試験と旅立ち
戦闘短か!
森の立ち入り許可が出て、一年が経った……。十一歳になると思う。
僕は魔法のことがよく理解できるようになり、無詠唱とオリジナル魔法が使えるようになった。
魔力量はどのくらいになったのか分からない。正確に測るには、ギルドカードなるものを作らないといけないとのこと。
魔法についてまとめてみると、こんな感じだ。
・必要なものは魔力とイメージ、原理である。
・魔方陣は陣、詠唱は言葉、無詠唱は思考、魔道具は道具に魔力を込めないといけない。
・魔力の量と煉り、質によって威力が上がる。質は魔力の純度のことである。
・質を上げるには精神力を鍛えないといけない。
以上のことがよく分かった。
無詠唱は思考に込めるとは思わなくて、『そこに火よ、出ろ!』と、念じるだけだったんだ。このやり方に魔力を使ってないことに気が付いて、どこに込めるか考えた結果そうなったんだ。
加護の魔法は何とか形になってきたって感じだ。暗黒魔法はそのまま闇魔法の上級版だね。ミクトさんが言ってた通りだ。ロトルさんの聖域魔法は光、結界、回復魔法をまとめた感じだね。メディさんのは……未だによくわからないんだ。時空魔法が使えることはわかったんだけどね。
剣の方は師匠の速さについていけるようになったんだ。これは大きな前進だと思う。最初は全く見えなかったんだよ……。
この森の魔物ぐらいなら何とか倒せるようになった。師匠が言うには、この森の魔物は強いやつでAランクらしい。……早く言ってよね。聞かなかった自分も悪いけどさ……。
最後に新しい家族が増えたんだ。
名前はロロ、種族はシルバーウルフ。
まだ子供みたいで、小犬サイズなんだ。
僕が森の立ち入り許可を貰って少し経った頃、森の中で瀕死の状態でいたのを見つけたんだ。慌てて回復魔法をかけて家に持ち帰ったんだけど、意識が戻らなくて大変だったよ。意識が戻って森に返そうとしたけど懐かれちゃって、そのまま召喚魔法で契約して家族になったんだ。
師匠は「シルバーウルフが懐くのは珍しい」っていってた。
「シュン、今日で君が修行を始めて六年が経とうとしている」
師匠が急に話し始めた。
「十一歳となりこの世界では、半人前と認められるようになった」
十一歳で半人前なのか……。
「私の知っていることはすべて教えた。この世界のこと、生きる為の術、全部教えきったと思う」
師匠が真剣に言う。
なんだか、お別れみたいな言い方だな……。
このままお別れなんて嫌だよ……。
「そこで、最終試験をしようと思う。試験内容はこの森を抜け、村へ辿り着くことだ。制限時間は正午までとする」
やっぱり……お別れなんですね……。
…………嫌だ。別れたくない。ずっとここに居たい……。
「シュン、君の想像している通りだ。今日の試験をもって君にはここを旅立ってもらう。辛いことを言っていることはわかっている」
「じゃ、じゃあ、なんで――」
「シュン、泣くな。君は自由に生きるんだろ。君の自由はこの森と村だけでいいのかい? 世界を知らないでいいのかい? ……君の過去を知っているから強くは言わないよ。だけど、私としては君に世界を見て回ってほしい。私と村の人以外にも友達を作ってほしい。私はそう、想ってるんだ」
師匠は寂しそうに言う。
「それに君は変わるって決めたんだろう。なら、過去を引き摺ったままでいないで、前に進んでいこう。これが今生の別れっていうわけでもない。また会おうと思えばまた会えるんだ」
……僕は変わるって決めた。
……メディさん達と約束した。
……自由に生きるって言った。
前とは違う、僕を虐げるものはいない……。
虐げてるのは……自分だ!
ここで自分に勝たないと前世と変わらないっ!
「わかっ、わかりました」
「そうか……私は先に村へと行く。三十分後に準備が終わったら、村まで来てくれ。ロロは禁止だ。自分の力のみで村まで辿り着くんだ」
「はい! 師匠」
そう言って師匠は村に向かっていった。
そろそろ村に向かってもいいかな。
この家ともお別れか……。
いつまでもくよくよしていてはダメだ。
「よし。いくか!」
僕は森の中へ足を踏み入れていく。
ここで今更だけど、この森について簡単に説明しようと思う。
この森の魔物の強さは平均Cランク程。強くてもAランクだけど滅多に出ない。出たとしても僕なら倒せると言っていた。
師匠曰く、ランクは同じランクの冒険者が数人がかりで倒す基準らしい。魔物によっては変わるとも言っていた。
この森の特徴は木々で入り組んでいることだ。どこから魔物が出てくるか、早めに気配をつかまないとやられてしまう。
村まで行くのに魔物と遭遇するだろう。距離は十キロぐらいかな。
森の中だから火の魔法は使えない。火魔法以外で行くしかないか。危なくなったら結界か転移をすればいい。
かれこれ三十分は経ったかな……。
やっと半分ぐらいか。
これまでの道中、何度かウインドバードやブラッドウルフと遭遇したけど難なく切り抜けることが出来、村に向かって進み続けている。
ウインドバードは空から奇襲攻撃を得意とする魔物で、嘴に風を纏っているから剣で直に受けると剣が折れてしまうこともある。
ブラッドウルフは赤黒い色をしていて、この薄暗い森の中では発見が遅れがちになることが多く、僕は魔力感知で何とか切り抜けることができた。
家と村の中腹、木々の入り組みが多くなる道。……のはずなんだけど……木々が倒れ、大人三人が余裕で通れそうな道ができていた。
師匠がしてくれたのかな……。でも、ここまでする意味がないか。取り合えず、今まで以上に警戒していくしかないか……。
周囲を警戒しつつ移動しようと走り出そうとしたとき、魔力感知にいくつもの反応があった。
やばい! 僕の方に近づいてきている。……逃げ切れないな。……迎え撃つしかない。
「ウホオォアァァァァァァーっ!」
来たっ!
遂に、魔物の群れが目視できるようになる。
なんだ、こいつは……こいつが道を作った元凶かっ!
そこには、低ランクの魔物を引き連れた三、四メートル級のゴリラいた。腕は丸太のような太さがある。この森では見たことのない魔物だ……。
ガアァァーッ!
魔物が一斉に襲い掛かってきた。
「『ウインドブラスト』!」
魔物に向けて走りながら、先制攻撃をする。一陣の風が僕から放たれ、魔物の中心に着弾し、爆風が起きる。
「『風よ、纏え』」
僕は魔法を放つと同時に、風を纏った剣で狼のような魔物を切り伏せる。
狼に鳥、猿いろんな魔物が襲い掛かってくる。
取り巻きの数は次第に減り、残り数体となったところでゴリラが怒りの咆哮を上げる。
「ガアアァァァーッ」
高く飛び上がり取り巻きの上に落ちてくる。魔物達は押し潰され、奇声を上げて絶命する。
「こいつら仲間じゃないのかよっ!」
そのまま両手を頭上で組み合わせ、勢いよく殴り下ろしてくる。
バックステップで躱し、態勢を整える。
振り下ろされた大地は陥没していた。
ゴリラは続けて同じ攻撃をしてくる。
僕は、振り下ろされる手を横に走り抜け、すれ違い様に剣で切り付ける。が、傷をつけることはできなかった。
「硬いっ!」
風を纏って威力を上げているのに傷がつけられない。
こんなことなら雷魔法を纏わせて、威力を上げておくべきだったか。
それなら――。
「『ウインドスラッシュ』!」
魔力を煉り上げ、殺傷力を上げた無数の風の刃がコングを襲う。コングは腕で顔を隠し全身の筋肉を膨張させ、防御の態勢に入る。
「どうだ! やったか!」
コングの腕には無数の切り傷ができているが、致命傷にはなっていない。
「これでもダメなのかっ」
コングは傷つけられ怒り狂い、咆哮を上げながら突進してくる。
さっきよりも速い! くっ、避けきれないっ!
ドガンッ!
ガハッ、何とか剣で受け切るが衝撃を全て受け流すことができず、吹き飛ばされ、背後に生えていた巨木に打ち付けられて止まった。
このままではこちらがやられてしまう。
ゴリラはこれで勝てると思ているのか、顔がにやけているように見える。
こうなったら奥の手を使うしかない。
僕はゴリラから大きく後ろに飛び去って距離を広げると、魔力を高め詠唱に入る。
「『荒れ狂う氷よ、彼の者を凍てつくし、命を奪い去れ――』」
ゴリラがもう一度こちらに突進してくる。
「『――ブリザード』」
僕が魔法を放つと同時にゴリラの周りに荒れ狂う吹雪が巻き起こり、体の自由を奪っていく。次第に、突進の勢いがなくなり、遂に止まってしまった。
そこには体全身を氷に閉ざされた、ゴリラの姿があった。
「倒せたようだな。……勝った!」
こいつは持っていくことができないから、このままにしておこう。後で、師匠に伝えておけばいいよね。
「『ヒール』」
骨は……折れていないようだな。
陽があんなところまで昇ってる、早く村へ行かないと昼になっちゃう。
その後も何度か魔物と遭遇することがあったが無事に村まで辿り着くことができた。
森から抜けると師匠が出迎えてくれた。
「シュン! 無事か! 怪我はないか! よく辿り着いた。試験は無事合格だ」
師匠は言いながら抱きしめてくれる。
昼までに辿り着いたんだ。
試験合格か……これでお別れなのか……。
「師匠、痛いです」
「はっ、どこか怪我でもしているのか! そういえば、咆哮が聞こえてきたような」
僕の体をあちこち触る。
「怪我は魔法で治しました。……森で見たことのない魔物と遭遇しました」
「見たことのない魔物? シュンには一通り教えたはずなんだが……」
「大きいゴリラです。腕が太くて、丸太のようでした。一振りで大地が陥没しますし、突進も速くて怖かったです」
「……そいつはウォーコングだな。この森には生息していなかったはずなんだが……。それでそいつはどうした? 逃げてきたのか?」
「いえ、氷漬けにして倒しました」
「……そうか。氷漬けか……」
師匠が一瞬呆けたような顔になるが気のせいだろう。
「森の中に放置してきちゃいましたけど、いいですよね」
「ん? あ、ああ、あとで私が回収しておこう。それよりも村の中へ行こう。皆が待っている」
……? どういうこと?
よくわからないまま、師匠に連れられ村の中へ入って行く。
「「「「シュン、試験合格おめでとう!」」」」
村に入ったところで皆から試験合格のお祝いの言葉を貰う。
え? みんな知っていたの!
「シュン、おめっとさん」
「シュンちゃん、おめでと~う」
村の中央まで行くとガンドさんとエリザベスさんが出迎えてくれる。
「ありがとうございます。ガンドさん、エリザベスさん。――皆さんは僕が今日、試験をすることを知っていたんですか?」
「ずっと前から知っていた」
「そうよん、アリアちゃんから知らされていたわ」
そうだったんですか。
僕は今日聞きましたよ。
「シュン、俺から合格祝いにこれをやる。受け取れ」
ガンドさんは一振りの剣を取り出し、僕に渡してくる。その剣は陽の光で光り輝く銀色で、曇り一つなく美しい光沢を放っている。
「その剣はミスリルでできている。ミスリルは魔法伝導率が高いから魔法を剣に纏わせて戦うのに丁度いい」
「私からは、これよん」
エリザベスさんは魔物の皮でできた、袋を渡してきた。微かに、魔力を感じる。
「この袋は収納袋よん。旅をするには必要よね。旅の道具や食料はある程度、入れておいたから安心していいわ」
「ありがとうございます! 大切に使います」
僕のためにここまでしてくれるなんて……。
「シュン、最後に私からだ。この杖を渡そう。私の使っていた杖だが、性能はそこらの杖よりもいいはずだ」
師匠がそう言って杖を差し出す。
「師匠、杖は使わない方がよかったんじゃないですか」
確か、魔法の妨げになるから僕は使わなくていいって言ってたと思うんだけど……。
「別にこの杖を使えとは言っていない。魔法使いが師匠から一人前と認められたとき、師匠が杖を送るのがしきたりなんだ」
「そうなんですか。でも、僕はまだまだだと思うんですけど……」
試験でも危うく死ぬところだったし……。
「何を言ってるんだ。シュン、君の魔力は私より多い。それに私ができないことができる。……蒼焔といったか、私には出来ないことだ。戦えば経験の差で私が勝つだろうが、魔法の技量で言えば君の方が遥かに優っているんだぞ。自信を持て、シュン」
「シュン、師匠が一人前だって認めてんだ。普通は喜ぶとこだろ?」
「そうよ、シュンちゃん」
一人前……か。
「わかりました。師匠、有難く頂かせてもらいます」
「よし。……あとは自分で高めていくんだぞ」
杖は木の枝を加工しただけのように感じるが、ずっしりとした重みと強力な魔力が手に伝わってくる。僕の魔力とも親和性がいいみたいに感じる。
「その杖は私の故郷にある古代樹の枝でできている。魔力との親和性が高いからシュンにも使えるはずだ」
「そんなすごいものを貰っていいんですか?」
「私には世界樹の杖があるから問題ない」
似たようなものがあるんですね……。
「それじゃ、送別会に移るか!」
「ラージさんが張り切って作ってくれたわ」
「本当ですか! ラージさんの料理おいしいから大好きなんです!」
「シュン、これからは食べられなくなるからたくさん食べるんだぞ」
「はい!」
会場には、ラージさん特製の料理がたくさん並んでいた。
皆、悲しんでくれる人や頑張れと励ましてくれる人がいて、改めていいところだなと思う。
別れるのは寂しいけど、これが最後の別れじゃない、いつでも帰ってこれるんだ。
別れるときは元気な姿で別れよう。
送別会も終わり、僕はいつもとは反対側の村の入り口に来ている。
「この道を数日ほど歩くとガラリア街に着く。そこで、冒険者になるといい。……危険な目に合うこともあるかもしれないが気を付けるんだぞ」
師匠は最後に抱きしめてくれる。
「わかってます。師匠、今までありがとうございました」
僕もそう言って抱きしめ返す。
抱擁から解放される。
「シュン、行ってらっしゃい」
「師匠、行ってきます」
僕の新しい旅が始まる。
まずは、師匠の言っていたように冒険者になろう。
これからも頑張って自由に生きていくぞ!
戦闘は難しいですね。
遭遇したが難なく切る抜け>遭遇したが難なく切り抜け、に訂正
その剣はミスリスでできている>その剣はミスリルでできている、に訂正




