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グループ

 第二訓練棟。

 ここは魔法を打ち消す特殊な素材で作られた強固な造りで並大抵の攻撃や魔法では壊すことは出来ないところだ。

 また、実践を行えるように精神ダメージへと変える特殊な結界を作動させることも出来る。


 他にも似たような建物が四棟あり、第三訓練とまでは実践を行えるように作られた建物で、第四訓練棟は建物に屋根がなく大規模な実践を行える建物、第五訓練棟は別名コロシアムとも呼ばれる建物で大会が行われる場所だ。


 大会というのは学園にある大会で二種類存在する。


 一つは四カ月に一回開かれる学年大会。

 これは学年で戦うわけではなく、四クラスの中で選ばれた選手七人がトーナメント式で戦うのだ。優勝者には賞金は出ないが単位の免除や学園側の援助などいろいろとされるらしい。

 皆はこの大会のために毎日努力をするのだ。


 もう一つは年に一回開かれる学園大会だ。

 この大会は学年問わず各クラス五人が選ばれ戦うトーナメント式の大会だ。大会は一般客の観戦も許されているため、各国の要人や引き抜きなどが毎年行われている。この大会には各国の援助もあるため奨学金や学費の免除などいろいろとされる。これは優勝者だけでなく、上位五名が貰える賞品だ。

 こちらの方がより白熱した戦いを繰り広げられ、要人達に引き抜かれようと凌ぎを削り合う大会だ。


 魔闘技大会に似ていて第五訓練棟は他の棟よりも大掛かりな結界と強固な素材で作られている。

 違うというとやはり学生の大会であるためそこまで派手なことが起きない。新しい魔法が毎年放たれるが、やはり規模で言うとSランクが出場する魔闘技大会の方が上だ。


 更に今回の魔闘技大会は大英雄の出場と魔物侵攻の噂、投影による表彰などでシュリアル王国全土が震えたのだ。

 その話は各国に伝わっていき大英雄を引き抜こうと探し出そうとしたが、偽物の多さと目撃情報の少なさ等からほとんど掴めていない。


 まあ、掴めて接触してきたとしても行く気は全くないけどね。




「皆集合したな。それでは午後からの授業を始める」


 そう言ってウォーレン先生は午前と同じように授業を始めた。


「まずはお前達に言っておくことがある。知っての通り学園には四カ月に一回開かれる大会と年に一回の大会がある。四か月の方は五月始め、九月夏休み明け、一月冬休み明けの三回。年に一回は一旦授業に区切りのつく二月中旬に行われる」


 そう言って僕達を見渡すウォーレン先生。

 まず近いのが五月の大会か。


 周りでは一か月もしない内に大会があるのを聞き困惑した声を上げている。

 ウォーレン先生はそれを手を叩くことで静かにして説明する。


「静かに。確かに、ひと月もしない内に大会があるのは驚くだろう。だが、この大会は個人の能力と約一か月でどこまで伸びたかを見る大会でもある。所謂武術と魔法の試験でもある」

「でも、出られるのは七人なのですよね?」


 少々目つきのキツイ空色の髪の女の子が手を上げて質問した。


「そうだが、大会自体が試験ではない。それまでの過程が試験なのだ。後で言おうと思っていたが年に三回試験がある。この試験の内初めの二つは筆記試験しか行われない。月で言うと六月下旬と十一月中旬だな。そして、最後の二月上旬にある試験は一年間の実力を見せてもらう。もちろん、筆記試験も一年間分だ」


 ウォーレン先生がそう言うと生徒達から悲鳴のような声が上がった。

 さすがは名門といわれる学園なだけはある。

 最初は楽な試験で最後に重く辛い試験が来る。


「初めの二つの試験は赤点――四十点未満をとってもいいが、最後の試験をした一年間通しての平均点が四十点を下回った者は留年だ」


 更に悲鳴が上がった。悲鳴を上げているものは全員武術系の生徒のように見える。

 シャルも若干悲鳴を上げているようだ。

 赤点が四十点というのはちょっと高いな。まあ、大丈夫だと思うけど。


「で、武術試験の方は一年間を通して見るものと最後の試験の両方がある。これも赤点の者は留年だ。更に、魔法試験も同様となる」


 今度は筆記系の生徒が青い顔になる。

 平然としているのは僕やフィノを入れた数人ぐらいだ。まあ、中には見栄を張る者もいるが……。


「だから、お前達は毎日死に物狂いで頑張るんだぞ。まあ、真面目に受けていれば赤点になることはない。上手くできなくとも俺達が上達していると感じれば必然的に点数は上がる」


 筆記試験は皆同じ試験で、武術や魔法に関する試験は個人のレベルに合わせた試験となるのか。

 まあ、それでも少しは差が出るだろうけどね。


「話を戻すが、大会に出場できるということはそれだけ実力があるということだ。さらに大会で上位になればもっと実力を持っているとみなされる。ただ、出場できない者の点数が引かれるわけではない。大会に出場すればその分点数が加味されるということだ」

「毎日頑張っていれば少なくとも留年は避けられ、大会に出場すればその分点数が加わるということですね?」

「そうだ」


 それを聞いて何人かが喜びの声を上げる。


「喜ぶのはいいが、筆記で落ちれば留年だぞ?」


 と、叩き付けられ落ち込んだ。

 それを見た生徒達はクスクスと笑う。


「言いたいのは毎日手を抜かずに精進しろということだ。強くなりたい、留年したくないというのなら強い奴、出来る奴に教えてもらえ。だが、無理やり聞き出すのはやめろ。相手の了承を得て教えを乞うこと」


 ウォーレン先生はそう言って締め括った。

 何人かは隣の生徒に囁き何ができるのか聞き出している。

 隣にいるフィノ達は僕の方を向いて頭を下げた。

 僕は苦笑しながら頷き返す。


「それでは授業に移る。まず近くの者でグループを作れ。人数は五人程度だ」


 ウォーレン先生はそういうと隣に立っていたシュレリー先生と話し合いを始めた。

 生徒達は立ち上がると気の合いそうな人に声をかけてグループを作っていく。

 こちらを見る貴族達がいるが、牽制し合っている内に決めるのが得策だろう。


「シュン、一緒に組もうぜ」

「フィノちゃんもいるんでしょ? なら私も交ぜて」


 アルとシャルが笑みを浮かべて声をかけてきた。


「いいよ。一緒にやる約束だしね」

「私もいいよ」


 僕とフィノは立ち上がり頷いて了承した。


「あと一人ね。誰か余っていないかしら」


 周りを見ると五人ほどが集まっているように見える。

 二十五人だから余るわけがないのだからどこかにいるはずだ。まあ、程度って言っているからいないかもしれないけど。

 良く見渡してみると端の方でオロオロとしているふわっとした薄ピンク色の髪の女の子がいた。


「あそこにいる子がそうじゃない?」


 僕が指差すと三人はその方向を向いて頷いた。


「行こうぜ」


 アルはそう言って女の子の方へ近づき声をかけた。

 女の子はビクリと体を震わせると僕達に気が付き、少しだけ後退った。


「アル、脅かすんじゃないの! ――ごめんね、怖がらせちゃって。後で注意しておくから」


 シャルがアルの耳を引っ張り怒ると女の子の方を向いて謝った。

 女の子は慌ててシャルを起こす。


「い、いえ、私も悪いので謝らないでください」


 漂う雰囲気は大人しそうなほんわかした感じだ。容姿は可愛いといった感じで保護欲をそそる。手には杖を持っていることから魔法使いだとわかる。


「そう? まあいいわ。あなたはまだグループが決まっていないわよね?」

「え、あ、はい」

「なら、一緒に組みましょう。私達も後一人探していたところだから丁度いいわ」

「え、や、で、でも……」


 女の子は僕達を見てオロオロして両手を振る。

 僕達が貴族の集まりでフィノが王族だから遠慮しているのだろう。

 見た目は貴族っぽいけど持っている杖はどこにでもある素材で、指定服の下に来ている服も高価なものじゃないから平民なのだろう。


 気づいた僕とフィノは笑みを浮かべながら近づいていく。

 女の子はそれに気づき後退ろうとするが、失礼だと気が付いたのか緊張した顔で止まった。肩が若干震えているところを見ると怖いのだろう。

 やはり貴族というのは平民と差があるんだろうなぁ。


「初めまして、僕はシュン。気軽にシュンと呼んで」

「私はフィノリア。フィノと呼んでね」


 僕達が簡単に自己紹介すると女の子は身体を震わせ目線を落して呟くように自己紹介した。


「わ、私は、く、くくクラーラと申します」


 いまにも土下座をしそうなほど体を震わせて言った。

 フィノはそれを見て優しく微笑むと一歩近づき、クラーラさんの手を取った。

 クラーラさんは目を見開き大量の汗を掻き始めた。


「安心して。私達はあなたを取って食おうとは思っていないよ。一人足りなくて、丁度一人でいたクラーラに声をかけたの」

「で、ですが、私は平民で……」

「大丈夫。この学園には王族とか貴族とか平民とか関係ない。ここでは一生徒であり、同級生なんだから。そんなに畏まれるとこちらが心苦しいの」


 それを聞いたクラーラさんは体を震わせてフィノの目を見たが、すぐに下へ向けた。

 僕もクラーラさんに近づき声をかける。


「そうだよ。すぐには無理かもしれないけど、仲良くしてくれると嬉しいよ。前にも言ったけど、僕は元々平民だからね。貴族とかよくわからないよ」

「シュン、それを言っても無駄だと思うぞ」


 アルがジト目で僕を見た。

 失敬な。

 どこからどう見ても僕は平民だと思う。

 ほんの数か月前まではどこにでもいる平民さんだったんだから。


「そうよねぇ。シュン君ってどこか神々しいっていうか貴族っぽくないのに貴族っていう感じがするのよ。初めて見た時も冒険者の格好をしていたけど、貴族と言われれば納得したもの」

「ああ、それを俺も感じた。どこか年上を相手にしてる感じだ。気品っていうわけじゃないがこいつは出来るな、みたいな感じか?」


 僕はよくわからずフィノを見たが、フィノもよくわからない様で首を傾げた。


「でも、平民だったっていうのは本当だし、貴族らしいことをしろと言われてもほとんどできないと思う。まあ、貴族になってから大分練習したからある程度は出来るけど」

「シュン君は上手くなったよ。私と練習したんだから上達してもらわないと」

「なに!? お前はフィノと練習したのか! こんなかわいい子と一緒に体をくっつけてダンスしたり、あんなことやこんなことも」


 アルは僕にクワッと目を向けると一人で興奮して顔を赤くしていく。

 それを見たシャルがアルの頭を叩いて元に戻す。


「馬鹿アル! そんなことしていないって二人を見ていたら分かるでしょうが!」


 地面に叩きつけられたアルはピクピクと体を痙攣させている。

 それを見て僕達は笑い、クラーラさんもつられて笑った。


「す、すみません!」


 すぐに顔を青褪めさせて体を小さくした。


「大丈夫よ、クラーラ。私達の中にそんなことで怒る人はいないから。おかしい時は笑っていいのよ」

「で、ですが……」

「私達は一緒に組むんだよ? 敬語もなくしてほしいけど、無理そうだから言わない。せめてフィノって呼んでほしいな」

「で、ですが、フィノリア様は王族で……」


 フィノは笑顔でクラーラさんの手を両手で包み込む。


「ですがは禁止。フィノって呼んで。様付はなしでお願いね」


 クラーラは今にも倒れそうなほどオロオロとして高速で眼を動かしている。

 恐らく頭の中は真っ白だろう。


「フィノ、すぐには無理だよ。最初は友達からっていうから、少しずつ慣れていってもらおう?」

「だけど」

「急いではダメだよ。焦ったからっていい関係は築けないからね」


 フィノの肩を抱いて声をかけた。

 友達になりたいのは分かるけどいきなりは無理だよ。

 最初は友達から始めないとね。


「クラーラさん、僕のことはシュンと呼んでね」


 僕とフィノは笑顔でクラーラさんに言うが反応があまりよろしくない。

 やはり王族というのはちょっとハードルが高いのだろうか。


「クラーラ、諦めろ。こいつらは学園に友達を作りに来たんだからな。それにシュン達はお前に危害を加えることはない」

「そうよ。シュン君に教わればすぐに強くなれるわ。優しいし、いろんなことを知っているからわかりやすく教えてくれるのよ。私達も試験三日前に教えてもらったのだけどすぐに上達したわ」

「そうだぜ。それに王族と仲良くなれる機会は今しかないぞ。仲良くして損は全くないと思うけどな」


 二人もクラーラに安心する笑顔で話しかける。

 貴族といっても自分に近い感じの雰囲気を持つ二人に話しかけられて少し落ち着いたのか、ゆっくり顔を上げてこちらを見た。

 僕とフィノはやさしく微笑んで頷いた。


「わかりました。フィノ様、シュン様」

「様付に慣れてないから僕は呼び捨てして欲しいんだけど……。せめてシャルと同じように呼んでほしい」


 僕が頬を掻きながらそうお願いするが恐れ多いと首を振られ仕方なく僕が慣れることにした。




 僕達が五人のグループを作って少しすると再びウォーレン先生が手を叩き注目する。


「グループは作れたな? お前達はそのグループで一年間を過ごしてもらうことになる。合宿や訓練、実践など一緒に取り組み、お互いに切磋琢磨してもらう」


 お互いに顔を見合わせる生徒達。

 中には嫌そうな顔をする者がいるがほとんどの生徒は良好のようだ。

 フィノを見る者がちらほらいたが今のところは大丈夫だろう。


「それで、午後の授業は二つに分ける。一つ目は今のグループで戦い、お互いの悪いところやいいところを指摘し合ってもらう。もちろん俺たち教師も見回り教えていく」


 これは眼を養ったり、絆を深めたり城ということだろう。

 一年間一緒に組んで合宿や実践に行くことになるのに、お互いのことを知らないままというのは危険だ。


 それに教えるということは教える側の勉強にもなるし、教わる側はそれを理解してどのように取り入れていくか考えないといけなくなる。

 素直に聞く人はしっかりと上達し、聞かない人はいつまで経っても上達しないということになる。心の留めておくだけでも上達するだろうし、グループ内に上手な人がいれば聞きやすくなる。


 グループを自分達で作ったということは大体貴族と平民で分かれているだろう。

 中にはクラーラのように貴族の中に入っている人もいるかもしれないが、その所は教師が目をしっかり見はるのだろう。

 まあ、五人でないところもいるからそれは少ないだろうけど。


「武器の扱いだけでなく魔法もしっかり使って上達させること。一応ここは『魔法』学園だからな」


 ウォーレン先生は一つ咳をすると指を二本立てた。


「二つ目は魔法の訓練をする。一週間に一つお題を作り、それを合格した者に加点を加える。合格できなくともどれだけできるか、それまでの過程、授業態度等いろいろと見るからしっかり励むように。また、出来たからといってもそれらが悪ければ減点されるからな」


 その言葉を聞いてほっとする者や真剣さを目に宿す者がいる。

 シャルとアルも例外でない。

 しっかりと拳が握られやる気に満ちている。


「これを五月の大会まで続け、大会終了後は午前の授業に魔法の知識や薬学などの授業が加わる。午後の授業はそこまで変わらないが、場合によっては何かを頼むかもしれん」


 そう言ってウォーレン先生は僕を見た。

 僕はそれに気が付くと苦笑して軽く頷いた。


「まあ、何かが変わればその都度通達をするからしっかり聞いておくように。わからないことは友達か俺達教師に聞け。それでは各グループに分かれて訓練を開始してくれ」


 生徒達は勢いよく立ち上がり、グループごとに邪魔にならないように別れていく。

 僕達も立ち上がり空いているところに移動する。




「シュン、昼休みのあれはどうするつもりだ?」


 アルが準備運動をしながら、僕に訊いてきた。

 昼休みのあれとは勘違い第四皇子の婚約騒ぎのことだろう。いや、その後の決闘か?


「婚約騒ぎなら僕から何かをするつもりはないよ。相手の出方次第だね」

「何かしてくると思っているのか?」

「それはそうだろうね。絶対に何かしてくるよ。最後の決闘騒ぎがそうなんだから。早合点して婚約者と言ったところまではいいんだけど、その後の対応を見ればね」

「しない方がおかしいか」


 アルは顎に手を当てて納得したように頷く。


「そうそう。僕がやったことだけど他国の皇子を虚仮にしたわけだからね。学園は何も手出しをしてこないと思うけど脅されれば何かしてくるだろうし、お金を詰まれればちょっかいを掛けてくるだろうね。学園長だけは何もしないだろう、いや、笑って傍観するか煽ると思う」


 僕も顎に手を当ててアルにそう言うと、アルは大きく笑って僕の肩を叩く。


「俺もそう思うぜ。少ししか見てないがあの学園長は面白いことが好きそうだからな」

「まあ、悪い状況にはならないだろうからいいだろうね」

「だが、他国の皇子にあんなことをしてよかったのか? 相手は一応帝国の皇子だぞ」


 アルは眉を細めて心配するように言った。


「力で来るのなら捻じ伏せればいいけど、誰か人質を捕られるとなぁ。ちょっと厄介だ」

「それだけで済むのかよ。恐ろしいとか、怖いとかないのか?」


 アルは僕がどうでもないように言ったことに呆れていった。


「アル、僕はフィノの隣にいるんだよ? それと同等の相手に怯むと思うの? それにフィノの御両親、国王夫妻に直に頼まれてるんだよ?」


 僕は顔に笑みを浮かべてアルに言った。

 実際は王族とか言われてもよくわからないだけなんだけどね。偉いというのは分かるけど畏怖するかと言われればそうでもない。

 いわば総理大臣みたいなものなんでしょ?

 国の長としか見れないし、今は義父さんと義母さんだから家族だ。畏怖する方がおかしい。

 というよりあの人達は優しい人だ。前世の奴等の方がよっぽど怖い気がする。


「そう言えばそうだったな。フィノの護衛というのは初めて知ったが」

「それは言う必要というか、言わない方が動きやすいじゃん」

「俺から見ると護衛よりも恋人とかに見えるけどな」


 アルは意外と鋭いな。


「どうだろうね。ご想像に任せるよ」


 僕は笑って誤魔化して柔軟を終了させる。

 アルもフッと息を吐いて柔軟を終わらせて立ち上がった。

 フィノ達もしっかりと柔軟を終わらせてこちらに向かって来る。


「アルも気を付けておいてね。僕に干渉できないとわかると僕の周りに危害を出そうとしてくるだろうから。そこは申し訳ないと思うよ」


 軽く頭を下げて謝るとアルは何でもないと僕の肩を叩く。


「いや、俺もシュンの立場なら同じようにしていたと思う。今回は婚約者のいる相手に勘違いして言った皇子が悪いし、お前の対応は若干いただけないが危害を加えていないからいいと思うぜ。面白かったし、あそこに集まってたやつは全員お前の味方をするだろうな」


 本当におかしそうに笑うアル。


「何かあれば相談してくれ。いつでも助けに行くからよ」

「うん。その時はよろしく頼むよ」


 僕達もフィノ達の元へ向かい練習を始める。




 まずはお互いの力量を見るということで順々に戦っている。

 クラーラは風と回復、結界魔法が使えるそうだ。

 大人しい見た目通り攻撃系の魔法を得意としていないが、補助系の魔法や回復系の魔法はかなりのものだ。

 風は攻撃というより補助も兼ねている万能の魔法のためクラーラに合っているし、回復魔法は中級程度までこなし、結界魔法はそれなりの強度を持っている。同年代と思えばそれなりの腕だ。それに彼女は平民らしいから金の卵と言っても過言ではない。


 クラーラにさん付けしていないのは恐れ多いですと言われたからだ。まあ、そういうとわかって言った僕も悪いけど。


「クラーラは自分の身を護るためだけの攻撃魔法が使えればいいと思うよ。無理に攻撃系統の魔法を使おうとしてはダメだ。魔法は性格にも依存するからね」


 シャルとの戦闘を終えたクラーラに声をかける。

 クラーラ達は不思議そうに首を傾げている。


 あれ? これも皆が知らないことだったっけ?


「シュン君、それは誰も知らないと思うよ。詳しく説明してあげて」


 隣にいたフィノが嗜めるように言った。

 僕はそうだった? と思いながら、一つ咳をして説明を始める。


「例えば、アルやシャルみたいに戦闘時に興奮するというか攻撃タイプの人は直接攻撃型の魔法を好むし、得意とする。フィノみたいに攻撃するけど冷静で繊細な人は魔法主体で砲撃型の魔法を好むし、得意だ。クラーラみたいに大人しく優しい人は補助や回復などの魔法を好み得意とする。全てがそうじゃないけど、大概はあってると思う」


 僕がそう説明するとしっかり自分の中で吟味して頷く三人。僕はそれを満足そうに頷いた。


「じゃあ、シュンはどうなんだ?」

「そうよね。何でもできる気がするんだけど。それに、何種類の属性を使えるの? 見たものは風と火だけだけど、詳しすぎるわよね」


 シャルが僕を問い詰めるように指をさして言った。

 クラーラは僕のことを詳しく知らない様で首を傾げる。


「そうなのですか?」

「そうよ。シュン君は強いっていう分類じゃないの。歯が立たないという分類なのよ」

「そんなにですか!?」

「俺達が束になってかかっても笑ってあしらわれるだろうな。底が見えねぇんもんな」


 アルはそう言って僕の方を恨めしそうに見た。

 僕は苦笑するしかなく、引き攣る笑みで答える。


「ま、まあ、皆も努力すれば僕と同じくらいになれるよ。フィノがいい例だと思うよ」


 フィノはそれを聞いて思い出したのか頬を赤らめて頷く。

 三人はまたしてもよくわからず首を傾げる。

 三人が並んで同じ方向に同じタイミングで傾げるものだからおかしくて笑ってしまう。


「アルとシャルには言ったけど、フィノは元々上手くなかったんだよ」

「とある事情で魔法が使えなくなってたの。それをシュン君が手伝ってくれて普通に魔法を使えるようになったんだよ。ここまで使えるようになったのも全部シュン君が教えてくれておかげ。だから、皆もシュン君に任せれば私ぐらいにはすぐなれるよ」


 フィノは優しい笑みを浮かべて三人に言った。

 フィノが僕のことをどう思ってくれているのかが伝わり嬉しくなって頭を撫でた。


「まあ、シュンの指導がどれだけ価値があるか俺も身を持って体験したからわかる。三日であそこまで出来るようになるとは思わなかったがな」

「そうね。既に身を持って体験していたわね」


 二人は腕を組んで納得したというように頷いているが、その言い方はないんじゃないかな。クラーラが少し怯えているじゃないか。

 僕がジト目で二人を見ていると慌ててクラーラに違うという。


「言い方が悪かった。シュンの指導は普通だ。どちらかというと優しい。やることに関しては少々辛いがそれは特訓だから仕方ない。だが、すぐに強くなっていると実感できるから楽しいぞ」

「いけないところを指摘されても、なぜいけないのか、こうした方がいいとかしっかり説明してくれるわ。でも、全てを説明してくれるわけじゃない。私達にしっかり理屈を理解できるように道筋を作ってくれるのよ」


 二人の思いも伝わりジーンと心が震えてきた。

 やっぱり誰かに教えてたりするのも楽しいけど、その人が嬉しく思ってくれると僕も嬉しい。


「では、私もよろしくお願いします。シュン様」


 クラーラはそう言って僕に頭を下げた。


 クラーラはこの数時間で僕達の人柄を理解し、少しだけ打ち解けてくれた。まだ固いけど様付がなくなるのも時間の問題かな。


「いいよ。この授業はそういうものだからね。わからないことはいつでも聞きに来てね」

「はい!」


 クラーラは嬉しく返事をした。

 僕はそれに笑みを浮かべて先ほどの続きを教える。


「僕のことは置いといて続きを話すけど、クラーラは先ほども言ったように大人しい性格だから後衛、しかも支援タイプだ」

「支援タイプですか?」

「うん。支援タイプはクラーラが使える様な補助や結界、回復魔法のことを言うね。武器で言うと弓とか杖かな。で、魔法に関して言うと先ほどみたいに風の弾丸を放つのではなく、まずは補助に充てる」


 補助に充てるというのは僕が使ったように風の気流を作り出して魔法を弾く『ウィンドウォール』や『ウィンドアーマー』、素早さを上げる『ムーブ』、空を飛ぶ『フライ』のことだ。

 補助に充てた後は武器に風を纏わせて攻撃したり、遠くから弓の様な遠距離型の魔法を放つということだ。

 上昇させた素早さで翻弄して相手の隙を突き攻撃する。それが支援タイプの戦い方だ。


「だけど、それは今みたいに一人で戦うときだけだよ。支援タイプは前衛役がいて本当の力を発揮するからね」

「仲間の援護をするということでしょうか」

「そうだね。危なくなったら結界を張る。怪我を負ったら素早く移動して回復する。前衛役が攻撃できるように相手の隙を作るとかね」

「わかりました」

「今は自分の力量を上げるために各自で実力を伸ばしていこう。合宿の様な遠出があるのは夏休み開けてからだからね。大会終了後に隊列や作戦を考えていこう」

「まずはお互いの力量と性格を知るということだね」


 フィノの言葉に頷くと三人も理解したみたいで頷く。


 この後はしっかりと僕が教師役となり四人の指導を始めた。

 恐らく、僕は遊撃となり、アルが前衛、シャルが中衛、フィノが後衛の火力役でクラーラが後衛の支援役になるだろう。

 いい感じのチームが組めそうでこの先が楽しみだ。


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