魔法の権威は変人
もうじき百万字になります。
なぜここまで長くなってしまったのでしょうか。
恐らく無駄な文が多いからですね。
これからはテンポよく進めていくかもしれません。
べ、別に書くのが嫌になったわけではありませんよ?
次の日からエルフの村を見回ることになった僕達は、まず狩猟地区で子供達と実際に弓を使ったりした。
まあ、僕達は初めてだから下手だったよ。
一日で的に当たるようになるわけがなく、仕方ないから矢自体に風魔法を纏わせ、射った様に見せながら的の中心に吸い込まれるように当ててやった。
いくらエルフでも魔法についてそこまで学んでいない子供エルフが気付くわけが無く、突如当たるようになり訝しむけどとても驚き喜んでくれた。
勿論大人のエルフやフィノ達にはばれているわけで、呆れた様な視線がビシビシと伝わっていた。
まあ、その後ネタ晴らしをやったんだけど、普通にやったらがっかりされると思って、手に十本ほどの矢を持って空中に投げたんだ。そして、風魔法を使って一本ずつ的の中心を狙って射って、謝りながらネタ晴らししたよ。
そしたらやっぱりぶーぶー文句言われたけど、それでも魔法の凄さが伝わったみたいで、魔法が下手の子も得意な子も群がって来た。
「シュン君モテるね」
と、フィノに言われた時は何故か背中に冷汗が流れたね。
う~ん、あれは一体何だったのだろうか。
で、次に採取や調合等をしている地区に向かい、エルフ独自の手法や薬草の使い方等を学んだ。
さすがにエルフの秘技や特殊技法までは教えてもらわなかったけどね。
そこでも僕の作った薬品の談議をしてたんだけど、エルフの人はしっかり理解してくれた。
というより、エルフは変わってるからね。やり過ぎたことにも結構寛容だったりするんだよ。
普通に見える師匠だって過去はやり過ぎてたし、いきなり戦場に乱入するし、王国軍を蹴散らしてたらしいしね。
まあ、そのことは置いておいて、この地区では新たな香水やハーブの栽培方法、紅茶や香草のお菓子作りとか学んだ。料理は地区の方に行った方がもっとおいしいものがあると言われたけど。
でも、学ぶだけだと悪い気がしたから、僕が製作した薬品をいくつか手渡したし、薬品作りのための道具や魔道具、魔石なんかも手渡して置いた。
料理の地区はフィノが乗り気で、僕以上に真剣に聞いていたのが印象的だった。
何でも僕に食べさせるのが目的らしいよ。
いやー、こんな可愛くて良い女の子が婚約者っていうのはいいね。
エルフの料理はやっぱり野菜が主だった。
味付けもさっぱりしていて、ドレッシングの類もあったけどそれでも味は抑えてある。
多分、その辺りも種族による違いなんだと思う。
試しにマヨネーズとか舐めさせてみたんだけど、かなり濃い味なんだって。
野菜の味をしっかり感じ取っていることから、舌が繊細なことが分かる。
だから少しの味付けで十分なんだそうだ。
外に出ればなれるみたいなんだけど、師匠の料理に味が無かったのはそういった理由もあったんだろうね。
ただ、苦味はどうして分からないんだろうか。
他の地区に回ろうと考えていると、アルカナさんと会う取り付けが出来たようで、魔法地区に向かうことになった。
「ここが魔法地区となります。魔法地区は見たように魔法の属性ごとに分かれています。分かれていると言っても基本は一つですから、研究室の様な物が幾つかあると考えてください」
案内をしてくれているバトソンさんが魔法地区の入り口で説明してくれた。
魔法地区の研究室と言っても機械や設備などがたくさんあるわけではない。
多少の高度な魔道具や金属設備はあるけど、基本は図書館のような大型書物室や訓練場と実験場で、自然の中にあるのは変わらない。
ただ、結界で護られているから学園の設備以上に見える。
「今から向かう所はアルカナが研究長を務めている風魔法の研究室となります。少々危ないところですが、それは魔法を使う所なら普通ですね」
「ええ、便利な反面、自分の身も傷つけることがある諸刃の力です。ですが、扱う人と扱い方を間違えなければ大丈夫ですね」
「はい。フィノリア様の仰る通りです。幼いエルフにはそのことをしっかり教え、便利なだけが魔法ではないことを分からせます」
それがエルフが魔法に特化している理由かもね。
他の種族は他に特化した部分が存在していたりして鍛えようと思わず、平均的な人族は頭が良くても欲深いから魔法を広めることをあまりしない。研究をしてもそのおかげで保身に走って、その編み出した人が死んだあと終わりとなる。
エルフもその辺りはあるんだろうけど、こうやって種族で研究していれば魔法の先駆者となってもおかしくないだろうね。
だけど、それでも世界的な先駆者となっているのがガーラン魔法大国なのは、エルフが閉鎖的で表にその魔法を出さないからだ。
ノール学園長の思惑がどんなことなのか知らないけど、エルフの学園長がいるからガーラン魔法大国が先駆者でいられるんだろうと思う。
「それでは、こちらへ。この緑色の屋根の建物が風魔法の研究室です。この中にアルカナがいます」
雰囲気のある二階建ての建物の中に入って行く。
周りでは魔法の反応が幾つも感知できて、知っているような魔法から初めて感じるような魔法の反応もある。
ただ、どの魔法も面白さはあるけど使いどころに難がありそうな物ばかりだ。
まあ、実際に見てみないと感じるだけじゃ全部は理解できないんだよね。
百聞は一見に如かずってとこだね。
研究室の中は意外に整理されていて、僕の研究所とはまた別の空間のようだ。
僕の所は人も多いし、様々なことをしているから変人も多いんだ。
通路を通って研究している部屋をいくつか通り過ぎた奥に、大きな精霊の魔力と荒ぶる風魔法の魔力反応を感知した。
別に攻撃して来ようとしているわけじゃない。多分、研究してるんだと思う。
「この部屋ですね。――アルカナ、私だ。連絡した通り王国の使者フィノリア様とシュン様をお連れした。研究を中断して話を聞いてくれないか?」
言い終わる直前に轟音が鳴り響き、研究所が揺れ動いて部屋の中から何かが落ちて割れる音が聞こえた。
魔法に失敗でもしたんだろう。
中からごそごそといろいろな音が聞こえるけど、一向に扉が開く気配がない。
バトソンさんは何度かノブに手をかけ開けようとするが、魔法でもかかっているのかビクともしない。
僕達に申し訳ない顔をして頭を下げて来るけど、苦笑するしかない。
僕の研究所もこんな感じにしてる部屋があるんだもん。
義兄さん達に言われて戦力強化のための魔法や道具を産み出すような部屋だね。
そして、暫く待っていると僕達より少し背の高い、緑髪のエルフの女性が出てきた。
フィノはそのエルフの髪がぼさっとしていて、何か不健康そうな姿に反応を示す。それには僕も目敏く気付き、改めて王国に帰ったら研究員達の健康管理の規則も作らないといけないと思った。
働いている人に休日はないからね。研究員達は好きなだけし続ける傾向があるんだ。
だから、いつ過労死してもおかしくないし、僕が最初就いたときは皆肌が青白くて見てられなかったほどだ。
「ごほ、ごほ。声を掛けるから失敗したじゃないですか! ゴホッ、資料もバラバラになって後片付けが大変ですよ、まったく! ゲホッ」
咳が強くなることに余計に不安を覚える。
バトソンさんもわかっているようで、厳しい口調で注意を口にした。
「アルカナ、連絡した時に休めと忠告したはずだ。いくらエルフと言っても若いうちからそんなことをしていては早死にするぞ。それに大事な客人が来るから時間も開けておけと伝えたではないか」
「そうだったっけ?」
「お前の方がまったくだ。お前は分かったと了承したはずだ。自分が魔法で負けるわけがないと豪語していたではないか」
かなり自負があるみたいだね。
まあ、見た目からどのくらい自信とかがあるのかは理解できる。
ただ、僕も易々と負けるわけにはいかない。
この後は他の長との話し合いもあるんだからね。
「ん? ……ああ、そう言えばそうだった。バトソンは私が負けると思っているの? このエルフ族一の魔法の権威アルカナ・パジュアムが」
「いや、負ける負けないではない。そもそも勝負じゃなく、お前の興味を引き出すかどうかだろう?」
「だから勝負でしょ? 私は負けるつもりはない」
「はぁ。それで構わないから、アルカナは約束を覚えているか? 負ければ私達に賛成してくれると」
アルカナさんは可愛らしく唇に指を当て、思い出すように首をひねる。
「……あ、思い出した、思い出した。これから何かが攻めて来るからエルフ族も協力してくれってやつだね?」
「正しくは邪神と戦うことになる可能性が高いから、エルフ族も力を合わせて乗り切るために協力してほしい、だ」
「まあ、細かいことはどうでもいいの。その話は本当なの? 私、そんな話聞いたことないのだけど」
そう言ってアルカナさんは僕達の方を向く。
背後にいる師匠に鋭い目を向けるけど、何かあるのだろうか。
まあ、師匠の魔法も凄いし、よく考えなくても何かあると思えるね。
「アルカナ、お前は証拠が必要だと思っているのか? 協力することに証拠が必要なのか? 相手がどういった相手なのかよく考えてくれ」
「まあ、それは分かるよ。私は偏屈老エルフと違い、魔法の研究さえできればいいのだから。だから、老エルフの様に否定してないでしょ?」
「じゃあ、なぜ協力してくれないんだ? 協力しても魔法の研究は出来るだろうに……。逆に協力しなければ世界が終わるかもしれないんだぞ?」
「まあ、その辺りはバトソンの考えだろうね。でも、私はこう考える。協力したら知っていることを教えるために研究が疎かになるのではないか、と。大体、外の種族が魔法の権威であるエルフに勝てるの? そこが私の疑問なんだけど」
ああ、これは自分に自信があるタイプだ。というより負けを知らないと言ったところかな?
それとこういう時は何ていうのかなぁ……食わず嫌いみたいな、井戸の中の蛙みたいな、兎に角エルフの村でのことしか知らないんだと思う。
精霊もいるからね、魔法に関しては一歩以上飛び抜けてると思うんだろう。
でもね、世界は広いんだ。
僕は魔法の技量だけならほとんどの人に勝てると思う。でも、政治や取引となるとフィノや義兄さん達に勝てない。
料理だって美味しいって言ってくれるけど、僕より上手い人は大勢いる。
力だって魔王に勝てるとは到底思えない。だって歴代最強だよ? 勝てるわけないじゃん。
「アルカナさん、でいいですか?」
「ん? 君は誰?」
「僕はシュンといいます。バトソンさんが言われたようにあなたと魔法の勝負をする相手ですね」
「君みたいな子供がかい? エルフなら小さくても数十年生きているからわかる。でも、君は人族だ。十数年生きただけで三百年近く魔法に費やした私に勝てるとは思えない」
やっぱり天狗になってるのかな。
師匠の顔を少し見ると、やれやれと言うように頭を振ってた。
やっぱり二人は知り合いなんだろう。
「アルカナさんは見た目で判断するのですか? 今、外の世界がどうなっているか知っていますか?」
「外の世界? ああ、森の外ね。ある程度は知ってるさ。だけど、私に勝てるとは思えない」
「断言しますか……。では、外で最近魔法の形状を変えるのが流行っていたり、欠損さえも治す魔法と調合の合わせ技も、金属を溶かす高温の蒼い炎も、氷魔法の安易習得法も、金属も切る水魔法も、意志を持つ人形を作り出す地魔法も知っているということですね?」
フィノ達が隣で笑いをこらえているのが分かるけど、僕は長髪染みたことを続ける。
だって、僕は駆け引きできると言えば真実を口にし続けて、アルカナさんの興味を引くしかないもん。
「何だって……」
「強力な呪いの解き方、精神攻撃すら守る結界魔法、魔力過多・枯渇症の治療法、ピンポイントで狙える雷よりも早い電光石火の一撃、水魔法により空間索敵方法、精神障害による魔法の発現不能治療法、集団対象の命を奪い去る闇魔法、古代魔法の武器に魔法を纏う『纏』や魔力を飛ばす『魔力弾』、最近は虫除けの結界も出来たそうです」
「ぶっ……すまん」
珍しいことに師匠が笑いを堪え切れずに息を漏らした。
フィノは隣でばれないようにくすくすと笑っている。
ロビソンなんか背中を向けて肩を震わせてるんだよ。後で説教だね。
でも、流石にいろいろと知らないことだらけなようで、アルカナさんは目に見えて狼狽え始める。
バトソンさんは純粋に外の世界が進歩していることに感心している。
多分魔法をそこまで知らないから凄いことだとしか理解していないのだろう。
比べてアルカナさんは知っているからこそ、その凄さに戦慄する。
因みに僕が最近怒られたことばかりだ。きっと皆それを口にしてるから面白いんだろうね。
「わ、私の知らない、ま、魔法……」
「そうですよ。ガーラン魔法大国シュタットベルン魔法学園では、風魔法のフライが流行っていたり、例年よりも魔法の進歩が飛躍的に向上しています」
「わ、わた、私の……ま、魔法……知らない、魔法が……外に……」
何か体が震え始めたけど……まさか、泣かしちゃった!?
流石に言い過ぎたのかな? で、でも、皆頭の固いエルフはコテンパンにしていいと言った。だから、僕のせいだけじゃない! 九割ロビソンが悪い。うん、それが良い。そうしよう。
誰もがやり過ぎたと思い、声を掛けようとした瞬間、
「うひょおおお~! わ、わわ私のし、しし知らない魔法! ハッ、ハッ、ハッ! は、早く私に見せなさい! 協力でも何でもしてあげるから見せろォォオオオ! ハッ! あなたが知らないのならそいつを連れてきなさい! じゃないと協力しないわ!」
バッと顔を上げて、僕の胸ぐらを掴んで持ち上げた。
僕も呆気に取られて躱すことが出来なくて、フィノ達は目を丸くしている。師匠は知っていたのか頭を抱えている。
もしかしてこうなること知ってたとか?
過去にこうなったことがあるとか?
それで村を出たとか?
もしそうならちょっとげんめつー……。
「シュ、シュン? そ、そんな目で見ないでくれるか? 間違ってはいないが、外に興味があったのは本当だぞ」
「じー……」
「ぐ、くっ! そ、それに私が外に出たからお前と会えたんだ。そうでなければお前も餌食になっていたかもしれん。うん、そうだっただろう」
納得しそうになるけどさ、今その餌食になってるから意味ないよね。
最初からそうなら納得できるけどさ、今回は師匠は知ってたのに留めなかったよね? 教えてくれなかったよね? それは一体どういうことなのかな?
「……はぁ。師匠だから仕方ないですか」
「ぐ、納得いかないが、言わなかったのは私が悪いな。ただ、シュンがあそこまでするとは思っていなかったのだ。精々一、二個伝えるぐらいだろうとばかり……」
そう言われると怒るわけにはいかないか。
「でも、アリアさん笑ったよね……」
「ひ、姫様は黙っててください。折角やり込めたんだから」
やっぱりこれは怒るところだろう。
「そ、そんなことはどうでもいいの! 早く私に魔法を使える者を出して! さあ、早く!」
だけど、その前に僕を降ろしてほしい。
首が締まらないようにサッと体を浮かしたからいいけど、十二歳の子にそんなことをしたら死ぬと思うけど……。
「アルカナ、そんなことをしたら喋りたくとも喋れない。少し落ち着いてくれ」
「何を言っているの、バトソン! これが落ち着いていられるわけないでしょ! 青い炎に派生魔法の習得法、完治不可能と言われた魔力過多と枯渇の治療法……。どれも私達エルフが研究していたものばかりなのよ!」
「だから、それを言いたくとも言えないと言っているんだ!」
アルカナはバトソンに剥がされるように僕から手を離し、やっと解放された。
フィノが大丈夫か首元をチェックし、一応ヒールを唱えてくれる。
多分反応が遅れたからすれて赤くなってたんだろう。
「アルカナはな、魔法狂というより、人生を魔法に捧げているんだ。知識も私以上にあるし、エルフの中で一番頭が良いと言ってもいいだろう」
「ですが、傾きすぎて前が見えなくなる時があるんですね」
「そうだ。まあ、悪い奴じゃないのは分かっただろうし、負けたからと言って恨むような奴じゃない」
「じゃあ、師匠が睨まれてたのは……」
「私が逃げたからだな。誰でも四六時中拘束されれば嫌になるだろ? しかも私は当時百年も生きていない子供エルフと言っても過言ではなかったんだ。加護もあったから余計に拘束力が強かった。なにせ、周りのエルフが逃がさないように手を貸していたほどだからな」
なるほどー。
師匠も辛かったんですね。
で、今それを弟子の僕に押し付けていると。
ちょっとサイテーですね。
この後、僕が使えることを明かし、再び騒動が起きたけど、今度は魔法で拘束した上で広場まで運び、そこでいろんな魔法を見せることになった。
拘束した方がいいとエルフたちが言ったからで、僕もそれに賛成し強めの拘束を施した。魔法を使っている最中に詰め寄られては困るからだ。
フィノにも手伝ってもらって合体魔法もしたし、新たな属性の様な念力もした。
合体魔法は単に人と魔法を合わせるんじゃなくて、手を繋いだりして身体を密着させて、魔力と息を合わせて放つ魔法だ。威力は上がるし、魔力消費は抑えられるし、お互いが信頼し合い、息が合わせて、相性が良ければ良いほど強くなる魔法みたいだね。
言って恥かしいけど、愛の魔法だね。
念力は念話などと同じで、魔力を媒体に物を動かす魔法だ。
ただ、繊細過ぎて思ったようには動かないし、遠隔操作できる魔法とは違って魔力自体を動かさないといけない。不意を突いた攻撃にはいいかもしれないけど、他のことが疎かになるから使わない方がいいね。
一種の芸みたいなものだ。
で、アルカナさんの反応なんだけど……
「お、おおお、おおおおおおー!」
『纏』とか『魔力弾』とかその辺りの反応。
テンションは高いけどこんなもんだろうね。
「うっ……ひょおおおおおおおお! み、見たことないわ! こ、これは刺激される~! ゲホッ、ゲエホッ」
で、蒼い炎とか、全ての派生魔法ね。あと、怪我をしたエルフが運ばれてきたから治療もした。
もう顔がね、あり得ないほど紅潮してて、好物を目の前にしたように涎を垂らして、同じ研究者のエルフですらドン引きしてた。
勿論僕達もドン引きだったね。
「¢£%#&□△◆■!?」
え!? 何て喋ったの?
これにはドン引きも通り越して新たな言語ではないかと皆思ったはず。だってその後その言語を使って話しかけてくるだもん。
まあ、やり過ぎだったかもしれないけど、全て見せないと協力しないとまで言って来るから仕方がなかった。
この魔法の披露は二日に分けて行われ、何か二日目から皆悟ったのか僕に何をしてほしいとか提案してくる始末だったよ。
その提案が合体魔法とかなんだけど、合体魔法って理論上は出来てても、相性が合ってないと使えない魔法らしいんだ。
その相性は勿論人との関係性でもあるよ? でも、そんなもの合う人ばかりだからね、問題は魔力の波長が合うかどうかなんだ。
僕や師匠みたいに魔力の波長を変えて念話が使えるんならいいんだけど、相性と魔力の波長が合わないと使えない高度な魔法となる。
まあ、僕とフィノは運命神フレイヒルさんとミクトさんが推してきた相手だからね。勿論、魔力の波長を変えるまでもなかった。
他にも植物の成分替え、品種改良、魔法を掛け合わせた合成魔法、形を変える――もう一括りにして○○の造形魔法と呼ぶ――魔法、特殊な結界等々。
汚れを取り除くクリーンは研究者に大変喜ばれたけど、テンションが上がりまくって変人と化していたアルカナさんは文字まで消し去って、しかもその書類が大事な物らしくて大騒ぎだった。
流石に復元の魔法は知らないから、こっそりと時空魔法を使って時間を巻き戻しておいた。
ばれてもどうせ時空魔法が使える僕にしかできないし、魔力は紙一枚一分巻き戻すだけでも十万ほど使うんだ。
ちょくちょく使ってられない魔法だ。
「で、協力してくれます、よね?」
フィノ達の様子を見て最後の語尾を変えた。
これで協力してくれなかったらアルカナさんの命が……。
だけど、それは杞憂だったようで、
「勿論協力する! するする! するからもっと見せなさい! ……一層のこと解剖して……」
何この人物騒なこと言ってんの!?
脳は解剖しても記憶は覗けないよ! 魔法でも無理な話だ。
多分メディさん達神様じゃないと無理だね。
あの人達の前ではプライバシーとかあんまり意味ないし。ってこんなことを考えてたら怒られるかも。
「解剖はよせ。――長い時間拘束してしまい申し訳ありません」
「いえ、これくらいなら大丈夫ですよ。まあ、今度から休憩を入れてもらえるとお互いに楽ですかね」
「あ、ははは……すみません」
「のおおおおおおおおお~! す、すべて忘れて、しまう~! ゴホッ、ゴオホッ!」
バトソンさんは疲れた顔で乾いた笑い声を上げ、アルカナさんの頭にアイアンクローをしている。
よく見ると身体強化も使ってる。
「では、これで四人の長の承認が得られました。族長に会えるのでしょうか?」
フィノが収納袋から取り出した飲み物をエルフ達と一緒に飲みながら訪ねた。
「一応そうなりますが、アルカナが協力したとなると三人の長は黙っていないでしょう」
「黙っていない、ですか?」
「ええ。別に喧嘩を売ってくるわけではありません。ただ、アルカナほどの魔法使いが人族に~というわけです。私は思っていませんが、偏屈ですから認めさせろ、という可能性があります。結局喧嘩売ってるのと変わりませんが」
バトソンさんは苦労性な方なんだね。
今度カトリーナさんに疲労が取れる料理とか教えておこう。
「そんなの気にしなくていいと思うけど」
アルカナさんが書類から目を上げてどうでもいいように言う。
「君の力があれば納得するんじゃないかしら。そもそもエルフは臆病なのよ。歳を取ると変わるのが怖くなって閉鎖的になるわけ。だから、この平和になれたから変わりたくないのよ」
「ならどうしたらいいのですか?」
「だから、気にしなくていいってば。いくら殻に閉じこもったエルフでも、精霊の言うことには逆らえないし、私が協力する時点で族長の決定になるんだからあの三人のことは放っておいてもいいわ」
まあ、そう言われるとそうなんだけど、後々の確執になりかねないと思うんだよね。
魔族みたいに実力主義ならまだいいんだろうけど。
それに族長の問題もあるし、協力してくれるだろうか。
「まあ、アルカナ様が協力しなければ話しすら聞いてくれなかった可能性があります。これはこれで話を聞かせる準備が出来て良かったのではありませんか?」
「おお、ロビソンが真っ当な意見を」
「え!? 最近シュン様俺に対して冷たくありません?」
「え!? 心外だよ。ロビソン程気安く接している人いないじゃん。魔法もいろいろ教えてるし、刺激になっていいでしょ?」
「あ、そうですね。これからもよろしくお願いします」
「うん、よろしく」
「ロビソン……お前という奴は……」
バトソンさんが複雑な顔をしているけど、騙されるロビソンが悪い。
まあ、ロビソンは嫌いじゃないし、一緒にいて楽しいからね。全くの嘘ってわけじゃない。
気付いていないのは鈍いエルフ達で、何度も頷いているところを見ると外の世界ってこんなものだと思っているかもしれない。
フィノ達は勿論クスクス笑ってる。
「ロビソンの言う通り門前払いの可能性もありました。それほど頑ななんですよ」
「分かりました。とりあえず、話しやすい相手から行こうと思います。三人が三人とも同じ意見ではないですよね?」
「ええ、勿論です。一応族長にも私の方からお伝えします。まずは争うのが嫌だと主張する料理地区のアスフィリーナ・レーレの下へ行きましょう」
おお、料理地区の長だったのか。
一度訪れてるから僕達の話が伝わってるかもしれない。
「アスフィリーナ・レーレさんですね。どういった方なのですか?」
「料理研究家ですね。レーレ家は代々エルフ全体の料理をする家系です。全体と言っても祭りの時や騒ぐときですけど。物腰は柔らかく、おっとりした方ですから、争うこと自体に苦手意識を持っています。歳は私達と同じで五百ほどで、人族で言うと三十後半ぐらいでしょうか」
「分かりました。またお願いします」
「今度は妻のカトリーナに連れて行ってもらいます。カトリーナは料理地区の出身ですからね」
おお、何か都合が良い。
まあ、あれだけ料理とかできる奥さんなら当たり前か。
あと、料理地区は女性エルフが多かった気がする。
僕達は一度バトソンさんの家に帰り、バトソンさんにアスフィリーナさんと会うアポを取ってもらう。
返答は会ってくれるそうで、僕達の話を聞いていたそうだ。
誠心誠意お互いのことを分かってもらえるように努めて、協力してもらおう。
アルカナさんが家に襲撃してくるという事件が起きたけど、それ以外は順調に事が進んでいる。
このままエルフ族の協力が得られればいいな。
以前シュンの歳を十三と表記していた気がしますが、まだ今年の誕生日が来ていなかったのを思い出し、十二に変えました。フィノもまだ十二ですね。
いずれ誕生日話が入ると思います。
……ひょっとして、これが無駄な話なのでしょうか?




