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雪遊びという名の特訓と策に嵌まる

師匠の二つ名に関しては雷光という通称にします。

雷光のなんたらとかですね。


 冬休みが終わって、僕達はフォロンとツェルを従えて転移で学園に戻った。

 僕達の学年末の試験が終了してからシリウリード君を連れに戻る予定になってる。


 去年と同じく辺り一面真っ白け。

 前世の僕がまだ子供の頃はそれなりに雪が降って積もってたんだけど、中学生の時には積もらなくなってた。

 温暖化がどうのというやつなのかはよく分からないけどね。


「この景色を見たらシルは驚いてくれるかな?」


 フィノが雪を掬って冷たいと触りながら言ってきた。


 今思ったけどこの世界の雪は綺麗だろうね。

 だからと言って上を向いて食べるものじゃないけどね。


 去年はフィノに説明して止めてもらった。

 勿論お姫様が、というのもあるけど、可愛らしいから見ていたかったんだけど身体によくないだろうからね。


 そんなに食べたいのなら氷魔法で綺麗な雪を降らせてあげるからね。

 いや、シロップと練乳をかけたかき氷の方がいいかもしれない。


「きっと驚くと思うよ。フィノもそうだったし、王国は雪が降らないからね。初めての経験ってやつだね」

「ふふふ、去年は大変だったもんね。今年は一瞬でここまで来れたから、あれはいい思い出かもしれない」

「そのおかげでアルやシャルと会えて友達になれたからね」


 あれほどの雪が降るとわかっていれば空を飛んでいくなりしただろうけど。

 まあ、今ほどの技量はなかったし、試験は万全で挑んでこそ意味がある。

 そうでなくともあの威力の魔法なら合格していたんだろうけど。


「あれは危なかったと思います。あとから調べてみたんですが、例年だと生き埋めになる馬車や凍傷で試験を受けに来る生徒もいるそうです」

「数年前は猛威を振るい、回復魔法が使える者は数人治療できれば合格になったほどらしいですね」


 ……ふぁ!?


 僕達は運が良かったということか。

 魔法でどうにでも出来たし、魔道具も持ってたから大丈夫だっただろうね。


「シャルとアルに会っててよかった。あのまま無視してたらどうなっていたか分からなかったもんね」

「うん。僕達が早く通り過ぎてもアウトだったんだ。運が良かったとしか言えないね」




 そのまま寮に向かうとアル達が待っていて、学年末試験に向けて訓練をすることになった。


 それと、アルとシャルはさすが貴族なのか、義兄さんと公国のお姫様――ローレライと言うらしい。名前の通り歌声が有名だとか――がいい感じなことを知っていた。


 フィノ曰く、僕達の一番繋がりが強いから態と知らされたのかもしれないとのことだ。


 我が国のお姫様が王国の王妃となる。

 その伴侶の妹は学園に通っている。

 しかも我が国の貴族の子供と友達。

 強さも増した情報があり、しかも僕までいる。

 結果、知らせて妹と僕まで仲良くなっちゃおう、みたいな感じらしい。


 世の中上手く回ってるんだね。


 そう言ったらフィノ達に笑われたけど。






 そして一カ月強が経った。


 学年末は解せないことに僕とフィノは試験官側だった。


 それは何故か。

 理由は簡単、実力を測れないから。

 結果、相手の技量を最大まで引き出す戦闘相手として選ばれた。


 試験官と言うより助手って感じだね。


 あ、フィノも一緒に試験官役だったよ。

 僕が男子相手、フィノが女子相手って感じ。


 僕なら構わないんだけど、フィノはお姫様だからいくら印象が良くなっても怖気づく人がいるんじゃないかと思った。

 でも、意外に平民の方が激しく突っ込んでいく人が多かった。


 変な意味じゃないよ?


 多分お姫様と接触できるとか考えたんだろう。

 気さくで普通の女の子ってのが分かってくれたからだ。


 僕に対して突っ込んでくる人は何か変な感情も見えたけど、上手くやれたと思う。

 一人ぐらい女の子がとか思わなくもなかったけど、フィノがニコニコしてたから早々に考えるのを止めた。




 で、今はシリウリード君を迎えに行って遊んでいる最中だ。

 大事な試験があるのに遊ぶのかと思うだろうけど、例の如く遊びながら魔法を上達しちゃおうってやつだから大丈夫。


 訓練は自分をいじめ抜いてなんぼなのかもしれないけど、やっぱり楽しく出来て悪いことはないでしょ。

 僕の見立てでは合格できると思うしね。


 僕のおかげで学園の水準が大幅に上がったと喜ばれたけど、新入生の水準が上がることはまずないと思う。

 王国でも入学前の子供にはそこまで厳しく指導しない方針を取ってるし、学園で教えるのなら固まった知識を植え付けないで良いという話になったんだ。


 僕が教えていることが王国で騎士達に教えていることと違うからだね。

 万人に教えて良い範囲と、王国だけの軍事訓練法は機密扱いだからね。


「シュンくーん! これぐらいで良い? そっちは準備できたの?」

「あ、うん。じゃあ、僕の体の上に乗せよっか」


 別に疚しいことはしていない。

 単に雪だるまを作ろうってだけ。


 去年は試験とか訓練で忙しかったからすっかり忘れてたけど、この世界では雪で遊ぶという発想はなかったようだ。

 冬は寒いし、風邪を引いたらお金がかかる。

 服も濡れたりして乾かないし、家の中でじっとするのが普通なんだって。


 そこで提案したのが雪だるま作りとか、かまくらとかだ。


「これで……よし!」

「あとは顔とか作ればいいんだよね」

「そうだよ。簡単に作れるけど結構楽しいもんなんだよ」


 僕とフィノの合作、恥ずかしい言い方をすると初めて? の共同作業。

 共同作業は料理とかでやっちゃったし、初めてではないかも。


「シュン君との愛の結晶……合体……繋がっちゃった!」

「何か言った?」

「ううん、何でもないよ。一緒に遊ぶのはあんまりなかったから嬉しいなって」


 大変嬉しそうだから僕も嬉しい。

 これが毎年できると思うと楽しくて待ち遠しいよね!


「フィノ姉様ー! 僕の作品です! しっかりできてますかー!」

「ちょっと待ってね! すぐ行くー!」

「シューン! こっちも見てくれー!」

「はあ? あんたのそれ何? 不格好にもほどがあるでしょ!」

「シャル、お前の作った化け物を見て言われたくねえよ。それに比べてクラーラとレンは器用だな」

「「そ、そんなことないですよ!」」


 ノール学園長から一応許可を貰って、外の訓練場で遊ばせてもらっているんだ。

 シリウリード君は生徒じゃないから許可を得ないといけないと思ったし、雪だるまの話をしたら何か企んでた。

 よく分からないけど、きっと去年みたいに何か面白いことを考えてるんだろう。


 僕とフィノは普通に火魔法で濡れても冷たくならない刻印を刻んだ手袋をはめて、手作業で雪だるまを作った。


 でも、皆には水魔法や純粋な魔力だけで雪を操ってもらって、自分が作りたいお題の雪だるまを作ってもらったんだ。


 雪ってのは氷魔法だけど、それは雪を作ろうとしたらの話。

 実際にある雪を動かしたりするのなら、魔力操作や制御とか消費魔力でいろいろときついけど可能だ。

 純粋な魔力ってのは念力に近いけど、魔力を出して辺りに干渉させることで雪を操れる。


 水魔法で空気中の水分を集める、地面の土を使って動かす、風を集めて圧縮するとかと同じだ。

 属性が無いという点が違って、やっぱり普通に出来る様になったら魔法がスムーズに放てるようになる。


「……で、二人が作ったのは何なの? アルのは……怪獣で、シャルのは……猛獣?」

「「失礼だぞ(だわ)!」」

「そういうけど……じゃあ、何なの?」


 いくら魔力操作とかが上手くなってもアルは火魔法が得意だから、相反する水魔法が使い難くて怪獣が出来たのは分かる。


「でも、シャルは水魔法が得意だよね」

「な、何よ! わ、私だって頑張ったんだからね! それにこれはフィノちゃんの召喚獣エアリよ!」

『……え?』

「何よ~、皆して~っ!」


 いやいや、だってどう見てもエアリじゃなくて猛獣じゃん!

 エアリはもっとくりくり眼の愛嬌があるし、そんな歪な嘴も、がたがたの翼もないよ。


 ……ちょっと待てよ。

 シャルがエアリをモチーフにしたんなら、その傍で作ってたアルの作品は……


「それ、僕の召喚獣ロロ……なの?」

「ん? 当たり前だろ? この気高い一匹感、逞しい四肢で大地を踏ん張るフォルム、そして大口を開けて威嚇する咆哮の姿!」


 え、えぇ……。


「まあ、魔法を使ったから出来は悪いけどな。特徴は捉えていると思うぞ」

「……は、はい! どこからどう見てもどっしりとした威圧感を感じます!」

「……言われてみれば似ています! この牙とか狼の特徴ですね!」


 チラッと二人と目が合うと、慌てたようにアルを持ち上げ始めた。

 まあ、言われてみれば狼って感じはする。

 ロロかと言われると否定したい気持ちでいっぱいだけどね。


「ちぇ、私のと何も変わらないじゃない」


 ぐ……確かにそうだけど。

 シャルがぐれちゃった。


「ふ、二人はやっぱりうまいね」

「「誤魔化した……」」


 ぐふっ!

 し、仕方ないじゃないか!

 普通に評価したら納得いかないって言うくせに。

 困ったもんだよ、全くもう。


「でも、確かにレンの作った雪だるまは鳥だとすぐに分かる。エアリは鳥じゃねえけど、上半身はどこからどう見ても鳥だもんな」

「アル、何が言いたいのかしら? クラーラちゃんが作った犬だってそうじゃない。しっかりと毛並みまで再現されてて、アルの怪獣と比べたら天と海底ほどの差があるわ」


 天と海底?

 天と地より大きな差ってこと?


 それ以前に二人ともそのセリフブーメランだから。


「ですけど、やっぱり自分の手で作る方が綺麗に作れます。僕としてはもっと細かいところまでしたかったですね」

「これは造形魔法とは違うのですね。思ったように作れません」


 確かに本当に細かい所は出来てない。

 近づけば歪な所はすぐに分かるし、正面に立つと顔とかが崩れてるのが分かるしね。


「嫌味に聞こえるわね」

「そ、そんなこと言ってないですよ!」

「だが、かっこよさなら負けてねえぞ。多分」

「かっこよさと言うより、不気味さとかじゃないかな?」

「「シュン!」」


 態とじゃない。

 ちょっと言ってみたかったから言ってしまった。

 後悔はしてないよ。




 四人には魔法を指先に使って、その歪を直してもらう精密作業、細かいコントロールと集中力を高める訓練をしてもらう。

 僕はフィノとシリウリード君の方に行く。


「シルが作ったのは何? 人の顔よね?」

「は、はい! ……えっと……フィノ、姉様です……」

「私?」

「やっぱり、駄目でしたか? フィノ姉様はもっと綺麗です! でも、僕にはこれが限界でした……ごめんなさい」

「ううん、そんなことないよ。シルが頑張って作ってくれたんだもん。お姉ちゃんはとっても嬉しいよ! ありがとう、シル」


 遠目からだと周りの白さと交じってよく分からないけど、いい感じなようだ。


 僕もフィノを作ろうと思った。

 でも、それは何だか恥ずかしいし、本物のフィノと比べるともやもやするし、壊すのが忍びなかったりするし、もし残して誰かに見られて触られたら……駄目だね。


「あ、シュン君。見て見て、シルは私を作ってくれたんだって。笑ったところとかそっくりだと思う」

「べ、別にシュン兄様に評価を貰わなくても……。ですが、ア、アドバイスぐらいならも、貰わなくもないですよ?」


 何なんだろう、この可愛い子は。

 爺のツンデレはいらないというポムポム魔王様の意見に賛成だけど、子供なら男の子でもいいんじゃないかな。

 見ていてほっこりするし。


「ここまで出来れば上出来だよ。こんなこと誰もしたことないんだし、やっぱり最初は見慣れたものを作るのが一番」

「み、見慣れた!? ……シュン兄様に取られてそんなに見れないですよ……」

「ん? 人の特徴も捉えてるし、雪で髪の細かいところを出すとか無理だからね。あとはシリウリード君の得意な風魔法で削りながら整えればいいよ」

「し、仕方ありませんね。フィノ姉様をもっと美しくするために仕方なく、そう、仕方なく指示に従います。断じて言われたからではないですからね!」


 気持ちがダダ漏れだよ。

 本当にフィノのことが好きなんだね。

 それと僕は嫌われてないみたいだし、名前を呼ばれるときも普通になってきたから距離が縮まったかな?


 そうだとしたらとても嬉しいかも。


「これをツンデレと言うんだったね。そんなシルも可愛くていいね」


 少しフィノが構い過ぎている気もするけど、少し前までのことを考えると普通に家族とスキンシップが取れるのが楽しいんだろうね。

 僕もそうだからよく分かるよ。






 フォロンと少しツェルが手伝った昼食を僕が作った雪のテラスで食べ、僕とフィノもそれぞれ何か作ることにした。

 フィノは僕に対するちょっとした対抗心と大部分は褒められたいという気持ちが伝わってきた。


 ツェルにフィノとシリウリード君を任せて、フォロンにはアル達の面倒を見てもらう。

 フォロンもこれをしていて、かなり上手なんだよ。

 水魔法で索敵が出来ることだけはあるってことだね。


「さて、何作ろうかな? ……フィノは僕とか作ってそうだけど、皆と同じものを作るべきじゃないだろう」


 嫌味に見えるかもしれないしね。


「そうなると……皆が見たことのない魔物とか城のミニチュアとか良いよね。定番の滑り台とかキャラクターとかもいいかも」


 この世界に版権とかないわけだしね。

 まあ、僕は良く知らないんだけど。


「それでは早速……『想像よ形どれ、雪の造形(スノーメイク)』」


 目の前の雪に僕の魔力が浸透して、僕が創造した雪だるまにうようよと動いて変わっていく。

 土でも同じことができるけど、硬いから雪の方が楽だね。

 僕はどっちかと言うと水魔法の方が得意だし。


「大きさはこんなもんだね。ドラゴン自体には会ったことが無いから、ヒュドラとバリアル達をイメージしてっと……。羽根は少し広げて、身体はもう少しスリムに……鱗をちょこっと付けてっと。あ、首は少しもたげる感じが良いかも……威圧感を少し感じさせるのとかね」


 空に浮かんで顔をきっちり作っていく。

 幻術で想像になれてるから、見て作る分には楽なんだよ。

 想像だけで球体を作るより、球体を見ながら球体を作って、実際に丸くするように作るといった方が簡単だからね。


 最後に目に力を入れるように瞳孔を作って……完成!

 所要時間は三十分ぐらいかな。

 魔法って便利だわー。


「やっぱり最初はドラゴンだよね」


 見ないで生涯を終わらせる人もいるし、恐怖と憧憬を覚える代表格だ。

 子供にとって倒したい目標だったりするわけだ。


 雪の造形だったとしてもこれだけ完璧なら満足するだろう。


「そうだ。尻尾は滑り台にして見ようかな? 身体の側面に崖と階段を作って、落ちないように柵もいるか」


 僕がいればアイスファイアで火を吹かせたりできるけど、危ないから止めとこ。




「次に城だけど、勝手に作ったら問題があるよね。威信だから大きさで優劣が付くし。ここは作る本人の屋敷だな。当主であるし、見たことないだろうし」


 これは簡単に作れる。

 だって、もう十回ぐらい作ってんだもん。

 壊れたから直してほしいとか、細かい部品を作ったりしたからね。


 あとは僕が考えた……いや、白雪姫の最後のシーンかな。

 腰辺りの雪台の上に作っていこう。


 これも簡単だね。

 幻術で何度も練習したし、王子様と白雪姫は僕とフィノじゃなくてもいいわけで。



 次は城が駄目なら宮殿でどうだ。

 守衛の上半身だけの巨人を作ってみたりして、背後に女性の顔とか作るかな。

 女性と言っても女神の様な彫刻だけど。


 女神と言えばメディさん達も作っておこう。

 神様だけってのはあれだから、神殿と天使が必要だね。



 後は何にしよっか……。

 よく分からないから今まで遭遇したことのある魔物を作っていこう。

 ついでにそれと戦う騎士とか冒険者とか作ってみたりして……っと。


「面白いからアルのそっくりさんはスライムに群がれて、シャルとクラーラは可愛らしい魔物と一緒、レンはベヒーモスと相対させてみよう」


 まあ、倒せるわけないんだけどね。


 今の僕なら苦戦しないけど、一撃では倒せないと思う。

 雷に弱いけど、体力はすさまじいからね。


 レンは水魔法の使い手だから相性も悪い。

 そもそもフィノでもSランクと正面切って戦うのは無理だと思うからね。


 僕でもAランクを越えれば罠を用いたり間接的に倒したいと思う。

 最近は魔物と戦ってないんだけどね。


「よし、これで完成だ。アルの顔はもう少しギャグっぽい方がいいな」

「誰の顔がギャグっぽいって? んー?」


 ……ぎゃー、と驚いてみせよう。


「あ、アル、と皆も。見てよ、我ながら良く出来たと思うんだけど」

「あ、アル……じゃねえよ! 何で俺だけスライムなんかに負けてんだ!? 俺もレンみたいにベヒーモスと戦わせろよ! それにクラーラは良いとしてシャルの柄じゃねえ! あべしっ!」

「失礼なこと言ってんじゃないわよ! 私だってれっきとした可愛い物が好きな乙女なのよ! スライムに負けるのはアルが適任よ。ナイス製作よ、シュン君!」


 アルってそんな役割じゃん。

 アル以外にこんな役割は割り振れないし。


「と言うよりよくわかったね」

「よく似てますよ。この魔物は可愛いですね。実際に会ってみたいです」

「僕はベヒーモスですか? 夢の中だけ、と言うセリフが実現している感じです」


 そう、夢なんだから別にスライムに負けててもいいじゃん。

 本物のあるの実力は変わらないんだしさ。


「いつつー……。でも、スライムに負けるってのは心象がなぁ」

「じゃあ、このスライムはそれぞれの属性魔法が使える七色の『レインボースライムレンジャー』にしよう! 熱血リーダー火の赤、二枚目クール水の青、食べるの大好き地の黄、若くて自由な風の緑、情熱的でセクシーなお色気担当ピンク、無口で優しい氷の白、悪に染まるも最後は助ける闇の黒」


 ピンクだけ仲間外れだけど、精神系の魔法が使えるということで。

 サテラさん達夢魔族みたいな感じで、精を吸い取って力を上げる。

 正しくお色気担当。


「……また、シュンの奴おかしなこと言い始めたぞ」

「いいじゃない、面白そうだし。それならアルも負けたって仕方がないわね」

「でも、レンジャーってヒーローですよね? アルさんは悪役ですか?」

「クラーラ、そういうことは黙っていたほうがいいよ」


 レンの言う通りいらないことは言わなくていいよ。

 結局誤魔化しただけなんだから。

 スライムに負けているのは変わらないんだもんね。


 因みに色は地魔法で色付きの粉の様なものを作って、氷魔法で色を付けるだけ。

 勿論溶けても食べても害が無いものだよ。


「それにしてもこっちのドラゴンはすげえ迫力だな」

「これには色が無い方がいいわね。迫力があり過ぎるし、雪だとわかった方がいいわ」

「だな。少し周りが寂しいけど」


 なに?

 ならこの辺りに対峙する英雄を作って、辺りは荒野でしょ?

 逆の崖も作って、ワイバーンとか小っちゃいのを飾ってやる!


「シュン、お前アホだろ」


 失礼な!


「こっちは動物が欲しいですね。舞台が白雪姫なら似合うと思います」

「可愛らしいのが良いと思います。そう言えば雪兎と言う、赤い目の白い兎がこの辺りに出ますね」


 よく聞きそうな兎だね。

 よし、精巧に作ってビビらせよう。

 動物は鹿、羊、馬、猫と犬、キリンとか像とか、栗鼠、他はファンタジーっぽいもの。


「やり過ぎじゃね? やっぱアホだろ」

「アル、負け惜しみにしか聞こえないね」

「くそぉ……! 俺だって手で作ればこれくらい……」

「あんたこそアホやってないで魔法の練習するわよ」

「シュン様が凄いのは今に知ったことではありませんからね。このぐらい当然ではないですか?」

「目標になります。これが出来れば冬に稼げますね」


 な、納得いかんよ?

 認められたのに認められてない気がするんですけどー……。


 フィノなら絶対褒めてくれるはずだ!


「フィノ、どう思う? これなんかあの時の様子を表してみたんだけど」

「うん、やっぱりシュン君だね」

「どういうこと?」

「だって後先考えてないもん」


 ……がーん!

 シリウリード君を見ればドラゴンに釘付けで、何か満足した。

 下手したら嫉妬するかもと思ったけど、皆の言う通りシュン君だから、で済まされているんだろう。

 解せんけどね!


「流石シュン君で、私もそんなシュン君が恋人で鼻が高いけど、これ絶対ノール学園長先生の思うつぼだと思うよ」

「ん?」


 それはどういう意味だ?

 これを何かに使うってこと?

 まあ、壊すのが忍びないほど良い出来だと自負してるし、見世物にしたらいいと思う。

 でも、適当に作ってあるから意味あるのかな?


「やはりシュン君はやってくれたんだね。思った通り素晴らしいものを製作してくれた。後でクロスに伝えておこう」

「「「「「学園長先生」」」」」


 いつも唐突に現れる人だな。

 時空魔法関係は使えないはずなんだけど、姿を隠すのが得意な人だからね。

 クロスさんと友達の学園長なだけはある。


「やっぱりこれを入学試験の見世物にする気だったんですね。受験生が学園の素晴らしさを目に焼き付ける為の。シュン君に企んでたって聞いて何か作らせるつもりなのだと気づきました」

「フィノさん、企ててただなんて酷い。私はシュン君を信じてたのさ。彼ならきっと面白いことをしてくれる、とね。案の定想像以上の物を作ってくれた。最初は雪だるまとやらを見るだけだったんだけど」


 そうだったのか。

 まんまと策にはまって作らされたってことだね。

 こんなの遊びの範疇だし、ただ働きはどうでも良いからいいんだけどね。


「報酬は以前本を貸したでしょう? それで相殺と言うことで。来年からはシュン君に教えてもらった造形魔法で腕を上げた教師がランクは落ちるでしょうが作れるはず。最悪私が負けないものを作るさ」


 子供と張り合う数百歳の大人って何だろうね。

 前世と合わせても十倍以上差があると思う。


「確かにこれを見たら入りたくなるな。一生徒が作ったとなれば特に」

「最近はシュン君の名前がいろいろな場所で聞けるし、かなり有名人よね」

「ええ、今年の受験生は例年の倍以上。多分、シル君は合格すると思うよ」


 そんなこと言っていいの?

 この学園の最高責任者でしょ?

 一人を優遇するみたいな台詞を堂々と。


「技量は見せてもらったし、後は頑張るだけ。今年の試験はまた変わってるから集中してよ? 出来が良かったら在校生にもやってもらうから」

「げっ、学園長先生が何か企んでるぞ」

「何かな? アデラール君」

「うぇぁっ!? なんでもないっす!」


 軽率だよ、アデラール君。


「まあ、安心しなさい。君達が練習している物を採用させてもらっただけだから。これ以上は試験内容に関わるから言えないけどね。シル君、頑張って試験に挑んでくれたまえ」

「は、はい! フィノ姉様やシュン兄様のように頑張ります!」

「よろしい。陽が暮れると寒くなるから気を付けるんだよ。それと今度からは許可を得なくていいから。シュン君はこれを壊さないように」

「……分かりました」


 くっ、釘を刺されてしまったか!

 こうなったら試験当日までいろいろと作って埋め尽くしてやる!

 どうせ雪が溶けないとここは使えないのは知ってるし。

 入学式もギリギリ雪が残ってたはずだから、義父さん達を入学式に連れてこよう。


 消えそうだったら氷魔法で保存したらいいのか。

 どうせ入学式までは使う人がほとんどいないし、入学式終ってから火魔法でとかして地面を均せばいいだけだしね。


「ほどほどにね、シュン君」

「わ、分かってるよ?」

「はぁー。私も付いてるから、ダメって言ったら作っちゃダメだからね。いい?」

「はい、フィノの言うことを聞きます!」


 尻に敷かれようと知らん!

 このぐらいなら構わないと思うしね。

 やり過ぎたら怒られるとわかってるから、言うことぐらい聞くよ。


「フィノの方が強いな。シュンを御せるのはその恋人だけか」


 アルの特訓ハードルを上げようかと思う。






 こうして僕達は遊びながら特訓を行い、いよいよシリウリード君の試験当日となった。


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