捕縛
投稿したと思っていたのですが、投稿ボタンを押す前に画面を消してました。
ガチャッと音を立てて静かな部屋の中へ入ると中にいた人全員が僕の方を向いた。
僕は部屋の中へ入ると同時に魔力感知により侵入者や聞き耳を立てている者がいないか確認を取り、隠蔽結界を部屋全体に張り皆の元へ近づく。
「シュンか……。どうだった?」
疲労が溜りながらも希望の籠った声で訊いてきたのは僕の義理の兄ローレレイクだ。
フィノも涙を浮かべてこちらへ向き、僕の元へ駆け寄って来た。
「シュン君! お父様は……お母様は……!」
言葉が出ないのか涙をぽたりと絨毯の上へ落としながら、僕の両腕を横から持ち抱きしめるように見上げてくる。
優しくそっと抱きしめると正面から見返し、優しい口調で調べた結果と大体の目途が立ったことを伝える。
「安心して、フィノ。呪いについては恐らく解呪できると思うよ」
「ほん、本当!?」
「うん。だから、フィノは寝てきなよ。疲れてるでしょ? フィノが倒れでもしたら意味ないからね」
「で、でも……」
「解呪するときはフィノにも立ち会ってもらうから安心して。まだ準備とかがあって時間がかかるから今は休むことが大切だよ?」
いてもらっては困るということはないが、やはりあいつにフィノのことがばれるわけにはいかない。
この部屋にいるとばれる可能性が高く、呪いの影響を受ける可能性もある。
遠くにいなくてもいいがせめて作り出した結界――解呪結界とでも名付ける――と隠蔽結界を施した隣の部屋に移り、フォロンとツェルの付き添いの元で休んでほしい。
まあ、あとはこれから少しきつい話をするかもしれないし、フィノにはいい思い出がないだろうから粗方終わるまで加わってほしくないというのが本音だ。
フィノも薄々それを感じ取ったのか少し俯きながらコクリと頷き、僕は頭を撫でて背後の扉の前で待機している二人に目配せを送った。
二人はフィノの元へ近づくと外の様子を確認しながらサッと隣の部屋へとフィノを移した。
結界に関しては予め施してあるので問題ない。
僕はフィノの背中を見送ると隣で聞きたそうにしている義兄さんの方へ向き直る。
「シュン、説明をしてくれ」
「わかりました」
この場にいる義兄さん、王宮解呪魔法使い、王宮回復魔法使い、王宮専属の医者の四人だ。
結界を張っているので大丈夫だとは思うが、一応相手の力量も考え四人を一カ所に集めて話すことにした。
「調べた結果呪いの強弱は無視しますが、この呪いは精神型が掛けられていると思われます」
「精神型? 呪いにそんな種類があるのか?」
「私共は聞いたことがありませんが……」
義兄さんは元々魔法にあまり詳しくないということもあり知らなくても当然だ。残り三人が知らないということは呪いを一括りにしている、という可能性が高くなり、考えたように解呪魔法は一律なのだろう。
あの時解呪には呪いの種類を調べるといったが、その後に患者の容体を言ってきた。
種類というのは呪いの効果ということなのだろう。
そう考えれば回復魔法と似たところがあることとその呪いの効果と真逆の祝福の効果のある言葉を述べることが理解できる。
だが、それでは今回のように強力だった場合解呪するのが無理となる。
特に今回は感情による呪いだろうからその感情を越える祝福の言葉でなくてはならない。
呪いをかけている者は自分が死んでもいいから呪い殺したいと思っているとすると、それに対抗するには自分が死んでもいいからこの人を治したいと思わなければならないだろうということだ。
だが、そんなことは無理だ。
例え相手が一国の王であろうと赤の他人なのだから、心の底から治したいとはなかなか思えないだろう。
だから、解呪しようとしても打ち負けた。
……ふむ、これなら大体筋が合う気がするな。
「僕が勝手に決めたのですが呪いには大まかに分けて五つの種類があります。一つは食べ物や道具に呪いをかけ媒体とする『道具型』、二つ目は対象者の持ち物や髪の毛等を使う『媒体型』。この二種類は似ています。よく童話などで使われ、一般的な呪いにあたるはずです」
そう訊ねると解呪魔法使いの女性は顎に手を当てて考えるように上を向くと、少しして目を瞑りしっかりと頷いた。
以前僕がフィノに話した白雪姫はアプルの実に呪いをかけているため一つ目の道具型となる。
そして、皆僕の方へ続きを待つ。
「三つ目も童話に関係しますが直接呪いを掛けた後手を施さない『放置型』。これは魔王によって眠らされた姫を口付けで治す勇者の物語と同様です。これはあまり現実的ではない呪いなので今回はないでしょう。四つ目は先ほども言った『魔法型』。これは呪いの魔法を掛けるか魔力を使って魔法を掛けることを言います」
「呪いの魔法?」
「あまり聞かないかもしれませんが呪いも魔法が存在します。闇魔法の『ナイトメア』は魔法と呼んでいますが、あれは一種の呪いです。逆に聞きますが呪いとは何でしょう?」
目を覚まさないこと?
苦しむこと?
不幸にすること?
殺すこと?
それは全て合っていて全て違うのだと僕は思う。
呪いとは対象者にかかった状態や効果をいうのではなく、使用者が呪ってやると思うかどうかなのだと思う。
だから呪いに感情などというものが関わってくるのだ。
「なるほどなぁ……」
義兄さんが両腕を組んで難しい顔になる。
三人も言われて納得したような感じだ。
「なので『ナイトメア』は使用を変えると相手を昏睡状態にすることも出来れば、心臓を停止させることも出来ます」
魔法にかかったと本人が分かればいいが、本人も気づかない内に魔法を掛けられ、その後も知らない内に魔法が進行し首が跳ねられるという事象が起きれば、現実では脳が死んだと判断し本当に死ぬかもしれない。
その辺りが魔法の怖いところであり、闇魔法を恐れられていた一因かもしれない。
「そして、最後に『精神型』ですが、これも聞いたことがあるように負の感情を媒体に魔力の様な回線を作り呪う方法です」
魔法型と精神型は似ているような気がするが、魔法型は魔法が使えなければ使えず、精神型は負の感情を持っていなければ使うことはできない。
そして、精神型だと思う理由は負の感情の乗った魔力の回線があることだ。
負の感情が乗った魔力の回線かどうかは監視対象を調べることでどうにかなるだろう。
今のところ分かっていないそうだが、そこで罠を仕掛けようと思ったわけだ。
「魔法型の可能性もあるのでは?」
「いえ、僕はよくわからないのですが、監視対象は魔法を使った様子はないのですよね? あと、闇魔法を使えるなどといったことも……」
僕はそこで言葉を切り、義兄さんの方を向く。
監視対象については義兄さんが指揮を取っているということだから聞けばわかるだろう。
義兄さんは思い出すように眉を顰めると一つずつ説明をしてくれた。
「前にも言ったが魔法を使った様子も何か呪うような道具を使うこともない。いたって普通だな」
「監視はずっとしているのですか?」
「まあ、そうだな」
いろいろとおかしいところもあるが、今は呪いを解くことを優先するか。
「監視についてはあとでしてもらいたことがあります。呪いの解き方については魔法を僕が担当します」
「解き方を聞いてもよろしいですか?」
さすがに解けない呪いを解こうとするのは専門家としてプライドに触るのだろう。
まあ、分からなくともない。
「今までの呪いの解き方とは全く違います。方法としては対象者に繋がっている魔力の回線を切ります。ですが、切れば跳ね返ってしまうので使用者に直接切ってもらいます」
「直接切ってもらうのか? まだ、呪いを使っているかもわからないんだぞ?」
「そこで罠を仕掛けたいと思っているのです」
「罠?」
「ええ、それにも準備がいりますが、すぐに終わるのですぐに始めましょう」
「は、放しなさい! 私を誰だと思っているのですか! シュリアル王国の王妃なのよ! 放しなさい!」
僕達の目の前では離宮にある第二王妃セネリアンヌが国王夫妻――義父さんと義母さんに呪いをかけた容疑で近衛兵に取り押さえられていた。
暴れているが護身術と魔法を少し齧ったくらいでは、僕が鍛え、団長と義兄さん達がさらに泣くまで鍛えた近衛兵を振り払うのは無理な話だ。
近衛兵の目は第二王妃のことを蔑むかのように怒りの籠った目で見ており、どれだけ義父さんと義母さんが皆に愛されているのかが見て取れる。
「よくこんなことを思いついたな」
義兄さんが俺の隣で少し怒りの籠った目で僕に伝えて来た。
僕も第二王妃に関しては怒っている。
ここまできてさらに迷惑をかけるとはどのような神経をしているのか全く理できない。
「まあ、学園でも似たようなことが起きましたからね」
「はぁ~、大丈夫だったようだな」
「ええ、馬鹿だったので助かりましたよ。ただ、王妃と繋がっていたようですよ」
「やはりか……。だが、これでもう何も起きないだろう」
「そうですね。あとはネズミとゴミの掃除をするだけですよ」
「ははは、ネズミとゴミか。――フィノにはどう説明する? 伝えるかどうかはシュン、お前に任せたい」
義兄さんは少し安堵したかのように笑い、真剣な目で僕を見てこれらの騒動を伝えるかどうか聞いてきた。
確かにフィノに黙っておくのは無理な話だ。
いずればれるというのもわかっていることだからね。
「そうですねぇ……詳しいことは黙り、伝えても大丈夫な点を伝えます。フィノも薄々気づいているでしょうし」
「そうだな。まあ、フィノがどうしても知りたいと言ったら教えてやってくれ。フィノにも知る権利があるからな」
「わかりました」
僕達の前では奴隷の首輪、とは言わないが、相手の魔力禁止、魔法使用禁止、破壊行動等の禁止、身体能力の低下の効果が付与されている特別な拘束道具を使用し、両手首を後ろ手に手錠の様な物を嵌められている。
手錠と違う点は鎖の様なチェーンではなく、8の字に繋がった挟みこみ魔力で固定する感じだ。
魔法があるこの世界だから使える物だ。
「……フィノ」
僕はフィノが待っている別室にノックをして入り、安心した笑みを浮かべて終わったことを伝えた。
フィノは僕の元へと駆け寄り矢継ぎ早にどうだったかと聞いてくるが、僕は優しく頭を撫でてベッドの端に座らせる。
近くにいたメイドに落ち着かせる効果のある紅茶を淹れさせ、僕は収納袋からお茶請けを取りだす。
「お父様とお母様はどうなったの?」
「安心して。体調は回復に向かってるよ。ただ、あの時と同じで眠る時間が多い。だけど、それは身体が休む様にと言っているだけだから大丈夫だよ」
「良かったぁ……。――それで、やっぱりあの人が……?」
フィノはメイドに入れてもらった紅茶を一口冷ましながら口に含む。
「そうだね。今さっき拘束したよ。少しギリギリだったけど自分がしたと吐いたからね。あとは尋問をして帝国に話を付けるだけだね」
「帝国、ですか?」
「詳しいことを話そうか」
僕は手に持っていた紅茶をカチャリと起き、お茶請けのクッキーを口に入れながら隣で安堵しているフィノに伝える。
「まず、フィノは義父さん達を回復させるときはいたよね」
「うん。目を覚ました時はとっても安堵したよ。シュン君、ありがとう」
「どういたしまして。――で、あの段階で第二王妃の拘束準備が出来ていたんだ」
「え!?」
フィノが驚いた声を上げるが無視して続き話す。
「すでに罠を仕掛けた後でね、後は拘束するだけだったんだよ」
「罠? 呪いを解くときに話していた?」
「うん。罠とはあまり言えないかもしれないけど、第二王妃から呪いを解いてもらったんだ。それしか方法が無くてね。それ以外の方法だと第二王妃に被害が出て、面倒なことになってしまうところだったからね」
罠はあの話し合いの前、部屋に入った時僕が結界を張ったのは、天井裏に知らない人物というか、魔力が濁っている人物を感知したからだ。
その人物は恐らく帝国の諜報員というか、第二王妃の手の者だったのだろうと思う。
呪いの対象者の位置、詳しい事情、呪いの状態、第二王妃の行動を気づかせないようにするなど味方がいなければできないことだ。
それにあの王妃が閉じ込められてジッとしているとかおかしいだろう。
絶対にメイドや器具に八つ当たりをするに違いないのだ。
それなのにしていないということは、何かしらの魔法か味方がいると考えてもおかしくない。
それで部屋に隠蔽結界を張り、偽の情報を第二王妃に持っていかせた。
その辺りは事後承諾になったけど、一刻も争う状態だったため仕方がないということで了承してもらった。
隠蔽で流した嘘の情報は心苦しかったが義父さんと義母さんが死んだことにすることだった。
さすがにこれはフィノには伝えず、呪いの効果で放置すれば死ぬといった感じに伝えた。
まあ、それでその人物は急いで第二王妃の元へ向かったので、感知した瞬間に義兄さんに指示を出してもらい、王妃のいる場所へ諜報員を送ってもらった。
まだ拘束しないのは呪いが解けたことを確認してからだと思ったからだ。
相手は逃げないからね。
放かっておけばいろいろなことを吐いてくれると思ったのだ。
「王妃がいろいろと吐露してくれた後に呪いの魔力回線が切れたことを確認して、義父さんと義母さんの呪いを解いたんだ。その後に何が起きても良いように呪いを弾く解呪結界とでも呼ぶ結界を張ってたけどね」
「じゃあ、今はあの人の拘束と諜報員も捕まえたの?」
「捕まえて拘束してあるよ。この後はいろいろと尋問があるかな。その後帝国に話を付けるんだよ」
フィノは息を大きく吐き、いろいろと思っていた気持ちを吐き出した。
その後はすっきりした顔でもう一度お礼を言ってくるのだった。
帝国にはこの話をまだ話していない。
恐らく帝国にも王妃の手の者がたくさんいるだろう。
だが、こちらの方を速やかに対処しなければ情報の隠蔽をされてしまう。
この王妃を捕まえることは近衛兵の一部、団長レオンシオさん、フォロン達一部のメイドと執事、義兄さんとフィノ、それに僕の二十人いるかどうかといったところだ。
この後は王国の中にいる裏切り者を見つけ出し、その粛清をすることになっている。
ここでまた『同調』のお世話になってしまうが仕方のないことだ。
それから数日後。
義父さんと義母さんの体調が回復し、立ち上がれないが会話をすることが出来るようになった。
その後僕と義兄さんは王妃から得た情報を元に、王国に巣食う裏切り者を呼びつけた。
計画や人員に関して甘々ですが、すみません。