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天国の剣  作者: 開田宗介
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いつの間にかヨメが出来た



「すみません! 国に帰ったら弁償させていただきます!」


「いえいえ、かまいませんよ、この程度……はは……」


 ビオ氏は一応はそう言ってくれたが、心の中では怒っているに違いなかった。


「い、いつまでもお邪魔しているわけにはまいりませんので、私達はこれで失礼いたします!」


 そう言って退散するのが一番だった。

 ボーダウさんも慌てて話を合わせると、ビオ氏に一礼してお屋敷を出た。


「ありがとうございます。助かりました、シェイさん、リュージさん、それに天使様。私達はここからサゴスに戻りたいと思います。いつかまた、会える日があらん事を」


「お気をつけて、さようなら」


 馬に乗ったボーダウさんは口早にそう言って俺達に頭を下げると、借りた馬の尻を蹴り上げて走っていた。

 これ以上、何か厄介事に巻き込まれる前に逃げ出した様にしか見えなかった。


「元気でねぇー」


(……ん?)


 何故だろうか、キュネイもボーダウさんに手を振っていた。

 彼女は彼らの商隊の仲間だった筈だ。


「どうして君はここにいるの?」


「だって私、あなたに頭を撫でられましたから」


 彼女の頭を撫でた記憶は確かにあった。さきほどボーダウさん達を助けた時だ。


「頭を撫でられると、何かあるの?」


「私に求婚したんですよね?」


「えっ?」


「ブッフゥゥゥーーーー!! だっははははは!!!」


「リュージくん、笑いすぎ」


 世の中に、そういう習わしがあるというのは聞いた事がある。

 頭に手を当てるとか、額に手を当てるとか、或いは頭に花冠などのせたりとか。

 妖精達や未開の集落にて、頭を触るという事が特別な意味を持つ種族の話はしばしば聞く。

 まさか、それがこの通りすがりのキャットエルフに該当するとは思わなかった。


「なんだ? 頭を撫でると、結婚する事になるのか?」


 リヒトがそう尋ねると、キュネイは、うん、と可愛く頷いた。


「おい、どういう事だ。私はまだ頭を撫でられてないぞ」


「どうして俺がリヒトの頭を撫でなきゃいけないんだ」


「私は剣王の勅命で、お前にこの身を捧げよと言われたのだぞ? 命尽きるまで」


「……まぁ、それは……そうだね。でもそれは、武器としてで……」


「ああ、そっかー。お前、これで嫁さんが二人になったのか、そっかー」


 リュージが俺をバカにしながら笑い転げていた。


「いいよなぁ! いい尻をした天使の嫁さんと、獣の嫁さんかー」


「お前はいつまで私の尻にこだわるのだ! もっと別の良さも見いだせ!」


「だってお前、胸はないじゃないか」


「無いとダメなのか?」


 リヒトが自分の胸に手を当てて、そう俺に尋ねてきた。

 それに対する最適な答を俺は知らなかった。


「結婚とか嫁さんとか……俺、いつ死ぬかもわかんないのに」


「死ぬ前に嫁さんが出来て良かったじゃないか」


「嫁さん……嫁って一体何なんだ!?」


「生涯をあなたに捧げると誓った人の事だよ、シェイ」


「もう呼び捨てか! 既に嫁さん気取りか! 婚約破棄とかないの!?」


「そんなに嫌ならこの首を切り捨てて下さい。そうすれば約束はなかった事になります」


「すいません、そこまで嫌じゃないです。君を殺すつもりはないです」


「もてる男は辛いね、あやかりたくないけどな!」


 せめて……せめてキュネイが整理整頓の出来る子だったら良かったのに。

 そう思いながら、俺はこの婚約に関するゴタゴタは、旅が終わるまで先延ばしする事に決めた。

 まずは祖国を救わなければ、その先の話など無かった。




 ビオ氏のお屋敷から離れ、キュネイを仲間として共に行く事にした俺達は、再びボーグルの森に戻った。

 オーク達はまだ良い。少数なら裁くことも出来るし、うまくやり過ごすのも無理ではなかった。

 だが、奥にはおそらくあのクォリ達と、奴隷商人が居るだろうし、オーク達を仕切っている上官はさすがに手強いだろう。


「俺達の目的は、伝説の竜ヴィスカスに関する手がかりを得る事だ。それさえ分かれば、ここのオーク達や奴隷商人達を退治する必要は無い。俺達は正義の味方じゃないからな」


「まずは、あの見張りの居た四つ角まで行きたい。その向こうがどうなっているのかは分からないからね」


「分かりますよ、砦の地図、盗んできました」


「マジで!? やるじゃないかキュネイ」


 思わず、俺は彼女の頭を撫でていて、彼女はニコニコと笑いながら撫でられていた。

 キャットエルフは小柄な種族で、大人になっても、150センチ程度にしかならない。

 そして人間よりも骨格そのものが小ぶりなので、ぱっと見は子供に見えてしまう。

 手を伸ばしてそこに可愛らしい頭があるなら、誰でも撫でてしまうものだろう。


(やっちまった……これはもう逃げられないかもしれない)


「うふふ……」


 勝ち誇ったような笑顔を見せるキュネイから地図を受け取って広げてみると、痺れ薬のレシピだった。


「これじゃない」


「こっちかも」


 今度は正しい地図だった。

 広げてみると、あの四つ辻の先には軍団が集合する為のホールがあった。

 そのホールから左へと続く通路はどうやら天然の洞窟らしく、カーブを描いて先へと繋がっていた。

 ホールの右には複数の部屋があり、あきらかに宿舎だった。ここは絶対に避けないといけないだろう。


 洞窟の先はいくつかの天然洞窟の小部屋に繋がっているらしい。

 一つ目は右に繋がっていて、二つ目は右だった。

 その先、三つ目の右への曲がり角から、また遺跡になっているらしく、真っ直ぐな通路が延びていて、地底を流れる川にぶつかっていた。

 おそらく、ここには吊り橋があり、先へとの進むのだろう。

 そして、その川の先にある遺跡を見て、俺は深くため息をついた。


「これは……神殿だな……」


 地下にピラミッド状の建物がある事を、この地図は記していた。

 ほぼ間違いなく、あのクォリは、この神殿からやってきたに違いない。

 下手をしたら、ここに異世界に通じるゲートが開いている可能性もあった。


「俺達だけで、手におえるかなぁ……?」


 思わずその場にあぐらを組んで、考え込んでしまった。


「この世で一番厄介な敵は邪教徒なんだよな」


 リュージも地図を見ながらそう言った。

 彼ら邪教徒は、死ぬ事によって祝福を得られる事になっているから、自分の命なんて投げ捨てて襲ってくる。

 一度戦う事になったら、その首領を倒すか全滅させるか、殺されるかしかない。


「神聖魔法か自然魔法を使える仲間が居ればな……」


「治癒魔法なら、マジックワンドとスクロールを持ってますけど」


「あ、そうか。キュネイはスクロールを使えるのか」


 魔法そのものを使えなくても、才能と勉強次第で魔法棒と巻物は使える様になる。

 これは魔法棒と魔法の巻物を作りだす側も、魔法が使えない者でも、魔法を使えるようにという考えからきた物だった。


 キュネイの荷物をひっくり返して、俺達は治癒のスクロールとワンドを探し出し、それぞれをまとめた。

 キュネイに分かりやすいように治癒魔法とかいた皮紙も挟んで置いた。

 ワンドは2本、巻物は20枚。これたけあればかなり戦う事ができるだろう。


「よし、それじゃ、まずはこの神殿目指して、潜り込んでみますか!」


 俺達は共に手を出して握手を交わし、お互いの気持ちを一つにした。

 リヒトがそれを不思議そうにみていたので、リヒトも皆と手を繋ぐと、人間達の気持ちという物を少し分かってくれたようだった。


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