初めての街
ぽつぽつと生えている草木のある只々広いばかりの草原を二つに分けた道を只管ガラリアに向けて歩いている。
僕の頭の上ではファチナ村を出てすぐに召喚したロロが寛いでいる。
一人旅は寂しいだけだからしょうがない。
ガラリアに着いたら、まずは冒険者になろう。
冒険者っていうのは一種の職業みたいなもの。魔物の討伐・撃退、商人たちの護衛、魔物が生息している危険な区域での採取などをこなす職業らしいんだ。
その冒険者になるには、冒険者ギルドで登録しないといけないんだって。師匠も登録しているそうだ。
登録するとギルドカードがもらえて、身分証明の証になるんだ。
他にも権利や義務があるらしいから、ギルドで聞けばいいことだよね。
それにしても暇だなぁ。
この道は比較的安全で魔物に遭遇しにくい道らしいんだ。草原しかないから出てきてもすぐにわかるんだけど。
「……? きゃうッ」
突然、ロロがかわいく吠えた。何か聞き取ったようだ。僕も聴力強化で音を聞き取る。
「……? 前方でガラガラ音が聞こえる。馬車の音かな? それにしてもすごいスピードだ。何かに追われているのかも……。急いでいこう、ロロ」
僕がそういうとロロはすぐに僕の服の中に入って振り落とされないようにする。
僕はそれを確認すると身体強化し、音のする方へ駆けていく。
音もこちらの方へ来ているようで、音が大きくなっていく。
前方に馬と馬車が見えてきた。後ろには馬に乗った人達が追い掛けている。
「追われているみたいだ。助けたほうがいいな」
スピードをさらに上げ、馬車に向かう。
馬車には必死に手綱を握って走らせている青髪の青年が見える。
追い掛けている人達の手には手入れのできていない武器を持ち、くたびれたボロの防具をつけている。顔も下卑ていてどう見てもこちらの方が悪者だ。
「盗賊かな……」
青髪の青年がこちらに気づいてようで、
「君! 早く逃げなさい! 盗賊が追い掛けてるんだ!」
と、大声で知らせてくれる。
この人はいい人みたいだ。早く助けてあげよう。
馬車とすれ違い様に魔法を放つ。
「『バーンフレア』」
巨大な炎の塊が盗賊達にあたり、灼熱の爆風を起こす。剣を背中から抜き放ち、被害を免れた者達の首を落としていく。
(やっぱり、人を殺すのは気持ち悪くなる)
馬車の方を見ると止まっている。
何で止まってるのかな?
もう少し逃げてくれた方がいいんだけどな……。
「て、てめぇ! 何しやがる!」
一番偉そうな奴が話しかけてくる。
こいつが親分かな……。
「聞いてんのか!」
「うるさい! 『ウォーターニードル』」
何か言っているけど見ていると嫌気がさしてくる。
親分に向かって数百本もの水の針が突き刺さり、親分は絶命する。
「頭がやられた! 逃げろー!」
「逃がさない! これでもくらえ! 『フレアショット』!」
逃げようとする盗賊達の頭に炎の弾丸がぶち当たり、その命を燃やし尽くしていく。
「これで終わりかな。……気持ちを切り替えよう」
辺りには盗賊たちの死体の山と馬の死体の群れ。
何人いたんだろう……。馬には悪いことをしちゃったな……。
それより、馬車の人は無事かな?
僕は、止まっている馬車に歩き出す。
「あの~、無事ですか?」
馬車から青髪の青年が下りてくる。
「はい! 無事です! 助けてくれてありがとうございます!」
「無事なようでよかったです。この人たちは盗賊か何かですよね?」
「うん、盗賊だね。ここは見晴らしもよくて、滅多に魔物も盗賊も出ないところだから油断していたよ」
「それで護衛をつけなかったんですか?」
「そうなんだ。ケチらなかったらよかったよ。でも、君に助けてもらえたから命拾いしたよ」
青髪の青年は安堵したように笑った。
「どこに行くつもりだったんですか?」
「僕は駆け出しの商人でね、ガラリアに行く途中だったんだ。だけど、途中で盗賊達に見つかっちゃって追い掛けられてたんだ」
「そうだったんですか」
こんなところで盗賊に見付かるなんて運のない人だな。
「それで君はどこに行こうとしていたんだい?」
「僕もガラリアに行く途中だったんです」
「そうなのか。お礼に送って行ってあげるよ」
「本当ですか!」
「ああ、それと言ってはなんだけど護衛してくれるならいいよ」
「ありがとうございます」
「よろしくね。僕はヒュードっていうんだ。君は?」
「僕はシュンです。こいつはロロっています。よろしくお願いします」
「きゃん」
服の中から顔を出したロロが紹介に声を出す。
「では、シュン君、ロロ。馬車に乗って出発しよう」
道中ヒュードさんにガラリアについて聞いた。
ガラリアに入るには身分証明書がいるようだが、なくてもお金を払えば入れるそうだ。
ガラリアは冒険者ギルドの他に商人ギルドや魔法ギルドなどが存在するようだ。
商人ギルドは商売をする人が入り、魔法ギルドは魔法使いや魔法を習いたい人等魔法に関わる人が入るみたいだ。
ガラリアはそれほど大きくないみたいだが、シュリアル王国に近いためそれなりに人で賑わっているそうだ。
「――ぐらいだね。他にも見世物や食べ物などいろんなものがあるよ」
「食べ物ですか!」
「ああ、そうだよ。この国以外の物も多いよ。……もしかして、食べるのが好きなのかい?」
ヒュードさんが聞いてくる。
「おいしいものが大好きです」
「おいしいものに出会えるといいね。――見えてきたようだ。あれがガレリアだよ」
前方を指さしたヒュードさんが言う。
まだ小さいが、人が行き来しているのがよくわかる。人が並んでいるところが入口だろう。因みに入国税は銀貨二枚だ。
商人や冒険者など、様々な人たちが門の前で並んでいる。僕達も列の最後尾に並ぶことにする。
しばらくして、自分たちの番が来た。
「――。次、身分を証明するものはあるか?」
ヒュードさんは商人ギルドのカードを出す。
材質はわからないが黄色い色をしている。
「よし、いいだろう。……そっちの子は?」
「僕は持ってないです」
「なら、銀貨二枚かかるがいいかね」
「……はい」
僕は財布から銀貨を二枚取り出して門番さんに手渡す。
「……確かにもらった。ようこそガラリアへ」
そう言って門番さんは次の人に取り掛かる。
ちなみにロロは還してある。僕の時空魔法で作った亜空間に森や小さな泉を作った世界だ。
「よし、ガラリアの中に入ることができた。シュン君、護衛ありがとうね」
「いえいえ、こちらこそ送っていただいてありがとうございます」
「……シュン君はしっかりしてるんだね。冒険者ギルドはこの道を真っ直ぐ行けば、剣と盾の看板があるからそこだよ」
ヒュードさんは冒険者ギルドの場所を教えてくれる。
「この道を真っ直ぐですね。ありがとうございます」
「僕は暫くこの街にいるから何か買うものがあったら寄ってみてよ。それじゃあね、シュン君」
「ご縁があれば寄らせてもらいます」
そう言ってヒュードさんは馬車を走らせていく。
この道を真っ直ぐに、ね……。
ファチナ村以外を見るのは初めてだな。
道の両端には店がずらっと並んでいる。
知らないものがたくさんあるぞ。これは楽しみだ。
なんだかいい匂いがしてきた。小腹も空いたし、少し食べていこうかな。
匂いのする方へ行ってみると、おじさんが肉を串に刺して焼いているところだった。
「おじさん、これ何?」
僕は指をさして言う。
「おう、これはラビーの肉だ」
「ラビー?」
「知らないのか? ラビーはここいらにいる魔物で低級の冒険者でも狩れるやつさ。肉はジューシーで噛みごたえのいい肉だ。買っていくかい? 一本鉄貨二枚だ」
「うん、三本下さい」
そう言って鉄貨を六枚渡し、肉を三本貰う。
齧り付いてみると肉汁が口の中にジュワっとあふれ出していく。ピリリとしたタレも肉に合っていてとてもおいしい。
「おじさん、とってもおいしいです」
「おう、そうだろ。いつでもここでしているからいつでも来いよ」
僕の言葉に嬉しそうな顔をして宣伝する。
僕は肉を食べながら冒険者ギルドを目指す。
そこから少し歩くと剣と盾の看板がぶら下がっている建物が見えてきた。
お、あれかな。剣と盾が見えるしあれだろうな。
中に入ると想像とは違い人があまりいなかった。
人で賑わっていると思ったんだけどな……。
ギルドの中は受付が何ヶ所かあり、依頼を受けるのであろう人が並んでいる。木製の簡素なテーブルと椅子がいくつか設置され、昼間から酒を飲んでいる人が数人いる。二階はよく見えないが一階と同様なところだろう。
一階の人達は僕が入った途端に話をやめ、一斉に僕の方を見た。
う、何か見られてる……。
僕は急いで空いている受付の女性のところへ行き声をかける。
受付を任されているだけあってきれいな人ばかりだ。エルフや猫の獣人、普通に人と種族は違うが皆容姿が整っている。僕はその中で一番近くの髪を後ろで留めている猫の獣人の受付嬢の元へ行く。
「あの~、ここが冒険者ギルドで間違いないですか?」
「間違いないですよ。ご依頼ですか?」
僕の姿を見て依頼に来た子供だと思ったのだろう。
「いえ、登録に来たんです」
「え~と、登録ですか? 危険だけどいいの?」
最後の部分は個人的に僕のことを心配してくれたようだ。
「はい、大丈夫です。それなりに魔法も使えますから」
「そう? わかりました。では初めに銀貨三枚収めてもらいます。……持ってる?」
受付嬢が持っているか聞いてくる。
「持ってます。……はい」
銀貨を三枚取り出し手渡す。
すると、後ろから唐突に声が飛んでくる。
「がははは! マジかあいつ! お前みたいなチビが来るところじゃねえぞ! ここは!」
「おいおい、からかい過ぎだ。ビビって固まっちまってるじゃねーか! ぎゃははは」
「坊主、ここに来るのがちーっとばかりはえんじゃねえか。そんな体躯で冒険者が務まんのか」
「魔法が使えるからって役に立たねえと意味ねえぞ! 小僧!」
「冒険するところは女の子のスカートの中か!」
「がははは! そらーいいぜ! 冒険のしがいがあるな!」
一階に居た冒険者たちに暴言を吐かれる。
暴言を吐かれ過去のことを思い出してしまうが、六年前よりも強くなったんだ、変わったんだ、という気持ちで登録を続ける。
大体なんだよ! 女のスカートの中って! 古すぎんだろ!
「大丈夫? 登録続ける?」
僕のことを心から心配してくれる。
この人は信用できそうだ。
「続けます」
ここで逃げたら今までと同じだ。
「わかったわ。では、こちらにお名前、性別、年齢、種族、メインとなる武器か魔法の記入をお願いします。代筆はいりますか?」
「いえ、書けるので大丈夫です」
ロトルさんに貰った異世界の知識の中に入っていたことだ
…………。
書き終えた紙を受付嬢に返す。
「お名前はシュンさん、年齢は十一歳、種族は人族、メインは魔法ですね。サブが剣、と。使える魔法はなんですか?」
「火と風がメインですかね……」
「わかりました」
返事を聞いて書き込んでいく。
「それでは次にギルドの説明をさせていただきます」
「わかりました」
「冒険者ギルドは冒険者に適切な依頼を斡旋するための場所です。冒険者の方はギルドに登録して依頼を受けます。それは依頼主とのトラブルを防ぐため等いろいろな理由がありますが、一番の理由として冒険者の管理です。それは身の丈に合っていない依頼に行き、死んでもらっては困まるからです」
受付嬢は一息つく。
「適切な依頼を斡旋するために冒険者はランクによって分けられます。ランクはF~SSまであります。世界にSSランクの人は五人います。この国にもいらっしゃいますが、どこにおられるのかわからなくなっています。シュンさんはFランクから始まります。はじめは街の中と薬草詰みぐらいの依頼しか受けられませんが、Eランクに上がられますと外で討伐の依頼が受けられるようになります。ランクを上げるためには自身のランクの依頼を十回こなし尚且つ、連続で五回成功させてもらいます。その後、試験に合格することで上がれます。依頼は自分と同ランクまでしか受けられません。通常依頼は常時、討伐・撃退、採取、護衛等に分かれています。依頼に失敗した場合、違約金として報酬の二割をいただきます。個人依頼は指名、緊急依頼があり、基本的に断ることができません。こちらは失敗しても、特にこれといった罰則はありません」
二割はきついな……。なるべく失敗しないように低級の物をやっていこう。
「ランクが上がりますと冒険者系列の店や宿の値段が割引されます。冒険者ギルドでの買取もしています。他の店や商人等より金額が一、二割ほど下がってしまいますが金額が一定であるという利点もあります」
ふむ、要は買取の値段は下がるが、その差額分が冒険者の生活等に加わってくるのか。
「ここまでで何か質問はありますか?」
「いえ、ありません」
「それでは最後に魔力量を測りますのでこの水晶に触ってください」
やっぱり測るのか。どのくらいになったかな?
部屋の中には師匠が見せてくれたものより一回り大きい水晶と差込口がある。
「この水晶は触れた者の魔力量と適性魔法を測ってくれます。測った記録はすぐさまギルドカードに登録されます」
そうなの? じゃ安心だね。
加護はどうなってるんだろう?
「一ついいですか。加護はどうなってるんですか?」
「加護持ちであった場合でも同様です。詳しいことは教会に行かれるとわかると思います」
「ありがとうございます」
そう言って受付嬢は差込口にギルドカードを差し込んだ。
「それでは、水晶に触ってください」
「はい」
僕は少し期待をして、水晶に触る。
ん? 何も起きないぞ? 光は? 虹色は?
時間が経っても何も起きず不安になっていく。
「はい、いいですよ。手を放してください」
僕の不安を他所に手を放してくれという。
え? なぜ? 僕の魔力なくなった?
「あ、あの、光は出ないんですか?」
「光ですか? 出ませんよ。これは最新式です。以前までの物は光っていましたが、個人の情報を守るということで光を発さないようになりました」
「あ、そうなんですか」
よ、よかったー。……師匠も言っていた気がする。
「では、こちらがギルドカードとなります。このカードは持ち主の魔力に反応するようになっています。個人情報を隠すためです。基本的に名前、性別、種族、適性属性のみを見せます。紛失されてしまった場合、再発行には小金貨一枚払ってもらいます」
受付嬢はそう言って白色のカードを差し出してくる。
無くさないようにしないといけないな。
カードにはいろんな項目がのっていた。
名前;シュン
性別;男
年齢;十一
種族;人間
メイン;魔法 (火、風)
ランク;F
魔力量;五十万
力;C
魔力;SS
防御;B
運;A (神の加護)
属性魔法;火、水、風、地、焔、氷、雷、木、光、
闇、無、回復、召喚
加護;生命神、冥府神、メディ、運命神
加護魔法;聖域、暗黒、時空、???
称号;異界の魂、神々の寵児、最高神メディの寵愛、神子、神に守られし者、絶望を知る者
ちょっと待って! 神様増えてるよ! 運命神って誰! 運が上がるのはうれしいけどさ!
魔力量は五十万か……普通はどのくらいなんだ?魔力は技術のことだね。
体力の項目はないんだな。ま、測ることはできないか……。
称号は……僕をどうしたいの。
…………もう疲れて、突っ込む気もしないよ。
「カードの色はランクが上がっていくと変わります。項目を隠すためには隠したいと念じれば隠せます」
え? マジ?
絶対に人には見せられないな……。
とりあえず、言われたように名前、性別、種族、魔法は火と風以外は隠してっと。
消えろ~、消えろ~。……消えない……違った。
隠れろ~、隠れろ~。…………隠れた。
「できました」
「これでギルドの説明と登録の完了です。依頼はそちらのクエストボードから紙を取り、受付に持ってきてくだされば許可を出します」
笑顔でそう締める。
「普通の魔力量はどのくらいなのですか?」
「普通の魔力量は個人差がありますがBランク、一流の仲間入りをする魔法使いならば大体五万~七万といったところです」
僕は…………その人達の十倍なのか……。
どんだけ! ……上げたのは自分じゃん!
「もしかして、少なかったの?」
目線を合わせて、少し心配して様子で言ってくる。
そうじゃないんだ! でも言えない。
「あはは……大丈夫。頑張ろうかなって」
「そう? 私の名前はターニャよ。これからはよろしくね」
あ、かわいい。ターニャさんっていうのか。
「はい、シュンです。よろしくお願いします」
「知っているわ。これから頑張って」
そうですね。さっき聞かれましたね。
「おい! 小僧! 誰が気安くターニャさんとしゃべっていいと言ったーッ!」
後ろから周囲を威圧するような怒鳴り声が聞こえてきた。
え? 許可がいるの? ギルドの規則にそんなのあったかな?
「えっとー、許可がいるんですか?」
ターニャさんに聞いてみる。
ターニャさんは一瞬固まって口を開く。
「いりません。いつでも話しかけてください」
「ありがとうございます。――いらないそうですよ」
僕がそう言うと怒鳴ってきた人は口を開けて呆けた表情になる。
今のうちに出て行こう。
「ターニャさん、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げてギルドを出て行く。
後ろから先ほどよりも怒りを含んだ声が聞こえてくるが気にしてられない。
今日の宿を探しに行かないといけないしな。
とりあえず、ヒュードさんのところに行ってみようかな。
確かヒュードさんはこっちの方へ行ったはず。
こちら側にもおいしそうなものがたくさんある。
リンゴのようなアプルの実、バナナのようなバナバ等の果物や見たこともない料理等がずらりと並んでいる。
これもあれもそれもどれもおいしそうだ。
ヒュードさんが何の商人か聞いておけばよかったな。
どこかなぁ……。誰か知ってそうな人は……。
「あれ? シュン君じゃないか。どうしたんだい?」
僕がキョロキョロしていると横から呼ぶ声が聞こえてきた。
「あ、ヒュードさん。よかったー」
無事に会えてよかった。こんなところで迷子になったら寂しくて死んじゃうよ……。
「何かあったのかい? 冒険者の登録は?」
「無事に登録できました。でも、その後に絡まれまして、宿の確認ができなかったんです」
「絡まれたの! 大丈夫かい? 君が強いのは知っているけど……」
「大丈夫です。隙をついて逃げてきたんで……」
「そうなんだ……」
ヒュードさんも心配してくれる。ターニャさんと同じで信用できそうだな。……これは運命神の加護のおかげかな……。
「宿を探してるんだったね。宿はこの先をずっと行くと“街の旨味亭”ってとこがあるよ。そこの料理は絶品なんだ。家賃の方も安くてありがたいよ」
“街の旨味亭”か……どこかで聞いたような名前だな。
「ありがとうございます。この先を真っ直ぐですね」
「僕は大体ここに居るからね。また、何かあったら来てね」
そう言ってヒュードさんと別れる。
言われた通りに真っ直ぐ行くと店がなくなり始め宿が多くなってきた。
ふむ、このあたりだな。
お、なんだか見覚えのある看板を発見。確か、数日前に村で見たね。
看板は街に囲まれた料理だね……。
店の中に入ってみよう。
中は“森林の旨味亭”より広くて宿がメインのようだ。基本的なことは同じようだな。
「いらっしゃい、食事かい、泊まりかい。泊まりなら朝夕食事付きで銅貨五枚だよ。一週間泊まるなら銀貨三枚だよ」
カウンターから恰幅のいい女将さんが聞いてきた。
……中の人は違うみたいだな。
「一週間泊まります。食事もお願いします」
そう言って銀貨三枚渡す。
「はいよ。……これ鍵ね。無くさないようにしっかり管理するんだよ。……どうしたんだい?」
「……“森林の旨味亭”って知っていますか?」
「……どこで知ったんだい?」
女将さんは少し怪しんだ感じで問うてきた。
「僕はそこの出身? の様なものなんです。“森林の旨味亭”では食べたり習ったりしていました」
「君がそうなのかい! 噂の本人に会えるとは思っていなかったよ! 食事は豪華にって旦那に伝えとくよ!」
「そうかい、そうかい!」と頷きながら食事のランクを上げてくれた。
ギルドランクより先に上がってしまったか。
「えっと、どういう意味ですか?」
「聞いてないのかい? “旨味亭”の名前は親父さんの元で修行をして、独り立ちしたものしか付けちゃあいけないものなのさ!」
……なにそれ。初めて聞いたんですけどー。
「君のことはね、親父さんの手紙が来て知ったのさ。『そっちに行くからいいものを食わせてやれ』ってね。詳しいことは旦那に聞いとくれ」
おやっさん何やらありがとうございます。
森であろう方向へ軽く頭るを下げる。
「朝食は大体六時から九時まで、夕食は五時から十時までだよ」
食事時間があるのか。
「それと、旦那にも何か教えてやってくれないかい?」
料理を作る人は僕の仲間だ。
そんなもん答えは決まってる。
「いいですよ。僕は冒険者なのであまり時間はありませんけど」
「冒険者かい。若いのに苦労してるんだね。時間があるときだけでいいよ。私の名前はバネッサ」
女将さんはバネッサと名乗って微笑んだ。
「僕はシュンです。~っ、よろしくお願いします」
疲れが出てきたのかあくびが出そうになる。
「はい、よろしくね。眠たいんなら寝ておいで、夕食の時間に呼んであげるよ」
ありがたい申し出なのでお願いしておく。
今日はいいことばかりだったな。……一部を除いて。
部屋は……ここかな。
部屋の中はベッドと戸棚などか。風呂はないようだな。まあ、洗浄魔法できれいになるからいいか。
いずれはお風呂付の家を持ちたいな。
今日は疲れたな。夕食になったらいいに来てくれるって言ってたから、一眠りしようと。




