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村2

想像を文字にするのはここまで難しいのか……。

 魔法の修行に剣の修行が加わって、二年が経つ。

 僕は十歳手前になった。

 体も成長し、百三十センチは超えたと思う。


 魔法は世間でいう上級辺りまで使えるようになった。オリジナル魔法はまだ完成しないけど、あと少しって感じなんだ。どんなものかは、完成してからのお楽しみだ。

 あと、魔法の原理について少しわかってきたんだ。

 師匠に聞いても、火魔法がどのようにできているのか分かっていなかったんだ。

 師匠は「魔力の煉りと火のイメージによって威力が変わる」って言ってたけど、僕の知っている蒼焔がでなかったんだ。

 確かに、魔力の煉り方で魔法の威力や魔力の消費が変わるのは確かだ。だけど、色は変わらない。

 そこでぼくは考えたんだ。

イメージっていうのは、火になるまでの過程のことを言いていたんだ。


 例えば、蒼焔を出すには、魔力を完全燃焼させることと質を上げることが大切なんだ。

 完全燃焼させるには、イメージで魔力すべてを蒼焔に変える。供給量は一定のほうがいいみたいだ。

 質を上げるには精神を統一すること。所謂、瞑想だ。瞑想することで精神を落ち着かせ、精神力を鍛えることができる。その分威力もあがる。魔力消費も抑えられる。いいこと尽くめだ。

 その結果から分かることは、イメージが着火、魔力が酸素、質がガスの種類だということだ。


 今はまだ、蒼焔にはならないけど、紫焔にはなったんだ。あと少しってことだよね。                                                                                                                                                                               


 剣の修行は思っていた以上に厳しいものだった。最初は走り込みから始まり、腕立て、素振りと主に体力作りだったんだ。最近は、体力もついてきたから師匠と一緒に打ち合ったり、弱い魔物と闘ったりするんだ。

 僕が思ったことは、魔物はとにかく生命力が強い! 「これどうだ」と思っても、最後まで気を抜けないことが多いんだ。……最初の頃はそれで何回も怪我をしたよ。


 ま、おかげで回復魔法が上手くなったけどね。


 それから、ガンドさんには泡立て器の他に、ピーラーや麺棒からマッシャ―や型抜き等の難しいものまで作ってくれた。

 感謝し尽くしても、感謝しきれません。ありがとうございますっ! ガンドさん!


 ガンドさんはその器具のおかげで「がっぽり稼がせてもらった。ガハハ――」と、豪快に笑ってくれた。今も注文のあとが絶えないらしい……。




 僕は今、師匠と一緒にファチナ村へきている。

 今回の目的は剣の新調と魔道具屋さんに行くことだ。

 身長も伸び筋力もあがったので、剣を新調することになったんだ。

 魔道具屋さんには何をしに行くのか聞いてないけど、初めて行くところだから、ワクワクしている。


「ガンドさん、おはようございます」

「おう、今日は何をしに来たんだ?」


 店の中で鍛冶をしていたガンドさんに挨拶をする。


「今日は剣の新調に来たんだ。シュンにあったものを見繕ってくれ」

「ああ、わかった。――シュンこっちへ来い」


 ガンドさんが僕を呼ぶ。

 僕の手を見たり、握ったり、体を触ったりする。


「……ふむ。大分筋肉がついたみたいだな。身長も伸びたな。この感じだと――これがいいだろう」


 ガンドさんは新しい剣を持ってきた。

 僕が持っている剣より一回りほど大きい。

 刃渡り六十センチほどだ。


「これはショートソードという。前のスモールソードよりも長い剣だ。その分、重さもあるが今の筋力なら大丈夫だろう。大事に使ってくれ」

「はい、大事に使います」


 僕はそう言って剣を貰い腰に差す。

 ちょっと長い感じもするけど、何とかなりそうだ。


「もう、帰るのか?」

「いや、この後は魔道具屋へ行くつもりだ」

「あいつのとこか……。この時間だと……森に行ってるかもしれんぞ」

「そうか……。いつごろ帰るかわかるか?」

「今日は、マジックスネークを狩りに行くって言っていたと思うからなぁ……。昼過ぎには帰ってくるんじゃないか」


 マジックスネーク? 初めて聞いた魔物だ。スネークっていうぐらいだから蛇どと思うけど、どんな魔物なのかな?


「ああ、わかった。それまで村を回って暇を潰そう。世話になった。――シュン、行くぞ」

「はい、師匠。ガンドさん、ありがとうございました」

「おう、また今度な。……シュン! 気を付けるんだぞ」

「うん? よくわかりませんけど、気を付けます」


 ガンドさんは何に「気を付けろ」と言ったんだろう?

 魔道具屋さんには何かあるのかな?

 師匠との会話の時も、なんだか歯切れが悪かったし……。

 とりあえず、師匠に聞いてみるか。


「師匠、魔道具屋には何か危険なものでもあるんですか?」

「ん? いや、魔道具屋には危険なものはない。魔道具屋の店主が危ないんだ」

「それってどういう意味ですか?」

「魔道具屋の店主はな、一流の元冒険者でもあるんだ。現役を退いて数年経つが、その力は衰えていない。さっきのマジックスネークは森の泉に出てくる魔物なんだが、基本的に魔法が効きにくい性質を持っている。それと合わせて物理耐性も高い、おまけ付きだ。そんな魔物を狩りに行けるのだから、実力は十分だ」

「……すごい人なんですね。どこも危なくないように感じますよ……?」

「会ってみればわかるさ。それより、昼食を食べにこう」


 僕は師匠に連れられ、この村にある唯一の宿屋兼食堂屋さん“森林の旨味亭”に行くことになった。

 看板が木々に囲まれた料理と特徴的でわかりやすい。


 “森林の旨味亭”は一階部分が食堂になっていて、二階が宿になっている。中はいつも席が埋まっていることが多い。

 中に入ると忙しそうに、看板娘のラビリさんと女将のルフルさんが料理を運んでいた。厨房にはおやっさんのラージさんが鍋を振るって料理を作っている。


「あら、アリアさんにシュンちゃん、いらっしゃい」


 ラビリさんが僕達に気が付いて挨拶してきた。


「今日は何をしに? 新作料理? それとも習いに来たの?」


 このセリフから分かるように、僕はここで料理を作ったり、学んだりしている。

 ラージさんに地球の料理を教える代わりに、僕はこのラージさんの料理を教わっている。ギブ&テイクってやつだ。

 ラージさんの作る料理はどれも絶品で、ぜひとも作りたいと思えるものなんだ。


「今日は、お昼を食べに来たんだ」

「珍しいわね、ちょっと待ってて。お父さんに行ってくるから。何でも『あれ』が見つかったそうよ」


 そう言ってラビリさんは厨房の方へ行く。


 ……とうとう『あれ』が見つかったのか。日本人ならだれでも食べたことのある『あれ』が。


「シュン、来たか! お前が言っていたのはこれのことだろ?」


 ラージさんが袋を持って近づいてきた。

 袋の中には、白く艶のある粒がたくさん入っていた。

 そう、『あれ』とは米のことだ。

 この米は細長い形をしている。おそらく、インディカ種と呼ばれるものじゃないかと思う。

 用途としては、炒飯やピラフが主になるのかな。


「これです! これが探していたものです!」

「そうか! これはな、この村に来た行商人が売っていたものなんだ。シュンに聞いたものに似たものがあったから、買っておいてよかった」

「……行商人ですか? どこで仕入れたか聞いてないですか?」

「聞いてみたが、その人も人から貰ったものだからわからないそうだ」

「そうなんですか……」


 やっぱり自分で探すしかないか……。


「それで、これ食べるだろ?」


 そうだな。今は考えるよりこの米を食べよう。


「はい、食べます」

「よし! ちょっと待ってろ。何に合うかも聞いといたから、おいしく作ってやる」


 僕達は空いている席に座って、出来上がるのを待つ。

 上機嫌な僕に師匠が聞いてくる。


「シュン、あの白い粒はどんな物なんだ?」

「あれは、僕のいた国の主食になるものです。種類は違いますけど。いろいろな用途に使うことができるんです。炊く、炒める、煮る何にでも使えます」

「ほう、何にでも合うんだな。楽しみだ」


 師匠も食べたそうだ。


「おまたせー、これが『あれ』の料理です」


 待ちに待った米料理がついに完成したようだ。

 ……見た目は炒飯だな。米と卵、肉、野菜が小さく刻んで炒めてある。米は黄金色に輝き、肉と野菜が適度に散らばってとてもおいしそうだ。それに、いい匂いがする。


「いただきます。……おいしい! やっぱり米はおいしい」

「うむ、これはうまい。家でも作ってもらいたいが……ないのならしょうがないか」

「ラビリさん『おいしかったです』と伝えてください」

「ありがと、伝えておくわ」


 僕達は昼食を食べ終え、魔道具屋へ行くことにする。


「昼も過ぎたから魔道具屋へ行こう」

「わかりました」


 魔道具屋は村の中心にある。

 外見はどこにでもある店と変わらない。木でできた家で、『エリザベスの魔道具屋』と書いてある。

 店主の名前はエリザベスっていうのかな?

 名前から考えるに、女の人だよね。

 師匠は中に入って行く。僕も続いて入って行く。


「おじゃま……しま……」

「あら? いらっしゃい、アリアちゃん。――そっちのかわいい坊やはダ~レ?」


 …………。

 ……なんだ、この生物は。

 身長二メートル越えの身体に、全身に筋肉の鎧を纏った禿頭の化物がいた。

 ぴちぴちのタンクトップみたいなシャツとズボンを着て、ピンクのエプロンを掛けた服装をしている。体をくねらせるたびに筋肉がぴくぴく動き、シャツが悲鳴を上げる。片手の指を頬にあて、名前を聞いてきた。

 ……こいつは人間か?


「この子の名前はシュン。森に捨てられているところを私が見つけて拾ったんだ。」

「あら、まぁ~、そうなの? 大変だったわね~」


 固まっている僕の代わりに師匠が答えてくれる。

 助かりました、師匠。


「私の名前はエリザベスよん。よろしくね、シュンちゃん。本名はひ・み・ちゅ」


 指を口に持ってきて名乗ってきた。ウィンク付きだ。

 うわあああぁぁぁぁぁぁぁーっ!

 き、気持ち悪い!


「シュ、シュンです。よ、よろしく、お願いします」


 僕は言い終わった瞬間に師匠の後ろへ隠れる。

 仕方ない、これは仕方ないんだ。だって、だって、怖いし気持ち悪いんだもん……。


「あら~、かわいいわ~。食べちゃいたい」


 ぞぞぞーっ!

 やばい、本能が逃げろと言っている。


「うふふふ。――それで、今日は何の用かしら?」

「今日は作ってもらいたいものがある。その依頼に来たんだ。シュン、少し話をすることがあるから、待っていてくれ」

「店の物は壊さない限り見ていていいわよ」


 そう言って師匠とエリザベスさんは奥へ行ってしまった。

 秘密の依頼があるのか……。

 待ってろっていうなら待ってるよ。


 魔道具にはいろんなものがあるんだな……。

 押すと光るもの、ライターのように火が出るもの、水が出るもの等の日用品から呪符や護符、オーブ等戦闘用のものまでいろいろとある。

 こっちには杖がある。先端にきれいな宝石がついている。これが魔石かな?

 幾ら位するんだろう?……げっ、小金貨五枚、五十万! 

 僕も師匠も杖を使わないけど、どうなってるんだろう? 他の魔法使いを見たことないからなぁ。

 お、装飾品がある。魔石の埋め込まれたネックレスや魔力を感じる指輪、どれも細かく細工がしてある。どんな効果があるかはよくわからないけど、どれもすごいな。

 どの道具にも魔力を感じる。大小の差はあるけど、どれも効果がすごそうだ。


「シュンちゃん、魔道具に興味があるの?」


 話し合いが終わったみたいで、エリザベスさんに声を掛けられた。

 間近で見ると怖い……。……近づかないで。


「う、うん、初めて見る物ばかりだから」

「何か気に入ったものでもあった?」

「う~ん、……杖なんだけど、何のためにあるの?」

「シュンちゃんは杖を使わないの?」

「うん、使ってないよ。使わなくても魔法は使えるから。それに、師匠も使ってないし……」

「杖はね、魔法効率を上げるため、魔力を魔法に変換するときの補助のためよ。あってもなくても変わらないのなら要らないと思うわ」

「シュンは魔法適性が高いから杖があっても、変わらないだろうな。それに今、何か新しいこともしているだろう? 杖があると逆にし辛くなるかもしれんぞ」


 そうなのか……。

 それなら、仕方がないか……。

 まぁ、確かに魔力の質を上げても、杖の性能で下がったら意味がないもんな……。

 うん、諦めよう。


「もういいの?」

「はい、他にも興味ありますが、また今度にします」

「そう、シュンちゃん、また今度ねん」

「では、シュン、帰るとするか」

「はい、師匠」

「また来てね」


 体をくねらせて別れの挨拶をしてきた。

 ……はい、また……これたら来ます。




 僕と師匠は森を抜け、家に帰っていく。



「師匠」

「なんだ?」

「魔道具屋の店主は……危なかったです」

「そうだろう? 危なかっただろう」



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