表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/145

騒ぎからの発展

 シャルの優勝で幕を閉じた学年大会。

 二、三年の大会でも予想された生徒以外の生徒がいい勝負を見せ、大いに盛り上がらせたようだ。

 何故か大会に出ていない僕の名前が売れ、二、三年だけでなく、その親等貴族にまで及んでいった。

 だけど、僕はフィノの護衛というのが広がっているため露骨な引き抜きはしてこない。

 してくるとすれば、娘を使った色仕掛け、遠回しな勧誘等だ。


 中には邪魔者だと考える者や脅威だと考える者がいるかもしれない。

 今のところそう言った気配は全くないけど、これ以上脅威となる力を見せるわけにはいかないだろう。




 僕達はアル達の体調が優れないということで治療も兼ねた見舞いに行っていた。

 大会が終わって数日間は休息の日があるため三人の付き添い、もとい監視をしていたのだ。

 回復魔法でいくら治っても精神のダメージは治らない。回復魔法は傷を治すだけの魔法だからだ。


 アルやシャルは治ったと立ち上がってそのままふら付いて倒れたぐらいなんだからね。


 僕がしたことは回復魔法を少し弄って作った体力回復魔法だ。

 言葉から分かるように体力を回復させるための魔法で、体に魔力の補充と魔力を酸素のようなものに転換させるものだ。

 気休めにしかならないだろうが、体は楽になり、気持ちが落ち着いていくと言っていた。


 アル達は休日がなくなると同時に元気となり、少しだけ項垂れていた。




 再び学校が始まる。


 僕がいつものようにアルとレンと登校していると何やら僕達を見て話をしている人を多く感じる。

 嫌な視線ではないのでそれほど気にはならないが、気持ちのいいものではない。

 隣にいるアルは平然としているのでこれに気が付いていないのだろうか?


「アル、何か皆こっち向いてない?」


 気になったのでとりあえず聞いてみることにした。

 すると、アルは眠たそうに欠伸をして答えた。


「ああ、お前が有名になったからだろ」

「有名になった? まあ、前から結構目立ってたけど、ここまでじゃなかったよ? 何かしたかな?」


 確かに簡単な指導などは行ったけど、力を見せつけるようなことは一切していない……はず。

 大会にも出てないから本当の実力は分かるわけないし、シュレイさんが僕の名前を出していたけどそれがこれに繋がるとは思えない。


 腕を組んで悩んでいると答えてくれた。


「わかんねえのか? まあ、こういうのは本人にはわかんねえよな。シュンが考えている通り皆実力は分かっていないはずだ」

「ならどうして?」

「それはお前が指導した生徒全員が大会でいい成績を残したからだ。まず俺達は大会に選ばれ、優勝したな。二、三年については詳しく知らないが、いい成績を残したっていうじゃねえか」


 ああ、そういうことね……。

 僕の実力は僕が始動した生徒の実力の上昇率で決められたと。

 確かにこの短期間で強くなれば原因を探るし、あれだけ皆の前で名前を言われては覚えてしまうだろう。

 それに僕は目立っているようだし。

 印象に残りやすかったのだろう。


「そういうこった。まあ、嫌味を言われているわけじゃねえし、放っておけばいいんじゃねえか?」

「…………」


 他人事(ひとごと)のように言っているが、アル自身も挙動不審になる時があるので気にはなっているようだ。

 レンは緊張しているのか一言も喋らない。

 僕も仕方がないと割り切り、いつものように視線を無視することにした。




 玄関でフィノ達と合流し、教室へ向かう。

 確認してみたところ女子寮の方でも僕達程ではないが注目を浴びているとのこと。

 ちょっと申し訳なく感じるが、大丈夫だと答えてくれた。


 教室に入り僕達が席に座ると同時に皆が群がり始め、大会の祝福と教えてくれと懇願された。

 祝福については僕には関係ないのでいいが、指導してくれというのは本当に困った。

 これが勉学ならいいのだが、武術や魔法となると話が変わってくる。


 勉強と違って武術や魔法は個人で全く違うからだ。

 個人にあったものを教えるのに時間もかかるし、聞いただけで問題を解決することも出来ない。

 それに武術に関しては剣術しかわからない。

 斧や槍ならまだしも、弓とかわかんないし、メイスとか言われても殴るだけじゃないの?

 答えらんないよ……。


 魔法に関しても同じで属性が違うのはまだいいけど、どうやったら強くなる? 新しい魔法を教えてとか自分でやってよ!

 僕はあくまでも基礎を教えることしかしていないんだから!


 ウォーレン先生が教室へ入ってきてくれたことによりどうにか一時的な平穏を取り戻した。

 だが、これではまた同じようになるのが目に見えている。

 疲れた僕達は昼休みまで我慢し、昼休みになると同時に脱兎の如く教室から逃げ出した。




 昼休みはいつものように過ごすが、僕達が食べ終わるのを待ち構えているのか周りではチラチラとこちらを見ながら食べている者が大勢いた。


 普通にチラ見程度ならまだいいのだけど、目がぎらついていたり、明らかに狙ってます、というのはやめてほしい。


 仕方がないので片づけをフォロン達に任せ、僕とフィノは上空を飛んで第二訓練棟に移動した。


 まあ、そこでも多くの生徒が待ち構えていたので逃げた意味はまったくなかったが……。




「……げっそりしてんな」

「あ、うん。さすがにあの量はないと思う。どうでもいい質問が多くてさ……」


 笑いが出るが喉と気力が嗄れて思うように笑えなかった。

 フィノも少しだけ疲れたように息を吐き、アル達も質問を受けているようだが、量が少ないからか普通だ。


 いつものように放課後の訓練を終わらせて疲れた足取りで寮に分かれようとしたその時、後ろの雑木林から中級程度の魔法が行使されようとしているのを感知した。


 フィノも遅れて感知すると僕の方を向いてきたが、僕は感知した瞬間に風を纏わせ、一瞬のうちに距離を詰めていた。


 相手はここ最近の常習犯で黒いローブを纏い、顔を隠した奴だ。

 そいつは僕が近づいたことに驚き、不十分な魔法を放ったがために近くにいた女子生徒に向かって中級の火魔法が飛んで行った。


「危ない!」

「え? きゃ、きゃあああぁ!」


 近くにいた男子生徒が気付いて声をかけるが、それがまたタイミングが悪く、女子生徒は飛んでくる魔法を見て立ち尽くしてしまった。


 僕は舌打ちしたい気持ちを抑えて、ローブから目を離さずに風の衝撃を撃ち込んで火魔法を霧散させる。

 当たる直前に霧散した火魔法は衝撃と共に爆風も吹き飛ばし、奥の誰もいない湖の上へ流されていった。


 周りにいた生徒が女子生徒の元へ近づき安否を確認するのを空間把握で読み取り、僕は全神経を目の前のローブに集めた。

 魔法を使って逃げ出そうとするローブに向かって拘束系の魔法を放ち、身動きを封じる。


 倒れたところを風魔法で抑え付け、解除するとともに背中を踏んで起き上がれないようにしたところで、フィノ達もこちらへ到着した。


「ぐ……くっ……」


 這いずろうとしたので地魔法と時空魔法を合わせた重力魔法を試しに使ってみると効き過ぎたのか息を詰まらせてしまった。


「シュン君、大丈夫だった?」


 フィノが心配そうな顔で問いかけてきた。


「うん、大丈夫だよ。魔法は誰にも被害が出ないように消し飛ばしたからね。僕にももちろん怪我はないよ」

「それは良かったよ」

「それでシュン、そいつが今回の犯人か?」


 今度はアル達が近づいて地面に張り付けられているローブを指さして言う。


「今回だけじゃなくて、今回もだね。こいつの魔力は最初の頃から覚えているから間違いないよ」

「で、こいつをどうするわけ? 先生に引き渡す? 尋問する? 背後まで洗い浚い吐いてもらう?」


 シャルがちょっと怖いことを言っているが、概ねその通りだと思う。

 尋問まではいかないけど、先生が来るまで聞きたいことを聞いていこうかな。

 その後は先生に任せてもいいだろう。


 魔法を解除すると逃げられないように首根っこを抑え、顔を拝んでやろうとフードを後ろへ降ろした。


「こ、こいつは……誰だ?」

「何馬鹿言ってんのよ」


 アルのボケにシャルが突っ込む。

 まあ、こういう状況でその台詞を言いたくなるのは分かる。

 僕達はそれを見て笑い、ローブの男を睨み付ける。

 ローブの男と皆の目があい、細く根の歯の合わない悲鳴が零れた。


「さて、お前の名前は何という? 答えないと……」


 僕はそう言って目を細める。

 こういったことはしたことがないのでよくわからないが、ローブは悲鳴を漏らしたので大丈夫だろう。


「言え」

「ブ、ブブブロッシュ・ローマンです! ひ、ひいいぃ!」

「ブロッシュ。誰に指示されて僕達に魔法を放った」

「し、しし知らない! お、俺はお前達に、む、向かって魔法を放っていない!」


 シラを切るのか……。

 だけど……。


「では、なぜ魔法を放った?」

「そ、それは……」

「背後に誰がいるかわかってるんだぞ? 言った方が楽になると思え。言わないと……するしかなくなるからな」

「い、いいうから、何もしないでっ!」


 ブロッシュは目の端に涙を浮かべて懇願する。


「お、皇子だ、です。帝国の皇子フォトロン様だ、です! も、もう放して……」


 僕はそれを聞き出すとローブの首から手を離し、先生が来るまで魔法で拘束しておくことにした。

 そのままローブは安心しきったのか崩れ落ちて気絶してしまった。


 別に魔力も漏らしていないのに、気絶するとは失礼な。


「シュン、言わなかったら何をする気だったんだ?」


 アルがちょっと引きながら僕に問いかけてくる。

 残りの四人も聞きたいのか、聞き耳を立てているが、


「いや、何もしないよ? だって、僕は一生徒だよ? そんな権限を持っているわけがない。軽く脅せば全部吐いてくれるかなぁ、って思っただけだよ」

「そ、そうか」


 何やら納得されたようだが、「絶対に怒らせねえ……」と聞こえてきたのは気のせいだろう。

 だって、僕が怖いとかありえないし。

 まあ、魔力を出せば怖いと聞いたことはあるけどね。


 暫く待っているといウォーレン先生とノール学園長が駆けつけてきた。

 ウォーレン先生が来るのはまだわかるけど、ノール学園長が直々に来るとはね。

 まあ、気になったのか、面白そうだからか、この前の約束を守ってくるかのどれかだろう。

 僕の予想では二番だ。

 だって、顔がにやけてるし……。


「お前達が捕えたのか?」


 ウォーレン先生が拘束されて気絶しているローブを担ぎながら聞いてきた。


「はい。状況を簡単に言いますと下校中僕達に向かって中級の火魔法の行使を確認し、阻止しようと動くと相手はコントロールを誤り、近くにいた女子生徒に飛んで行きました」

「それはこちらで保護し、状況の説明をしてもらっている」


 僕だけの意見を聞かないようにするためだろう。


「その後は僕が魔法を風の衝撃で吹き飛ばし、女子生徒が助かったのを確認してからローブを捕まえました。その後軽く脅し……もといお話しして首謀者を特定しました」


 ウォーレン先生はジト目で僕を見て、ノール学園長は噴き出しながら笑っている。


「はぁ、で、その首謀者は聞き出せたのか?」


 分かっているが聞きたいのだろう。


「帝国の皇子フォトロンですよ。あと、次いでなので言いますが、狙われたのは僕とは限りません。いえ、僕だったとしても隣にはフィノがいました」

「そうか、それは貴重な情報だな」


 要するに、僕を狙った魔法だったとしても近くに王国の王女がいたので皇子がいくら喚いても処分できますよ? ということだ。

 それに、相手はただの皇子であり、僕は伯爵家当主だ。それも関係するだろう。


「いや~、遅れてごめんね。だけど、今回は処分が下せそうだよ」

「どの程度になりそうですか?」

「そうだねぇ、皇子は謹慎、このローブは場合によっては退学、あと聞き出して仲間がいれば謹慎か退学だと思うよ」

「わかりました。結果が出次第教えてくださると助かります」

「うん、それくらいならウォーレン先生に言付けしよう」

「ありがとうございます」


 僕達はローブを担いだ先生達に頭を下げて何事もなかったかのようにそれぞれの寮へ別れたのだった。


 もちろん夕飯や門限まで僕の所へ人が押し寄せてくるのだった。




 それから数日して試験の発表があり、二日間に筆記試験が行われた。

 結果は僕が一位で、フィノが二位、アル達は百人中三十位以内に入るという快挙を打ち出した。

 ウォーレン先生曰く、例年の生徒よりも成長率が高いとのこと。

 僕もちょっと鼻が高くなってしまったのは仕方ない。


「やっぱり、シュンが一位か……。勝てないとわかってはいるが、悔しいな」

「仕方ないわよ。シュン君に勝つつもりならあと数百年は修行をしないとね」


 無茶なことをシャルが笑って言う。

 それに対してアルは納得だと頷き、「まあ、それでも無理かな」と口にした。


「アルさん達はシュン様の本気を見たことがありますか? 私はまだ見たことがないので気になります」


 アル達はそう訊かれて眉間に皺を寄せて考える。

 僕も思い出してみるが、ここ最近本気で戦った記憶がないので見せていないだろうと思う。

 最後に本気を出したのはいつだったか……。

 魔闘技大会なら魔法を全力で使ったかな?

 ならバリアルの時が一番だな。

 あの時は死力を尽くす以上に戦ったからなぁ。

 今思えば辛く懐かしい記憶だ。


 と、いうことはフィノにも魔法以外は全力を見せていない、ということになるのか。

 だけど、そうそう全力で戦う場面も、そういった場面に出くわしたいとも思わないな。

 平穏、平和が一番だよ。


「ないな」

「ないわね」

「ではフィノリア様はどうですか?」

「私もないよ? いや、魔法に関しては凄いのを見たことはあるけど、全力かはわからないの」


 フィノは僕を見て頬を赤らめるのであの時のことを思い出したのだろう。

 あの時はシュンではなく、シロだった気もするけどね。


 フィノ以外の四人が僕を見て聞きたそうにしているが、言えるわけがないのでこういうしかない。


「本気というのは見せるものじゃないよ。それに、自慢じゃないけど僕が本気を出すときはドラゴン級と戦う時だろうね。ソロでAランクということは、地竜ぐらいは倒せる実力持ちだからね」


 これは恐らくとしか言えない。

 Aランクの魔物にワイバーンが含まれているので、力が強くとも足の遅い地竜ぐらいなら倒せると思っただけだ。


「ちょっと無理な気もするけどなぁ……。まあ、底の見えない奴の本気を考えたくはないな」

「そうですね。聞いた話ではシュン様は試験の時の水晶を再起不能にしたそうじゃないですか」


 レンがそう言った。

 あれも噂になっているのか?

 人の口に戸は立てられぬ、ということだろう。

 教職員のどこからか漏れたんだろうな。


「ああ、俺達の目の前でやられたからな。これは誰にも言うなよ。一応暗黙の了解で話さないことになってるんだからよ」

「そうでしたか。分かりました」

「それもだけど、その魔法がね、魔道具を貫通しただけじゃなくて後ろの壁まで貫通しちゃってさ。皆言葉も出なかったわ。あのノール学園長もよ?」


 シャルがあの時のことを思い出しながら笑って言うと、クラーラとレンは目を輝かせて僕を見る。

 なぜそうなる?


「あの時は全力と言われたからね。一応セーブはしたんだけど、思ったより威力が出ちゃって」


 僕は空笑いするしかなく、頭を掻いて誤魔化すのだった。


 その後も談笑し、掲示板を離れようとしたところへ一つの波紋が起きた。

 その波紋は大きく、ここにいる全員の意識を集めた。


「なっ、何で俺が三位なんだ! どう考えてもおかしいだろうが!」


 ざわざわと波紋が広がるように騒々しくなる。

 この声は聞き覚えがある。カイゼル君の声だ。闘技場で同じように叫んでいたから印象も深い。

 シャルは不快感に眉を顰めた。

 あの時のことを根に持っているのだろう。


「あいつらは大会に出てねえじゃねえか! なのにどうして一位なんだ! 納得いかねえぞ!」


 何事かと集まってくる生徒が増え始め、カイゼル君の言葉に疑問を思う者やその通りだと賛成する者が出始めた。


 このままでは不正疑惑も浮上してきてしまう。


 どうしたらいいのかと困惑していると声を聞きつけたのか教師達が近づいてくるのが遠目にわかり、少しだけ胸を撫で下ろす。


「絶対におかしい! ……わかったぞ! あいつらは――」

「そこまでだッ!」


 間一髪のところで教師の怒声が轟き、波打っていた波紋が静かになった。

 カイゼルはまだ喚こうとしているが、教師に拘束され口を塞がれている。


「一体何の騒ぎだ! 誰でもいい説明しろ!」


 先生の一言に近くで見ていた生徒が説明していく。

 怒りの形相していた先生は次第に状況を飲み込んでいく。怒りに顰めていた眉は困惑と呆れに変わり、カイゼル君を一瞥すると僕達を見て皆に話しかけた。


「事情は分かった。言っておくが、不正などしていない。彼らの実力は学園長が保障する。それにお前達の中にも知っているやつはたくさんいるはずだ。変な噂に惑わされるな」


 気まずそうに僕達を見て頭を下げる者や視線を逸らす者等が出る。

 気付かない振りをして先生の指示を待つことにした。


「わかったら教室へ戻れ。あと数分で授業が始まるぞ」


 先生はそう言って拘束したカイゼル君を担いでこの場から立ち去って行った。

 残された生徒は散り散りに各教室へと戻っていく。




 そして、その日の昼休み。

 僕はノール学園長に呼ばれ、学園長室へ来ていた。

 そこにはノール学園長と秘書の先生がいる。

 この前と同じ状況だ。


 僕はソファーへ座るように言われ、秘書の先生にお茶を出されながら座る。


「シュン君、よく来てくれたね」

「いえ、大体の事情は分かりますが、何用で呼ばれたのですか?」


 ノール学園長はニコニコと笑いながら僕を見る。


「君を呼んだのはこの前の魔法の件と今朝の不正騒ぎの件だよ」


 やっぱりそれか……。


「魔法の件に関しては目途が立ったよ。やっぱり犯人は皇子だった」


 そうでしょうね。

 僕は人に恨みを買うようなことはほとんどしていないはずだ。

 恨んでいるとすれば皇子ぐらいしかいない。あと、カイゼル君ぐらいか……。


「それで処遇に関してなんだけど、彼らと決闘をしてくれないかい? あと、今朝のカイゼル君も入れてさ」

「はい?」

「学園長、省きすぎです」

「ああ、ごめんね。最近忙しくて、ね」


 ノール学園長の顔をよく見ると若干目の下が黒く見える。

 寝不足なのか、疲れが溜まっているのか分からないけど辛いのだろう。

 大会の後にすぐ捕まえたのは早かったかな?


「いやー、前に聞いたアイデアをもとに学園の行事を考えてたら朝になっててね、寝不足なんだ。だけど、いろいろ面白い物を考えたよ」


 違った。

 自業自得だったよ……。


 つい半眼で見てしまうところだったけどどうにか抑え、誤魔化すためにお茶に口を付ける。


「経緯は私の方から説明しましょう。まず、あの後生徒から話を聞き、皇子まで掴んだところまではいいですね?」

「ええ、僕もそう思っていたので」

「その後、こちらでもある程度掴んでいましたが、皇子とその友達から詳しい事情を聞きました。彼らの言い分は支離滅裂でしたが、纏めると自分が婚約者だ、決闘を受けない軟弱者、あなたは弱い、伯爵のくせに王族に逆らった等です」

「それは笠に着ていないのですか?」

「いえ、この程度はまだ許容範囲です。貴族同士ならまだしも、相手が王族となるとこの規則もゆるくならざるをえません」


 まあ、仕方ないか……。


「それでどうして決闘することになるのですか?」

「それは彼らが決闘をすると言い張り、処遇を決めようにも人数が多すぎたのです。その中には一年のみならず三年までいます」


 馬鹿ばっかりだと思うけど、やはり権力という力には皆弱いのだろう。

 だけど、フィノには誰も近づいてこないのはどうしてだろうか。

 あの皇子よりも権力は強く実力も上なのにね。

 まあ、許さないけど。


「結局、彼らが言いたいのは君の実力が知りたいということなんだよ。言い分が滅茶苦茶なのはわかるよ? だけど、これを受ければもう君にちょっかいをかけてくる人はいないと思うけど……どうかな?」


 あの時決闘を受けておけばよかったんだろうな。

 未来を読む魔法とかないかな?

 いや、時空魔法を使えばそのくらい……。

 だけど、時を操るのは禁止魔法だったな。


「では、カイゼル君はどういうことですか?」

「彼は純粋に君と戦いたいと言っている。いや、あの後話を聞くと納得がいかないから戦わせてほしいと言ってきた」

「彼の言い分はまだ筋が通っているのでいいですが、通っているだけで話にはなりません。ですが、彼のように納得できない人はたくさんいるでしょう」

「それにこれには君にも原因があるよ。あの時決闘を受けておけばよかったし、大会に出場しておけばよかった。まあ、こうなるとはわからなかったけどね」

「ええ、カイゼル君を知ったのは大会の準決勝で、ですから」


 それまでは何も聞いたことすらなかったからね。

 せめて宣戦布告とか、何かしらの噂でもあれば違ったんだろうけど、大会で直接言われても困る。

 もしかして僕と同じで友達がいないのかな?


「そう言われれば仕方ないですね。決闘を受けてもいいですが、相手は複数ですか?」


 僕がそう訊くと二人は顔を顰めて若干頭を下げる。


「そのあたりはすまないと思ってるよ。君が強いのを知っているから言えるのだからね」

「人数は皇子側がカイゼル君も含めて十人。それに対してシュン君は一人となります」


 大方、不正していないのならこのぐらいいいだろう? とか、噂が本当ならこのぐらいいいだろう? とか、決闘に人数は関係ないとか言ってそうだ。

 まあ、決闘については知らないんだけど。


「まあ、いいでしょう。ですが、処遇に関してはきっちりつけてくださいよ? 皇子だからとは僕には通用しません。帝国が出張ってきたら僕のことを皇帝にばらしてもらっても結構です。帝国には大会での負い目があるでしょうからね。それがいくら嫁に出た娘だったとしても」


 あの件について先日義父さんから連絡があったんだ。

 帝国にどうするのか? という文章を送ったところ、王妃に関する処遇は王国に任せるという文章を持った使者が来たという。

 使者が言うには帝国にも王妃と繋がっていた者が数人いたらしく、本当に済まなかったと謝っているそうだ。


 帝国はどうやら百年前の皇帝とは違うようだ。

 話を聞いた限りでは義父さんに近いところがあるようだな。

 だけど、その周りの貴族達の意識が百年前の皇帝に近いらしいから全てを掌握仕切っていないのだろう。

 それは王国でも同じことなので言うことはない。


 だが、これであの件については区切りが付き、帝国に貸しが一つ出来たということになる。

 さらに、この皇子が僕やフィノに対して報告するようなことに発展すれば大変なことになるだろう。


 僕は義父さんの権力を笠に着るつもりはないので出来る限り報告はしないけど、フィノが関わってくると話は別になる。

 これは僕の怒りではなく、義父さん達に報告すべき義務なのだ。


「そうかい。じゃあ、決闘を受けてくれる、ということでいいね?」

「はい。約束を守ってくれるのならいいですよ」

「守るよ、絶対にね」


 ノール学園長はお茶を飲み干して眠そうに眼を擦った。


「ルールに関しては闘技場を使うので何でもありとしますが、悪辣な物――毒や呪いなどを使用した瞬間に負けとします。また、回復アイテムもなしです。魔法はありなので有効に使ってください」

「観客は……当然いますか……」

「はい。それが主な目的ですから。被害が出ない程度にしてくださいね」


 ん?

 どういうことだ?


「ああ、君には決闘で自分の実力を見せつけてもらう。全力で、と言いたいけど、闘技場が壊れそうだから皆に示す程度でいいよ。これがこの決闘の趣旨だからね」


 ああ、理解した。

 それは仕方がないだろうな。

 それに僕がシロだとは結び付けられないだろう。

 それでも用心はして違う魔法を使うか……。


「スケットはダメです。日程は三日後の午後からと考えています。授業は全体の免除となります。以上が決闘のルールとなります」

「わかりました。何かあれば聞きに来ます」

「話は以上だよ。学園の行事は楽しみにしておいて」

「ええ、楽しみにしてます」


 僕はそう言ってソファーから立ち上がり、学園長室から出ていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ