試験終了
武術試験を終わらせた僕達は本日最後に試験魔法試験を受けるために第二訓練棟に向かっていた。総勢四十名ほどの子供達が移動しながら、まだ武術試験が終わっていない受験生の試合を見て進む。中には評価を出しこいつには勝ったと喜ぶ人もいるけど僕には違いがよく分からない。
「シュン君、次はどんな試験かな? 一発の魔法でいろいろと測るんだよね?」
フィノが楽しみだといいそうな笑顔で僕の顔を覗いて言った。僕は前を向いて自身の考えを伝えた。
「魔道具に当てて調べるのと、複数の試験官が魔法を見て判断するんだよね。まあ、手加減するっていうのは失礼な言い方だけど、その魔道具を壊さないように撃てばいいんじゃないかな? 魔法も等級を見るって書いてあったけど、自身の得意な魔法だからあまり関係ないと思うんだよね。多分、魔法の威力とか込みでその魔法が初級なのに中級レベルの威力があるとかさ、それなら点数が高いと思うんだよね」
「そうだね。私もそう思う。何を使おうかな? 闇が一番得意だけどあまり使わないのよねぇ。……シュン君は何を使うの?」
使う魔法を何にするか真剣に悩んでいたフィノが僕に訊ねる。僕は得意な魔法っていうものが僕自身分かっていないから適当にするつもりだ。それでも抑える方に力を注がなければならないだろう。
「そうだねぇ、僕は火魔法の初級ぐらいかな。『ファイアーボール』とか『ファイアーブレット』とかね。でも、周りを見て魔法を変えるかもしれない」
「そっかー、周りに合わせればいいのね。わかった。最初だったら風魔法の初級を力を押さえて放つようにする」
「それでいいよ。やり過ぎても僕も同じくらいにしてあげるから一人じゃないしね」
「私もそうする」
僕はフィノの頭を撫でて寄り添いながら第二訓練棟へ向かうと、周りの生徒から舌打ちが聞こえた。まあ、フィノは可愛いから嫉妬する気持ちはわかる。それに隣にいるのが僕だからさ。あまり釣り合ってないかも……。
「二人はいつ見ても仲がいいわね。もしかして婚約者かしら」
シャルが含み笑いをしながら僕とフィノの関係を当てたが、僕とフィノはニコニコと笑ってごまかす。
「さあ、どうでしょう。知り合ってから一年も経っていませんから」
「そうだね。結構一緒にいると思うんだけどね。まだ半年ほどしか経ってないのか」
「「どっちでしょう」」
僕とフィノは声を合わせてそう言った。
「どっちでもいいけどよぉ、さっさと行こうぜ。二人は似合ってるからさ」
「アルは気にならないの! ちょっとぉ!」
あまり興味がないのかアルは皆の方へ歩き出した。シャルはそんなアルに慌てながら付いて行き、僕とフィノも歩くスピードを上げて皆に追いつく。
第二訓練棟。
ここは壁にあらゆる武器が飾られいつでも稽古や訓練が出来るようになっている。地面は土魔法で固めた強固な床で、壁にも魔法が編み込まれ硬くなっているようだ。
「整列しろぉ」
中にいた禿教師に整列するように言われ、僕達は適当に固まって並ぶことにした。ある程度固まると禿教師ではなくその隣にいたダンディ教師が声を出す。
「よし、君達が第二訓練棟最後の受験生達だな。まず、この試験の説明をする。君達はあそこの線から目の前の台座の上にある水晶に得意な魔法を放ってもらう。あの水晶は魔法を吸収し輝くことで消費魔力を表し、壊れることで威力を表す」
目の前には黒紫色の水晶が台座の上に置いてあった。あれに向けて魔法を放つということだろう。それにしても壊れることで威力を表すっていうことは人数分用意しているっていうことかな?
「壊れてもすぐに修復するようになっているため安心して壊せ。ストレス発散だと思ったらいい」
ほほう、それはいい魔道具だね。僕でも少々威力を出しても誤魔化せるということか。まあ、周りの人の壊れ具合を見て決めるか。
「次に私達の内容ね。私達試験官は三人で見ます。詳しくは言わないけど得意な魔法だということは理解してちょうだい。決して最強の魔法ではないわ。次に一般的なことを見るわ。消費魔力、放つまでの時間、魔法の種類、等級等ね。だからと言っていいものが合格するとは限らないわ。何回も言うけど得意な魔法よ」
最後に強調してそう締め括ると壁の方に置かれた椅子に座って受験生を呼ぶ。
「では初めに、アデラール君。魔法を見せなさい」
「は、はい!」
アルが一番のようだ。名前順ではないのにあるから呼ばれるとはあまり運がないみたいだ。緊張しているアルにシャルが発破をかける。
「何緊張しているの! しっかりとしなさい! あなただけ落ちるとか情けないわよ!」
「ぐっ、わ、わかってる!」
「アル。前にも言ったけど精神を落ち着かせて放つんだ」
「そうだよ。アルなら出来る」
「お、おう! 行ってくる」
緊張が多少は解けたアルの背中を見送る僕達。アルはゆっくり深呼吸しながら線の爪先を揃えて魔力を煉り込む。
「では、始めてください」
「…………『紅蓮の炎よ、我が手に集いて形を成し、敵を屠れ! ファイアーインパクト』ォォ!」
アルが殴るように構えると右手に魔力を溜め煉り込み、パンチを放つと同時に魔法が放たれた。拳から燃え盛る真っ赤な炎が放たれ、炎の拳が水晶へぶつかり吸収される。水晶は訓練場を照らし出し眩しいといったところで止まると音を立てて壊れた。粉々とはいかないがわりと小さく壊れている。数秒後吸収した魔力を使って自動で修復した水晶に驚く面々。
「ふふふ、皆これには驚くわね。アデラール君は下がって、次はロジック君」
「はい」
アルはどうなのか気になるような感じに帰ってきた。
「アル、結構な威力出てたよ。自信を持ちなよ」
「そうだよ。少なくとも水晶があそこまで砕けたんだからいいと思うよ」
「そうよ、壊れたっていうより砕けたよねあれは」
「そ、そうか? まあ、シュン達が言うのならそうなのかもな」
アルはそう言って隣に座った。
他の生徒達の魔法は良くて中級の上位クラスでこれは完全に最強の魔法を放っていた。この時の試験官の反応はそれほどいいものではなかった。他にも威力が足りずに割れた者や命中せずに何発か打つ者等いた。良かった人でもアルには及ばず、少し砕けたっていうところだ。
輝きもバラつきがあり、中級となればそれなりに光が光り過ぎなように感じる。光り過ぎるということはそれだけ魔力を込めているということだからね。アルの魔法は恐らく中級の下位くらいだろう。
「では次の人、シャルリーヌさん」
「はい」
シャルは自身があるのか堂々と線まで足を進める。
「では始めてください」
シャルはその声に合わせて魔力を煉り込み、目を閉じて片手を上へ掲げて詠唱を紡ぐ。
「『清らなかな水よ、我が手に集いて力となり、目前の敵を切り刻め! ウォーターウィップ』」
シャルの手の中に水の鞭が形成され、目を開けると水晶に向かって撓るように振った。水の鞭は寸分狂わずに水晶へ叩き付けられシャルの持つ水ごと吸収する。
その後、普通に電灯ぐらいに輝き込められた魔力が通常よりも少ないことを示した。水晶は音を立ててアルと同じくらいに砕けた。
「ふぅー。こんなものね」
「では戻ってください。次はレンデロールさん」
「は、はい」
シャルは普通に戻って来る。自分を出し切れたのだろう。
「お疲れ様。アルと同じくらい砕けたね」
「ええ、アルと同じっていうところが悔しいけど、結構いい方よね」
「そうだよ。アルと同じくらい砕けた人はいないもんね」
「俺もちょっと安心だ」
四人で談笑していると試験が一時中断し、試験官の教師三人が慌てたように入口へ集まった。何事かと見てみると訓練棟の入り口に太陽の光をバックにして立っているノール学園長がいた。
そういえばノール学園長は見に来るって言っていたっけ。すっかり忘れてた。
「これは学園長、どうしてこのような場所へ?」
「いや、気になる受験生がいるものだから見に来たんだ。皆は気にしないでくれたまえ」
「ゴ、ゴホン、で、では、試験を続ける。次はフィノリアさん、よろしくお願いします」
「はい。――シュン君、頑張るね」
「うん、ほどほどにね」
僕はフィノにやり過ぎないように再忠告して見送った。隣にいたアルとシャルはフィノの魔法がどうなるか興味津々だ。他の受験生もフィノの魔法に興味があるのか話をやめて見ている。中にはデレっとしているものがいるから要注意だ。
「では、始めてください」
「はい。――『ウィンドカッター』」
一秒ほどで魔力を煉り込むと詠唱破棄で放たれた風の刃が水晶へ当たり亀裂を入れた。初めてのことで皆が首を傾げた後光を発して粉々に壊れた。砂ではないが一番壊れているのは誰が見てもフィノの時だと答えるだろう。
「あっははははは……。水晶に亀裂を入れるとはね。やっぱり噂通りだ」
「で、ではフィノリアさんは下がってください。次はシュン君」
「はい」
僕は困惑しているフィノに近づいて安心させる」
「大丈夫。吸収しきれなくて壊れただけだから」
「そうなの?」
「うん、僕も同じようにしてあげるよ」
僕はそう言って線まで進むとノール学園長を見たら、口元をにやけさせ大事な試験だというのに面白がっている。
絶対に楽しんでるよこの人……。
まあ、本気は出さないからどうでもいいけどね。
「では始めてください」
僕は右手を拳銃のように構えると水晶に狙いを定め、魔力を煉りながら無詠唱で魔法を放つ。
「『ファイアーブレッド』」
ダンッ、と言う破裂音が鳴り響き水晶に穴を穿ち、そのまま水晶は光を発して粉々に砕け散った。少し威力が強すぎたみたいでフィノよりも砂に近い。
「あっははははは……。やっぱり君もか。二人はあとで残ってね」
「は、はぁ」
何があるのか知らないけどこの学園長はろくなことを思いつかないと思う。恐らく、本気の一発が見たいとか思ってるんだろうなぁ。
僕はそう考えながら元の位置へ帰り、二人から何があるのか聞かれる。
「なんで呼ばれるんだ?」
「さあ? あの学園長は変わり者みたいだから何か考えでもあるんじゃない?」
「考えって?」
「そりゃあ、僕とフィノの本気の魔法が見たいとか、全力でやれとかじゃないかな?」
僕がそういうと二人は目を剥き驚愕を表す。二人には本気で魔法を放たないって言ったんだけどなぁ。
「それは知ってるけどよぉ。あれよりすごいってどんなだよ」
「砕けるじゃなくて粉々だもんね。砂になるのかしら」
「わからないね。少なくとも想像よりはすごくなるんじゃないかな?」
僕がそういうと二人はさらに驚愕する。フィノもそれぐらいの自信があるみたいで笑っている。
それから十人ほどが魔法を放つことで本日の試験が終了した。次は明日に備えて鋭気を養うのだが、僕達はこの第二訓練棟に残り水晶と向き合っていた。
「それじゃあ、本気でやってよ」
という、ノール学園長の一言でこうなったのだ。それを聞いた教師陣は驚愕していたのは言うまでもない。教師でも砕けることは本気で撃たないとあり得ないそうだ。それが本気ではなかったのだからね、驚いて当然だ。
僕は溜め息をつきフィノにどちらが先にするか聞いた。
「私が先にする。多分シュン君の方が凄いだろうから」
そう言ってフィノは線の上に立った。
この場にいるのは教師達と学園長、僕とフィノにアルとシャルだけだ。他の受験生は皆学園長が返した。その辺の配慮はしてくれているようだ。
「では初めて」
「はい。――『ウィンドバースト』」
またしても無詠唱で放たれた風魔法は先ほどより等級が高く、威力も桁違いだ。空気の弾丸が水晶にあたると水晶をまず砕き、それから光を疎らに発して砂となった。
僕はこれぐらいだろうなと思い、ノール学園長は涙を浮かべて笑い、教師陣とアルとシャルは口を半開きにして驚愕している。
「どうでしたか?」
「いやぁ、笑わせてくれるね。満足だよ。次はシュン君ね」
「はぁ、まあいいですけど……」
僕は溜め息を一つ付いてフィノと場所を交替する。砂となった水晶だけど、それでもゆっくりと丸い元の形に戻ろうとしている。どこまでいったら戻らないのだろうか?
僕は疑問に思いながら水晶が元に戻るのを眺めている。
周りの人達も水晶の様子を見ながら、僕がどんなことをするのかハラハラワクワクしながら見守っている。
そこまで大事になるようなことはしないつもりだ。使う魔法も先ほどと同じ『ファイアーブレッド』だ。ただ、本気で撃つだけだ。僕もどうなるかわからないからワクワクしているのは変わらない。
「それではシュン君、頼むね。私を驚かせてくれたまえ」
「ええ、驚かせましょう」
水晶が完全に復元したところで僕に声をかけるノール学園長。僕は軽く威勢よく答え目の前の水晶に狙いを定める。
技術も上げるために無詠唱だ。僕は指を二本伸ばし水晶に定めて構える。そのまま魔力を煉り込むだけ煉り込むと一気に放つ。
撃たれた瞬間に爆発音が響き渡り、何かが通ったということしかわからなかっただろう。
「早いッ!」
誰かがそう叫び、
「しかも無詠唱!」
と、口に出した。
早いは僕の発動までの時間も魔法のスピードも両方言っているのだろう。無詠唱に驚いてもこの魔法は火球の中位レベルだから出来てもおかしくないだろうに。
僕の放った『ファイアーブレット』は回転しながら水晶の中心にぶち当たり、軽快な音を上げて貫通した。その貫通した炎弾は奥の壁に当たり、その壁すら貫通して奥の第三訓練棟の壁に穴を開けて止まった。
プスプスと焦げる音が鳴り黒い煙が上がると光を発することなく、水晶は砂ではなく粉と化した。奥の壁は黒く焦げた孔と壁に焦げ目が付いた穴が出来上がっていた。
火事にならなくてよかったぁ。
「…………」
僕が振り向くと皆固まっていて、さすがにこれにはノール学園長も驚愕したのか笑い声が響かない。皆が絶句している中戻るとフィノだけが僕に拍手をして迎えてくれた。
「ありがとう。久しぶりに本気で放ったよ」
「もっとできるよね?」
「ん? まあ、完全に本気になれば出来るかもしれないけど、そんなことしたら貫通じゃあ済まないよ? まあ、今できる範囲で本気だからね」
「ふーん、でもやっぱりすごいね。でも、なぜ光を発しなかったの?」
「ああ、それはね、さすがに壊れちゃったんじゃない? 先ほどから戻る気配ないし。もしかしたら、早すぎて吸収できなかったとか」
「そうだね」
僕とフィノがほのぼのと話していると皆がこっちを見て一斉に突っ込んだ。
『いやいや、何くつろいでんの!?』
「驚かせてとは言ったけど、さすがにこれは想像してなかった。まさか壊れるとはね」
ノール学園長が粉と化した水晶を触りながらそう言った。サラサラじゃなくてふかふかぐらいの感触だ。
「結構高いものですか?」
「いや、気にしなくていいよ。まだ在庫は在るから。開発費も一つ王金貨一枚ぐらいだよ」
「ああ、それなら大丈夫ですね」
「やっぱりそれぐらい持ってるんだ」
「ええ、まあ」
『いや、普通持ってねえから!?』
こちらでも僕はおかしな会話をしているなぁ、と思いながらお開きになった。
僕は教師たちにどんな風に思われたのだろうか。ノール学園長は恐らく余計に興味を持っただろうな。これは断言できる。まあ、嫌われたりイジメられなければ僕はいいけど。
次の日。
僕達は昨日と同じく第二訓練棟に来ていた。今日はここで最終試験の実践試験が行われる。対戦相手は昨日の結果を見て組み合わせが決まるらしく、僕の相手は恐らくフィノだろう。
「それでは、最終試験の実践試験を始める。内容は回復薬等の道具類以外なら何を使用しても良い。魔道具もありだ。武器も本来のものを使ってくれ。後、結界内から出ないこと。この結界は肉体ダメージを全て精神ダメージに置き換える特殊結界だ。怪我をしたくなかったら出るなよ。――では、最初の試合を始める。名前を呼ばれたものは結界に入り、笛の合図が鳴るまで構えておくこと」
今日の教師は昨日の武術試験の教師だ。女性教師も一緒にいる。
「では、モティアさんとロバートル君は結界内へ」
女性教師に名前を呼ばれた二人が結界の中に入り、メインの武器を構えて準備をする。他の面々は身体を解したりしている。
「それでは始めます」
笛の音が鳴り、両者が激突する。片方はスモールソード、もう片方は短剣の二刀流だ。
短剣の子は手数が多いが剣の子に全て捌かれている。剣の子は護るので精一杯なのか攻撃に移ることが出来ない。
魔法を放つが剣で守り、短剣の子は飛んで躱す。
そのままどっちつかずの状態で数分が経つと短剣使いの子が先に疲れが出始めて数が少なくなってきた。そこへ剣の子が短剣を片方弾きがら空きとなった脇を斬り付けようとすると、短剣の子がニヤリと口角を上げ一歩下がり剣を避けた。
剣の子は剣を振り抜き慌てて避けようとしたが、短剣の子が荒い息で一歩詰め寄り短剣を首筋に当てた。
「そこまで。二人は結界の外へ」
二人の力量に差はなかったが短剣の子の作戦勝ちと言ったところだろう。
短剣の子は体力が本当に切れていたようだが、手数が減ってきた辺りで攻めあぐねていた剣の子が弾くと思ったのだろう。そこを狙い最後の力を振り絞って躱し、体勢が整う前に一歩で敵目に掛かったのだ。
両者には惜しみない拍手が送られ第一試合から白熱したものが見れて皆、闘志を滾らせている。
それから数試合あり、次はアルとシャルの名前が呼ばれた。僕とフィノが二人と戦うことがあったけど、二人が戦うところを見たことがないから楽しみだ。
「アル、頑張って」
「おう」
僕はアルを応援する。
「シャル、負けないでね」
「ええ、アルなんかに負けるものですか」
フィノはシャルを応援する。
二人は睨み合いながら結界の中へ入って行く。別れるとアルは小手を打ち付けて構え、シャルは鞭を引っ張って鳴らせて構える。二人共さまになっている。
「では始めてください」
笛の合図と共にアルが弾かれた様に突進するが、僕が指摘したように威嚇の魔法を使っている。アルが使えるようになった詠唱破棄の火球だ。
「『ファイアーボール』」
「ちっ、いつも以上に厄介ね」
「へっ、俺だってシュンの下で特訓したんだぜ? 変わってるさ」
アルとシャルは軽口を言い合うとアルが接近するスピードを上げた。
「『バーニング』おらぁっ」
「くっ、『ウォーターボール』」
シャルはバックステップでアルのパンチを躱し、躱し際に水球を放つがアルはそれを小手で払い飛ばす。
二人の試合はヒートアップし出し周りの受験生が歓声を上げる。教師も昨日と動きが違うのに感嘆の声を上げる。恐らく学校側はこういったものを見たかったのだろう。
そろそろ決着がつく。
シャルが水球を放ちアルが弾いた瞬間に鞭を振るとアルはそれを顔側面に受けながら、シャルの腹部に突きを放った。顎にしなかったのは相手が女の子だからだろう。
二人は後退りばたりと地面に倒れた。両者ノックダウンだ。
光に包まれると僕達の前に現れ、頭を押さえながら二人は起き上がった。一応大丈夫みたいだな。
「引き分けだね」
「お疲れ様。ゆっくり休んでいいよ」
二人は喋るのも億劫みたいでしばらく横になっているそうだ。
それから十試合ほどありとうとう最後の試合、僕とフィノの試合が始まる。
僕とフィノはいつものように離れて構える。僕は剣を抜いて右手にだらりと構える。フィノはレイピアを立てて半身に構える。
緊張に周りの受験生が喉を鳴らす。
「それでは始めます」
笛の合図とともに動き出したのはフィノだ。直進してくるフィノは詠唱破棄で魔法を放つ。僕はそれを魔力を流した剣で切り裂き、フィノが来るのを身構える。
「シュン君、今日こそ勝たせてもらう」
「いや、まだまだ」
僕は突かれるレイピアを弾き、いなし、避ける。反撃に剣で斬り付け、蹴りを放つ。
お互いに詠唱破棄の魔法が次々に放たれ、お互いの魔法がぶつかり相殺される。僕は火と風を使い、フィノは火と闇を使っている。
白熱していく僕とフィノの試合は最後の試合ということもあり、今までで一番盛り上がっていく。
男の子はフィノを応援し、女の子はなぜか僕を応援する。まあ、応援されるのは嬉しいからいいのだけれど。
「やっぱり強すぎる」
「ははは、まだまだ負けるわけにはいかない。そろそろ、こちらからも仕掛けるよ」
身体強化も合わせて使い、速さを一段階上げる。
フィノは速さについていけなくなり被弾数が増える。このままでは負けると思ったフィノは、最小限の動きで躱すと僕に近づきレイピアを突き出した。
僕はその心意気に正面からぶつかる。レイピアを半身になって避け剣を首筋に当てようとするとレイピアの軌道が上を向き僕の肩を狙ってきた。
これを狙っていたのか!
僕は咄嗟位に上体を後ろに反るが肩の肉をレイピアが抉り、激痛が精神的なダメージとなって襲い掛かる。だが、致命性にはなっていないため僕はそのままフィノの首筋に剣を持っていき試合を終わらせた。
「そこまで、二人は結界の外へ」
『ワアアアアアァァァ』
「フィノ強くなったね」
「でもまだ勝てない。次はもっと頑張るよ」
僕が声をかけるとフィノは勇ましく答え、武術試験の時と同じく受験生全員が立ち上がり拍手と歓声を上げる。僕とフィノは受験生に手を振ってアル達の元へと戻った。
「やっぱりすげぇな……」
「そうかな? アルだってすぐにあれぐらいできるようになるよ」
「そうよ、私だって半年であそこまでなれたのだから。アルなら半年もかからないんじゃないの?」
「そ、そうか? ま、合格したら頼むぜ、シュン」
「私はフィノちゃんに頼もうかな」
二人は起き上がり僕達に修業を付けてくれるようにお願いする。恐らく引き分けたのが悔しいのだろう。僕とフィノは快く引き受け、あとは合格するのを待つだけとなった。
「よし! 皆こっち向け! ……これで試験終了とする。合格発表は一週間後だ。場所は試験内容が張られた場所と同じく正門前だ。名前が書かれていたら合格な。あと、クラスも一緒に貼られるからしっかり見て言覚えとけ」
『はい』
試験が終了し受験生達は散り散りになっていく。僕達も腰を上げ一緒に第二訓練棟を出る。
僕達は正門前に来ているフォロン達と合流して夕食を食べに行くことにし、その道すがら合格した後どうするかという話になった。
「まだ合格してないけどよ、シュン達は寮暮らしか? それとも家でも借りるのか?」
アルが腕を頭の後ろに組んで雲を見ながらつぶやくようにそう言った。僕とフィノは顔を見合わせどうするか迷う。
「それは考えてなかった。アル達は寮暮らし?」
「俺達はそうだな。金もないし、レシアとヴァルは帰っちゃうから家賃を稼げない」
「そっかー、じゃあ僕達も寮暮らしでいいかな。それはいつ決まるの?」
「ああ、それは合格発表があった次の日に教材を取りに行くんだが、その時に聞かれるらしい」
「ふーん。じゃあ、フィノと話し合って決めるよ」
僕とアルはそこで話をやめて夕食を食べに向かった。
フィノと話し合った結果一応寮暮らしをすることになった。寮は男女別で規則もきちんとあるため大丈夫だろうということだ。さらに従者のツェルが一緒に行けるから僕も安心できる。
まあ、何かあればすぐに家を買うつもりだ。ないことを祈るけど、今日の様子を見る限りフィノは有名になるだろうからね。
一週間もすれば雪はほとんど溶けてなくなっていて地面がしっかりと見えるようになっていた。草木には花の蕾が顔を出し、春の兆しが見え隠れしている。
僕達は再び集まり正門に張り出される合格発表を見に行っていた。もちろんアルとシャルもいる。
「ああ、緊張するぅ」
アルは目をギュッと瞑り我慢しきれないといったように少し騒動しい。
「少し静かにしなさい。今更騒いだからと言って結果は変わらないのよ」
「そ、そうだけど……」
「あと少しで結果が分かるわ。大丈夫よ、私達はシュン君達程じゃないけどしっかりやったもの。合格してるわ」
「俺はお前のそういうとこが好きだぜ」
「な、なな何言ってんのよ!」
「ぶべっ」
アルが告白まがいのこと言ったためシャルが顔を真っ赤にさせてアルをどついた。アルはそのままこけて顔面から地面にキスをしてしまった。
「あ、ごめん」
「いってぇ『ヒール』。気を付けろよな」
慌てて謝るシャルを軽く睨んで、アルは自分で鼻に回復魔法を掛けて痛みを和らげている。僕とフィノはそれがおかしくて笑ってしまう。
「お、いよいよか。合格していますように……」
周りから見たら余裕のように見える僕も内心ドキドキしている。フィノだけ合格していたらどうしようと少なからず思っている。多分フィノも同じだ。先ほどから僕の手を強く握っているからね。
「あ、あったぁぁぁぁッ!」
「私もあったわ!」
僕が手の方に気を取られている間にアルとシャルが前の方へ進み名前を確認したようだ。悲鳴染みた声を上げ周りの注目を得るが、倍率が高すぎるのだからそれは分かる。
周りを見れば同じような声を上げている者、嘆いている者、密かにガッツポーズを取る者等いろいろ分かれている。
僕達も貼り出された紙を見ることにした。紙に書かれている順は点数順らしくアルとシャルは大体真ん中よりも上といったところのようだ。
僕達も大体真ん中かなと思い三十番辺りから見て下に目線を下していったがどこにもなかった。
「……ない」
「は? 馬鹿言うな。お前の名前はあそこにあるだろうが。どんだけ下から探してんだよ」
「フィノちゃんもよ。あそこまで出来るのだから普通は五番以内でしょうに。あなた達は自分のことが分かっていないの?」
そう言われて上の方へ目を向けると一番上に僕の名前が、その下にフィノの名前がデカデカと書かれていた。
さすがにあれはないんじゃないかな……。新手ないじめのような気がする。
一番上に書かれているのはいいが、皆の文字よりも数倍はデカい文字で書かれていた。鉛筆とマジックぐらいの差では済まないと思う。
恐らくノール学園長だなこんなことをしたのは。
隣の点数を見てみると僕が八百九十一点でフィノが八百七十八点だった。
僕の減点は国語と魔法かな? フィノも同じようなところだろうと思う。
因みに三位を見てみると僕と百点近く離れていた。更に四位は三位と五十点ほど離れていることから、僕とフィノはぶっちぎりで合格を飾ったことになる。
「ああ、一位かぁ……」
「私は二位ね……」
僕とフィノはその自分の名前を遠い目で見る。アルとシャルが不思議そうな目で見てくるが今は気にしていられない。
「はぁー、こんな感じではなかったんだけどな」
「何言ってんだ。昨日の魔法を見たら確実にシュンが一位だと誰でも思うぞ」
「あれぐらいアルだってできるようになる。貫通は無理かもしれないけど」
「いや、無理だって」
出来ると思うんだけどなぁ。
僕は絶対に出来るようにさせてやると思いながら、クラス分けが書かれている紙を見ることにした。
クラスは全部で四つあり、一クラス二十五人前後だ。実力別ではなく、教師が勝手に決めた感じなのだろう。
「あ、私達みんな一緒のクラスね。三組だって」
「珍しいな。普通は強い者をばらけさせるものなんだが」
「まあ、一緒ならいいじゃない」
「それもそうだな」
アルとシャルは一緒にクラスに慣れて嬉しそうにしている。これも恐らくノール学園長の仕業だろう。まあ、これは有難いので感謝しておこう。
でも、優遇じゃないけどこんなことしてもいいのかな? まあ、強さで分けられるよりいいかもしれないな。出来る者が出来ない者にしっかり教えることも大事だからね。
僕達はこの後教科書などの物資を受け取り宿屋へ帰った。その後、準備を済ませると寮の部屋に荷物を置きいつものように特訓を始める。
僕の部屋は一人部屋でアルが羨ましがっていたので、いつでも来ていいことを伝えると大はしゃぎしていた。
フィノもどうやら一人部屋らしくシャルにいつでもきていいことを伝えると喜んでいたそうだ。




