砦の奥を目指して
計画その1、日が暮れてから侵入し、今回はゼリー達の巣を掃討する。
計画その2、四つ辻まで洞窟を降り、見張りを倒す。
計画その3、ホールを偵察し、切り抜けられるかどうかを判断する。
まずはここまでを次の段階として、スカルバッシュの軍団達と戦う事は絶対に避ける。
というよりも軍団に見つかったら勝算はないから、逃げ出して対策の練り直し。
ここまで説明した時、森の出口近くに隠れていた俺達の目の前を、スカルバッシュの自警団達がゆっくりと行軍していくのが見えた。
「おおっ? おいおい、もしかして今日は何か予定があったのか」
「こいつはついてるな。あの様子だと、2、3日は帰って来ないな」
リュージはめざとく食料の詰んである荷馬車をチェックしていた。
数日分の食料が詰んであるという事は、それだけ長旅をするという事だった。
「あ、あの、ちょっと静かにして貰えます? 声が聞こえるかも」
エルフの遠目と聴力の良さは有名だが、キャットエルフにもそれは受け継がれている様だった。
「人質が逃げて……モディウスが怒っている……何匹か捕まえる」
「……モディウス? そう言ったのか?」
「うん」
モディウスとは、あの時に倒した筈のクォリの事だと思っていた。
しかし思い返してみると、あの幽霊をその名で呼んでは居なかった気もする。
モディウスが洗脳する、という言葉と、クォリが洗脳していたという状況を見ただけだった。
(モディウスという奴は、別にいるのか……)
そして今の会話からすると、この自警団達の目的は奴隷の確保だった。
表向きは公道の治安維持パトロールなのかもしれないが。
これは神が与えた幸運とも思えた。
「ちょいと予定を追加しよう、地図をもう一度見せてくれ」
俺達はその場を離れて、話し合いが出来そうな所に行くと、再度砦の地図を広げた。
「スカルバッシュの軍団は居ない。このホールが手薄ならこの川まで進もう」
「川に橋が架かっていれば、大抵は見張りが居る。それを倒して先に進めば神殿だ」
「なんとかゴールまでは行けそうだな」
「なぁ、シェイよ。一つ言わねばならぬ事がある」
リヒトが難しい顔をして俺の顔を見た。
「もしクォリが死の領域から来た奴らなら、私は容赦しない。彼らは機甲涅槃界の敵だ、もし彼らが夢の領域から来たのなら、判断はシェイに任せる」
「剣王は死霊達と敵対しているのか?」
「そうだ。悪魔と死霊は我々にとって倒すべき絶対悪なのだ」
「分かった、覚えておくよ」
もし、この神殿が死の領域、ダールラと繋がっている場合、リヒトはこの神殿を壊し、ゲートを閉じようとするだろう。
そうなれぱ、ここでは激しい戦闘を行わなくてはいけない。
極力、戦闘は避ける事。戦闘はその一回で精一杯だろう。
俺達は屈強で経験豊富な冒険者には程遠い、駆け出しのごろつきに過ぎなかった。
夜の闇に乗じて森の中を進む。魔法障壁は展開されていない。
人間一人ぐらい簡単にかみ殺す野獣達が、目を醒まし始めていた。
特にワーグと呼ばれる魔獣は手強い。遙か彼方から獲物を察知し、音もなく近づき、魔力の宿る牙で獲物を食いちぎる。
夜、スカルバッシュが見張りすら立てないのも、この魔獣のせいだろう。
下手をすると、見張りが食われかねなかった。
林道を通り、砦の出入り口に着く。中に入ろうとキュネィが扉を調べると、罠外しの道具を使っていた。
「罠が?」
「あります。警戒されてますね」
二度目は前ほどスムーズにはいかないだろうか。
正面の扉をあけて中に進み、天然洞窟を降りていく。
今回は右手の水場にいるゼリーを倒すつもりでいた。
退路を確保できるなら、その方が良いからだ。
「……やっぱり、これはやっといた方が良いな。行こう」
ゼリーの中にブラックプディングが居た。最も毒性が高く、動きも素早い。
ゼリー相手に鉄製の武器を使うのは当然御法度だった。
リヒトは斬撃の武器であり、斬れば斬るほどゼリー達は分裂してしまう為、あまり役に立たず、もっぱらリュージの拳にかかっていた。
俺も火、電撃、酸、魔法の矢でぶよぶよと這いずり回るゼリー達を殺していき、キュネイも投擲瓶とダーツを投げて少しずつ倒していった。
全部で15匹、大量のゼリーを殺し終えた時、その水場の奥に白骨が沈んでいるのが見えた。
おそらくは犠牲者だろうと思い、近づいて見ると、小さな鞄を持っていた。
鞄は油袋に入れられていた為、溶かされずに済んだ様だった。
袋の中に入っていたのは一つの鍵。
十字型の特殊な形をした鍵で、持ち手には骸骨の彫刻が施されていた。
「さて、どこの鍵だろうな」
そう言いつつ、俺は懐にその鍵を入れ。水場を離れた。
これで退路を気にする事無く、四つ辻まで進める。
天然洞窟を降りていき、牢屋と奥へと進む道が交差する四つ辻に来ると、オークが二人見張りに着いていたが、今日は起きていた。
素早く飛び出してスパイダーウェブを放ち、二人の身動きが出来なくなった所をリュージとキュネイがとどめをさし、難なく見張りを倒す事が出来た。
問題はここからだった。
古代遺跡の通路を直進し、スカルバッシュのホールに向かう。この間は隠れる所が無いので、見つかったらそれまでだった。
素早く扉の側まで駆け寄ると、両開きの扉を少しだけ開けて、中の様子を見る。
ホールは大きく、50人ほどが並べるぐらいの空間があった。
正面には台座があり、上官が立って指示を出す為の足場があった。
壁には武器防具がたてかけてあり、右の方には奥へと通じる廊下が見える。
左の方には、天然洞窟が露出していて下り坂になっていた。
部屋の中には、右へ通じる通路に、三人のオーク達が居て、酒を飲んでいた。
見張りというわけではなく、単なる留守番だろう。
呪文をかけて眠らせるかどうか悩んだが、まだこの先がどうなっているかが分からない。
いずれ、四つ辻の見張り達が殺されている事に気づくだろうから、それまでに奥へと進む方がいいだろう。
扉を最低限だけ開けると、俺達は透明化の呪文をあけ、忍び足でホール内の左側の壁沿いを歩き、洞窟の中に入った。
(はぁ……胃が痛いぜ……)
冒険という物がスリルに満ちているというのは、よく聞く話だが、俺には生死を賭けたこの生活はあまり向いていないようだった。
やはり王宮でのんびりと勉強しながら、魔法使いになるのが良かった。と悔やんでも仕方が無いのだが。
二度目の天然洞窟はかなり長くそして急で、地下深くへと俺達を誘っていく。
途中で獣の鳴く声が響き、驚いたが、何かが襲ってくる気配は無く、慌てて先へと進んだ。
そして地図上の川に来た時、その風景を見て、俺はまた胃が痛くなった。