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試験と挑戦

「さて、今日の授業は初日に伝えた入学試験と同じ実技を行ってもらう。この中に一年から聞いた者はいるか?」


 シリウリード君にフィノが訊ねた所、何かを噴射させてそれを魔法で壊すゲームに近いみたいだ。

 多分壊し屋やクレー射撃に近いゲームだと思う。


「何人か聞いたようだな。今回行うのは魔道具に魔法を当てて競う試験だ。魔道具から一定時間浮くよう作られた水や土の球が出る。その球は衝撃で壊れるから魔法を当てて壊すというのが内容だ」


 よく考えたものだね。

 魔法のコントロールは勿論のこと、精密さ、力配分、動体視力や反射神経、あとはやり方にもよるね。


「結構簡単そうだな」

「いや、どのくらいのスピードか分からないと難しくないか?」

「数が多くなればその分難しいはずよ」

「一定時間ってことはずっと浮いているわけでもないみたいだしな」


 僕が雪合戦でやった雪玉を雪玉で相殺するというのと同じものだ。

 ただ、これはあの場でやった物だから、あれを見てこの試験を考えたとは思い難い。

 多分僕が話した中に何か思いつく情報があったんだろう。


「面白そうだね。シュン君に勝ってみせるんだから」

「まだ負けないよ。フィノが本気なら僕だって本気でやるからね」

「手を抜いたら許さないからね」


 勿論分かってるさ。

 じゃないとどんなお仕置きされることか……。


「忠告しておくが、壊すたびに目標は動きが早くなり、数が多くなっていく。縦横無尽に動き出すことだろう」

「貴方達には危害がないですから集中して行ってくださいね。制限時間は三分と短いですが、ペース配分や当たらないからと怒るのは止めましょう」


 我を忘れると魔法は乱れるからね。

 怒りの感情で強くなることはあっても、精密さは欠けるのが普通だから。


「ルールは必ず単発魔法を使うこと。範囲魔法や広域魔法で出る度に消し去るのは禁止だ。力量や魔力量は分かるが目的を達したとは言えん」

「ただし、何回魔法を放っても構いません。両手で行っても良いということです」

「指定の位置から動くのは禁止だ。範囲は魔道具までを二十メートルとし、魔道具を中心に高さ二十、縦横二十の正方形が目標が動く範囲となる」


 遠くて三十メートル、近くて十メートルほどってところか。

 相手は動くから精密さもだけど速度も必要だ。

 遠くなればなるほど速さと動きを読む力も必要になる。


 今回はフィノとの勝負でもあるから同じ条件下で戦った方がいい。

 と言うことで、本気ではあるけど時空魔法は禁止する。


「先生! 目標の大きさはどのくらいですか?」

「大体俺の頭より一回り大きいくらいだ。かなり小さくなるが魔法の大きさは決めていない。少し大きさを変えるくらいなら新入生でも出来ていた者が半分くらいいる」


 シリウリード君も出来てたはずだ。


「魔道具から出されるのなら魔道具の出る所に魔法を設置してはダメですよね?」

「ダメに決まっているだろうが」


 それは僕も考えてたんだけどやっぱりね。


「これは動く相手を想定した試験でもあります。シュンさんと戦って分かったと思いますが、魔法は正確さや反応が良いだけでも有利に働くのです」


 確かに魔力感知だけで気付いて振り返る瞬間に撃ってればその分速くなる。

 僕なら手を使わずに魔法ぐらい放てるから、まああれなんだけど。


「どのくらい壊せば普通ですか? 新入生の最高得点者も教えてください」


 目安は必要だね。

 後輩に負けたくないというのもあるだろうし。


「まあ、そのぐらいなら構わんか。えっと……新入生の平均は四十ぐらいだな。最高得点者は百近くだが、これは例外だな」

「あー、シュンみたいな奴ですか」


 失礼だなぁ、もう。


「シルは百なのか。私は百五十はいかないと」

「百五十ってことは一秒に一個は壊さないとね」

「う~ん、簡単なのか難しいのか分からないよ」

「平均が四十ってことは、それなりに上達している皆だと七十はいけると思う。だから、難しくはないだろうけど百まで行った時の球の動きでまた変わるはずだよ」

「結局はやってみないとわからないってことか」


 そういうことだ。

 やろうと思えばいろんな方法を思い付くけど、それも有効かどうかやってみないとわからない。

 距離もそれなりにあるわけだしね。




 で、始まったんだけど……


「六十七。まあまあの成績だな」

「くそぉ~! 七十の壁が手強い!」

「教師でも八十を超えた者は少ない。百というのはその専門の教師と学園長ぐらいのものだ」


 ほとんどの生徒が七十の壁を越えられずにいる。

 来年になれば七十は超えるだろうね。


 感覚から十までは停止状態、二十までは真横に動き、そこから縦動きが始まる。

 で、四十を超えると斜めにも動き始め、壊すにつれて早くなる。

 五十を超えると円を描くように動き始め、六十を超えるとかなりのスピードになるんだ。


 そこからが問題で、距離が絶妙でもあるから魔法の威力は無視してもコントロールと予測をしないと当たらなくなるんだ。


 魔道具は四方を取るために四つあるから、最大で四個の球が浮く。

 でも、その四つは接触しないようにも作られてて、ここに撃てば必ず当たるというのも無い。

 絶対に予測して撃たないといけないってことだ。


 まあ、数撃てば当たるものでもあるけどね。

 三分間魔力が持つかどうか。


「なあ、シュン。そろそろ俺の番なんだが何かコツはないのか?」

「そうよねぇ。クラーラちゃんやレン君は得意そうだけど、私とアルはちょっとね」


 二人はそうでもないと謙遜してるけど、僕も二人なら七十の壁まで越えられると思ってる。

 問題はこっちの接近不器用コンビだよ。

 威力はあっても目標が動くから当たらないと意味がないんだよね。


「う~ん、これは予測して撃たないといけないのは分かるよね? 予測と言うより動きを掴めるかどうかがキーになってるんだけど」

「それは分かるぜ。ただ、そこに自信が無いっていうか、シュンと似たやつをしてもあまりうまくなかったからな」


 魔力弾を壊す奴ね。

 そう言えばあれがあったんだった。

 これはそれの応用ということか。


「最悪数撃てば当たるんじゃないの? 二人は魔力もそれなりにあるし、三分くらいなら持つと思うけど」


 僕と同じ答えに辿り着く。


「それも一つの案だと思うよ。これは確かに精密さとか動きを読むためなんだろうけど、持続できるというのも一つの才能で、精密さが欠けるという欠点もわかるしね」

「でも、それ根本的な所が駄目よね」


 まあ、そうなんだけど……土壇場でっていう方が難しいよ。


「仕方ないかぁ……」


 諦めるしかないと思うけどなぁ。


「言えるのは落ち着いてやること。時間とか数とか数えなくていいからさ、一つの動きを読んで壊すのが先決だよ」

「魔物相手ならもっと冷静にならないといけないもんね。迷宮の中は混戦になりやすいから精密さを鍛えた方がいいと思う」


 二人は迷宮に行きたいとか思ってたんだっけ。

 連れて行ってもいいけど、卒業してからの方がいいだろうね。

 備えておいて損はないし。


「分かった。兎に角一つに集中することにする」

「そうね、その方が堅実と言えるわ。最悪数で押し切りましょう」

「それなら得意だからな」


 二人はそう言って準備に入った。


「二人は特に問題ないと思うけど、魔力感知を使うって手がある」

「どういうことですか?」


 分からないかな?


「あ、わかった」


 フィノは分かったみたいだから思いついたのを聞いてみよう。


「球は魔法だから魔力感知で読めるんだよ。集中すると魔力の軌道や出現が読めて、その球がどっちに行こうとしているのか分かるってこと」


 大体あってるよ。


「付け足すと魔道具から出ている操作する魔力と言うのかな? あの球を維持するための魔力線のようなものが見えるはずなんだ」

「そういうことですか。それを見て撓った方向に球は進む」

「棒で支えられているわけではないですから、魔力が少し撓るんですね」


 まあ、それも確かか分からないんだけどね。

 そうでなくても魔力感知で大体把握できるはずだ。




「で、アルは七十二、シャルは七十一、クラーラは八十七、レンは八十四か」

「やっぱり精密さはクラーラが一番だったね」

「レンはもう少し先を読むのと視野を広くするのが必要だね。クラーラは集中力と自信だ。気持ちが強いってのはそれだけ魔法に影響されるからさ」


 八十を超えると高速移動とでも言うべきか、まさに縦横無尽と言うのが正しい感じになる。

 予測するというより動きを見て魔法を放たなければならない。


 同様の魔物で言うと蜂型の魔物が該当するだろう。

 狙いを定めても避けられることが多いから似ていると思う。


「俺達は?」

「かなり頑張ったと思うわ。アルに負けたのは癪だけど」


 二人は幼馴染であり似ているからライバルって感じだよね。


「七十が目標だったからいいと思うよ。あとは動きを読むってのがどれでも大切だね。それだけで危険性が極端に減るから」

「攻撃も捌けるようになって、相手の動きに合わせてカウンターも決められる。シュン君の隣にいたらよく分かるの」

「四人ともクラス内だとトップの成績だ。訓練の成果が出てるってことだね」


 僕の魔法は無意識にそれをやってるけど、接近戦とかになると相手の動きに合わせて利用するようにしている。

 確かに身体強化や神経強化で能力を大幅に上げてるけど、結局は相手の動きを利用できるかってところに念頭があるんだ。


 ヒュドラは首つたいに動いたし、バリアルでは剣の動きを読んでカウンターを決めた。

 つい最近の狼男ことギュンター戦では、格闘時に動きを読んで利用させてもらった。


「ま、七十の壁を越えられただけでもいっか。新たな目標が数字として出たのはやりやすいし!」

「そうですね。シュン様の練習とはまた違った感覚です」

「私は魔道具の方に興味がありますね」


 クラーラは物作りに興味があったのか。

 でも平民で物作りって人はあんまりいない。

 理由は簡単でお金がかかるから。

 作れても売れないと赤字だからね。


 多分最近は四人とも冒険者としてちょくちょく出ているみたいだし、学園祭で稼いだお金もそれなりにある。


 まあ、クラーラの場合物作りっていうより魔法の方に興味があるのかもしれないけど。


「次は……フィノリア! こっちに来い」

「あ、私の番か。シュン君、頑張って来るね」


 いよいよフィノの番か。

 これは考え事してないで見ておく必要があるだろう。


「うん、頑張ってね。フィノなら百の壁を越えられるって信じてるから」

「シュン君を脅しちゃうくらいの点数を出すから覚悟しててね」


 脅すくらいの点数ね。

 百と言ったらクラーラの倍だからかなりのものだ。

 流石に僕でも少し緊張が生まれるかもしれない。


 それはそれで負けられない戦いになるからやる気マックスになるよ!




「もう一度確認する。行動範囲はこの円形だ。これから出たらそこで終了となるから気を付けろ。使って良い魔法は単発の魔法のみ。ボール系が一般的だな」

「分かりました」

「フィノリアはシュンじゃないから普通にやってくれ。振りじゃないからな? 普通にやってくれ」

「ふふふ、分かってますよ」


 何か聞こえたけど、僕ってそこまで信用無い?

 確かにやり過ぎることは結構あったけど、人の迷惑になることはしてないと思う。

 裏を掻いたりとかはよくやるけど……。

 そ、それでもルールは守ってるもんね!


「基本球は四つだ。一つ破壊されるごとにすぐ形成されるから大丈夫だと思うが、遅れたらすまないな」


 そこは仕方ないと思う。

 まあ、一気に四つ壊すわけじゃないし大丈夫だろう。

 四つパパッと放てるのならまた変わるんだけどね。


「では、五秒後に始める。三、二、一、始め!」

「『ファイアーボール』!」


 そして始まった試験。


 フィノは両手を突き出し、魔力感知を用いて撃破する。

 無詠唱じゃないのはコントロールに重きを置く為だろう。

 フィノはこう見えても精密さより威力と範囲攻撃が得意だからね。

 勿論精密さも悪くないけどさ。


「十五! 七、二十!」

「おお! 今までで一番早い!」

「これなら……二百行けるんじゃないか?」

「フィノリア様頑張って!」

「三十二!」


 三十を超えた時点で狙わないと動きを捉えられなくなる。

 縦と横の動きだけだと言ってもカクッと動かれれば避けられてしまうからだ。


 フィノは冷静に僕が言った方法で破壊していく。

 少し威力が大きいけど僕に次ぐ膨大な魔力を持つフィノなら大丈夫だ。


 ファイアーボールはそこまで魔力を使う魔法じゃないしね。

 魔力も多いということは回復量もそれなりにあるし、魔力切れで断念するってのはあり得ない。


「四十九! ここから一気に早くなるから集中しろ!」


 今は僕で百七十万ぐらいで、フィノは六十万を超えると思う。

 僕は訓練すればするほど増えるからいいけど、フィノは元々才能が当たってことだ。


 そう言えば僕が改良した低燃費のお風呂で一緒に入っていた義兄さんに言われたんだけど、女性は強すぎると貰い手がいなくなることがあるんだって。

 僕としては強くても良い気はするんだけど、女性を下に見ることはあまりないけど男性としては嫌な気持ちが強いみたい。


 だからフィノより強い僕がいて本当によかったんだって。

 それを聞いた時は僕も嬉しかったけどね。


 フィノとは運命という簡単な言葉で片付けたくない。

 僕は運命神フレイヒルことフレイさんに告げられたから神のお告げによる結果? だ。

 神様に対して敬うというか、神様が凄くて敬うのだとはわかってるけど、何か違うんだよね。

 だから、神のお告げでもありがとう的な感謝しか思い浮かばない。

 それでメディさん達は良いと言ってくれるんだけどね。


 温度差が激しいというか、ね。


「八十五!」

「フィノリア様まだ半分も経ってません!」

「俺は抜かれてしまった!」

「私もよ」

「まあ、仕方ないんじゃね?」

「悪魔のお嫁さんだしな」

『そだな(そうだね)』


 なんだそれは!

 思わず僕も笑ったじゃないか。

 悪魔のお嫁さんって語呂は僕が攫ったように聞こえるんだけど……。

 あながち間違ってはない気もするけどさ。


「九十六!」

「あ、外れた!」


 九十になると普通にやるだけでは当たらなくなってくるのか。

 これは少しやり方を変える必要があるな。


 それでもフィノは三発に一回は当てる。

 特にカクッと動く時が外れる傾向にある。

 まあ、予想できない動きだからね。


 フィノはスピードを活かしきれてないというか、やっぱり魔力感知とかと両立させるのは難しいんだろう。


「百九! スピードが落ちてきたぞ」

「むぅー……えい、やあ」


 可愛らしい掛け声だ。

 男子生徒が反応しているのにイラッと来るけど。


「フィノ! 一つずつ狙うんだ!」

「分かった!」

「それと連続で放つのは有りだよ!」


 それぐらいなら大丈夫だろう。

 それに助言ぐらい良いはずだ。

 他の人もしてたし。

 大体これは試験じゃないしね。

 体力試験に近いかな?


「連続連続……あ、『ファイアーショット』」


 威力の無い魔法だけどそれが一番だ。

 初めにボールだと言われたらそれがって思うからね。

 ショット系も単発魔法だし、速度はボール系よりも早い。

 当たれば壊れるから大きさも関係ないしね。


「百十九! こっからは教師でも難しいらしいぞ」


 特に変わった様子はない。

 でも、確かに変わっている。

 スピードやキレ、それから意志があるかのように動く。

 それでもフィノは頑張って当てる。


「百三十三!」

「き、ついな! シュン君に負けない! 勝つ!」


 そんなこと言われたら迷いが出ちゃうじゃないか。

 でも、これは手を抜いて良いものじゃない。

 正々堂々、フィノのためを思うとそうしないとね。


 残り一分で百四十弱。

 百十を超えると残像が残る、とは言わないけど目で追うのがやっとの状況になる。

 百四十にもなれば目で捉えるのがやっとだ。


 でも、その速度は普通の魔法よりも遅いぐらい。

 魔法で戦って避けるのとでは大きな違いがあるってことだね。

 避けるのは大雑把でもいいわけで、結界でも防げるし。


「そこまで!」

「フィノリアさんの記録、二百一、です」


 二百を超えた新記録に祝福の歓声が起きる。

 目標は百だったから皆達成したことになる。

 ここで妬みとか出てこないのはいい感じな雰囲気だということだろう。

 皆友達だと言ってもいいのかもしれない。


 忘れてるかもしれないけどそれが学園に来た目的だ。


「お疲れ、フィノ」

「つ、疲れたぁ。シュン君成分を補充しないと」

「成分って……」


 どこかで聞いたことがある気がする。

 まあ、思い付きやすい事でもあるよね。


「やっぱり悪魔のお嫁さんね。私達の倍以上」

「だが、目標は高いほどいい。二百なら手が届きそうな範囲だし、まずは百だ」

「ええ、頑張りがいがあります」

「その分フィノリア様も上達するんでしょうけど」


 皆の成長が見れて僕は嬉しいよ。

 感無量とはこのことだ。

 しみじみとするもん。

 師匠もこんな感じだったのかな?


「次は皆のお待ちかね悪魔先生の番だ」

『わああああー!』


 ちょっと待てい!

 先生悪乗りにもほどがあるでしょ!


 確かに先生の真似事もしてるけど、くっ付けて良いもんじゃないと思う。

 世界を救う英雄と言われてるのに悪魔だって。

 矛盾してんじゃん。


「早く来い、と言いたいところだが」

『……ん?』


 ん? 魔道具の調子でもおかしいのかな?

 いつの間にか魔道具製作の人達が来てチェックしてるし……って、何か増えてない?


「今からかい? あ、間に合ったようだ。よかったよかった」

「ノール学園長? どういうことです?」


 そして、何時の間にかいるノール学園長。

 もう驚きはない。

 まさに神出鬼没の人だ。

 多分この人も加護的な奴持ってんじゃない?

 技量がおかし過ぎる。


「ふっふっふ! その問いに答えてあげよう、悪魔くん」

『ぶっ!』


 笑うんじゃない……。

 やる前から疲れてきたんだけど。


「私は考えた。普通の生徒なら普通の魔道具で良いだろう、とね」


 何か嫌な予感がする……。


「でも、同時に普通じゃない生徒には普通じゃない魔道具を使うべきじゃないか、とね!」


 バッと両手を上げて言うもんじゃないと思う。


『おおおお~! 確かに』


 ……はぁ。


「まあ、不思議じゃないな」

「そうね、不思議じゃないわ」

「すみません、納得してしまいました」

「し、仕方ないですよ」


 クラーラのフォローが悲しいよ。

 心に響くんだ。


 ちらっとフィノを見ると……。


「そんなのだと思ってた」


 だって。

 それでいいのだろうか?


「これぐらいのハンデは仕方ないよ。私と違ってシュン君は精密射撃が得意だし、並の魔道具だと間に合わないとも思える」


 せ、正論だ。

 己惚れるわけじゃないけど、確かにあの魔道具は僕の速さについてこれないと思ってる。

 特に最初は同時に四発当てるぐらい簡単だ。

 手持無沙汰が生まれるってこと。


「そこで! 魔道具の数を……なんと五倍! の二十個に増やし、距離とパターンのバリエーションを増加したのだよ!」


 どこのテレビショッピング?

 皆呆れてるじゃん。

 多分、いつもと違うテンションの高いノール学園長にだと思う。


「し・か・も・だ。アルカナに手伝ってもらいパワーアップしたのだよ!」


 出てきた!

 あの人此処にも出てきたよ!

 確かに魔法ならあの人だと思った。

 絶対これで研究データも得られるから一石二鳥とか思ってるんだろうね。


「でも、少しおかしくないですか? 何故か僕が立つ位置が中央にあるんですが……」


 地面に一辺が五十メートルほどの正方形を作るように魔道具が置かれ、その中央にフィノ達が立っていた円がある。

 もう、分かってるけどさ、やり過ぎじゃない?


「これ別もんじゃん」

「ノンノンノン」


 チッチッチッ、みたいな感じ。


「これぐらいでちょうどいいと思ってる。まあ、数が多いから数では君が勝つだろうけどね。測るとするとこのくらい必要だ」


 まあ、普通の魔道具で測れないってことは計測できないってことだ。

 試験が出来ないから点数もない。

 そう考えれば当たり前でもあるか。


 僕の為に作ったみたいだし、断るってのもね。


「これで勝つ」


 違ったみたい。




「この魔道具は全部が連動しているから、一定の数を超えると全てが同じような動きになる」


 ゆっくりなのを狙っていくというのは無理ってことね。


「そして、シュン君は三百六十度全てを動く球を破壊してもらう。方法は単発魔法のみで、同時発射は有りだ」


 一回の魔法で一つを壊せってことだ。


「円から出ない限りは背後を向くなどは勿論ありだよ。でも空に浮くのは禁止。地面に足を付けておくこと。地面を盛り上げるとかも無しだよ?」

「流石にしません」


 逆に難しくなる気がする。

 上だけならいいけど、下が出来るからね。


「制限時間は三分。魔道具が根を上げたら私の負けだ」


 いや、勝ち負けとかないから。


「さ、勝負だ悪魔くん! 逃げられないから受けたまえ。因みに結果はクロスに報告するから安心して」


 何に!?


 まあ、皆興味があるみたいだし、逃げる以前に授業だからやるしかない。

 それにここまで挑発されたら立ち向かうしかないでしょ!

 ちょっとフィノとの勝負に水を差された感じだけど。


 単純計算だと千百までいったらフィノとどっこいになる。

 まあ、さっきと同じ段階で早くなるのなら別だけど、それはないでしょ。

 あとは僕だけ広範囲とか条件があるから五百が同じくらいかな。


「ま、どちらにせよ、この三分間は集中だ。最悪あの方法で……」


 こうして最後の取りである僕の挑戦が始まった。






 フィノ姉様はさすがです。

 二百もいくとは……巷で言う自慢の姉という奴ですね。

 まあ、兄も二人いますが。


「いよいよ真打登場だね。なぜか機材を変えているけど……」

「多分学園長先生もいますからシュン兄様に合わせたんだと思います」


 普通には計測できないでしょうし。

 フィノ姉様がそれに近いことを言ってました。

 どうやってシュン君を測るのか、とです。


 別に負けるのは悔しくありません。

 フィノ姉様が負けるのはちょっと悲しいですが、実力を受け入れない愚か者ではないのです。

 シュン兄様を認めるかどうかは慎重じゃないといけないのです。


「なるほどね……。話でしか聞いたことないからこれで実力の一端でも見れるかな?」

「見れるんじゃないですか? 流石のシュン兄様でも少し本気を出さないと最後まで持たないと思います」

「ふ~ん……」


 アルタは何か考えているのか、戦闘狂なのか、気に食わないですがシュン兄様のファンなのか。

 最後のだったらいいですが、何か考えているのだとしたら探っておく必要があります。

 僕個人でもちゃんと調べているのです。




 そして、シュン兄様の試験、ではないですから挑戦が始まりました。


「おおお~……。これは……言葉が出ない、って感じだ」


 アルタは今までにないほど嬉しそうです。

 シュン兄様に憧れていたようですし、その一端でも見ることが出来れば当たり前ですか。


 アルタの実力は僕と同じくらいです。

 魔法はフィノ姉様から教えてもらったので勝ってます。

 ですが、武器や純粋な力比べだと負けます。

 僕もシュン兄様と一緒で体が小さく、力は弱いですから。


 シュン兄様は魔力でそこを補えますけど。

 あああっ、憧れてなんかいませんよ?

 あの可視化する魔力は綺麗ですけどね!


「まるで背後にも目があるようだ。相当魔力感知……いや、これは空間の歪みや気配を掴んでいるといった方がいいかも」


 空間の歪み?

 確か時空魔法とやらを使う筈でしたが、その魔法は禁則事項です。

 きっと魔力で空間に揺らぎでもできることを言うのでしょう。


「シュン兄様は技術の人です。認めたくないですが、技術なら世界一ですよ」

「そんなにかい? でも、魔族とかエルフとかいるじゃないか」


 エルフは分かりますけど魔族をここに入れるんですか?

 まあ、比べる相手としては間違ってませんけど……探ってます?


「そう言われてもですね……僕はエルフしか知りませんし。エルフは確かに魔法の適性が高く弓が得意ですから、まあそれなりに技術を持ってます」

「ほぅ、エルフは想像以上のようだ。やっぱり美形なのかい?」

「子供でも綺麗ですよ。勿論フィノ姉様が一番ですけどね」

「シル君はお姉さんが好きだねぇ。いつもお兄さんのことで葛藤しているのが面白いよ」


 し、仕方ないじゃないですか!


「僕のことは良いんです! フィノ姉様に悪い虫をくっ付けないようにしたいだけなんですから」

「あれ? お兄さんは悪い虫なのかい?」

「そ、そういうわけじゃないですけど……。と、兎に角! そういうことなんですよ!」

「なんだい? それは」


 アルタに笑われました。

 これではシュン兄様じゃないですか!

 全てシュン兄様のせいです!


「お姉さんを取り返したいとか思わないのかい?」


 ……え?


「どういう……」

「そのままの意味さ。別に排除するとか言ってるんじゃなくてね。まだ成人してないわけだし、少し位我儘言っても罰は当たらないと思うけどなぁ」


 それはそうでしょうけど……。

 流石にやってはいけないことです。

 僕が嫌だといってフィノ姉様の気が変わるわけじゃないですし、僕にとってフィノ姉様の幸せの方が大切です。


「自分を犠牲にしても?」


 さっきからなんだというんですか。

 やっぱり調べないといけないですね。


「犠牲ですか? ……別に僕は分を犠牲になんてしてないですよ。シュン兄様は優しいですから僕が我儘を言う方がおかしいです。成人しているとかしていないとかの問題じゃありません」


 我慢しないといけないのは王族でも同じなんです。

 シュン兄様だって我慢させていますし、将来のことを考えると……。

 許せませんが許すしかないんです!

 血涙を飲みます!


「なぜそんな――」

「おおお、今度は目を瞑って壊し出したよ! あれはどうなってるんだ?」


 あからさまな話題変換ですか?

 かと言って考え過ぎるのもおかしな気がします。

 父様達からも言われたから余計に疑心暗鬼ですよ。

 一度リフレッシュする必要があるかもしれないです。


「あれも魔力感知ですね」

「魔力感知なの!? どう考えても出現と同時に壊れてるじゃないか!」

「ですから、魔力感知なんです。魔法はそこに出来上がりますけど、魔力から魔法という手順を必ず踏みます。その魔力の出どころを感知してしまえば問題ありません」

「口で言うより難しいと思うけど……う~ん、不可能ではないのか?」


 目を瞑っていてもやっていることは一緒です。

 いつものシュン兄様でしかありません。

 フィノ姉様と毎日いちゃついて嫉妬を煽り、偶に調子に乗ってやり過ぎて怒られ、時折変な発想を思い付き周りを呆れさせるんです。


 認めたわけじゃないんですからねっ!


「じゃあ、初動もなく魔法を撃っているのは?」

「魔法というのは杖の先から出す、若しくは手とか指から出すのが普通です。ですが、それは先入観の様な常識なだけであって、実際魔力は全身から出せます。ということは足の裏であろうと、頭であろうと、背中からでも出せるということです」


 シュン兄様に言われて初めて気が付きました。

 その時は不覚だと思いましたね。

 まだ僕も若かったんです。

 今も十分若いですけど、シュン兄様の実力……そう! 実力だけ、を認めた後はスッキリですよ。

 逆に魔法に関してシュン兄様が言うことは大体が正しい気に全員がなります。

 もちろんフィノ姉様も言うことがもっと正しいです。


「まあ、足を強化することもあるし、魔道具を耳に付けたりもするか」

「多少難度が上がりますけど、やってることは変わりません」

「じゃあ、さっきよりスピードが上がっているのも……」

「目を瞑っていますから、見て撃つという知覚行動がなくなり、反射に近い感覚で撃ってるんでしょうね。先に言っておきますけど、僕は無理です」

「ははは、それはどうでしょ。あんな神業がホイホイと出来ちゃったらこの試験なんてなかったよ」


 ま、そうですね。


『終了!』

『ふぅー、やっと終ったのか』

『記録……せっ、せせ、千四百六十三、です!』

『わああああああああ!』


 やっと終わったみたいですね。

 千四百六十三ですか……。

 単純計算で千五百割る百八十で九ぐらいです。

 一秒間に十個近く壊してますが、倍余裕があります。

 三分間同じペースで壊し続ければこんなものでしょう。


『ま、負けた……かん、ぱい……』


 四つん這いになって白く燃え尽きている学園長先生には同情しますけど、シュン兄様に喧嘩を売ったのがそもそもの間違いです。

 いくら早くなってもシュン兄様の知覚速度を勝らなければ負けは確定なんです。

 それでも奥の手として未来予知とかがある人なんですから。

 それでも勝てない相手ってどんだけですか……。


『で、でも、魔道具は……あああああっ!?』


 といった瞬間に幾つかの魔道具から煙が上がりました。

 シュン兄様が今の段階での本気を出したと考えれば負けですが、もう少し本気を出すと学園長先生の負けです。


「なんていうか……凄いね。言葉にならないってのはこういうのを言うんだと思う」


 何か悟ったような言葉ですね。

 まあ、初めてシュン兄様の力を眼にしたのなら仕方ありません。

 ですがこんなので驚かれては持たないと思います。

 シュン兄様は確かに精密さや技術が凄いですが、魔法のバリエーションや威力もあります。

 相手に合わせた戦い方が出来るというのはそれだけで有利なのです。


 ……は!

 てててっ、敵の戦力は把握しておくのが普通ですからね!


「勝てるかな……」

「何か言いましたか?」

「いや、何でもないよ。僕は魔法が上手じゃないから少し教えてくれないかなってね」


 よく分かりませんが、シュン兄様なら喜んで教えるでしょう。

 フィノ姉様も楽しそうですし。


 ただ、いろいろと教えすぎるのはいただけません。

 学園で空飛ぶのが流行っているというのはどういうことなのですか!

 生徒がバンバンと使っている姿を学園に入った瞬間に見た僕の気持ちになってみてください。

 二人の凄さを知っていても唖然とします。


 僕だけは常識人でいないといけませんね。

 もちろんフィノ姉様は常識人ですが……憎いことにシュン兄様のこととなると許容し過ぎます。

 聖母か何かですか!

 全く……。


 そろそろ去年失敗したという林間学校もあります。

 皆とどこかに出かける体験はあのピクニック以外ないですから楽しみなんです。

 少し包丁捌きや食べられるものもフィノ姉様から教えてもらいました。

 楽しみなんです。


 だから、シュン兄様が変なことをしないように目を光らせなければ……はっ!

 シュン兄様が狼さんにならないようにも目を光らせないと!

 フィノ姉様の貞操は僕が守りますよ!


この小説とは関係ありませんが、精霊と竜のほうの第二章前半を書き終えました。

かなり時間がかかり、話がおかしくなっているかもしれないので修正するときは遅れます。

それとまた詰め込み過ぎて長くなってしまいました。

明日の昼辺りから更新していくので、よろしければ読んでみてください。

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