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天国の剣  作者: 開田宗介
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スカルバッシュ砦


「ちなみにお前が隠れてたあそこ、バレバレだぜ」


 最初にキュネイが隠れていた所を指さしてリュージが言った。

 確かにここから見ても、岩陰に隠れきれてないし、周りに草がある訳でも無い。砦側にいる見張り達からも見えていたかもしれない。


「忍び足は得意なんですけど、隠れるのは得意じゃないんですよね」


「じゃあ透明化(インビジビリティ)の魔法をかけるよ」


「あ、透明化の巻物は持ってますよ。魔法の道具を使うのも得意なんで」


「そ、そう……じゃあそれ使ってね」


「ただ、どこにあるのかが分からないんです」


 キュネイはそう言うと、バックパックを地面の上に置いて中から道具を取り出し始めた。

 明らかに整理整頓の出来ないタイプの子だった。

 水筒や薬瓶にはラベルが貼ってあるが、何度も書き直している為に、本当は何の薬なのか分からない。

 巻物は地図も魔法の巻物も全部ぐるぐる巻きにしてあるので、どれが透明化の巻物なのか見てみるまで判らなかった。


「やっぱりいい! 俺が呪文かけるから!」


「そうですか? お願いします」


(痺れ薬と眠り薬が分からなかったのも、このせいだ……)


 キュネイはローグとしては素質があるのかもしれないが、色々と問題点もある様だった。

 先に必要になる物を伝えておいて、準備させた方が良いだろう。

 地図、罠解除の道具、鍵開けの道具、それだけを準備させて、最低限の仕事をして貰う事にした。

 敵を倒すのはリュージに任せ、俺とリヒトはサポートに回る。


「シェイ、サポートって何をすればいい?」


「リヒトには、囮になって貰う」


「囮?」


「ひとまずは、プレードフォーム(剣形態)になっていてくれ」


 リヒトが剣の姿になると、キュネイは驚いてリヒトを見た。


「その方、コンストラクトなのですか?」


「ああ、うん」


「それなら修理はお任せ下さい、あと幾許かの強化も出来ますよ」


 そう言って何かのオイルをリヒトに塗りたくった。


「これはいい。ひんやりしていて気持ちがいい」


「はい。余熱を放出するオイルですので、オーバーヒートしにくくなりますよ」


「ありがとう」


 剣の姿のリヒトが礼を言うと、キュネイは嬉しそうだった。

 だが、今、そのオイルは全く必要では無かった。

 リヒトを囮に使うとは言ったが、それは今の事ではなかった。


 そのまま、俺達は日が暮れるのを草葉の中に身を隠して待った。

 途中、何度か魔法障壁が閉じると、哨戒するグループが砦から現れ、森の中を巡回した後、また砦へと戻っていくのが見えた。

 その間隔はまちまちで、最初から次の時は30分、その次は1時間半後だった。

 特定のスケジュールが組まれているのか、適当なのか、定期的ではないとすると、忍び込むのは難しい。


「あ……キュネイは、隙を見て中に入ろうとしたけど、あの見回り兵達がいつ出てくるのかタイミングがわからなかったのか?」


「はい。二日ほど張り込んでいたんですが、多分デタラメなんですよ。しかもその間に自警団も出撃したりしますし」


「なるほどね、昼間に入ろうとすると、出た所勝負で中に飛び込むしかないんだ」


「はい」


 キュネイがあらかじめ張り込んでいてくれたおかげで、無駄足を踏む事にならずにすみそうだった。

 日が暮れ、蝙蝠が飛び、虫達が鳴き始め、夜行性の鳥達が奇妙な鳴き声を轟かせる頃、魔法障壁は閉じ、砦の正門に近づく事が出来た。


 スカルバッシュ砦は山の壁面をくり抜いて作られた強固な要塞だった。

 もちろんオーク達が作った訳ではなく、古代遺跡を再利用している。

 この森には過去にも組織的な軍団を有していた種族が居たらしく、その痕跡はあちこちにあった。


 正門は古びた石扉で、閂や鍵の類はなかった。

 入り口を照らすかがり火は煌々と燃えているが、見張りは居ない。

 巡回は平常通り偵察を終えて帰ってきているし、侵入者など来ないと思っているのだろう。


 油断と言うよりは、ある種の平穏が彼らにゆとりのある生活を提供しているだけだった。

 キュネイが持っていた油を使い、正門を音を立てないように開くと、忍び足で中に入る。

 先頭はキュネイ、続いてリヒトを担いだ俺、後ろにリュージの順番だった。

 正門をくぐると中は天然の洞窟になっていて、ゆるやかにS字のカーブを描いて下へと下っていた。

 その通路では隠れる場所が無い為、用心の為に透明化の呪文をかけておいた。

 しかし、その用心は残念ながら、あまり役にはたたなかった。


 S字カーブを経て、更に下へと通じる通路は、途中で右への分かれ道と交わっていた。

その右側の通路を見た時、慌てて俺は身体をかくし、キュネイ達に先を急ぐように言った。


 曲がり角の向こうは、急な下り坂になっていて、底には水が溜まっていた。

 おそらく地底の水流が湧きだしているのだろうが、その水たまりには半透明のプルプルしたゼリーが多数、ひしめいていた。

 おそらくはグレイプディング、運が悪ければブラックプディングも混じっているかもしれない。

 この魔法生物は、気配で生物を探知するため、忍び足も透明化も全く意味が無い。

 ある程度近づいて勘づかれたら最期、ゆっくりとではあるが確実に獲物を追いかけ、追い詰め、捕食する。


 入り口の見張りが手薄なのは、このゼリープディング達が、野生の門番をしているからでもあっただろう。

 こそ泥が忍び足でのこのこと歩いて行ったら、ゼリー達に追われる事になり、慌てて引き返すしかなかった。

 幸い、ゼリー達が追って来る様子は無く、俺達は天然洞窟の下り坂を下まで下りる事が出来た。


「古代遺跡だな……どの文明のものだろう」


 しっかりと組まれた石組みの廊下と壁。屋根は洞窟の地肌が見えていた。

 オーク達は人間と似た建築技術を持っているが、山をくり抜くような事は滅多にしない。

 通路は正面に伸びていて、少し進むと倉庫代わりに使われている小部屋があった。

 中には腐りかけた木の箱が積み重ねられ、無造作に食料の袋が重ねられている。

 食べ物は果物、パン、乾燥肉、きのこ類と豊富で、食事には全く困ってそうにない。


「いいもん食ってんな」


 と言いながらリュージは乾燥肉をつまんで、モグモグと食べていたので、俺も一切れ欲しいと言うと、鹿肉をとってくれた。


「こりゃ商隊のくんせい肉だね、野生肉を乾かしただけじゃない」


 ほんのり香ばしい匂い漬けがされているこの肉は、庶民でもあまり口にする事のないちょっとした高級品だった。


「オークが、魔法障壁のある古代遺跡で、贅沢品の燻製肉を食べながら、自警団とは」


「へたな仕事より、実入りが良いんだろうね」


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