温泉に浸かろう
ネット環境が復活しました。
これからはいつも通りに戻れます。
あとちょっと休んだからか気分も良いので少し文字が多くなるかも……。
でも、このぐらいの方が良いのかもしれないのでいつも通りの可能性もあります。
ロリアに着いた僕達は街並みを観光しながら泊まる予定となっている貴族が泊まる高級な宿屋へと向かった。
フローリアさん達近衛兵の人達も今回は人も少ないということで同じ宿屋に泊ることになっている。
いつ何が起きても対処できるようにするためだ。
それはここが王国ではなく、最近の騒動に名が挙がっている帝国内ということが起因している。
そうでなくとも近場の宿や寄宿舎、宿の外などで交代で待機してくれるらしい。
庶民な僕からすると守られる、ということにそれほど慣れていない為居心地が悪いが、フィノの様な王族や大貴族等は自国でも命を狙われやすいのだから他国なら尚更となり、このような対処が普通なのだろう。
それに今回は他国ということ以上に王国内で貴族の粛清を行ったことで、それを恨んだ者が手を出してくるかもしれないとフローリアさんから教えてもらっている。
全ての貴族を取調べ、裁きを与えたが、末端や帝国関係(元王妃の関係者)までは時間が足りず、調べ切ることが出来ていないのだ。
王国の貴族の粛清は済んだが帝国の貴族の粛清は済んでいない。
逆恨みや口封じ等を企て、僕達が帝国の皇帝と会談を行うことは公のことのため知っている者達が仕掛けてくるかもしれないということだ。
まあ、それもよくよく考えればあり得ないかもしれないのだが、自暴自棄になったものは何をしでかすか分からないという言葉もあるのだから気を付けておいて損はないだろう。
一応半径五百メートルの範囲に魔力感知を広げ、僕達の元へ近づこうとしている者を察知できるようにしている。
一直線に進んでくる者を気を付けておけばいいだろう。
宿屋の名前は『ユケムリ』という名前だ。
旨味亭の系列は王国内だけのようだ。
まだ、世界に名を馳せる、とまではいかないようだね。
ユケムリはこのロリアでも有数な温泉施設を持つ宿屋らしく、熱めな湯やにごり湯、溢れ出る温泉、流れのある温泉などたくさんあるそうだ。
温泉が流れてくるという大自然の火山を眺めながら入る温泉や崖の上に作られ、下に川が流れるという風景も楽しめるそうだ。
あと、温泉は男女別と混浴があるけど、さすがに僕とフィノが一緒に入るわけにはいかない。
入りたいし、興味もあるけど……まだ早いし、ちょっとね……。
部屋は同じなんだけどね。
「温泉に入りに行こう?」
フィノが持参した着替えと無料で支給されるバスローブとタオルを持ってそう訊ねて来た。
持ち物は全て収納袋の中に入っているため部屋の中に置くとすると今来ていた外套や装備品ぐらいだ。
「もう入るの? ちょっと待ってね」
少し時間的に早い気もするけど早い方が人が少ないだろうし、日が暮れてくるという風景を見れるというのもいいかもしれない。
それにすることは特にないため別にかまわないだろう。
あとはフローリアさんに伝えるだけだな。
「あと、髪留めも持っていった方がいいよ」
「どうして?」
「お風呂に入る時もそうだと思うけど、温泉の場合は特に大勢の人が入るから衛生上気を付けないといけないんだよ」
お風呂でもそうだが、湯に髪を付けるのはフケや埃等が付いてしまい衛生上良くないのだ。
温泉は人が多くいるからね、それにこの温泉街は状態の悪い人も来るから状態が悪化してしまう可能性もあることをしてはならないのだ。
「そうなの? じゃあ、いつものようにタオルで巻くとかでいいの?」
「それでもいいけど温泉にはお風呂よりも長くいることになるだろうから頭が重くなるよ? 髪留めで括るのが丁度いいと思うけど……」
「そう、かもしれないね……。わかった、髪留めを持っていくことにする」
そう言って取り出したのはあの時僕がアロマに提案した髪留めだったりする。
僕もすぐに収納袋から着替え等を取り出し、ベッドの上に置かれているタオルやバスローブを持った。
「それじゃあ行こうか」
「うん。楽しみだね」
部屋から出た僕達は隣の部屋にいるフローリアさん達女性騎士と逆の部屋に部屋を取っている男性騎士二人に声をかけ、女性五人男性三人の計八人で予め案内された温泉へと向かった。
まずやって来た場所はユケムリの中でも一番の大きさを誇る温泉だ。
その温泉はいたって普通なのだが、そこから見える大空と眼下に広がる街並み、自然は見物だろうとのことだ。
そこが一番丘の上に作られ、段下がりのようにいろいろな温泉が湧きでているのだ。
男女の境はその丘を半分に割ったように木製の壁が作られているので安全だろう。
それでも覗きの類が出てくるのは仕方のないことらしいが……。
「それでは夕食の時刻までは各自に任せるということにします。あなた達はシュン様から目を離さないようにお願いします」
フローリアさんはそういうが、僕が覗きをするとでも思っているのだろうか?
フィノの方をちらりと覗くと少し頬を染めて目をやや下方向を外されたのでそうなのか……?
ぼ、僕はそこまで信用無かったのか……。
少し凹んでいるとフローリアさんがクスリと笑い、僕の背後でチラリと僕の後姿を見ている男性騎士に向かって言い放った。
「シュン様はこの二人が国境を越えて幻想郷を見に来ないように監視をお願いしますね」
「「え!?」」
背後から僕とは違った驚愕の声が聞こえ、そこで少し勘違いしていたことに気が付き背後の二人を肩口に覗いたら、
「「……そりゃあないッスよ~」」
と、情けない声を出して薄らと目尻に涙をためている二人が視界に映るのだった。
改めて前を向きフィノ達を見るとクスクスと笑い、僕の背後にいる二人にどことなく冷たいような目を向けているのが分かった。
どうやら僕に対しては単に周りに対して気を付けろといっただけのようで、二人に対して覗きをしないようにいったようだ。
「わかったよ。二人をしっかりと見張ってるね」
「「シュ、シュン様~」」
胸を張って答えると僕の両肩にしだれかかるように二人は泣きついてきた。
それを見た皆は通行人も合わせて声を出して笑う。
「ふふふ。もしも覗いたら生きていることを後悔させてあげますから見に来てもよろしいですよ?」
フローリアさんはそう言って女性五人で暖簾を潜り温泉へ浸かりに向かい、チラリとフィノは僕を見て「メッ!」とでも言うかのようにほんのりと頬を染め、覗いたら絶交と言いたげだった。
残された僕達三人は残された冷たい空気と背筋が凍るような笑みを見て一時固まっているのだった。
僕達は男女に分かれて目的の温泉がある場所を目指す。
石と木で作られた脱衣所で数人の先客と共に着替え、僕達は温泉に入る時のマナー通りタオルを一枚持って外へ向かう。
扉を開けると同時に湿った涼しい風が肌に吹き付け、温泉のいい匂いが鼻を通る。
「「「おお~!」」」
一歩踏み出すと更に煙が顔を撫でた。
それと同時に足の裏から湿った石畳のごつごつとした感触が伝わり、辺りを見渡すと壁で囲まれてはいるが右端の方はその壁がなく、雄大な景色を眺めることが出来るようになっている。
僕達は簡単の声を上げると共に景色を眺めながら端にあるかけ湯エリアへと向かって行く。
王城のお風呂で大体知っていたことだけど温泉にもシャワーの様な物はないようだ。
ホースの様な物はあるのだが、ホースだと旨い具合にできないんだよね。
水はドバっと出るし、範囲は狭いし、いろいろと使い具合が悪いのだ。
まあ、僕自身は魔法でシャワーのようにできるから別にかまわないんだけどね。
もちろんフィノにもやり方は教えているけど、やっぱりこれも水の操作になるからそれなりの技量が必要になってくるわけだ。
結局何でも自分で考え、高め、扱えるようにならないといけないっていうことだ。
「で、シュン様。何時見に行くので?」
と、火魔法と水魔法でお湯を作り、シャワーのように頭上から降らせて頭を洗い流していると、隣に座ってホースからお湯を取っていた金髪青眼のエルフ騎士――ロビソン――がニヤニヤと口元を上げ聞いてきた。
僕はその内容を理解するのに時間を有し、理解し戸惑っている間に反対側から黄緑髪赤眼の虎獣人騎士――ガノン――が僕の肩に手を置き、
「おいおい、シュン様はまさか幻想郷を覗きに行かないわけじゃないですよね?」
と、やれやれと驚いた様な、呆れている様なリアクションを手振りを合わせて送って来た。
「覗くって……」
僕は何も言えずに頭の中が半分ほど真っ白になり、頭から水を被りながら二人の目を凝視する。
「そうですよ~! やっぱり温泉といえば覗きですよね!」
「あの壁の向こうには幻想郷が、桃源郷が、理想郷があるんですよ? 男なら見たいと思わないのですか!」
いや、ですか! と言われてもね、それは常識的に考えてやっちゃいけないことでしょ。
そりゃあ、見たくないとは言わないけど、態々危険を冒さなくともいいじゃない。
一体何を考えているんだ?
あれほど忠告を受けたのにもかかわらず覗きに行くの?
馬鹿なんじゃないだろうか?
いや、男はこういう場面では馬鹿なのだろう。
命知らずではなく、国を、民を護る騎士の如く、お宝を目指して冒険する冒険者の如く、己の信念に基づき目の前の目標に向かって困難さえも振り解こうとしているのだろう。
まあ、僕からすればあほなじゃない? っていう感じだけども……。
僕がいれば大丈夫なような感じに腕を動かしワキワキとしているが、僕がいてもダメ出し、フィノに嫌われ絶交されるわけにはいかないから知らんぷりを決め込み、桶に入れたお湯を肩からかけて体を洗い始める。
「シュン様~」
「いや、そんな情けない声出しても無理なものは無理。まだ用事も終わってないんだよ? 見つかって空気が悪くなるのは御免だね」
壁の方を向きこれからのことを話す。
帰りならいいと言うわけではないが、生きにやられるのは困る。
いや、そもそも僕を巻き込まないでほしい。
フローリアさんは多分僕にも怒ると思うよ。
「そ、それは分かりますけど……。で、ですが、こう、無いんですか?」
「そ、そうですよ。シュン様は婚約者なんですからこのぐらい……」
二人は理解したようだがなおも言い寄ってくる。
確かに婚約者だから許してくれそうな気もしないこともないが、フィノを思えばそれはやってはいけないことだ。
そう言うのは結婚してからじゃないとね。
あと、フィノは絶対に自分よりも他人の肌かを見たことに怒りそうだ。
自分だけを見てほしいと聞こえるが、それはそれ、これはこれだろう。
フィノ一筋を誓ったのだから覗くわけにはいかんだろ!
「フィノに嫌われるから嫌だね。大体、フローリアさん達ならまだしも、あっちには王族のフィノがいるんだよ? 不敬罪だよ。それに、フィノの裸を見せたくない」
最後のが本音だ。
僕は結構独占欲が高いのだろうか?
普通に考えれば婚約者の裸を他人に見せるわけないか。
二人は諦めたのか、肩を落として体に着いた泡を落とし始めた。
「そんなに見たいのなら、あとで混浴の方へ行けばいいじゃない」
僕も体にお湯をかけ泡を洗い流しながら答える。
二人は顔を見合し納得する。
「あと忠告しておくけど、魔法を使わない方がいいよ。姿を消しても、幻術で女の姿になっても、声を拾おうとしてもばれるから」
半年ぶりに合ったフローリアさんの技量は相当上がっていたし、お付きの騎士も覚えてはいないけどそこそこの実力になり、フィノに関しては僕を除けば王国でも上位に入るほどの実力者となっているだろうからね。
まあ、師匠のように世間には出てこないような人物もいるだろうけど、騎士内だったらフィノが十本の指に確実に入るだろう。
「「……マジですか?」」
二人はやはり魔法を使おうとしていたようだ。
こんな二人でも若手騎士の中ではトップの実力者だったりする。
このような人物の方が出世しやすく、世間では強いのだろう。
灰汁が強いというか、キャラが濃いというか……兎に角覚えやすい人物だな。
「マジだよ。二人は何年間フローリアさんといるの? 二人の技量だとまだ勘付かれると思うよ」
僕は立ち上がり、近くの浅い温泉の淵に腰を下ろして湯に片手を突っ込み、湯温を計りながら答えた。
二人も立ち上がり僕の傍まで近づき言う。
「ですが、シュン様の技量があれば……」
「無理無理。こういう時の女性は敏感なんだよ。女性は男性の視線に敏感だって聞くでしょ?」
「ええ、まあ、聞きますね」
「ですが、さすがに透明になれば……」
胸まで浸かると頭の上にタオルを置き、骨身に浸みる湯を感じながらゆっくり息を吐く。
「ふぅ~……。僕なら多分騙せるだろうけど、二人とも女性を甘く見過ぎだよ。こういう時は第六感でも働いていると考えないと」
「あ~……気持ちいぃ。第六感ですか?」
「そうだよ。例えば、今会話しているのも聞こえていたりするんじゃない? 結構離れてるのにね」
僕がそう言うと女性たちがいそうな方向を向いてごくりと喉を鳴らした。
多分大丈夫じゃないかな。
周りは静かだけど風向きとか、壁の厚さから考えてだけど。
それに、僕は聞こえていたとしても止めた側だから大丈夫だろう。
もしもの時は二人になすり付けて……十二歳だしね。まだ許される歳……のはず。
ロビソン……ガノン……すまぬ。
まだ、そうと決まったわけじゃないけど先に謝っておくね。
「う、嘘ですよね……」
「そんなま、さかぁ……」
引き攣った笑みを浮かべて薄らと額に汗を浮かべ否定してほしそうに訊ねてきたが、僕は肩まで浸かると横目でチラリと二人を覗きニッコリと笑うだけに止めた。
その返答に二人は暖かい温泉に入っているのにもかかわらず背筋が凍るかのように肌を抱きしめ、顔を青褪めさせた。
二人のリアクションに満足した僕はしっかりと温まるように湯の中に浸かり、目を閉じて心地よさに意識を持っていくのだった。
あと一話温泉の話があり、帝国に入ります。
あと、ずっと前にロロについてどうなっているのかという質問を頂きました。
はっきり言います。忘れていました。すみません。
いえ、忘れてはいなかったのですが、登場させるのに学園では時期を見て出さなければならず、王国では出すことが出来ず、今回の旅でも威信目的で出せますがシュンとフィノの実力があればいらない気がします。
結果として出す話を作れませんでした。もちろんこれからは出しますよ?
ネタバレ気味かもしれませんが参加できなかった林間学校は来年もありますし、イベントもあります。召喚魔法は誰でも相性があえば取得できますからね。
気になっているのは現状のロロであろうと思うので補足します。
体長は既に一年以上経っているのでほぼ成体と思ってください。五メートルは超えているでしょうか。
エアリは半年が経ち、体長二メートル程。徐々に強くなっていますね。
ツェルとフォロンの召喚獣以前と変わりません。愛玩用と偵察用ですし。
あと、話には出ていませんが学園のいる時も空間から出しています。
飼い主としてペットの御機嫌を取るのは大切ですから。
これからは活躍シーンが出てくると思うので、私同様忘れていた人は思い出してあげてください。
大きくても可愛いのは変わりません。
見た目はあの食材集める漫画の狼と変わんないですよね……。大きさは違うんですが。




