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天国の剣  作者: 開田宗介
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奈落の先の神殿



「これはすごいですね」


「川じゃねぇな、断崖絶壁だ」


「しかも可動橋なのか」


 洞窟の通路を抜けて出てきたのは、地底の岸壁に渡された一本の橋だった。

 この橋はスイッチによって90度回転し、向こう側にわたれる様になっている。

 現在、橋は向こう岸にあり、そしてスイッチも向こう岸にある。


 誰かが向こう側にいる仲間に連絡してスイッチを作動させてもらう事で、橋を渡してもらうのだろう。


「飛ぶには、遠いな……」


 対岸との距離は15メートルほどあった。

 跳躍の魔法と空中浮遊の魔法を使っても、届くかどうかとという所。


「すまん、まだ縮地は体得してないんだ」


 モンクの達人はその身体能力を最大限に発揮して、6メートルほどの距離を一足飛びに詰める事が出来たが、リュージはまだその域には達していないようだった。


「……リヒトさんに飛んで貰ってはどうでしょう?」


 キュネイの言葉を聞いて、俺達はみんなで手をポンとならした。


「それだ!」


 ブレードフォームのリヒトなら、15メートル投げるのは容易い。

 リュージなら朝飯前だろう。

 ……と思ったのだが。


「ええー、こいつに身体を触られるのはヤダ」


 と突然リヒトが言い出した。


「お前の身体を触るわけじゃねーだろが、剣になってるお前を投げるだけだろ」


「だからそれがイヤって言ってるんだ。シェイ以外の男には触られたくない」


「リヒト、投げるだけでもダメかな?」


「んーーーーーー」


「そこまで悩むのかよ! そんなに嫌なのかよ! キュネイならいいのかよ!」


「キュネイもヤダ。私の身体を触っていいのはシェイだけだ」


「それは、剣王様が俺に君を授けたから?」


「そう。主以外に触られるのはヤダ」


「シェイ、頑張って投げろ」


「いやー、ちょっと自信無いなぁ……ちょっと小石投げてみて、どのぐらいまで届くか見てみるよ」


 果たして小石向こう岸まで届くかどうか……小石さえ届かないならリヒトなんて絶対に届くわけがなかった。

 掌に丁度隠れるぐらいの石を右手に掴み、そして思い切り投げてみる。


「えいっ! (ぼきっ)うっぎゃあぁぁ! 腕がー!」


「そこまで貧弱なのかよ! しかも小石は右の方に飛んで行ったぞ!?」


「あ、いますぐヒールしますね」


「キュネイは変な所で冷静なのな」


 久しぶりに全力で腕を振ったら、間違った方向に筋肉がねじれた。

 激痛に片腕を抱えてもだえる俺を見て、すぐにキュネイが巻物を使ってくれた。


「あ、これ違った。クラウドキルの巻物でした」


 キュネイが使った巻物は致死性の毒だった。

 下手をしたら一発で死ぬ。下手をしなくてもそのうち死ぬ。


「げふぅ……ごほっ……ぐふっ……」


「シェイが死んじゃうううう!!!」


「おいおいおいおい、無茶苦茶すんなよ、おい」


 リヒトが目を丸くしながら叫び、リュージが慌ててクラウドキルの毒煙の中から俺を助けてくれた。


「すいません、こちらです。はい」


「ああ……助かった……でも、まだ戦闘もしてないのに、貴重なヒールの巻物を使わせてしまった……」


「シェイさぁ、運動神経無いよなぁ」


「今更言われても、なぁ……」


「……わかった、仕方無い……今回だけは許してやる、私に触るがいい」


 リヒトはなんとか折れてくれた様で、大剣の形になって地面の上に転がった。


「はぁ……最初から大人しくこうしろよ」


 地面の上に落ちた大剣をリュージが手にすると、リヒトは変な声を出した。


「……あっ……ちょ、ちょっと、そこ……」


「えっ? な、何だ?」


「あ、もうちょっと下……」


「し、下? 下を持つのか? 変な声出すなよ……」


「ちょっ、どこ触ってるの、そんな所触らないでよ」


「剣の柄しか持ってないだろ! 他にどこを持てって言うんだよ」


 いったいどこを触っているのだろうか、リヒトがなまめかしい事を出すので、とても気になってしまった。


(俺はいつも、リヒトのどこを触っていたんだろう……)


「も、もう……んん……そこでいい……」


「とっとと投げるぞ、すげぇ恥ずかしい」


 リュージは赤面しながら、対岸に大剣を投げた。

 宙を回転して飛んだ大剣は、余裕で向こう側に届いていた。

 そして向こう側に届くと、リヒトは少女の姿になって、稼働橋のスイッチを入れてくれた。


 ゴウンゴウン、という魔力発電の音と共に橋が回転し、無事、断崖絶壁を渡る事が出来た。


「見張りが居なくて良かった……」


 居たら居たで、橋が架かっている時に倒して、渡る事になっただろうが、戦闘を避けるという点では、今回はこれがベストだった。

 この橋を渡った先が、目的地の神殿だった。


 対岸の壁には大きめの両開きの扉がついていて、いかにも、その先に神殿がありそうだった。

 辺りの気配を確認しながら、扉の側に行き、仕掛けが無いかどうか調べる。


「特殊な鍵穴です。普通では開けられません。無理に開けても良いですが、鍵穴は壊れてしまいます」


「……あ、そう言えば鍵があったな」


 プディングに襲われた犠牲者が持っていた十字型の鍵を使うと、ガチン、という重い音と共に鍵がはずれた。

 あの犠牲者は、この扉の中に出入りしていた誰かだったらしい。

 まずはゆっくりと扉を開け、中の様子を見た。


 隙間から見える風景は、横に通路が延びているだけだった。

 扉から身体を入れて中の様子を見ると、通路の天井が開いているのがわかった。

 上を見上げると、遠くに高い天井が見える。

 横へ続く通路には覗き穴があり、そこから中の様子が見て取れる。


 階段状に作られたピラミッドは、八段構造になっていた。

 そのピラミッドへ昇る為には、この通路をぐるっと回って反対側へいかなくてはならない。

 神殿の周りには、ぽつりぽつりと人間の姿があった。

 やはりオーク達を仕切っていたのは人間らしい。

 そういう悪知恵に関しては、人間という種族は悪魔並みに優れていた。


 幸い、この横道に沿っていく限りは、人目を避けて隠れるところも多数あり、反対側まで難なく移動出来た。


「さて、ここからどうするか……」


 通路はここで途切れていて、目の前にはピラミッドの入り口がある。

 入り口には人間の見張りが両側に一人ずつ立っていて、入り口の内側にも一人、赤いローブを着た男が立っていた。

 ローブの男は魔法使いだろう。見張りは剣と盾を持っている所から騎士か戦士だと思うのだが……。


「ここから先は……いける所まで行くしかない」


 俺はリヒトを構え、リュージも猫科の獣の様に低い体勢で身構えた。

 キュネイはクロスボウに矢をつがえ、後方から支援と治癒魔法でサポートしてもらう。


「よし、行くか」


 これが初めて、俺達が正面きって敵に戦闘を仕掛けた時だった。



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