帝都バララーク
流れで書きたいことを書いていたので長くなりましたが。いよいよ帝国内部に入ります。
それでもし、同じような説明があれば修正するのでよろしくお願いします。
温泉街ロリアを出発した僕達は、帝国領に入ったということで襲われることを危惧していたが、どうやらそれは杞憂だったようで何事もなく帝国の首都『バララーク』まで来ることが出来た。
とは言ってもその圏内に入っただけで、まだ数十キロある。
帝国の首都バララークは王国と同様の気候のようだ。
だけど、隣には砂漠に囲まれたリュシオン公国があるため、少しでも移動すると荒野と砂漠の無法地帯と化してしまう。
「そう言えば僕は皇帝陛下についてよく知らないんだけど、フィノはどんな人か知ってる?」
フィノも直接会ったことはないだろうけど、僕よりはいろいろなことを義父さんから聞いているかもしれない。
僕も聞いてはいるけど学園に関してと貴族のマナーについてが多く、王国のことしか知らないのだ。
「皇帝陛下の名前は『ダグラス・ド・バララーク』というの。お父様から聞いた話では帝国の王族にしては珍しく気の弱い方で、民を一番に考える人ね」
そんな人だから今回のようなことにまで発展したのかもしれない。
帝国の気質上気の弱い皇帝に不満が募り、どこかで耳にしたセネリアンヌの策謀に加担したのだろう。
その時の王国と帝国の関係だったら帝国の方が上で、策謀が失敗しても講義だけだっただろうからね。
そして、人質として第三皇子にフィノを貰う感じか。
だけど、それが僕の誕生と策謀の失敗によるセネリアンヌの監禁が起き、既に帝国は王国に逆らえないところまで来ている。
戦争になってもおかしくない状況なのだ。
少し腹が立つな。
だから、政治については関わり合いたくないんだよ。
「どうして皇帝になったの? そんな人だったらならないと思うんだけど。陰から支える方が得意なタイプだよね?」
「私もよくわからないのだけど、元々兄弟が少ないみたいだったの。それで第一候補だった第一皇子が、何かの原因で死んでしまって第二皇子であるダグラス皇帝が即位したはずだよ。嫌々即位したみたいで、子供達にはそうさせたくないとたくさん産むのはどうかと思うけどね」
フィノは苦笑して話す。
まあ、気持ちが分からないこともないけど、ちょっと短絡的だとは思うね。
だけど、子供のことを考えている王族として見るのなら珍しく、とてもいい父親なのだろう。
ただ、教育に関してはしっかりできていないのはいただけない。
兄弟は三人で死んだという第一皇子と皇帝の第二皇子、あとはセネリアンヌだ。
子供達は誰も死んでおらず、男は第四までおり、女は第六までいるそうだ。
一体どれだけ産むんだよ……と思わなくもない。
「でも、国民からは高い支持を持っているの」
「そう言えば、ロリアはかなり治安が良かったね。端に行けば監視がし難いと聞いたことがある。これなら治安に関しては安心できるね」
そう、皇帝直轄とその派閥の治安に関しては安心できる。
それ以外に関しては信用できないだろうが。
首都に入れば知られることになり、夜中とか暗殺者が来るかもしれないからだ。
「あと、血の毛は多いけど国民性は良いみたいだよ。少し前までは荒れていたようだけど、戦争が終わって百年経ったからやっぱりいろいろと変わるの。帝国は武力には力を入れていたみたいだけど、国民のための技術はあまり力を入れていなかったみたいだから、今は他国に負けないように力を入れているんだよ」
「私達も負けていられないね」と拳を付くっていうフィノにクスリと笑う。
今再び騒動が起きそうになっているけど知らない人から見ると平和何世界になっているのだろう。
国同士が地球のように手を取り合っているとは言えないけど、少なくとも戦争を起こすということはせずに国力を上げ、平和な国造りをしているのはいいことだ。
技術革新が起き始めているということだね。
「料理に関しては一気に進んだと思うけど、どうかな?」
それに関しては自信がある。
あれから一年が経ち、ロリアで出たアイスクリームのように『ラ・エール』の料理は各地に広まりつつあるようだ。
まあ、王国には旨味亭があるから元々料理に関して頭一つ抜き出ていただろうけど。
「そうだね。シュン君の料理は各地に広まったね。シュン君が忙しそうにしていたから黙ってたけど、お父様とお母様が食べたいって言っていたよ」
「そうなの? なら、帰ってから栄養のある体に優しい料理をたくさん作ろう。もちろんフィノも手伝ってくれるよね?」
「勿論だよ! 一緒に料理するのは久しぶり」
「そうか。学園では昼以外は寮の食事が出てるからね。昼もフォロンが作ってくれていたし」
「折角合宿で食べられると思っていたのにこんなのことになって……でも、これで終わるね」
「うん。あと、義兄さんも政務で疲れているだろうから滋養の高いものを作ろうかな。あ、国民も一年前の大規模魔物侵攻と魔闘技大会の襲撃で心身ともに疲れ、今回の騒ぎで不安としこりが残っているだろうから何かの祭りを開くのもいいかも」
時期もいいから大規模なものが開けると思うけどどうかな?
この時期でいうと夏祭りが一番妥当だよね。
そもそもこの世界に祭りが少ない気がするんだけど。
収穫祭とか、感謝祭とか、誕生祭はあるけど、夏祭りみたいに国民が楽しむ純粋な祭りは聞いたことがない。
「ちょっと待ってシュン君。どうして夏に祭りをするの? 夏って今のガーランみたいに暑い時期だよね? 何か崇めることでもあるの?」
ああ、そう言えば王国には季節がなかったんだったか。
でも、夏祭りは無病息災を祝うものだったっけ? はずだから、健康のためというのなら一年に一回あってもいいだろうと思うけどどうかな?
それに祭りは崇めるものなのか……。
「これがこの世界の常識に当てはまるのか知らないけど病気をしないように、っていう願いを込めた祭りなんだよ。夏っていうと病魔の蔓延、食材の腐敗、干ばつや日照り等悪いことが多くあるからね。それらを無事乗り切りましょうという願いを込めて祝うんだよ。王国にもあってもいいと思うよ。別に夏の期間だけじゃなくて、一年間通して健康でいられますように、という願いを込めればいいだけだしさ」
祭りの本題はどうでもいいんだよ。いや、よくはないけど。
ただ、僕が思うのは一年に数回は国民が楽しめる時間があってもいいんじゃないかっていうことだよ。
「シュン君は祭りに参加したことがある? 勿論この世界でだよ?」
「いや、ないね。丁度一年前までは師匠と修行していたし、街に着いてもランクを上げることと魔物の侵攻でしょ? で、一息ついたら神様に呼ばれてフィノに魔法を教えてたでしょ? まあ、その後の大会については参加するつもりがなかったけど一応祭りかな?」
「聞いただけでもいろいろしてるね。濃過ぎる気がするけど、一つでも時期がずれてたら私はシュン君に会えなかったんだよね」
フィノは僕の手を取り、肩に頭を乗っけた。
思い出して少し心細くなったのだろう。
「そうだね。この世界に来て感謝するばかりだよ」
本当にこの六年程がとても心地いい。
「シュン君のいた世界の祭りはどんなのがあるの?」
「祭りの内容だよね? よく知らないんだけど、食べ物屋さん――屋台が多かったね。あとは子供でもできる簡単な遊びがあって、達成できたら景品がもらえるとか、くじ引きとか、場所によっては踊りや芸、お披露目とかもあったね」
「なんだか楽しそうだね。帰ったらお兄様に相談してみる。すぐは無理かもしれないけど、来年には出来そう」
「じゃあ、夏は学園も休みになるからアル達を招待しようか。友達だって義父さん達に紹介もしたいでしょ?」
「あ、それいいね!」
僕とフィノが祭りの内容について話す中、とうとう目的地であるバララークに到着した。
王国の建築様式はヨーロッパ方面でよく見られる白塗りの壁が多く、首都シュダリアの地面は日本式が近く、長方形の石をパズルのように敷詰めてある。
それに比べてバララークはセメントの様な物に大きめの石を適当に敷詰めたような感じで、少しボコボコとしているが馬車で通るとそれが丁度いい振動となって眠気を誘う。建物は煉瓦とそのセメントを利用した建築物に近い感じだ。
恐らく、森林が少ないというのがその理由だろう。
王国は以外と木を大量に使っている場面が多かったからね。
食器、家具、机とか。後他国にも木を輸出しているとかなんとか。
「シュリアル王国の皆様、ようこそおいでくださいました。私、財務大臣を努めさせていただいているモルロ・ド・レンペントと申します。モルロ、とお呼び下さい。以後お見知り置きを」
戦争で使うような実用的ではなく、見世物や見た目を重視したお披露目用の甲冑を着た馬に乗った男性がこちらに近づいて来てそう言った。
馬車は首都手前の城門付近で止まり、そこへ近づいてきたのがにこやかな笑みを浮かべた少々恰幅のいい男性だ。
右手を胸に当てて軽く礼をするのが帝国の敬礼だ。
「この様な場所から済みません。私がシュリアル王国第三王女フィノリア・ローゼライ・ハンドラ・シュダリアです。こちらはシュン・フォン・ロードベル伯爵です」
「どうも、紹介に預かったシュンと申します。若輩者ですが、陛下の御命を救ったということで一応伯爵の地位を国王陛下から戴いております。今回はフィノリア様の護衛を含めて訪れております」
予めフィノの目の前に座っていたので馬車のドアを開けた状態で挨拶をする僕とフィノ。
婚約者だと言わないのはまだ公ではないという理由もあるけど、このようなところでばらすのもどうかと思っただけだ。
人の目と耳が多く、こちらを見ている人が多いからね。
「はい、聞いております。御二方にはこれから馬車に乗ったまま城へと入城して頂きます。その後、部屋を騎士の方の分も準備させていただいておりますので、そちらで今日の所はお休みください。今後の日程に関しては移動中に教えさせていただきます」
「分かりました」
僕達は馬車を移動させる準備に入り、前後左右を王国の騎士で囲み、その前に帝国の騎士三人と馬車の側面――フローリアさんの隣にモルロさんが配置して移動する。
「まず、今日は予定ですが普通に休憩されるだけで構いませんが、夕食は晩餐会が開かれます。ただ、今回の騒ぎもあるので無理にとはこちらも申しません。せめて帰りに一度だけ参加していただきたく思います。王国から使者が来るということで国内にはピリピリしている者がいますので……」
不穏分子がいるということでいいのだろうか。
でも、晩餐会――パーティ……かな?――確かに普通の使者ならまだいいだろうけど、僕とフィノは王族と伯爵当主だから参加しなかったでは沽券にかかわるだろう。
それに他国に不和を知らせているようなものなので一度、特に会談が終了した最後に日くらいは内容に関わらず参加して帰った方が良いだろう。
「分かりました。参加するかどうかは話し合って決めたく思います。ですが、皇帝陛下にはお会いできないのでしょうか?」
フィノが普通は来た時に国のトップに挨拶をするのではないかと訊ねた。
それを聞いてそういう物なのかと思う僕だけど、まあなんとなく理由は分かる。
「はい、考えていただけるだけでも有難く思います。現在会議が伸びておりまして、通常ならば宰相や外務大臣が来るのでしょうが、一財務大臣である私がここへ迎えに来ているのも会議が伸びているためです」
「失礼ですが、その会議というのは今回の……」
「はい、そうでございます。会議について詳しくは申せませんが騒動についてとなります。ただ単に会議が長引いているのではなく、会議出席者を出さないために長引かせているとお考えください」
ああ、ね。
「不穏分子がいるということですね?」
「シュン様の仰る通りです。私はここ二年程各地を飛び回り、金の動きを探っていたもので疑いが一番少なかったのです。ですが、こういう出迎えをしたことがないもので、何か至らぬ点がございましたら平にご容赦を」
だから少しだけ焦ってるのか。
納得した。
「ですので皇帝陛下との謁見は明日の十時頃となります。九時頃に使いを送りますので準備が出来次第お会いになられるかと思います。それと皇帝陛下からその時に例の物を頂けると有難いと仰せですが、どうでしょうか?」
「う~ん、確証が無い物なのですがよろしいのですか? 皇帝陛下ご本人に直接渡せるのはこちらも有難いですが……」
「はい。これに関しては間違っていたとしても責めることはない。むしろ間違っているということは、それらしい動きをしているということになるのだから調べるべきだ、と仰せでした。私も謁見時に渡された方が、名前が挙がるのを阻止しようとする者達の目を欺けられると愚考します」
フィノは僕の好きにしていいと目で伝えて来た。
まあ、僕はいつでも調べられるし、控えが王国に置いてあるから無くされても大丈夫だ。
「分かりました。僕は謁見というのがよくわからないのですが、その場には皆さんが勢揃いするのですか? あと、平民上がりのため王国の作法しか存じておりません。帝国の最低限の作法を教えていただけますか?」
「私も帝国へ訪れたのは初めてとなるので教えていただけると有難いです」
フィノは知っているだろうが、僕の質問を隠すために言ったのだろう。
僕が同調を使えることは他国に知られるわけにはいかないのだ。
だから、謁見時に粗方目星を付けて会談時に報告しなければならないのだ。
多分、王国の時よりも長い時間がかかると思っている。
「そうですか。では、部屋へご案内した後お付きの者へ連絡ください。簡単な帝国儀礼を説明させていただきます」
「ありがとうございます」
モルロさんの目には平民上がりの貴族でも侮蔑の色がなく、普通に接してくれていたので信用できるだろう。
まあ、商人みたいな人だから隠しているかもしれないけど。
「っと、どうやら着いたようです」
目の前に遠くからも見えていた大きな城が現れていた。
城も王国の西洋城ではなく、どことなく頑強な砦や要塞といったイメージが高く、これなら失礼だけど魔王が住んでいそうな感じもする。
暗いというわけではないけど、先代の皇帝までが武力の王だったためこのような力を誇示する作りとなっているのだろう。街並みもどこか力強さを感じていた。
「最後に忠告をさせていただきます。お気を抜かないことも大切ですが、無暗に部屋を出ないこと、毒見をさせますが食事に気を付けること、就寝時も戸締りをお願いします。命を狙ってますと言っているようなものですが、現在何が起きるか分からない状況ですのでよろしくお願いします」
「それは……いえ、ご忠告痛み入ります」
何か言いかけたフィノは結局何も言わずにお礼を言った。
僕も軽く頭を下げ、馬車から降りて部屋へと案内された。
案内される中すれ違った兵士やメイド達からいろいろな視線を向けられた。
僕も護衛と言ってしまったためにフローリアさん達同様部屋を分けられそうになったが、伯爵当主という地位とフィノ専属の護衛の二つの理由を押し出すことでどうにか同じ部屋になることが出来た。
フィノも同い年の僕がいた方が良いと言ってくれたので嬉しかった。
よく考えれば失礼だし、王女としてあるまじきっぽい行動なんだけどね。
「……シュン君」
フィノがぽつりと名前を呼んだ。
「どうしたの? やっぱり、不安?」
「う、うん。フローリアも騎士の人もシュン君もいるからそこまで不安じゃないけど、何か胸騒ぎがして……」
フィノの言う通り僕もちょっと胸騒ぎではないけど、案内されるときの周りの反応、モルロさんの忠告、あれだけのことがあってそれほど騒いでいない住民。
周りの反応はこの会談が今後の関係に関わっているのだからわかる。
モルロさんの忠告は鵜呑みにするわけではないけど、もしモルロさんが嘘を付いていたら確実に何かが起きるはずだ。
住民の反応にしても王国であれほど噂になっていることを知らないわけがない。なのに、僕達の馬車が通っても騒ぐことなく、不安そうにしているわけでもなく、住民が国へ詰め寄っているわけでもない。
そういう国民の気質だと言ってしまえばそれで終わりだけど、さすがにそれはないだろう。
「……確かに嫌な気配がある」
僕の言葉に目を揺らすフィノ。
日頃活発で好奇心旺盛、僕と一緒に馬鹿なことをしたり、平民であったとしても気軽に話したり、優しい王族のフィノだけど、やっぱりどこにでもいる女の子なんだよね……。
僕は一度恐怖のどん底に落ちたこともあるし、強敵との死闘も行った、大観衆の前でいろんなこともしたし、死んだこともある……。気持ちはわかるけど、今はその差がとても離れているように感じて、フィノだけが辛そうに見える。
無意識の間に求めたのか、そっと抱きしめて安心させるように耳元で囁くように話す。
「僕が……僕が、フィノのことを絶対に護るから。約束したよね。僕はフィノを裏切らない。フィノだけを見つめて愛する。僕はフィノを護り、フィノは僕を護るってね。……だから、フィノは明日のことだけに集中して」
抱いたことでフィノの身体が強張っていることに気が付いたが、僕は気が付かない振りをしてぎゅっと抱きしめる。
フィノも抱き着き返して頷いた。
「うん、そうだったね。シュン君は私のために、私はシュン君のために」
明日の会談は恐らく相手は皇帝一人ではないだろう。
皇帝がこちらの味方とまではいかないものの敵ではないとすると、敵である人物が数人いるはずだ。
僕には参加資格があってもフィノのように意見を強く言えるわけではない。あくまでも一番はフィノなのだ。
それに勉強もしていないから交渉ごとに対して上手くやり取りできるかわかったものではない。
ただ、同調が使えるからかなり有利なのは確かだ。
僕がやるべき仕事は無事に帝国から帰還すること、フィノを護ること、交渉事を成功させるためにフィノの邪魔をしないようにしなくてはならない。
「フィノもわかっている通り僕は政治や交渉ごとに関してはさっぱりだ。友達同士ならいいけど、腹の探り合いは僕には向いてない」
フィノは僕の言葉を聞いて身体を離し、首を横に振る。
「そんなことないと思うよ? 魔闘技大会の謁見の時はきちんとできていたよ?」
「いや、あれは勝てると思える証拠もあったし、フィノから国の様子も聞いていたから義父さんにあれを渡せば大丈夫だって思ってたからね。だから、今回の交渉に関しては全く役に立てないと思った方が良いよ」
「でも、いてくれるんだよね?」
「うん、一緒にいるよ」
「ならいいよ」
情けないなぁ……。
「まあ、僕は参加さえできればフィノのお手伝いぐらいは出来るけどね。同調で思考を読んで念話でフィノに伝えられるからフィノが裏をかかれることは低いと思うよ」
「あ、そっか……。なら、もっと大丈夫だね」
フィノの顔から不安がなくなり、いつものような笑顔が現れ出した。
「……時間もないから言っておくけど、帝国が何か仕掛けてきたら僕はもう容赦するつもりはない。皇帝陛下が直接出した指示ではないとしても、この問題は王国からしたら大問題だ。その原因が嫁いできた王族なら尚更だよね? ……だから、少しでも強気で来たり、不快だと感じたら多分、僕は怒ると思う。義父さんと義母さんを昏睡状態にさせたのが目の前にいると思うと腸が煮えくり返りそうなんだ」
「……」
表面上穏やかにしていた僕がそういうことを言うとは思えなかったのかフィノは目を丸くする。
だが、その後すぐに第三皇子のことを思い出して僕が近しい人に危害が加わるのが嫌いなことを思い出したのだろう。
最近起こっていなかったから僕自身も忘れてた。
それにフィノも僕と同じ気持ちだろうし、生みの親なのだから尚更だ。
「勿論我慢はする。過激だけど、仮に戦争になっても僕が対処する。まあ、ならないと思うけど。フィノも手を付けられなくなったら僕の正体を明かしてもいいよ」
「え?」
「もう意味ないからね。婚約者だとばれるのも時間の問題だし、あそこまで力を見せれば疑問を持つ人が出てくる。さすがにキレてたとしてもあそこまでする必要はなかったね」
「ふふふ、でも、嬉しかったよ。私にも教えてほしいぐらい」
「えっ!? でもあの魔法派手過ぎない? 名前にも神が入っているし……。いや、教えたくないわけじゃないからいいんだけどね」
狼狽すると再び笑い完全にいつものフィノに戻ったようだ。
神の名を使ったのだから宗教国家の聖王国には近づかないようにしよう。
「でも……いいの?」
「もう疲れてきたっていうのもあるよ? それにフィノの婚約者に箔があった方が良いでしょ? 王族と英雄なら誰もが認めるからね。元々隠していたのは師匠の過去の経験からなんだ。でも、ここまで来たら騒がれても仕方ないし、僕には師匠と違って身分もあるからね」
「そっか。証拠は?」
「戦争を起こす気もないように力を見せてもいいし、ギルドカードもあるし、白尾の狐のコートもある。それでもダメなら証人を連れてくればいい」
「証人がいるの? 私聞いてないよ?」
あれ? 言ってなかったっけ?
「魔物侵攻の時にガラリアのギルドマスターとソドムのギルドマスターには話してるんだよ。帝国では恐れられている僕の師匠もいるし、師匠の言うことなら嫌でも信じるんじゃないの?」
「ああぁ……確かにね。私も会ってみたんだけど……いいかな?」
ダメかな? って、上目づかいで聞いてくる。
答えは決まってる。
「いいに決まってるじゃないか。僕も近いうちに会ってもらおうと思ってたからね。親のいない僕の親だから、結婚するのなら報告する義務があるし、結婚式には出席してもらわないといけない。まあ、まだ先の話だけどね。まずは、義父さん達を交えた話し合いだね」
フィノはそっと目を伏せながら頬をほんのりと染める。
僕も恥ずかしさが込み上げ、狼狽えそうになるのを我慢する。
「……ありがと、シュン君。まだ胸騒ぎがするけど、頼むよ?」
「うん! 任せて」
この後僕はフィノと一緒に帝国風のマナーを学び、明日に備えて休息に入るのだった。
さすがの僕も混入した毒を探ることはできない為、食事に最高位の解毒魔法と食中毒を起こさないように浄化魔法を掛けた。
部屋にも用心を重ねた最硬度を誇る結界を張り、何人たりとも侵入をさせなかった。
捉えることも可能だったけど、事を大きくするのは得策ではないと判断した。
もし、捕まえて戦争にでもなったら目も当てられない。
さっきはああも言ったけど、出来れば平和的に解決したいのだから。
帝国の兄弟関係(皇帝)をどこかで話していたら教えてください。




