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噛ませと天魔族

久しぶりの戦闘です。

ですが、ここまで強くなると一方的にするしかないですね。

主人公最強とか簡単そうに見えて、話しによっては同等の実力持ちがいたりして作り辛い所があります。

まあ、そうなると最強ではなくなるのですけどね。

この話は主人公は強いですが、それに準じたり上の者が存在します。

何が言いたいかというと、強くし過ぎるとそれより上の存在はもっと強くしなければならず、その能力を考えるのが難しくなるということです。

まあ、相手は神なんでどうにでもなりそうですが……。


ということですが、一方的な戦いをご覧ください。

 避ける……避ける、避ける、避け避け避ける!

 パシッ、偶に受ける。


「なぜ当たらねえッ! なぜだッ!」

「君が遅いからだよ。殺気もダダ漏れでどこから攻撃してくるか手に取るようにわかる」

「説教するなぁッ! 人族のガキィィィ!」


 狼男は姿通りに肉弾戦が得意なようだ。

 僕はこれを機に肉体の成長を促そうとギリギリを見極め、最短で躱す練習を行う。


 遅いと言ってるけど、一秒間に数発は拳が放たれ、蹴りは風圧が凄まじい。

 ただ、魔力で強化してしまえば難なく避けられる。

 勿論、少しずつ弱めてギリギリで肉体向上を行っているけど。


「単調になってきたよ」

「ぐはっ! クソがッ!」


 腕を取って引きながら足を引っかけ地面に叩きつけた。

 でも、見た目通り頑丈なようで息を吐くだけですぐに突っ込んでくる。


 怒りで我を忘れるってのが当てはまってる気がする。

 フェイントも入れてないから避けるのは簡単だ。


 まあ、アル達と比べれば強いけど、フィノやレオンシオ団長よりは弱いね。

 騎士達とどっこいではないだろうか。



 もうわかってると思うけど、僕達に不満を抱く魔族と戦っている。

 みんな一斉にでもよかったんだけど、あちらさんが一人で十分だと言って一対一で戦うことになった。


 代表者は当然一番騒がしく、フィノに変な目を向けた狼男。


 ポムポム魔王様やバリアルから叩きのめすように、と念を入れられ、どっちの味方なのか問いたくなった。

 まあ、あれだけのことをされれば怒るのは当然か。


 他の不満を抱く魔族は狼男に託すそうで、一番強いと思っていいのだろう。


 僕に課せられたのは嘗められないように叩き潰し、魔族を屈服させること。

 だから容易な手で倒すわけにはいかない。



「くらえぇぇーッ!」


 身体強化と種族の特性を生かした素早い動きで接敵してくる狼男。

 僕は視覚に頼らず魔力感知と空間察知によって残像の残る動きを難なく捉える。


 そして、背後から近付く反応を察知し、振り向くと同時に振り下ろされる剛腕と鋭い爪に気を付け、足を回転させながら背負い投げの要領で地面に背中から叩き付ける。


「くはっ!」


 狼男の顔が笑みから驚愕に変わり、その瞬間に視界が反転して息が吐かれた。

 僕はその腹の上に片足を振り上げ、身体強化だけでなく時空魔法で重力も加え、ニヤリと笑って足を振り下ろす。


「そい!」

「あっぶ! ねぇ!」


 ズガンッ、と音を立て、さっきまで狼男が寝そべっていた地面が陥没する。


 ちっ、逃げられちゃった。

 まあ、お互いの力量もわかってきたし、今回も鼻をへし折れと依頼を受けたからすぐに終わらせられない。


 ちらっと見るとバーリスが苦い顔をしていて、あの時の自分と重ねてるのかもしれない。


「よそ見してんじゃねえぇぇぉおおおわぁッ、ぐはっ!」

「よく言うけど、視覚に頼ってたらダメだよ。せめて魔力、若しくは気配を感じなきゃ」


 飛び掛かって来るだけならまだしも、声までかけて動きを知らせてくれる間抜けな狼男の下へ潜り込み、両手を上に突き出してジャンプする。

 すると僕の小さい拳が鳩尾にはまり、息の漏れる苦悶の声と涎が落ちる。


 生きて行くだけなら不要だけど、ある程度の実力持ちになると視覚だけでは対処できない。

 魔族と人族の様な種族の差もあるけど、視覚に頼るのはダメだね。

 殻を破る意味も兼て気配察知と魔力感知は覚えないと。


「獣魔族は第六感が冴えていると聞く。それを有効に使わない限り僕には勝てない」

「う、うるせええッ! 目に物見せてくれる! お前は、俺を怒らせた!」


 いやいや、最初から怒らせてたからね。

 敵を侮るのは仕方ないとしても、一度やられて本気で来ないのは愚だ。


 いや、相手を侮っている時点で愚かだね。

 僕じゃなかったら最初の一発で終わってるかもしれないんだから。


「あれで俺に喧嘩を売ってきたのか。呆れてものが言えん。シュンよ、瞬殺しろ」

「逆ですか、バリアル様? イタッ!」

「シュンはまた動きに磨きがかかってる。私も慢心せず頑張らねば」

「これは兵士全体の訓練が必要か」


 本当にバリアル達が言ってたように魔族も練度が下がってるのかも。

 僕の基準はバリアルとバーリスだからかもしれないけど。


「シュン様は戦い慣れているわ。それに比べてギュンターは……報告した方がいいかしら」

「ふん、口ほどにもないどころではないな。今戦争したら魔族は負けるのではないか? 報告してしまえ。そちらの方が面白そうだ」

「確かに! 親父とは比べ物にならんな。俺も戦いたい!」

「力を試すってのもあったのでしょうけど、根性を叩き直すってのもあったのではないかしら」

「狸ではないはずだったが……?」


 ちらっと見るとサテラさんもスペンサーさんもボゴイさんも呆れ顔だ。

 てか、魔族って以外に茶目っ気が多くない?

 バリアルのセリフは偶々としてもね。


「へぇ、シュンさんは男ですね。私もそう言われたいですよ」

「ふふふ、シュン君は誰にも渡しません。女の子として護るとか、楽しいとか言われると嬉しいもの」

「あれだけ完璧だと何か嫌なことないのですか? 聞いた話では料理も裁縫も家事も出来るとか」

「でも、ちょっと抜けてるところとかあって、ユーモアっていうか何時も面白いですよ」


 ポムポム魔王様はニコニコしてるけど、こっち見ずにフィノと会話してる。

 いやいや、せめてチラリとでもいいから見てあげようよ。

 あ、フィノは僕のことをずっと見てるけどね。



 因みにゴルドニアさんはこの場にいない。

 別れるのはと思ったけど、時間もおしてるし、今は騎士と一緒にダークエルフとの話し合い準備をしている。

 現在のダークエルフに関しても予め聞いたりあるんだって。



「じ、じねええぇぇッ!」

「死んだら君の負けだから……ねッ!」

「ぐほっ!」


 今度は拳を振り被って突っ込んでくる狼男に向かって両手を突き出し、瞬時に魔力を練り上げると僕の半分ほどの大きさの魔力弾を放った。

 威力は大してないけど、弾力を少し上げてたから狼男は跳ね飛ばされた。


「今のは魔力の塊だな。あれさえも吹き飛ばせんとは……」

「あれは魔力を体外に纏えば弾き飛ばせる代物ね。大戦時何度か見たわ」


 へぇー、大戦時に失われた魔法だったのか。

 いや、その大戦がいつなのか分からないぞ。

 もしかすると数千ひいいぃぃっ!


 ……歳のことを考えるのは止めておこう。

 僕、何で顔に出やすいんだろう。

 背筋が凍るサテラさんの視線が……(ガクガクブルブル)!


「く、くそ……」


 まだ、起き上がる。

 見た目通りタフさはあるようだ。

 あの偽物さんもタフさだけはあったしね。


「いつまでも正面からかかってきても無理だよ。僕の技は全てを認識する。背後からであろうと、気配を絶てなければ感知できる」


 どこぞの格闘家とかじゃないけど、時空魔法って反則だね。


「う、うるせえっ! お、おま、お前さえいなければ!」

「いや、僕何もしてないから。君が勝手に喧嘩売ってきたんじゃないか」


 百年近く生きている相手をどう呼ぶのか迷ったけど、流石に狼男はないね。

 十倍も離れてるから違和感しかないけど。

 中身は子供っぽい。


「人族のくせに……!」

「人族人族ってね、他者を見下したり嘗めない方が良いよ。君が何なのか知らないけど、戦う者としてそれはやってはいけないことだ。慢心は隙を生む」


 大海を知らずとか、上には上がいるとかと同じだ。

 僕だって調子に乗る時がある。

 でも、慢心だけはしない。

 僕より強い神様とかいるし、ポムポム魔王様には勝てない。


 天地がどうのと言うけど、どういう意味なんだろうね。


「俺に説教するな!」


 本当に子供じゃないか。


 力を見せても認めようとしないんなら意味ないよ。

 まあ、外野で見ている蜘蛛女とかゴーレムとかは絶句して目を逸らしてるけど。

 結局その辺りを自覚できるかは本人次第なんだ。


「仕方ない……魔力、解放!」


 ズガン!


 そう言葉にできるほどの魔力の重圧が訓練場? にのしかかる。

 外までは効果が及ばないように制御しているけど、何かが起きているのは分かるはずだ。


「ふ、やはり強くなっているな」

「我は選択を間違えなかったようだ。あれと正面切って戦いたいとは思えんな」

「ふふふ、強いというのは罪ね。可愛らしいし食べちゃいたい」


 最後のは聞かなかったことにしよう。


 夢魔族ってサキュバスやリリスのこと。

 インキュバスもいるけど、個体数的には女性が多くて、女性の方が強い。

 で、異性の精を吸収して、それをエネルギーや動力源にすると書いてあった。


 まあ、それが本当かどうかは別として、魔力の多さも加わってかなり長命になるみたいだ。



 で、戻るけど、狼男は今にも失神しそうなほどがくがくと震えている。


「く、が、ぅ、ぁぁ……」


 言葉も出ないようだ。


 僕が鬼に見えるかもしれないけど、これはそうしろと言われてるから仕方ない。

 ちょこっとだけフィノに下種な言葉と視線を向けたのが許せないってのも入ってるけどね。


「君は……僕のこの細い喉笛を噛み切ると言ったよね?」

「ぐ、ぶぶぅ」


 返事が無い。

 ただ、耐えているようで、その目にはまだ光が見える。


 バーリスはこの時点で負けを認めていた。

 心を折るとは言わないけど、自惚れを挫くことは出来ていた。


 でも、目の前の狼男は魔力を感じ取るのが苦手らしく、この重圧があまり分かっていないようだ。


「そうです! シュンさん、蒼い炎を見せてくださ~い!」


 あ、そう言えばそうだった。

 見せてほしいという約束だったんだっけ。


 僕はポムポム魔王様達の方に笑みを浮かべて頷き、僕に突っかかってこようとした者達にも喧嘩を売るのかという視線を向けて笑みを返す。

 サーッと顔色を悪くして一斉に首を横に振った。


 まるで僕が悪者みたいじゃないか。

 ま、悪者みたいなんだろうけどね。


「『猛火の焔、蒼き焔、怨敵全てを燃やし尽くす業火と成せ! 蒼炎の煌玉』」


 久しぶりの詠唱ですよ。

 七年もこっちで生きれば詠唱も恥ずかしくない。


 まあ、派生の上級魔法となると僕も詠唱した方が安定して放てるからね。

 態々危険なことをする理由もないしね。


「おおお! あれが俺の負けた炎だ! 俺のブレス以上の熱さを持つ。まあ、俺も特訓の末蒼いブレスを吐けるようになったがな!」


 何!?

 もう人外じゃん!


 あ、後ろでバーリスがブレスの特訓をしているのが何か微笑ましい。

 まあ、ブレスと魔法は違うから本人のやり方次第だね。

 似たようなことは出来るかもしれないけど流石にブレスは吐けないし。


「確かに原理が分かりません。そもそも私は火魔法よりも水魔法の方が得意です。ですが、容易に消すことは難しいでしょう」

「有利であることには変わらないです。でも、シュン君は全ての属性を満遍なく使えるし、どの属性も一番理解できていると思います」


 二人は魔法談義に入ってる。

 フィノと一緒に魔法談義が出来る人っていなかったんだよね。


 シャルとかクラーラもいいんだけど、やっぱり実力が上の人と話すってのは僕以外にないからね。

 フィノには僕――最近は師匠達もいるけど――以外の人からもいろんなことを吸収してほしい。



 辺りを煌々と照らす青い焔。

 掲げた両手を包み込むように巨大な焔が輝き、大気を唸らせて周囲を威圧している。


「そ、そんなのが当たったら……」

「死ぬね。間違いなく」


 勿論火力は調整してあるから僕は熱くない。

 でも、狼男はこの熱量を肌で感じ取り、危険性を野生の勘とでも言うべきもので感じ取っている。

 そこはまだ衰えていなかったようだ。


「し、死ぬって!? お前俺を殺したら――」

「何言ってるの? 君が僕に喧嘩を売ってきたんだ。安心して、これを君に向けて撃つことはないよ」

「何言って――」


 その瞬間僕は狼男との中央に両手を振り下し魔法を放った。


 カッと一瞬輝き、次の瞬間破壊音と凄まじい熱量が轟き、大地を破壊、もとい溶かしながら大きなクレーターを作り出す。


「ぐべっ、あづっ、ぐがっ、あぐぁ! あっぢッ!」


 僕自身は風魔法で全てを上へ受け流し、フィノ達には結界が阻む。

 でも、狼男は魔力で護ることも出来ずに吹き飛ばされ、飛んでくる赤熱した岩が身体にあたって飛び上がるように逃げ回る。


 土煙が晴れると、そこは赤熱した溶岩地帯の様なクレーターが出来上がり、蒼い焔は消えたけど真っ赤に燃える地獄のような状況となっていた。


 流石の魔族もこれには驚き、声も出ないほど目を開いている。


 笑っているのはフィノやポムポム魔王様、バリアル達ぐらいだ。

 レオンシオ団長は頭を抱えて……もしかしてこの後怒られる系?


 い、いやだよぅ!


 でも、やり過ぎた感は拭えない。

 やっぱり怒られちゃうのか……。

 やれっていうからやったのに……。


 内心落ち込みながら右腕を振って無理やり地面を元に戻す。


『おおおおお~!』


 それに感嘆の声が上がり、何か首を傾げてしまった。


「技術は私以上ですね。あそこまで火魔法の影響がある地帯を別属性の魔法で、しかも動作一つで、更に別段変わった様子もなく元に戻すのは並の制御力では出来ません。私なら水で消し去ってから戻すでしょう」

「そうだったんですか。私はシュン君のやり方が普通だとばかり……」

「フィノリア様、普通は無理です。土魔法でどうやって火を消すのか考えて頂ければ答えは出るかと」

「あ、覆い隠すにしろ焦げた部分は残るもんね! シュン君はそれさえも土魔法で綺麗にしたってこと。はぁ~、やっぱりシュン君だね」


 何、そのシュン君は便利な言葉扱い!?

 意味分からないことや凄いことは僕の名前で解決、みたいな!?


 ここにきて新しいことに気付くとか……なんなんだろう。


「ま、考えてても仕方ない。綺麗になったことは良い事だ」


 ツッコみが聞こえたけど気にしない。


「僕は嘗められて怒ることはないよ。でも、大切な人や友達、知り合いが舐められて黙っているほどお人好しではないんだ」


 両手を広げ七色に輝く光の玉を作り出す。


 それは属性を司る玉だ。

 以前やったことがある気もする。


 それを縦横無尽に動かし、がたがたと震えている焦げた狼男の周りで動かす。


「ひっ! や、やめてくれぇ! お、俺がわ、悪かった! 謝るから殺さないでくれぇぇ!」


 失敬な!

 僕は罪もない人を殺すことはないよ。

 大体ここで殺したら仲が悪くなる。

 そんなことを代表者の僕がするわけにはいかない。


 大体この玉は攻撃性皆無だ。

 それもわからないのかな?


 パチンッ!


「自分の力に溺れてはならない。少し力があるからって他者をイジメるというのはどうだろう」


 光りを消し去り、狼男に近づく。


「相手の力を読めないというのはこうなるんだ。そんな状態で胡坐を掻くってのは非常に拙い。わかったよね?」


 頭が取れそうなほど激しく振る。

 別に脅してないと思うけど……。


「なら、強くなること、驕らないこと、切磋琢磨しなきゃね。恵まれたからこそ立ち止まってはいけない。特にこれからは何が起きるか分からないんだ。何が起きても良いように力も備えないといけないんだよ」


 いつものセリフを口にする。


「さて、君はまだ戦うの?」

「い、いや! 俺の負けだ! いや、俺の負けで良いです! 負けさせてください! 貴方様の勝ちです! もう二度と驕り、人族だからと蔑んですみません! 将来の為に特訓もします! だ、だから許してください!」


 や、だからね、土下座は止めてよ。

 僕が悪者みたいじゃん。


 やり過ぎたとは思うけどさ。


「シュン君……私もちょっと」


 え!?


「ご、ごめんよぅ、フィノ!」

「きゃ!」

『あれ!? え? え?』


 外野が驚いているけど、転移しただけだ。

 そんなことよりもフィノに!


「もう、驚かさないでよ。意地悪ぅ~」


 くっ、そのあざといぷりぷり顔もまた……!


「本当にごめん。ちょっと「ちょっとだけ?」……」


 うぅ~、いつも以上に厳しいです。


「ふざけてはなかったんだよ? やっぱりフィノ達が馬鹿にされて黙ってられないし、お願いもされたし……」

「いつもいつもそれで機嫌が良くなると――」

「うん、今度デザートの食べ放題をしよう! この前チョコレート、あま~いお菓子の原料も見つけたし、屋敷も完成するだろうから、一緒に一望を眺めながら食べよう。ね? あ、そうだ! あの屋敷に合った和菓子も作るよ!」

「し、仕方ないなぁ~! 今回だけだからね!」


 ……よし!

 和菓子は作ったことないけど、何を作れと言われても良いように調べたことがある。

 造形は魔法よりも簡単な筈だ。

 今度練習しておこう。


「それでいいのですか。まあ、報告だけしておきましょう」

「そう言われていますからね」


 そっちは無理か……。

 っていうより、予めこうなると言われてたの!?




「こほん。シュンさんは出てきたようですが、勝ちはシュンさんで良いでしょう。それとも、皆さんも戦います?」

『いえ! 魔王陛下に従い、人族と友好にします!』


 こういうのって何っていうんだっけ?

 寝返るみたいな……尻が軽い? は違うか。

 長いものに巻かれろ的な?


「ですが、人族如きに負けないのでしょう? ギュンターは我々の中では一番弱い、くふふふ~……見たな台詞を言って戦ってもいいのですよ?」

「ちょっと待って、ポムポムちゃん! 何でそのセリフ知ってるんですか?」


 僕も詳しく知ってるわけじゃないけど、それ四天王のセリフだよね?

 まさか、過去に四天王がいて、最初の四天王を勇者的な奴が倒したら言ってた伝統があるとか?


「ああ、このセリフはですね。勇者が呟いていた台詞らしく、正式採用したものですよ。皆さん言いたくない様で、四天王制度は私が無くしました。面白いと思うのですが」


 や、そうだけど、言う人は嫌だろうね。

 完全に自分は一番弱いです、と言ってるようなものだし。


「どうしてシュンさんが知っているのですか?」

「え? あー、僕は神様とあれですから。いろいろとですね」

「そうなのですか。魔族は神様がどうというのはそこまででないですが、確かに見ていたとしたら知っていて当然かもしれませんね」


 ロトルさん、すみません!

 でも、地球のことが分かるのなら知ってますよね。

 うん、大丈夫だろう。


「軽率だよ。全くもう」

「はい、ごめんなさい」


 あれはツッコまずにいられなかったんだ!

 でも、そうなると小指の奴とかも全部勇者関係ではないだろうか。

 黒髪黒目で、闇魔法が好きな中二病な勇者。


 考えるのは良そう。

 何千年も前の過去の人だし。


「そんなことよりも、本当に戦わなくても?」

『マジ勘弁してください! まだ死にたくありません!』

「そうですか。なら、仕方ありませんね」


 意地悪なポムポム魔王様。

 ただ、この魔族達を殴りたいと思った僕は悪くないだろう。

 しかも狼男生きてるし。

 勝手の殺したらいかんよ。


「あ、戦いたくなったら言ってくださいね。セッティングは何時でもします」


 もう返す言葉もないのか、僕と目を合わせて愛想笑いを浮かべた。


 へへへ、そんなわきゃありませんよ、と聞こえたのは幻聴だろう。

 とりあえずニコニコと返せば顔を蒼くして縮こまった。


「はいはい、これで協力に反対意見はありませんわね?」

『異議なし!』


 先ほどまでの光景が嘘のようだ。

 でも、まだ問題となりそうな種族を見ていない。


「ダークエルフとかがいないね。あと天魔族も」

「うん。一番気を付けないといけない種族だけど、一体どこにいるんだろう」


 と思った矢先――


 パチパチパチパチ。


 重なり合った拍手の音が木霊し、扉のある通路の奥から数人の魔族が歩いてきた。


 先頭にいるのは僕達人族に似たよぼよぼの爺さんで、裾の長いだぼっとしたローブと大きな杖を持っている。

 だけど、瞳の色は黄色く、白目は黒い。

 頭髪は見える限り灰色で、よぼよぼの顔もどこかねちゃっとしていて嫌悪する魔力を感じる。


 フィノの感知能力も相当高い為嫌悪しているのがよく分かる。


「僭越ながら見させていただきました。いやはや、人族ですのにお強い」


 その人物がしわがれた声で、そしてどこか上から目線でそう言った。

 人族如きと聞こえたのは気のせいではないだろう。


 魔族側もどこかピリピリとしていて、この爺さん魔族連中がそうなのだろう。

 狼男達はそうであってもどこか違ったといった感じだ。


「来るのが遅いのではないか? どこで油を売っていたのだ? まさか、俺の友でもある魔族との友好の客人によからぬことでも考えておるわけではないだろうな、メフィスト」

「はて? 儂が遅れたのは少々ギルドの方で問題があったからで、バリアル様のご友人に何かをする等といった気持ちは……ありませんよ?」


 ぞぞぞー、と背筋を何かが駆巡る。


「っ!?」


 フィノが思わずといったように悲鳴を漏らした。

 僕もいろんな耐性が無ければ漏らしていただろう。


 レオンシオ団長達がいつでも動けるよう僕達の周りに集まり、剣の鞘に手を置く。


「ギルドに問題ですか? 後で報告書の提出をしてくださいね。それと、これから魔族は将来を見据えて協力関係を取りますから、自己紹介をしてください」

「畏まりました、魔王陛下」


 多分この爺さんが天魔族なのだろう。

 ポムポム魔王様にも従っているが、どこか上辺だけって感じがビシビシ伝わって来る。


「これは人族の皆様方、お初にお目に掛かります。儂は天魔族の長メフィスト。貴方方で言う国の宰相のような地位におります。以後お見知りおきのほどを」


 そう言って頭を下げるけど、目は僕達から離れていない。


「僕が今回の魔族との友好の大使シュンと申します。こちらが我が国の王女フィノリア様。これから協力をしていきたいと思うので、よろしくお願いします」


 握手などはせずにサッと自己紹介を済ませる。


 確かに皆が言う通り気を付けた方が良いだろうね。

 魔力は凄く濁っていて、魔族だからといってこの酷さはない。

 種族柄強い魔力だけど、残虐性や悪でなければそこまではない。

 現にバリアルやバーリスは力強く、サテラさんは艶やかで温かく、ポムポム魔王様は大きくほわほわしている。


 それに神様の言う通り天使ではない。

 天使を見せてもらっておけばよかったけど、僕は絶対にないと言える。

 翼もなければ、堕天したと言ってもこうまで変わるとは思えない。

 きっと何かがあるはずだ。


「ふふふっ。警戒しておりますが、儂は貴方達を取って食うことはありません。知っておられるか分かりませんが、多少幻術などの魔法が得意なだけの老骨種族ですから。貴方の様なとても強い人に立ち向かうなど」


 と言っている割には余裕の見える笑みがある。

 一体何がそこまでさせるのだろうか。


「自己紹介はそれでいいでしょう。それよりもメフィストは一々嫌味を言うのは止めなさい。底が知れるというものですわ」

「それはそれはあんまりです。儂は危害を与えないと安心させているだけではないですか。圧倒的な力の前には、儂の様な老骨の考える罠は効かんでしょう」


 何が言いたいのかよく分からん。


「野蛮だと言いたいの」

「ふ~ん。別に気にしないけど」

「や、人族全員がと思われるから気にしてよ」


 は! そうなのか!?

 むむ、それは気にした方がいいかも。

 でも、僕は力も律することが出来ればそれでいいと思うし、魔族の大半は野蛮だと思わないんじゃないかな?


「気を付けておく。でも、罠があったとしたら力で打ち破るのが一番効果的だと思うけど」


 罠を張るってことはそれに自信があるってことなんだ。

 その自信も力で壊せば、口で何といようと精神的なダメージになるはずだ。


「さて、儂もまだ忙しいので、この辺りで失礼します。魔王陛下、無事協力できるようになることを願います。困難があるかと思いますが、それを打ち破ってこそ道が切り開けるというもの」

「何が言いたい」

「バリアル様、そう凄まないでくだされ。確執があるから問題が多々起きるといったまでのこと。別に儂が何かを考えておるわけではないですよ。では、これで」


 そう言ってメフィストと言う爺さんはお供を連れていなくなった。


 本当にビシビシと気配と言うか、気持ちの悪いものを感じた。

 あれは今まで会ってきた中で一番異質だ。


 感覚で言うとランクアップ試験での魔物騒動で操られていた首領格の魔物の魔力、魔闘技大会での襲撃時に襲い掛かった魔石の魔力だ。


 こういうと、いや、言わなくても何かしらの繋がりがあると思っていいのだろう。

 でも、証拠がないし、問い詰めても意味がない。


 今最終決戦に移ったら確実に負ける。


 異質さを眼にしたからこそ、余計に今のままではダメだとわかった。

 ここは悲観せずに力を一層付けるために動かないと。


 だからこそ、この後あるダークエルフとドヴェルクの話し合いは何としても進めなければならないんだ。


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