い鱗を持つ戦士としてとても厄介な敵であり、そして多くの生物を吐き気状態にさせる毒ガスを、スカンクの様に放つ事が出来た。

 この原始的な罠はトログロダイトが造った物で、そしてここに人間達がやってきた。

 おそらくはダークシックスの教団だろう。


(うあ、やばいなこれは……)


 果たして帰るべきか、それとも進むべきか。

 教団がここにのさばっているという事と同じく、トログロダイトの先住者達もここにいるという事だ。彼ら先住民が、どれだけ人間に対して憎しみを持っているかわかったものじゃない。


 しかも海岸線は更に危険だ。トログロダイトは泳ぎがとても上手で、水に引き込まれたら人間は圧倒的に不利だった。

 だからダークシックスの信者達も、遠出をしないのだろう。

 もしかしたら俺達は、より危険な方へ逃げたのかもしれない。


 もうすぐ日没だった。安全な場所などどこにもない。森の中も海の中も前も後ろも敵だらけだった。


「とりあえず、土の中に潜っておくか」


 笑い話ではなく、それが今の俺達に出来るせいぜいの隠れ蓑だった。


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