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魔族との邂逅

明日から英雄の方の投稿をします。

といっても五話もない閑話ですが。

「はい、魔大陸に到着」

「シュン君の魔法にかかれば一瞬だね」


 冬休みに入って準備を整えた僕達は、数日前から話し合いをしていたゴルドニアさんとレオンシオ団長以下数名の騎士達と共に魔大陸へ足を踏み入れた。

 ツェルやフォロンもいて、ロロとエアリも魔大陸に到着したから自由に狩りをさせるつもりだ。


 方法はいたって簡単明瞭で、転移の上級版時空魔法の次元を繋ぐゲートを使っただけ。

 時間があるうちに、夜中フィノも眠った後に一時間ほど全速で飛んで魔大陸に行っていたんだ。


 裏側にあるってわけじゃないけど、魔大陸はかなり遠かった。

 魔王の転移や翼のある魔族や魔力が多くなかったらこちらには来れなかっただろう。


 まあ、いくつも島があったから大戦時はその島に拠点とか持ってたんだと思うよ。

 転移装置とかの古代技術とかあったりしてね。


「もう! 危ない事しないで! 我儘言わなかったとは言えないけど、シュン君にもしものことがあったら……」


 ぅ……!

 今回ばかりは全面的に僕が悪い。


「ごめん。隠し事しないって言ったのに……ごめんよ」


 僕のバッカ野郎!

 自分から嫌われるようなことしてどうすんの!

 約束したじゃないか!


「で、でも、連れて行くのは危険だったからすぐに逃げることのできる一人で言ったんだ」


 やっぱり誰かと一緒に転移するというのは時間がかかる。

 といっても一秒もないぐらいだけど、転移は頻繁に使う魔法じゃないから失敗もするかもしれないと思ってるんだ。


「はぁ~、仕方ないか。シュン君だもんね」

「うん。僕だから」


 意味分からんけど。


「ふふふ、私のことを思ってくれてるって思っておく」


 よし!

 許して貰ったぞ!


「ごほん。お二人さん、目の前でいちゃつかれるのは構いませんが、場所を考えてください」


 ビクリ!


 後ろを向くと、そこには気まずそうにしているレオンシオ団長と、何か盛り上がってる女性騎士達がいた。


「あ、あはは……。すぐに退くよ」

「そう、だね」


 フィノもちょっと気まずそうに僕は退いて、皆が魔大陸に降り立ってからゲートを閉じた。




「シュン殿、ここは魔大陸のどこでしょうか?」


 レオンシオ団長は基本僕には殿付けだ。


「ここは魔大陸の南東に位置するのかな。地図が無いのでわかり難いけど、確かこの道を進んでいくとバリアル――知り合いのいる村があるはずだよ」

「それが話に聞いていた竜魔族の御仁ですな。最終確認しますが、普通に接していれば特に問題はないのですね?」


 竜魔族は魔族の中でも一目置かれている存在だ。

 レオンシオ団長達が緊張するのもわかる。

 本人も言ってたけど、竜魔族は気性が荒く戦闘狂で、戦争では最前線にいた。

 クロスさんに見せてもらった文献でも竜魔族の恐ろしさが淡々と綴られてた。


 でも、僕はバリアルの性格とか知ってるし、多分書き手の恐怖も込められてるんだと思う。

 竜人族と同じで見た目だけで威圧感があるからね。

 さすがは竜の血筋ってところだね。


 僕の見立てではレオンシオ団長とバリアル(通常状態)の戦闘能力はどっこいだ。

 バーリスは……多分フィノの方が強いと思うけど、戦い方が違うからね。

 比べるのはどうかと思うわけで、それに二人を戦わせるだなんてとんでもない!


「気を付けるとすると価値観の違いだったりだけど、その辺りは伝えてあるよ。後は普通にしてれば問題はないかな」

「本当ですか? まあ、何か起きればシュン殿が力で解決するということで」

「そうそう……え?」


 いや、まあいいけどさ。

 バリアルと引き分けたというのは伝わってるし、早々喧嘩は売って来ないと思う。

 ただ、何か不安なんだよねぇ。


「ま、なるようになるしかない。相手も人間だと思っていれば大丈夫」

「シュン君が大丈夫だっていうのなら私は信じるよ。でも、怖いから離れないけどね」


 フィノもこういってるし、騎士達が逃げるとか有り得ないよね。

 さ、バリアルのいる村へ行くとしよう。






「それにしても、魔大陸というからどのような所かと思えば……少し怪しい森と変わらんな」


 レオンシオ団長が僕達の前を歩きながらそう言う。


 ここは魔大陸の街道とでも言えばいいのか、地肌が出ている道だ。

 道の傍は色の濃い草木が生え、植物も見たことが無い物ばかりだけど、食人花や食人木等はない。

 聞いた話ではそういった魔物は奥地に住み、魔大陸の魔物がいくら強くともスライムとかは存在する。


 現に魔力感知には点々と弱い魔物の反応がある。

 ただ、中にはDランクを超える反応もあり、あちらの大陸と同じと思っていてはいけないってところかな。


 因みにだけど、時間の調整はしてるから、魔大陸だと午前で、あちらは三時ぐらいかな。

 時差ボケしないようにしなきゃね。


「森の中に入れば異様な物が多いし、魔物も強くなるから気を付けてね。でも、人が住んでる時点で暮らしやすくなってるはずで、ここ数年は開発が進んでると思うからね」


 特にこの一年ばかりは顕著だろう。

 問題が無いわけではないと言っていたけど、バリアルは楽しそうだった。

 冒険者というシステムを取り入れて暴れられるようになったんだろう。


「それもそうですね。まあ、想像より良い事に影響はありません。これも長いで捻じれて伝わったり、人の想像というものだったのでしょう」


 多分、こっちから魔大陸に行った人は少ないのではないだろうか。

 勇者は転移に近い魔法が使えるとして、それが無ければ魔大陸に行けないからね。

 海は僕でも倒せなさそうな魔物とかいるみたいだし。


 いや、時間を掛けたら倒せるよ?

 時空魔法でちょんぱ出来るしさ。

 でも、陸地より圧倒的に数が多いからね。


 ま、海に行かなければいい話で、今はどうでもいいでしょ。


「人の想像は怖いからね。最近はいいけど、ちょっと前までそうだったから良く分かるよ」


 僕がそう頷くと、フィノが心配そうな顔になる。


「大丈夫だって。最近は楽しいし、フィノや義父さんに義母さんに義兄さん、シリウリード君もいる。今までとは僕も変わってきたからね」

「なら、気にしない。でも、シュン君が悲しんでいる時に一緒に居られないのは嫌だなぁ」

「仕方ないよ。場所が違うんだし、いろいろとあったんだもん」


 世界が違うのだから仕方ないだろう。

 それに地球に居たらフィノと僕は関われなかったと思う。


 考えただけでも陥れた神とやらに腹が立つ。

 一言ぐらい文句を言ってやりたいって気持ちはあるけど、おかげでフィノに会えたからそこまではないかも。


「ま、今を楽しんで、その元凶を倒せばいいよ。新たな情報も手に入ったしね」


 すでにメディさん達から得た情報は各国にリークする手はずとなっている。

 ただ、まだ半信半疑の面が強いからね。

 四大大国が協力して初めて危機とわかるってところだろう。


 何せ最後の国聖王国には神託が降りる予定なんだからね。

 これは神様自身が何か起きると告げる様な物だ。

 まさに神託なんだよ。


「団長、村の様な物が向えてきました」


 先頭にいた騎士が報告する。

 多分そこが竜魔族の村だろうね。


 少しだけ感知範囲を広げると強い反応が幾つもあるし。


 僕はレオンシオ団長に頷いて答え、フィノと共に準備を始める。

 準備と言ってもあいさつ程度だけど。






「久しぶりだな、シロ。いや、シュンと呼ぶべきか」


 村の前にバリアル達竜魔族数人が待ち構えていて、開口一番にバリアルが務めてにこやかに――結構怖いけど――握手を求めてきた。


「もうシロは止めた様なものかな? 久しぶりだね、バリアル」


 少し痛いけど、手加減してくれている。


 背後の竜魔族の人達が騎士達と睨みあってるけど、険悪って感じではない。

 お互いに目踏みして、信用できるか警戒って感じだね。

 まあ、最初は仕方ない。


「で、そっちの女がお前のコレか」


 何でそれを知っているんだ!?

 合ってるけど小指を立てるんじゃない!

 その仕草は意外に恥ずかしいんだよ!


「や、やめてよ! こほん、こちらは僕の婚約者で、王国のお姫様だよ」

「フィノリアと言います。シュン君がお世話になったようで、これからは仲良くできるよう努めていきたいと思います」

「あ、ああ、こちらこそよろしく頼む。ただ、過激な者もいるからな。シュンの傍から離れない方が良いだろう」

「まあ、当たり前です」


 バリアルが怖気づいただと……!

 だけど、バリアルも受け答えを学んだ様で、フィノから幸せオーラが出ている。


「お前達、何時までいがみ合っている! あちらは何もしていないんだぞ? 過去の遺恨はあるかもしれんが、それはどうしようもないと決まっただろうが」

『ぐっ……バリアル様、申し訳ありません』


 まあ、僕達からするとよくわからないところがあるからね。

 でも、あっちは長寿で知ってるから、そこに原因がね。


 少し威圧され委縮した竜魔族の戦士達は、渋々下がった。

 まあ、まだ目は睨んでるけど仕方ないだろう。


「久しぶりじゃな。バリアルよ、儂のことを覚えておるか?」


 そこにゴルドニアさんが声を掛ける。

 知り合いでもおかしくないね。


「ん? エルフか……思い出せんが……あー、いや、最前線で魔法をぶっ放していた奴か? 後衛から女エルフの支援を受けて?」

「多分そのエルフじゃな。改めて名乗らせてもらおうかの、儂の名はゴルドニアじゃ。今回はダークエルフとの話し合いに来させてもらった」


 そう言うと竜魔族達の間に緊張の糸が張り詰めた。


「なに、今回は喧嘩を売りに来たわけじゃないわい。現に一人であろう」

「それは分かっているが、エルフとダークエルフの仲の悪さはこちらでも有名だからな」

「それは儂もわかっておる。今回は族長フレデリア様の代理じゃ。今までの侘びと世界樹への帰還、そして協力するために頭を下げに来たのじゃ」


 その言葉に信じられない者を見たかのような顔になる面々。

 でも、知らされているのだろう、すぐに厳つい顔に戻し頷いた。


「そうか……。後程魔王陛下にお会いしてもらい、その後ダークエルフの下に案内しよう。最近ピリピリとしているが、それはいつものことだ。無用な争いはしないでくれよ?」

「分かっておる。衰えた儂が何かできるとは思えんしのぅ。今の状況で余計な確執を生もうとも思わん」


 最悪死のうともな、とゴルドニアさんが言う。

 僕達は眉を顰めてしまうけど、ゴルドニアさんの覚悟は変えられない。

 それぐらいしないとダークエルフとの仲を纏められないからだ。


 勿論僕達はゴルドニアさんを死なせないよう護る。


「分かっているのなら構わん。俺達も邪魔者がいるんでな、そっちの対処で忙しいんだ」


 多分反魔王派だろうね。


「これ以上の立ち話はいらんだろう。まずは俺の屋敷へと来い。魔大陸の料理を振る舞ってやる。毒や魔族以外が食えないような物はないから安心しろ」

「それぐらい分かってるよ。今度は僕から料理を振る舞うよ」

「私も手伝うね」

「うむ、楽しみにしておこう」


 料理による交友は珍しい事じゃないはずだ。






 出された料理を見て騎士の誰かが「虫じゃなかった……」と言っていた。

 勿論レオンシオ団長に拳骨を落とされたけど。


 まあ、言っては悪いけど竜は爬虫類だよね?

 うん、それで察してほしい。


「魔大陸の料理も捨てたもんじゃないな。というより魔力が濃いからこっちの方が美味しいかもしれん」

「そうなのか? 俺はあっちに何度か行くが、料理まで口にしたことが無かったからな。初めて知った」

「まあ、偶に食べるシュン殿の料理は美味しいと思う。だが、食材自体の味というか旨味が違う」

「ほほう……。これはゴブリンやオークを褒めてやらねば。あと、魔王陛下にもお伝えがいるな」


 レオンシオ団長とバリアルは何やら僕が出した酒で意気投合し、料理に舌鼓を打ちながら他愛無い話をしている。

 先ほどの失礼な発言をした騎士は罰として率先して魔族と交流を持つことになり、何故か現れたバーリスに話しかけ殴られていた。


 まあ、掛け声が「か~のじょ、俺と話さない?」だったら殴られてもおかしくない。

 あのバーリスだから。


 そもそも価値観も違うわけで、多分軟弱だとか思われたのか、それとも僕が連れてきたから強いと思ったのか、少なくともそこまで怒ったわけじゃないのは分かってる。

 でも、皆があんな騎士みたいだと思われたら困るということで、先ほどまで必死に竜魔族と騎士は話している。


「あれは例外だな。俺達ですらあいつの動きは読めなかった」

「そうなのか?」

「当たり前だろう? 皆があんな性格だったら国が終わっちまうよ」

「それもそうか。だが、あいつは弱くないか? バーリス様は強いからわかるが」


 目線の先には延びている騎士がいた。

 よくバーリスの鉄拳を食らって瘤一つで済んだものだ。

 いや、さっきレオンシオ団長にも拳骨食らってたから、もしかすると頭が石並に硬いのではないだろうか?


「そりゃあ癪だが、俺達とあんた等竜魔族を比べちゃあなんねえよ。まあ、俺達には俺達にしかできないこともあるがな」

「ほう、例えばなんだ?」

「まず魔法だな。竜魔族が竜人族に近いのなら、そこまで魔法は得意じゃないだろ?」

「そうそう。流石にエルフ族に勝てるとは言わないが、最近はシュン様のおかげで練度は上がってるんでな。でも、一人では勝てるとは思えん」

「私達だって見境なく襲うことなんてないわ。中には弱い竜魔族だっているし、魔法が得意な者もいるのよ? それに人族と違って個体数がかなり少ないもの」

「数で押されたらきついだろうな」

「そこで負けると言わないのがあれだよなぁ!」

「そりゃそうだろ?」


 そこで笑いが起きる。

 うん、あの騎士はそれなりに良いことをしたみたいだ。


「ふふふ、私はシュン君から魔法を教えてもらったの」

「ふ~ん、私は父も含めて死闘を繰り広げた仲だ。私以上に、しかも父とやり合えるのは魔王様以外知らない」

「ふふふ、私だってシュン君と戦えるよ。でも勝てないけどね。それは貴方も同じでしょう? バーリスさん」

「まあ、あの試合を見ていたのならわかるだろうな。だが、私はあれから驕ることなく父に稽古を付けてもらっている。今やればいい勝負が出来ると思うが。どうだろうか? フィノリアさん」


 背筋がゾクゾクとし、とっても居心地が悪いです。

 そろそろ現実に戻って来いってことですね、はい。

 嫌な予感はこれだったみたい。

 よく考えればこうなりそうだったんだよね。


 まあ、安心なのは竜魔族が強い相手を結婚する的な掟が無かったことだろう。

 これもよく考えれば弱いと結婚できないことになるし。


 ただ、強い者に惹かれる傾向があるみたいで、あれだね。

 分かると思うけど、フィノはすぐにバーリスを察知して、バーリスもフィノを察知して、現在僕がちびちびと箸を進めている両端で言い合ってるんだ。


 片方は笑みを浮かべてるけど寒くて、もう片方は冷静だけど燃えるようだ。

 僕はその境界線にいる。


「シュン君は私の為にいろんなことをしてくれたの。魔法や料理、救ってくれるし、とっても頼もしいのよ。王国も帝国もエルフもドワーフも全部シュン君のおかげ」

「シュンは私の治療もしてくれた。あれはアルラウネやピクシー達よりも凄いものだ。これからの魔族の架け橋にもなる」


 何か少しずつ僕を褒め称えるというのは自意識過剰かもしれないけど、話の趣旨が変わってきている気がする。


 いや、僕に関することは変わってないけど、どっちが知ってるか的な感じだ。

 怖くてとてもじゃないけど話しかけられない。


「お爺ちゃん! 俺にも魔法見せて!」

「私も私も!」

「待つんじゃ。お主達は力が強いんじゃから、おいぼれを急がしちゃいかん。これからはいろんな者と関わっていくのじゃからな」

『は~い!』


 ゴルドニアさんは子供達と遊んでいる。

 子供達と言ってもさすが竜の血を引いているというべきか、身体強化を施していないと体が悲鳴を上げているはず。


 でも、子供達とゴルドニアさんはわだかまりもないぐらいに笑みを浮かべている。

 子供達に罪はない、その言葉を体現しているようだ。


 ゴルドニアさん自身もいろいろと思う所があったみたいだし、どこかで憎しみの連鎖を断ち切らないといけない。

 魔族との確執も徐々に解明されているようだしね。


 まあ、その辺りは義父さん……じゃなくて、義兄さんや魔王に任せよう。

 その前に魔王の名前って何だろう?

 聞いてない気がするなぁ。


 ここは聞いておいた方が良いだろう。


「あ、あのさ、まお――」

「「シュン君、私の方が分かってるよね(だろ)?」」


 え、えぇー……。

 人が折角勇気を振り絞って声を掛けたのに、そこでそれ聞く? 聞いちゃうの?

 しかも僕話聞いてなかったんだけど……。


 や、僕が悪いけどね。

 本能が現実を見るなというから……。


 ええい!

 適当に答えればいいや。

 どうせ、質問の意味からどっちがより理解しているかってところだろう。


「優劣は付けられないよ。フィノにはフィノの良い所があって、バーリスにはバーリスの良い所がある。二人は僕との関わりも異なるからね。どっちが分かってるって言われても困るかなぁ、なんて」


 何か違う気もするけど、こんな感じだろう。

 あの短時間で話がすり替わるとも思えないしね。


「何かはぐらかされた気もするけど」


 ぐっ!


「そ、そんなわけないよ。まあ、何を言われても僕はフィノだけだ。下世話な話、僕は複数人を相手するほど人が出来てるわけじゃないし、不義理だと思う」

「だが、強ければそれ相応の物があると思うが」


 バーリスの言うこともわかる。

 王国でもその辺が強いからね。

 引退した高ランクの冒険者は奥さんが複数人いるみたいだし。


「確かにその考えが強いよ。でもね、僕はフィノ一人だけを愛したい。フィノが僕だけを見ていてくれるからね」

「う、うん……」


 そこで顔を赤くして、目を反らして、もじもじしてくれるのは大変うれしく思います!


「そうか……。なら仕方ないな。私も無理に言うつもりはないし」


 潔く引いてくれた。


「バーリスさんは、バーリスさん自身が人族であるシュン君とくっ付くことで友好であると見せようと思ったんでしょ?」

「うむ。私にはそれぐらいしか思い浮かばなかったからな。まあ、シュンは私を負かした存在だ。惹かれるというのは嘘ではない」


 な、何だって……!

 僕は仲良くしてればいいや程度にしか思ってなかったぞ。


 そこが甘い考えなんだろうなぁ。


「でも、シュン君とくっ付かなくても普通に仲良くしてればいいと思うよ。急な展開というのも厳しいと思うし、卑怯な言い方だけど寿命もあるしね」

「そういうが、フィノリアはシュンが取られたくないだけだろ?」

「ふふふ、そうとも言うね」


 これで一件落着だろう。

 フィノもバーリスも仲良くなれたみたいだし、そこまで好戦的じゃなかったようで安心だ。

 まあ、見た所竜魔族は女性の数も少ないみたいで、族長の娘と王族という立場でなんとなく話もあったんだろう。


 竜魔族は聞いた話では子供を産む時期があって、複数人生まれるらしい。

 ただ、その時期が短くて不安定らしく、竜の血筋でもあるからか一定個体以上増えない傾向もあるんだって。

 確かにエルフ以上に長寿の竜がバンバン繁殖してたら世界は竜だらけになるね。




「ところで、先ほどは私に何を聞こうとしていたんだ?」


 あ、聞いててくれたんだ。


「いや、まだ魔王の名前を聞いてなかったなって思って。あ、様付けの方が良いの?」

「様付けに関しては微妙な所だな。魔王というのはその時に一番強い者がなるからな。それに年を取っている者達は他種族が魔王と言ってもそういうものだと思っているところもある」


 理由は何となくわかる。

 争っていたのに相手を様付けで呼ぶとかどうなのってことだね。

 勇者が倒しに来て「覚悟! 魔王様!」とかいったら馬鹿みたいじゃん。


「でも、これからは友好、といきなり言わないも関わっていくんだから様付けはした方がいいと思う。まあ、シュン君はいつも通りで良いと思うよ」


 それ、どういう意味か少し解りかねるんだけど……。


「魔王陛下も変わっておられるからなぁ。多分その辺は好きなように呼んでほしいというと思う」


 ま、なるようになるってところだね。


「で、名前は?」

「ポムポム・チャン様だ」

「え? ぽ、ぽむぽむちゃん?」

「いや、ポムポム・チャン様だ」


 人の名前に文句を付けたりするのは失礼だからしないけど、その名前普通なの?


「魔王陛下は妖精族の突然変異と言うべきか、膨大な魔力を持って生まれた。だからと言って何も起きなかったが、分別の付かない子供が計り知れない魔力を持っていれば誰でも怖いだろ?」

「迫害はされなかったの?」

「ああ、魔族は強さこそだからな。恐怖は覚えるが歓迎した。ただ、魔王陛下はいろいろと変わっておられてな、魔族の在り方を良くしようとしたのもその辺りが関係する」


 まあ、その気持ちはわかる。

 僕とは違うけど、よそよそしくされたりしたら分かるんだよ。


「で、名前なんだが、あの名前は御自身で付けられた可愛らしく愛着心が持てるようにと考えた名前だ。子供達からはかなり人気な名前で、好かれている。魔族は名前が変わっているからな。変だとは思っても、妖精族なんかはそういった名前があったりする」


 まあ、ポムポムという名前はおかしくないと言われればおかしくない。

 キラキラネームとか、リンリンや寧々(ねね)って重ねる名前は前世でもあったしね。


 その後にチャンってついてるからおかしく感じるだけで。

 や、別に魔王がどうとかは思ってないよ?


「私が言ったのは黙っておいてくれよ」

「分かってるよ」

「うん」


 これで魔王の名前が分かった。

 後は様付けね。


 人となりはかなり良いみたいで、僕自身も少し会ってみたいと思っていた。

 後日そのポムポム魔王様と謁見して、魔族全体との話し合いがある。

 多分その時に反魔王派や過激派とも会うことになるんだろう。


 ま、僕はフィノを第一に護ることを考え、もしもの時は転移で逃げる。

 あとは王城にもあるんだけど魔法を使えなくする空間みたいなところは気を付けないといけない。

 フローリアさんからも注意を受けてるからね。




 今日は宴会の様な物でお開きとなり、僕達はバリアルの家でお世話になった。


 翌日魔王城を目指してバリアルと部下と共に移動を始める。

 彼らには悪いけど、今回は徒歩で移動ということになる。

 僕とフィノは良いけど、レオンシオ団長達は風魔法が使えない人がいるからね。

 僕が魔法で連れて行ってもいいけど、もしもを考えると危ないから徒歩ということになったんだ。


 まあ、魔王城は近いみたいだし、最悪僕だけ飛んで行って転移で連れて行けばいいんだけどね。


団長の口調が……。

もうちょっと威厳を出したいかもです。

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