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劇の発表

シュンは劇をするので、視点が三人称となっています。

 今日は文化祭本番だ。

 良く晴れていて秋にしては少し暑いけど、絶好の文化祭日和だ。


 ま、昨夜少し雨雲が上空にあったから散らしておいたんだけど。


 一昨日転移で王国に帰って義父さん達をこっちに連れてきていた。

 今はクラスごとの出し物を見る為に分かれているけど、義父さん達は魔法王と共に特別観覧席で見ているはずだ。


 連れてきたのは義父さんと義母さんとシリウリード君、義兄さんは泣きながら仕事だといっていた。

 それに加えて護衛のレオンシオさんと数人の騎士。今度魔大陸に行くメンバーで、転移に慣れておくという名目だね。

 で、精霊が僕とフィノに懐き、自分も見に行きたいのをさも仕方なさそうに言うアルヴィン。子供のエルフも連れてきた。

 皆観覧席で見ていると思う。

 アルカナさんは研究があるから渋々諦める、と生か死かの苦渋の決断をしていた。


 子供――アルヴィンも含める――達には大人しくすることを言い聞かせ、この日のために作った特別な魔道具を身に付けてもらっている。

 エルフは子供でも綺麗で可愛いからね、邪なことを考える人がいないとも限らない。

 悪意ある者が触れた時に警戒音が鳴り、それでも離さなかった場合相手を気絶させる電撃や状態異常を食らわせ、最終的にははめられた宝石が砕け、僕が気付く様になっている。

 宝石と僕の魔力が繋がってるんだ。


 これは悪意で相手を陥れる呪いを応用した、悪意ある者を近づけないようにするお守りだ。

 あと、何を食べても良いように状態異常に掛からないようになっている。


 義父さん達にも状態異常無効魔道具と結界を張る魔道具を渡してある。

 まあ、何も起きないと思うけど、これからはいろいろな場所に行くだろうから合って損はない。

 それにこの魔道具があれば温かい料理を口にできる。

 やっぱり他国に行くと気を付けないといけないからね。


 義兄さんには悪いと思うけど、試験的に作った映像の魔道具を使ってもらっている。

 ただ、映像が映るようになった完成第一作だから、そこまで良い物じゃない。

 画質は荒く音声はほとんどない、人の顔を特定するのも難しく、色も何百キロと離れている所に届けるから褪せて見える。

 僕はカメラとかの原理を知らないからね、光や液晶がどうのと言われても困るんだ。

 まあ、映像の魔道具が存在しているから数か月もあれば、どうにか普通に映る物に出来ると思う。


 それでも大分感謝されたけど。


 この魔道具は将来世界会議を開くために使われる大事なものだ。

 絶対に作り上げないといけないと思ってる。






 パチパチパチパチ……。


 次の発表クラスとして舞台裏にいる僕達の耳に、先ほどまで何か踊っていたクラスの観客の拍手の音が届く。

 どこか疲れているような、つまらない物を見たような音で、僕達に大丈夫なのかと不安の気持ちを抱かせる。


「あー、大丈夫なのか? 何か不安なんだけど……」

「もう、貧乏揺すりは止めなさいよ。アルは喋らないんだからいいでしょ」

「そういうけどよぉ。あの反応を見たら……あーもー!」

「煩い!」

「イタッ!」


 二人はいつも通りだ。

 でもアルの言う通り、どこか皆の顔は強張っている。

 勿論僕や僕の手を握っているフィノも同様だ。


「シュン君、大丈夫かな?」


 少し不安そうにフィノがそう訊ねて来る。


「大丈夫だよ。僕達は他のクラスと違うんだ。訓練中にあれだけ好評だったんだからさ、自信を持とうよ」


 フィノのセットされた髪を崩さないように撫で、いつものように微笑む。

 周りの生徒も僕の声を聴いて少し顔を上げる。


 こういう時は周りが落ち込むから引き摺られて落ち込むと聞いたことがある。

 逆に一人でも明るければそれに引っ張られるとかね。

 だから、僕も落ち込むわけにはいかないんだ。


「皆もさ、やれるだけやろうよ。別にこれを失敗したからといって死ぬわけじゃないし、皆はこれに自信があったんでしょ? なら、まだ見てない周りの評価に影響されたら駄目だよ」


 僕は今までかなり影響されてきたから、僕が言うのは少しおかしい気もするけど。


「シュン君の言うとおりよ。私達の劇はそこらのとは違うの。魔法も今までにない方法で使うし、ストーリーだって斬新だし、口付けもあるし、絶対に成功するわ。フィノちゃんも旦那がそう言ってるんだから頑張らないと!」

「だ、旦那?」

「そうでしょ?」


 いや、そうだけど……。

 何で皆興味が出て来るんだ?

 男子は睨んでくるし、女子はそわそわしてチラ見してくるし、鈍感じゃないから理由は分かるけど旦那はちょっと……。


「旦那様……。ちょっといいかも」


 いや、フィノは王族だよね?

 僕も旦那様って言われたくないとは言わないよ?

 勿論夫という意味の旦那様だけど。

 ご主人という意味はちょっと嫌かなぁ。


「じゃあ、フィノは奥様、かな?」

「お、奥様……!?」


 と、思ってたけど、今は皆をどんな形でも上を向かせるためにシャルに便乗する。

 フィノも満更ではないようだしね。


 ただ、奥様って僕が言うような言葉ではないよね。

 旦那様もだけど。

 やっぱり名前呼びか、あなたとおまえが良いと思う。

 でも、フィノにおまえと呼ぶのはちょっときついから名前呼びかな?


「ぐぐぐぅ~! 何だあのピンク色の空気は!」

「甘い! 甘すぎる! アイスに蜂蜜を掛けたぐらい甘い!」

「あ、それ美味しそうだな。でも確かに甘い!」


 アイスに蜂蜜か……バニラになら合いそうだ。


「いつものシュン様と違いますけど、何かいいですわ」

「お二人を眺めているだけでお腹いっぱいです。でも。良いですね」

「私の婚約者にも見習ってほしいかも」

「強くて、優しくて、頭が良くて、料理が出来て、面白いとか完璧じゃない。少しおバカな所もあるのが何とも言えません」


 皆僕の評価はそんなところなんだね。

 でも、頭が良いのは前世の知識があるからで、この身体のスペックが良いのはメディさん達のおかげだからね。

 顔とかはほとんど変わってないけど、強くなれたのも訓練や修行などの元を立たせばやっぱりメディさん達のおかげだ。

 それと僕が馬鹿なのは認めるけど、面白いのかな?


 そんなことを考えていると、僕達の番を告げるブザーの音が鳴った。


「さて、最初から逃げられないけど、皆覚悟を決めようか。これを乗り切れば後は祭りを楽しむだけ」

「私達は私達の練習の成果を見せつけましょう。シュン君曰く、観客は野菜だと思え、だそうです」


 なんだそれ、と笑い声を上げてるけど、実際そういうんだよ。

 無理な物は無理だけど、思うだけでも少し効果があるからね。

 南瓜が一番かな?


「緊張は解けたみたいだね。じゃ、皆頼むよ」

『おおお!』






 講堂に設置された幕が下り、いよいよシュン達の劇が始まる。

 特別観覧席で国王ローゼライとその妻アリスとシリウリードの三人。

 隣に詰まらなさそうに鼻をほじって頭を思いっ切り叩かれた、黒と紫を基準に少しゆったりとした包囲を身に纏った男性と、魔法が幾つも織り込まれた高級品のメイド服を着た、頭を叩いた無表情に近い冷徹な瞳の女性。


「い、痛いな~。馬鹿になったらどうする気だ?」

「大丈夫です。すでに手遅れですから」

「はぁ!? どういう意味だよ!」

「言葉の通り、クロス様は手遅れです。さすがのスーパーメイドである私でも頭のネジを戻すことは出来ません。一体どこに落とされたのでしょうか?」

「抜け落ちてんのかよ! せめて緩んでるにしろよな!」


 それでいいのか、と思わなくもない。


 男性の名前はクロス・フォン・スクワード。

 魔法王と呼ばれるガーラン魔法大国のトップだ。

 隣に座り頭を抱えているのは元メイドで、現在クロスの妻であるララだ。

 クロスは元々ガーランの下級貴族の出だが、冒険者となってその頭角を現し、その時にララというメイドを購入。その後一緒に冒険していく過程で愛? が芽生え、実力を買われたクロスが魔法王を引き受ける代わりにララと結婚を行ったというエピソードがある。

 王は世襲制ではなくほぼ実力指名制なので、誰と結婚しようが人格等に問題が無ければ許可される。


「すみません、内の者が」

「いえいえ、仲が宜しい様で羨ましいですよ。それに私達の娘と婚約者はもっとずれてますから」


 隣でくすくすと笑っていたアリアの言い草はどうなのだろうか。

 まあ、本当のことなので仕方ないだろうが。


「次がフィノリア王女と婚約者シュンの番だったな。シュンの噂は良く聞いているが、さて、何か面白い事でもしてくれるのだろうか」


 クロスは椅子に座り直し、肘掛に肘をついて眺める。


「ノールスウェイ学園長は楽しみにしておいてください、と言っていました。今までのとは変わったのが見れることでしょう」

「そうか? ま、見てみればわかるだろう。で、何をするんだ?」

「聞いた話では劇だと聞いている。いろいろと手が込んでいるようで、疲れているようだったな」

「ですが、自信満々の様子でしたよ。シルもそう思うでしょう?」


 眠そうに目を擦っていたシリウリードはビクリと身体を震わせ、アリアの方を向き笑みを作りながら頷く。


「はい、姉様と兄、様のことですからきっとやってくれます」

「そうよね。だから、しっかり見ましょうね」

「ごめんなさい」


 半分眠っていたのを見られていたのだと潔く謝る。


 まだ、シュンに対してシリウリードは思う所があるようだが、大分距離が近くなったようだ。

 嫌ってはいない様で、多分だが今まで優しくしてくれたフィノがぽっと出のシュンに取られて御立腹なのだろう。


「ぐぅ~……」


 アルヴィンはつまらないのか眠っており、子供エルフ達は一応物珍しさに起きてはいるが、既に興味を失くした様子で遊んでいた。




 と、そこにブザーの音が鳴り響き、緊張した様子の生徒が二人幕の下がったステージに横から出てきた。


『はいはい、お静かに~』


 男子生徒が努めてにこやかな笑みを浮かべ、大袈裟に両手を抑えるように振り拍手の音を止めさせる。


『こほん。今から行われるは美しさに狂った醜い母と、それに巻き込まれた絶世の美女である娘の愛の物語……』


 身振り手振りで身体を動かし観客を惹きつける女子生徒。

 男子も女子も絶世と愛の物語、この二つの単語に惹かれる。


『物語の名を、冬に空から降り積る綿、その美しさを象徴する雪の如き、【白雪姫】』

『とある国に生まれた白雪姫は、健気で美しく育ちました。母はその美しさを疎み、白雪姫の命を……』

『絶体絶命の危機に陥り、意識がなくなる呪いをかけられた白雪姫。そこに訪れるは見るからに高貴の出と分かる一人の男性……』


 呪いという単語にシリウリードが反応するが、アリアに手を繋がれ安心する。

 実際の母親ではないが、シリウリードを育てたのはアリアなのだ。

 シリウリードもアリアも家族全員が自分の子供だと思っている。


『さてさて、続きは私達の劇をご覧あれ』

『私達の(つたな)い演技ですが、どうか最後までご付き合いいただけますようお願いいたします』


 二人の生徒は頭を下げる。

 同時に興味を引かれた生徒達が拍手を行い、それに礼をするように笑みを浮かべる二人。


『『それでは演目【白雪姫】、開演いたしま~す!』』


 突如辺りが真っ暗となり、襲撃か! と騒がしくなりそうになるが、


『むか~しむかし――』


 何事もなかったかのように物語が始まり、この暗闇は演出なのだと気づかされる。

 まだ真っ暗だが、幕が上がり少しだけ何かが起きているのが分かった。


「これは面白そうだ。この暗闇は闇魔法のブラックアウトだろう」

「少し効果が違う所を見ると改良してあるようです」


 流石に気付いたようだ。

 笑みが浮かんでいるところを見ると、劇を見慣れているはずの彼らも興味を引かれたようだ。


『――ここは長きにわたって平和を保ってきた世界――』


 ナレーションに合わせて暗闇が晴れ、ステージが見えると同時に当たりの景色がねじ曲がり遠くに白亜の宮殿が見える下街に変わった。


「な、何だ!?」

「うおっ!? いつの間に外に出たんだ!?」

「ぶつかるッ……あれ? これ本物じゃないわ!」


 生徒達は興奮した様子で騒ぐが、すぐにこれが魔法だと見抜いた声が広がり、そわそわしながら周りで広がる光景に首を回す。


「何だ……この魔法は? 幻術、か? それとも転移ではないか」

「恐らく幻術でしょう。ですが、私達は魔法には掛かっていないようです。一体どのような原理で行っているのでしょうか」


 今回使用したのは闇魔法の幻術もそうだが、主に光魔法を使っている。

 だからこそ魔法に精通しているクロスでも見破ることが出来なかった。


「きゃーっ!」

「魔法だ!」

「シュン兄ちゃんかな?」


 エルフ達はやっと面白いことを見つけたとばかりに燥ぎ始める。

 アルヴィンは煩そうに寝返りを打ち、精霊は頭の上で呆れた様子で溜め息をつく恰好をとる。


『――とある国の王妃様は、いつものように願います』

『オオォォ……』


 そして、物語は進み、城の門が開くと同時に一瞬暗くなり、いきなり王妃役の少しきつい化粧を施したシャルが、怪しくぼんやりと光っている大きな鏡に向かって指を差すシーンに変わる。


 これは元々準備していたが、シャルと鏡等の小道具を光魔法で隠していただけだ。


『鏡よ鏡。この世界でいっ……ちばん美しいのは誰かしら? 勿論、この私よね?』


 誰かが思わず吹き出すが、興味が引かれているのだと理解できる。


『王妃様は、いつもの様に鏡の魔道具に質問します』


 すると、不気味な光が出始め、シャルの姿が映っていた鏡の面が渦を巻きながら不気味な顔となり、生徒達から声が上がる。


『それは貴方様でございます。そう、鏡が答えるのを、王妃様は心待ちにしています』


 シャルは大きく身振りをして演技を熟す。

 鏡に写った不気味な顔は再び渦を巻き、この世のものとは思えない低音と高音の混じった不思議な声で答えた。


『それは、貴方ではなく、貴方の娘、白雪姫にございます』

『え?』


 シャルは一瞬固まった後、鏡に詰問しヒステリックさを演技する。




「……これは、本当に生徒が考えたのか? いや、まずこの魔法は……」

「これを考えたのは私の息子だ。それに生徒達がアレンジを加えた物らしい。王妃役の子は娘と息子の友人だな」

「魔法に関してはシュン君が行っているのでしょう。これくらいなら朝飯前でしょうから」

「本当にシュンさんは凄いですね。聞いていた以上に素晴らしい実力と想像力をお持ちです。偶に違う魔法が見えるのは生徒が行っているのでしょうか」


 流石に技量の差や魔力の感知によってシュンではない生徒が魔法を使っているのを見破ったようだ。


「あ、また景色が変わった! 姉様だ! 母様、フィノ姉様だ!」

「あら、本当ね。珍しいドレスですけど、あれは動き易そうで羨ましいわ」

「とっても綺麗です」


 再び場が暗くなり、今度は城内の庭で寛いでいるフィノが現れた。

 場も城内となり、城の中に入ったことのない者達は目を丸くしている。


 シリウリードは目敏くフィノを見つけたが、傍にいる他の令嬢役や騎士役の生徒を目に映していない。

 騒ぐシリウリードを手で窘めたアリアも会話を中断し、目の前に見える生徒が着ているドレスに目を輝かせた。

 やはりペチコート風のドレスは重かったりするのだろう。


「あの服良いなぁ。私も着てみたーい」

「お姫様? フィノリアお姉ちゃんはお姫様だ!」

「何言ってるんだ! フィノリア様は王女様なんだぞ!」


 エルフの子供達は女の子を中心にうっとりとした表情を浮かべ、男の子はそれを見て騒ぐ。

 アルヴィンを起こそうとしていた精霊も劇の方に興味が引かれ、一向に起きる気配の無いアルヴィンを見放した様子で齧り付いていた。


 誰も止めないのはこの場にいる者が子供の燥ぎように和んでいるからだ。


「あれは王国のドレスではないのですか? 作りはメイド服に似ていますね」

「きっとシュンお兄ちゃんが作ったんだよ」

「シュン兄ちゃんは何でもできるからね」


 ララは自分の着ているメイド服を指で摘まみ、素材は違うようだが作り方は似ていると口にする。

 ララの着ているメイド服はドレスに近く、足首近くまで裾のあるスカート式だ。

 ただ厚手の布を使っているのか型崩れがし難く、フィノが着ているドレスは柔らかく薄手の布を重ねた作りとなっており、その辺りに動きの華麗さが見える。


「あれもシュンの手作りであっているだろう。我が国にシュンが手を貸した料理店がある。そこの料理は絶品で、週に一度は食べに行っているほどだ。今度クロス殿が来られた時はそこで食事でもどうだね?」

「ほう、シュンは魔法と裁縫以外に料理も出来るのか? いろいろと多芸な奴だな」

「まあ、あの子にも辛い過去がありますから。フィノのことを知ってでおいででしょうが、解決してくれたのもシュン君なのですよ」

「フィノリア王女の問題というと、一時期噂となっていた魔法が使えないというものですね。最近はシュンさんと同じく手練れだと聞きますから嘘かと思っていましたが」


 あれはあれで既にいい思い出となっているが、当時はかなり焦っていた問題だった。

 シュンがいなければどうなっていたことか、そう考えるだけで身震いするほどだという。


「その件はシュン兄様に感謝してます。……でも、フィノ姉様が……」

「ふふふ、シリウリード殿下はお姉さんのことが好きなのですね」

「うょっ!? そ、そんなことない! フィノ姉様はシュン、兄様しかないし……」


 心が浮かれてつい呟いてしまったシリウリード。

 ララの確信を突く様な言葉に変な声を上げて顔を真っ赤にして狼狽え、しどろもどろになりながら指を捏ね始めた。

 それを見てアリアやローゼライは困った笑みを浮かべている。

 多分気が付いていたのだろう。

 クロスはにやついた笑みを浮かべ、その気持ちも分からなくもない、とそのライバルであるシュンに期待度が高まる。




『暗殺者は白雪姫の心に触れ、白雪姫を深き森へ逃がしました。

 暗殺者も今の王妃様に思う所があり、何の罪もない白雪姫に同情したのです。

 王妃様には白雪姫を殺したと嘘を付き、自分はその場から消えてしまいました。

 白雪姫と接することで、その道から足を洗ったのです』


 物語だからこそあり得る話だ。


 フィノにシュンが話した時と同様に観客は物語に引き込まれ、固唾を飲んで成り行きを見守っている。


 暗殺者であるレンがフライによって消えると、フィノはドレスの裾を軽く持ち上げ、視点の変わった深い森の中へと足を進ませる。

 実際に歩いているわけではなく、その場の足踏みに合わせてシュンが幻術で景色の方を動かしているのだ。


 景色が浅い森の中から深い森へ変わり、木漏れ日が差す森で足を止め、フィノは疲れた様子を演技する。


『もう、無理……はぁ』


 そこからゆっくりと場面が変わり、フィノが疲れて倒れそうになると目の前の森が晴れ、綺麗な花が周りに咲く家が見えてきた。

 疲れ切っているフィノはその中へ入り、妖精役の生徒と邂逅する。




「は? あれはなんだ? どうなってるんだ? 小さくなる魔法なんてあったか?」

「あれも幻術でしょうか? 魔力は感じますが、動きが滑らかすぎます」


 クロスは目を擦りながら白雪姫の周りを飛んでいる妖精役の生徒を見る。

 魔法に精通しているからこそ不思議で、ララも頬に手を当ててそのやり方を模索していた。

 ローゼライ達はまたシュンが何かしたのだろうと考え、驚きもせず慣れたものだ。


「ちっさい。囲まれているフィノ姉様も綺麗だなぁ」


 シリウリードはマイペースに劇を楽しんでいた。

 ただ、その目はフィノしか映していない。


「妖精? 精霊とは違うの?」

「う~ん、どうなんだろう?」

『……?』


 精霊は今のところ姿を現しているが、話すことは出来ない様で整理絵自身も首を傾げている。

 ただ、同じような存在に興味津々だ。


 どうやら驚かせるという目標は達成しているようだ。




『白雪姫、私達が出掛けている間は誰も家に入れちゃだめだよ?』

『ダメダメ!』

『この家は魔法が掛けられていて感知できないようになっている。でも、白雪姫が外に出るとわっるーい王妃に見つかっちゃうからね』

『わっるーいわっるーい!』


 妖精役の生徒が消え、白雪姫は部屋の掃除などを始める。

 観客である生徒が王女に掃除がどうのと喚くが、周りの生徒に睨まれ静かになる。


『白雪姫は妖精が帰って来るのを待ちます。

 ですが、掃除が終わった今、やることが無く暇で暇で仕方ありません。

 そんなところに開いている窓の近くの木に一羽の小鳥が止まり、白雪姫はその小鳥につられ窓の外に身を乗り出してしまいました』


 場面が二分し、鏡とシャルが映し出される。


 同時にスポットライトも照らされ、魔法の使い方に感嘆の声を漏らすクロス達。

 やはりこういった使い方をしたことが無く、良いインスピレーションとなっていた。


 そして、あの時と同じように質問をした。


『鏡よ鏡。この世界でいっ……ちばん美しいのは誰かしら? 勿論、この私よね?』

『何度となく繰り返される王妃様の質問。

 自分より美しい白雪姫が消えた今、この時間がとても幸せでした。

 ですが、今回だけは違います』


 鏡は怪しい光を発し、不気味な顔を作り出す。


『それは、山を越えた向こう側にある森の中、七人の妖精の家にいる白雪姫にございます』


 そして、同時に雷のエフェクトが鳴り響き、観客は悲鳴を上げる。

 片方はほのぼのと小鳥と戯れているのがシュールだ。




「これは、また……」


 このような幻術の使い方はしない為、クロスは言葉を無くす。


「この幻術は闇魔法ですね。今掛かっているのが分かります」


 これは生徒による魔法なので、シュンが行っている幻術とは少しやり方が異なる。

 ララはその違いに敏感に感じ取ったのだ。

 それでもその幻術を解くことはない。




『王妃様は変装し、鏡が告げた山の向こう側にある森の家に行きました。

 その手には一口食べただけで永遠に目を覚ますことのない呪いが掛けられたアプルの実があります』


 シャル側が一度暗くなった後老婆の扮装に変貌したシャルが現れ、フィノの時と同じように足踏みをし、それに合わせて幻術が変わっていく。

 そして、小鳥と戯れているフィノ側の幻術と一致すると、シャルは薄気味悪い笑い声を上げながら、アプルの実を一つ手に持ち近付いて行く。


「フィノ姉様が! そんなもの食べたら……!」


 シリウリードが悲鳴のような声を上げる。

 彼もまた呪いに苦い思い出があり、ヒステリックになっていた。


「シル、安心しなさい。これは劇なのよ」

「わ、分かってますけど! 呪いなんです!」

「シルはフィノが呪いを掛けられてあの子が黙っていると思うのかい? きっと黙っていないと思うぞ」

「シュン、兄様ですか」


 その思いは観客全員が同じで、今まさにシャルから受け取ったアプルの実に齧りついた。

 知らない人から貰った物を食べるのはどうかと思うが、そこは劇だから仕方ない。


『あぁ……何と厭らしい王妃様なのでしょうか。

 自分の美貌の為なら何でもする卑劣な王妃様。

 白雪姫は一口齧るなり、糸が切れたように力なく倒れました。

 肌の色も白くなり、息も引き取ったのか呼吸もしていません。

 二度と瞼を開けないのです』


 ナレーション役の生徒が悲しい声で観客の感情を引くように言う。


「フィノ姉様……!」

「大丈夫よ」


 今にも気絶しそうに頬に手を添えて立ち上がったシリウリード。

 アリアは苦笑しながら座らせ、ローゼライ達は眉を上げて成り行きを見守っている。


「し、死んだのか? 今どうなっている?」

『……アルヴィン、良いところなんだから黙ってて』

「なっ!?」

『……』

「お前まで……!」


 いつの間にか起きていたアルヴィンだが、先ほどまで眠っていたのは全員が知っていることで、固唾を飲んで見守っている子供達に話しかけて冷たい眼で一蹴された。

 落ち込んだところにこっそりと相棒に聞こうと思えば、その相棒からもそげ無くされ落ち込んでしまった。




 場面は暗くなり、倒れているフィノに帰って来た妖精達が血相を変えて介抱する。

 だが、すでに身体が冷たく、調べても妖精の力ではどうすることも出来なかった。


『外傷は見当たらない! きっと、呪いにやられたんだ!』

『くそ! 白雪姫、あれほど出てはいけないといったのに!』

『でも、倒れているところが家の中だわ。きっと、あのわっるーい王妃が来たのよ!』

『この庭全体に魔法を施しておくんだった!』


 妖精達はキラキラと光る涙を流しながら嗚咽交じりの声を出す。

 それに合わせて観客の何人かが憤った声や心配そうな声を出している。


『白雪姫を埋めるだなんてできない。何時の日か目覚めても良いように魔法を施そう』


 妖精達はフィノを囲み、魔法を唱える。

 勿論この魔法はフィノ自身が使い、自分の周りを光らせている。


 そして、真っ暗になり、棺桶を準備してフィノがその中で横になると同時にシュンが幻術を再度施す。


『三日三晩妖精達は悲しみ、せめてこの美しさが失われないように、時間のたたない魔道具の中に寝かせました。

 そして、森の中でも一番清らかで心地よい場所に置きました。

 毎日妖精だけでなく、森に住む動物達も訪れ、悲しい涙を流します』


 森の隙間からスーッと現れる動物達。

 その動物は普通はあり得ないが、しっかりと涙を流している。


「フィノ姉様ぁ……ぐすん」


 太陽の陽射しも光魔法によって変えられ、フィノを中心に光を放っているように見せている。


『長い長い間、白雪姫はピクリとも動かず横たわっていました。

 でも、いつまで経っても目を開けることはありません。

 その身体は保存されているとはいえ、生きている時と変わらずにいます。

 まるで、何かを待ち続けているかのように……』


 そして場面が変わり、眠っているフィノを幻術で覆い隠し、王子服を着たシュンが舞台袖から現れる。


「あ! シュンお兄ちゃんだ!」

「あの服かっこいい! 王子様だ!」

「やっぱりお似合いだなぁ」


 エルフ達の無邪気な声が特別観覧席に響く。


「ぐぬぬぬぅ……」

「シリウリード殿下、どうかされましたか?」

「い、いや、なんでもない!」

「ふふふ」


 少し性格の悪い自称スーパーメイドのララ。


「あれがシュンなのか。小さいな。だが、内包する魔力は見たことが無いほど澄んでいる。巧妙に隠しているが、かなりの手練れだな」

「クロス様も勝てませんね」

「なに? 俺が負けるだと?」

「ええ、そう言ったのです。クロス様はこれだけの技量を持ち、空を夜に変えるほどの力を持つ彼に勝てると? 魔法王ともあろう者が相手との実力差もわからないとは……」

「く、ぐくぅ! 毒舌メイドめ……」

「メイド? はて? 誰のことを仰っているのやら。私はクロス様の妻ですよ? それにスーパーメイドです」


 二人も相当な仲のようだ。

 ただ、シュンとは違いクロスは完全に尻に敷かれている。




 場面はころころと変わっていき、遂に一番盛り上がるキスシーンへ移行する。


『最後に……最後に、口付けをお許しください!』

『キャアアアアーッ!』

『グオオオオオーッ!』

「く、口付けぇぇッ!」

「ひゅーひゅー」

「あらあらまあまあ」

「ほほう……」

「お、これは見ものだな。キッスするのか」

「おっさんですかあなたは。度胸がありますね」


 シュンがそう口にすると観客から爆発でもしたのかという声が上がる。

 黄色い声に怨嗟(えんさ)の声、シリウリードの引き攣った声に囃し立てる子供達、アリアは頬に手を当てて困ったような表情を浮かべ、ローゼライはにやけ、クロスとララは面白そうに見る。

 アルヴィンは言葉なく難しい顔だ。


「……む? キス?」


 まさか、キスを知らないとは言わないだろうな。


『――私目に……別れの口付けを、させてください』


 シュンは恥ずかしさを完全に覆い隠し、ゆっくりとそう口にした。

 それが逆に観客には王子がどれだけ別れを惜しんでいるのか見え、再び爆発する。

 シリウリードは今にも気絶しそうだ。


『仕方ありません』

『あなたの様なお方なら、きっと、きっと、白雪姫も許してくれるでしょう』

『そ、そうだな。お前なら許してやる』

『ささ、私達にはお構いなくどうぞ』

『よろしければ、残しますか?』


 セリフ回しが少し違うようだが、シュンは眉を動かすことなく続ける。

 そして、シュンが棺桶の蓋を開けると同時に魔法が発動し、辺りに華やかな光と、四方から撮られたような拡大された映像が映し出される。

 この魔法は光魔法と映像の魔道具に使われていた技術を応用した魔法だ。

 魔闘技大会でシュンが表彰式の時に使った投影の魔法の応用でもある。


『妖精達に感謝をした王子様は、棺の蓋を開け、まるで待ち望んでいるかのような白雪姫を一撫でします』


 ナレーションに合わせて録音の魔道具から大人しい音楽が流れ始める。


『白雪姫……何て美しいんだ。一度でいいから、目を覚ました君と会いたかった……』


 そして、シュンは顔を近づけ、映像もシュンとフィノの顔を中心にアップしていく。


「するのか? するのか! やれ! そこだ! ブチュー!」

「少しお黙り下さい」

「ぐぇ!」


 クロスは頭を抑え付けられ、蛙が潰れたような声を出すが、チラリと拡大された映像を見る。


「はわぁ~」

「ポー……」

「キ、キスだよ」

「し、しちゃうの? しちゃうんだ」


 子供達は顔を両手で覆い隠すも、その指は目の間で開けられている。


「……き、す? きすってなーに? 接吻?」


 シリウリードはまさかのことに放心状態となっていた。

 それでも物語は止まらず、遂にシュンとフィノの唇が重なり……


『キャアアアアアアーッ!』


 映像は分かるか分からないかといったところでピンク色に染まり、辺りに花をモチーフにした光が回転しながらくるくると幾つも舞う。

 演出もさることながら、物語から何からすべて引き込んでいく。

 劇が始まる前までの不安はすでになく、出来ることをすべてやり切ろうとしていた。


『王子様は別れを惜しむように唇を離しました。

 そして、白雪姫の頭をもう一撫でし、柔らかいその唇を手でなぞります』


 ナレーションがまったく違うことを言うが、シュンは分からないように軽く睨みながらも言われた通りフィノの唇を指先でなぞり、前髪を掻き分けた。

 その仕草やアップされたフィノの顔が拡大され、観客は大爆発する。


『すると、白雪姫の睫毛がピクリと動き、ぱちりと目を開けたではありませんか!』


 フィノもナレーションのアドリブに合わせて演技を熟し、身体を起こす。

 幻術も華やかなものへと変わり、妖精達の嬉しい声が響き渡る。

 シュンは幻術に更なるアレンジを加え、歓声を上げている観客の隙間からも動物達を出現させ、空から花弁の幻術を降らせる。

 生徒達ももうひと踏ん張りだと発起する。


『……白雪姫』

『は、はい』

『貴方は今まで呪いを掛けられていました。ですが、目を覚ますことが出来て大変嬉しく思います。貴方の許可なく口付けをしたのは申し訳ありませんが、本当に貴方が目を覚まされてよかったです』

『口付けをしたのですか?』

『すみません。どうかお許し願えないでしょうか? 私は……私は白雪姫、貴方に一目惚れをしてしまったのです。もう、心が満たされ、ここで離ればなれになったら引き裂かれそうに……』

『ですが、私は――』

『貴方が何者であろうと関係ありません。私は白雪姫、貴方に恋をしたのです。私は貴方の全てが好きなのです。眠っている姿も、その透き通った声も、今の愛らしい姿も、このように動物から好かれ、妖精から喜ばれる姿も、全部……! 私は、貴方を世界で一番愛しているのです!』

『――っ!?』


 観客はピンク色のオーラにやられたかのようにうっとりする。

 まあ、男子はケッと唾を吐きそうだが。


『貴方のことを一生守ります。ですから、私と共に来て、妻となってくれないでしょうか?』


 妖精達が何か言っているが、観客はシュン達に釘づけだ。


 シュンはフィノと手を繋ぎ立ち上がらせる。

 フィノはその勢いを利用してシュンに涙を流しながら抱き着いた。


『ついて行きます。どこまでも貴方について行きます! 私も、心優しい貴方の傍に居たい! 居させてください!』


 シュンは黄色い声を背中に浴びながらフィノを抱き上げ一回転し、二人の顔を拡大してお互いに微笑む。


『白雪姫……』

『王子様……』


 そして、もう一度顔が近づいて行き、今度は辺りが真っ暗となる。




「……はぁ。とっても良い話だわ。そう思いませんか? ララさん」

「ええ。今までにない物語で、この魔法も合わさり独特の雰囲気が出ています。今日限りだというのが口惜しいですね」


 流石にシュンが作った映像の魔道具は録音・録画できない。


「ぐくくぅ~……フィノ姉様が……!」

「シルよ、お前の気持ちはわかるが、あの二人の中に入るのは無理だと思うのだが……」

「そうだぞ、シリウリード。それに兄妹で結婚できないんだから、今のうちに義兄とも姉とも仲良くしておいた方がいいと思うのだが……」

「わ、分かってますけど! で、でも、このもやっとした気持ちが堪えられないんです……」


 胸のあたりをぎゅっと握るシリウリードに二人はどう声を掛けるのか迷う。

 ずっとフィノとの関係を傍で見てきた父親であるローゼライ、帝国とのやり取りを知っているクロス。

 二人は深く知っているからこそ、今のシリウリードの気持ちが純粋な恋愛だけのものではないことに気付いている。

 だからこそ何と言うべきか男として分からなかった。




『自分より美しい姫の存在を知った王妃様は、鏡を叩き壊し、その顔を拝んでやると結婚式に出席します。

 それが身を亡ぼすことになると知らずに……』


 クライマックスに観客は全員引き込まれていく。

 思わせぶりな声がさらに拍車をかけ、辺りの光がステージ上に集まることでさらに暗い雰囲気を醸し出す。


 そして、場面が一瞬暗くなり、有り得ない光景だが今度は大きな城をバックに幻術の住民や動物が結婚式を祝い、中央でシュンとフィノが手を取り合っている。

 その奥に恰幅の良いウォーレン先生とシュレリー先生が微笑みながら佇んでいるが、ウォーレン先生はどこか硬くぎこちない。

 それを見て観客に笑い声が出るのはご愛嬌だろう。


 仮装した生徒達も舞台袖から現れ、それぞれのパートナーと一緒に一礼をした後踊り出す。

 シュンとフィノも軽く踊り、場が湧きたった頃にシャルが出て驚愕の声を出す。


『そ、そんな……! う、嘘よ! これは嘘よ! なぜあなたが生きているの!?』


 音楽も踊りも消え、幻術も訝しむように動きがなくなる。

 暴れようとするシャルを騎士風の仮装をしたアルが取り押さえ、その下にシュンとフィノが足を向ける。


『王妃様に気付いた王子様は、屈強な家臣に命じて王妃様を取り押さえました。

 王妃様はその恐怖に我に返り、殺される、そう蒼い顔でへたり込みます。

 そこへ王子様が訪れ、見下しながら言います』

『貴方が今までやってきたことは、全て知っています。

 私の最愛である白雪姫を殺そうとした罪は、何よりも重く、命で償っても生温い!

 私のこの手で八つ裂きにしてやりたいくらい(はらわた)が煮えくり返っている!』

『ひいいぃぃ!』


 シュンはシャルの顔を近づけ脅す。

 そして、観客やローゼライ達も含めてシュンならやるだろう、と劇そっちのけでそう思ったという。

 そして、傍らでどこか身悶えしそうなフィノに、男子の嫉妬がシュンに向く。


『ですが、心優しい白雪姫は、それを悲しむ。

 私は白雪姫の意にそぐわないことはしたくない。

 それがどれだけ憎い相手であろうとも、だ。

 ですが、覚えておいてください。

 再び白雪姫に手を出そうものなら……』


 ゴゴゴ……と幻術の世界が揺れ動き、世界の色が反転したかのように真っ赤に染まる。


『私は、貴方を許さない。

 地獄の果てまでも追い掛け、その報いを受けてもらう、と』


 そこでシュンはパッと顔を離し、同時に幻術も元に戻る。

 これは完全なアドリブなのだろう、生徒達も目を丸くしている。


『それが分かったら、この場から帰りなさい。

 何もしなければ私も手を出すことはありません』


 シャルはどんな思いを胸に抱いたのか知らないが、キッとシュンを睨むとドレスの裾を持ち上げステージ脇へ隠れてしまった。


『こうして白雪姫は少しばかり頭のネジがおかしく溺愛し過ぎている王子様と結婚し、数年後世継ぎとなる子供を授かり幸せに暮らしました』


 意趣返しの様なナレーションに、シュンはやり過ぎたと汗を掻きながらも、ナレーションに合わせて天から幻術の赤ん坊を出現させ、フィノと一緒に抱いた。

 流石のこれには観客も言葉を無くし、そして講堂を壊さんばかりの爆発が起きる。




 シュン達が手を振り、ステージの幕が下りたことで劇の終了だとわかった。

 その途中赤ん坊が腕の中から飛び降りていきなり歩き回り、瞬く間に少年へ青年へと変わり、講堂内をぐるっと飛んで回り中央で弾ける様に光の粒子となって消えていった。

 同時に幻術も無くなり、素晴らしい余韻が観客の中に残った。


「……あー、これは負けたな。俺も手足と同じくらい魔法を使えると思っていたが、シュンは呼吸をするかのように使ってやがる。しかも即興であれをするとか有り得んだろ」

「クロス様は幻術が得意ではないでしょう? それに精密さにも欠けますし」


 クロスは最後の奴はアドリブだと見破っていたようだ。

 まあ、生徒達の驚きようを見ていればわからなくもないだろう。


「シュンはフィノを溺愛しているからな。それが長所でもあり短所でもある。私達が倒れた時も相当怒っていたようだが、フィノとは次元が違うだろう」

「そうですね。あの子が少しでも傷付けば国とでもやり合うでしょう。自制心はあるので大丈夫でしょうが、違った意味で爆弾ですよ」


 言い草はあれだが、二人はシュンのことをしっかりと理解している。

 だからこそ危険でもずっとフィノをシュンと共に居させている。

 知らないところでフィノに何かあればシュンがどうなるか分からないからだ。


「僕もあれぐらい力があったら、フィノ姉様と……。でも、フィノ姉様の邪魔をするのも……」


 シリウリードは嫉妬に狂っているのか微妙な所だ。

 まだ、子供で、丁度反抗期に当てはまる年頃だ。

 そう考えれば一番仲のよかった女の子が取られて嫌な気持ちになっても仕方ないだろう。


「さて、優勝は決まった様なもんだが、俺も何か魔法王としてやるとしよう。なんか、あいつを見てると自信を無くす」


 仕方ないと思いつつも、クロスは対抗心を燃やし拳を握りしめる。




 この後に催すクラスは災難だろうがつつがなく進んでいった。


あ、あれ? シリウリードがあれな人物になってきたような……。

あと、アルヴィンはこんな感じでいけたらいいなぁ、と思ってます。

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