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試験開始

久しぶりに書いたので少し書き方が変わったり、性格が変わっているかもしれません。


国語のテストですが私は二本だけが縦書きと横書きがあるのでは? と考え、国語のテストも他と同じように左から始めています。英語と同じですね。

あと、テスト時間が三十分は短いと感じるかもしれませんが問題が二十問ほどしかありません。しかも、小・中学生レベルです。

 試験当日。

 僕達は学園の校門でツェル達と別れ、校舎入口の受付に向かっていた。僕の隣にはニコニコと試験に一欠片も気負いしていないフィノがいて、後ろには胸を押さえて深呼吸しているアルとそれを呆れながらも心配そうに見ているシャルが付いて来ている。


 辺り一面増し色に雪化粧され、受付のある校舎入口までの道は多くの受験生の足跡が付いている。それでも溶ける気配のない雪は踏み締められ滑り易くなっているため注意しなくてはならない。


「う、おっ!? ――っつー!」

「だ、大丈夫、アル?」

「あ、ああ、大丈夫だ」

「前をよく見て歩きなさい。足元にもね」

「ああ」


 アルは緊張で周りが見えていなかったようで少し段差になっていたところを踏み、足を取られ盛大に滑って尻餅をついたようだ。幸いシャルが速く気づき頭を打つのは回避できたようだ。

 僕は後ろに振り向きながら再度注意する。


「シャルの言うとおりだよ。雪が降っている時はまだいいけど、今日みたいに降った雪が踏み固められて解け始めている時が一番滑り易いんだから、気を付けなよ」

「ああ、今痛感したところだ。だけど、おかげで緊張が解れたぜ」

「それは良かった」


 僕達は踏む慣らされた道を目印にして校舎入口の受付まで向かった。受付までの道にも多くの受験生がいたが、受付の所にはそれ以上の人でごった返していた。

 僕達は結構多いなと思いながら受付を済ませるために最後尾に並んだ。

 十分ほどすると僕達の番となり、僕から受付を済ませることとなった。


「受験生ですね。では、受験証明書を提出してください」

「はい、これですね」


 僕はポケットから証明書を取り出して受付のお姉さんに手渡した。収納袋は不正行為として取られる可能性がるため、フィノのものも含めて異空間の方へ入れてある。

 持ち運んでいるのは筆記用具と剣と杖の三つだけだ。着ているものも鎧ではなく、普通の私服だ。明日はまた変わるかもしれないけどね。


「……はい、よろしいです。あなたがシュンさんでしたか。あなたは学園長に期待されているので頑張ってください」

「あ、はい」

「ふふふ、では、校舎二階の二-三と書かれた教室へ向かってください。そこで筆記試験を行います」

「わかりました。ありがとうございます」


 僕は学園長に期待されているのか。まあ、先日の行為を思い返せば理解できる。


 僕が脇に避けるとフィノが受付を行う。フィノも同じようなことを言われ少し眉が上がった。アルとシャルは何事もなく受付を済ませた。

 筆記試験の場所は運よく四人とも同じ教室だったようで、一緒に試験会場となる二階の二-三という教室へ向かった。


 地球の学校とは違い土足のまま校舎の中へ入り、入ってすぐにある階段を昇っていく。昇り終えると左右を見て目的の二-三と書かれたプレートを発見して入って行く。


 中に入ると既に三十人ほどがいて、それぞれが思い思いのことをして試験開始を待っていた。

 僕達が教室内へ入ると一斉に目を向けてきたが、僕達は気圧されることなく空いている席についた。若干アルが身を引きかけてはいたけど……。


「試験開始まで後三十分か。それまでに覚えたことを忘れないように何も考えないでおこう」


 アルはそう言うと目を瞑って机に伏せた。シャルはその隣で覚えたことをぶつぶつといい、フィノは僕とおしゃべりしている。

 試験が開始するまでの時間は他人がとやかく言えることではないので、個人の裁量に任せることにしている。


「シュン君、大丈夫かな? 今になって不安になってきたよ」


 ちょっと震える声でそう言った。

 僕はフィノの頭を優しく撫でてそのまま手を強く握ると優しい口調で僕が知っている試験でのアドバイスを口にする。


「フィノ、適度な緊張や不安っていうのは持っていたほうがいいんだよ。緊張しすぎるっていうのもダメだけど、緊張が全くないっていうのも試験の最中で眠くなって頭が働かなくなるからダメなんだ。後は目を閉じて深呼吸したり、心の中で自分に問いかけたりね。そうやって精神を落ち着かせるんだ」

「ふーん、そうなんだ。スー、ハー、スー、ハー……」


 僕は静かに深呼吸を始めたフィノの手を離すと逝くりと目線を上げて辺りを見渡した。

 すると何やら嫉妬の念が籠った視線が多く突き刺さった。


 うっ……いつものようにフィノと接したらこうなってしまったか……。フィノと今まで通り触れ合っていたいけど、今度からは自重するしかないか。


 嫉妬の籠った視線を向けていた人、男子達はすぐにやるべきことを思い出して思い思いの行動に戻った。

 戻り際に『爆発しろッ!』と小声で言うのはどこの世界でも同じようだ。




 五分前になると教室の中にぎゅうぎゅうではあるけど四十人ほどが集まっており、すぐに試験官が現れた。


「(パンパンッ)よーし、注目。立っているものは席に着け。伏せているものは顔を上げろ。……それでは試験を始めようと思う。今から問題用紙を配るが開始のチャイムが鳴るまでは伏せておくように。言うことを聞かない奴は不合格とするからな」


 試験官の男性はそう言うと手に持っている問題用紙を配り始めた。

 中には覗こうとしている者がいたが、すぐに試験官の男性に見られ未遂に終わった。


 キーンコーンカーンコーン。


「それでは試験開始。時間は九時三十分まで。カンニングした者は速不合格だ。私語も厳禁。いいな」


 チャイムが鳴り一斉に問題用紙を裏返した。

 初めに行うのは国語からだ。次に算数、その次に魔法について、歴史、一般教養という順となる。


 裏返して名前を書くとゆっくりと左端にある問題に移る。

 国語の内容は短編の小説問題とその感想ぐらいだった。まあ、問題は二十問ほどでこの時主人公はどう思ったかとか、この時の情景はとかが多く、読み取るということを重点的に置かれた問題のようだ。


 次に算数だが、これは四則計算までのようでそれほど難しい問題はなかったが、最後に応用問題がありそこに時間が掛かったくらいだ。


 魔法については意味が分からなかったが問題を見て分かった。簡単に言えば基本属性は何属性あるかや、相反する属性はどれかなどといった魔法の基礎についてだった。

 本当に魔法についてというテストだった。


 四つ目の歴史は普通にこの世界の成り立ちとか神の名前を答えてその役割を簡潔に言いなさい等といった問題だ。

 とりあえずロトルさんの名前を書いておいた。この世界の管理人みたいだからよくわかるし、この問題を外すわけにはいかない。


 最後に一般教養は礼儀作法やマナーが文章とイラストで描かれていてそれが正しい方に丸を付けるというマークシート形式だった。


 どれも簡単で少なくとも平均九十はあるだろう。百点というのはあり得ない。国語とか絶対に数点は引かれるものだ。




「よし、筆記試験はこれで終了だ。それでは次の試験に移るが……お前達は外で武術試験が先となる。五分前には外でこのメンバーで固まっておくように! 遅れた者は失格とする」

『はい』

「よろしい。では昼休憩だ」


 試験官の男性がそういうと同時にそれぞれが知り合いと一緒に教室を出てお昼を食べに行く。僕達は外でフォロン達がお弁当を作って待っているのでそれを受け取って食べることになっている。


「うぅん、ああー、疲れたぁ。シュンよぉ、どうだった?」


 伸びをして凝った体を伸ばしたアルが疲れたように聞いてきた。僕は振り返ってそれに答える。


「んー、まあまあかな? 合格ラインに入ってると思うよ」

「かあー、やっぱりかよ! 俺は不安で不安でしょうがないっていうのによぉ!」

「アルはいいわよ……。そう言うけど実際は出来ているのよぉ。私なんか……はぁ」


 シャルは見るからにどんよりも気が沈んでいて背後に黒い縦線が見える。


「フィノはどうだった? 結構簡単に出来たと思うけど」

「うん、思っていたより簡単だったよ。多分シュン君と同じくらいの点数だと思う」

「それは良かった」


 僕はフィノの頭を撫でてアルとシャルからジト目を貰い慌てて手を引っ込めた。その後は誤魔化すように昼食を食べにフォロン達の元へ向かった。




 誰もいないテーブルを見つけてそこへフォロンが昼食のお弁当を広げる。今日は熱々シチューとサンドイッチだ。これを食べ終わった後は紅茶を飲んで一息つくつもりだ。

 アルとシャルの分の昼食も僕達が作ってきているから、一緒に座って食べている。


「うめぇー、これフォロンが作ったのか?」

「いえ、シュン様とフィノ様が御作りになられたものです。私も作りますが今日は大事な日なので御自分で御作りになると言われたもので」

「あなた達は料理も出来たのね……。しかも、我が家の料理より美味い。それに、シュン君に負けるとは……」


 アルは一心不乱にサンドイッチを頬張り、シャルは何やら打ちひしがれた様にサンドイッチを兎のように食べている。

 僕とフィノもサンドイッチを頬張り二人の様子を見て笑う。


「食べた後に紅茶を飲むとかどこの貴族だよ、と思うが俺達も貴族なんだよなぁ」


 アルが紅茶を飲みながらしみじみと言った。それにシャルが頷く。

 僕とフィノはこれが普通なので特におかしいとは思っていないが、周りを見てこんなことをしているのは僕達と位の高い貴族ぐらいだった。他の人はグラウンドで魔法や技の最終確認をしている。


「俺達はこんなにゆっくりしていていいのか? まあ、シュンとフィノは大丈夫だろうが」

「そうね、最終確認とは言わないでも体位動かしたほうがいいかもしれないわね」


 二人はそう言って立ち上がり僕達にもいかないかと言ってきた。僕はフィノと顔を合わせるとフォロンに後片付けをお願いして準備運動に行くことにした。


「行ってらっしゃいませ。合格を祈っております」

「うん、任せといて」


 僕はフォロンに手を振って別れると三人の後を追い駆ける。




 グラウンドは広大で二百メートルトラックが余裕で十個ぐらい入りそうだ。ここを今日は埋め尽くすほどの受験生がいるということになるのだが。


 グラウンドでは僕達と同じ背丈の子供が魔法を放っていたり、剣を片手に戦闘訓練をしていたりする。中には執事服を着た人物が手解きをしていたり、メイドが地魔法で目標を作りそれに魔法を当てたりしている。


「僕達は何をしようか。準備運動と言っても派手すぎるのをするのはどうかと思うし……」


 いつものような準備運動をしたら確実に皆戦意を喪失してしまうだろう。この前アルとシャルがそうだったように。


「とりあえず、準備体操と簡単に剣を打ち合う程度でよくねぇか?」

「まあ、それが妥当ね」

「わかった。僕達もそっちに合わせよう」


 僕達は開いている一角に移動すると柔軟から入り、十分ほど体をほぐした後にシャルとフィノ、僕とアルに分かれて剣を打ち合うことにした。


 それから十分ほど経つと集合の時間となり、僕達は先ほどの教室と同じプレートが書かれている立札がある場所へと移動した。




「それでは、これより武術試験を執り行う。試験内容は試験官と一戦戦ってもらう。これは負けたからと言って不合格にはならない。まあ、勝てれば合格に近づくのは間違いではない」


 魔法使いというよりは剣士、しかも大剣を持つようなガタイのいい男性教師が大きな声でそういった。その隣にはローブを着た魔法使いの女性教師もいる。恐らく二人で相手に分けて戦うのだろう。


「また、獲物はこちらで用意をしたものを使ってくれ。持ってきた物は刃を潰してないだろうからな。使いやすいものがなかった場合はすまないが我慢してくれ。ルールは身体強化と武器強化以外は使用禁止。使ったとわかった時点で失格となる。また、枠があるがあまり気にしないでくれ。基準として考えてくれればいい」

『はい!』

「試験官は俺だ。強さで言うとBランク程度だ。始めにアデラール前に出ろ」


 そう言って男性は名簿を隅に置き、傍に置いていた大剣を構えた。アルは端に置いてある武器庫から小手を選び出すと手に着け礼をしてから枠の中に入った。


「お、初っ端から相当できるようだな」

「はい、この三日間良い師匠に出会えたもので」

「そうか。その師匠とは彼のことか?」


 教師は大剣を正眼に構えた状態でアルを見て言った。それを聞いたアルは驚いて構えを解いてしまったが、今はまだ開始していないので大丈夫だが不要人だ。後で説教だな。


「知ってるんですか?」

「ああ、学園長から彼には本気で相手をするようにと言われている。それでも俺の方が手も足も出ないと言われたがな」


 教師は笑ってそう言った。って学園長なんてことを!


「シュンはAランク冒険者ですから、先生に勝てるかもしれません」

「お! そうなのか! それは良いことを聞いた。あいつは最後にさせよう」


 アルは人の情報をぺらぺらとしゃべって後でこれも注意が必要だな。僕が溜め息をついているとシャルが気を利かせて謝ってきた。


「ごめんねシュン君。アルに悪気はないのよ。ただ、喋ってないと緊張するみたいで」

「ああね。それでも、人の情報をぺらぺらしゃべるのは感心しないけどね」

「ああ、そこは怒っていいわよ」


 僕はやれやれと首を振ってアルの戦闘が始まるのを見守る。多分か手はしないだろうがいいところまでは出来るはずだ。


「それでは、武術試験、始め!」


 女性教師がそう言った途端アルが突っ込んでいく。男性教師はそれを迎え撃つように構え、射程内に入った瞬間に大剣を斬り下ろした。アルはそれを最低限の身のこなしで躱すと右のアッパーを放つ。男性教師はそれを上体を右にずらして躱し、大剣を横薙ぎに振う。


 アルは後ろに飛んで躱すと僕に見せた武器強化を使った。


「『バーニング』」

「ほう、武器強化を熟すか! 面白い掛かって来い!」


 アルは今度はフェイントを混ぜて蹴り技も入れた攻撃をする。この三日間で眼のフェイントまでは無理だったが拳のフェイントをものにすることが出来ていた。

 何発か体を掠るが体には当たらない。


 さすがは教師というところかそれをしっかりと見極め、大剣を小刻みに揺らして全てを捌いて行く。アルは焦ったのか次第に攻撃が単調になり隙が大きくなってしまい、そこを男性教師の体当たりが決まり、こけたところに大剣の剣先が付き付けられ勝敗が決まった。


「そこまで、アデラールさんは武器を戻し皆の元へ戻ってください。次はリリックさん」


 そう言って今度は女性教師が相手をするようだ。


 それから数人が教師達と戦ったが、誰もアルほど善戦することなく負けていった。早い人で最初の一撃で終わる人もいた。完全に実力不足だ。

 中にはいい感じに攻撃をする者がいたけど、その人は命中度がなくてせっかくのチャンスを活かせてなかった。


「では次にシャルリーヌさん、前へ」

「はい」


 シャルは一言返事をして立ち上がる。どうやら相手は魔法主体の女性教師のようだ。


「シャル、がんばれよ」

「魔法と相手をしっかり見て」

「頑張ってシャル」


 僕達三人はそれぞれ応援の言葉を掛けてシャルを見送った。シャルはこちらにグッとかっこよく拳を握ることで応えてくれた。


「鞭ですか……珍しいものを使いますね」

「ええ、ですが魔法も鞭を得意とするので」

「そうですか。ですが、最初に手札を見せるのはいけません」

「すみません。ですが、負けなければいいんです」

「いいですね、その気迫。では、勝ってみてください」


 二人は戦闘の前に舌戦を繰り出す。十分に温まっている会場がさらにヒートアップする。そこへ男性教師の試合の開始が言い渡される。


「それでは、試合、始め!」

「フっ」


 初めに動いたのはシャルだ。先ほどまで見た経験を生かしたのだろう。先ほどまで情勢教師が手に持っていた剣で斬り付けてきたのを避けたところを狙われていたのだ。


 だが、先に攻撃してしまえば近づけさせないようにすることが出来る。また、鞭は遠距離攻撃に優れているため剣では届かない距離を攻撃できる。


「やりますね。口先だけではないということですか」

「ええ、筆記が出来ない分こちらで頑張らないといけませんから」


 女性教師は鞭を避け剣で弾きながらシャルに近づこうとするが、シャルはそれを読み鞭で邪魔をしながら逃げる。一定の距離を保ちながらお互いに一歩も引かない戦闘を繰り広げる中、観客席ではシャルを応援する声も上がっている。


「ふぅーそろそろ時間ですね。次はこちらから行かせてもらいます」

「くっ」


 女性教師の纏う雰囲気が鋭いものへと変わるとシャルの鞭が大きく弾かれるようになり、シャルが捌き切れなくなった。そこを突かれたシャルは接近を許してしまい、剣で鞭を叩き落され足で踏まれて剣先を首筋に添えられた。


「そこまで、シャルは武器を片付けて元の位置に帰れ。次はデュラス前に出ろ」

「はい」


 それからまた数人して今度はフィノの番になった。


「次はフィノリアさん、前に出てください」

「はい。――シュン君、頑張ってくるね」


 フィノは僕に振り返ってそう言った。僕はフィノに手を振って応援をする。


「やり過ぎないようにね」

「そうだな。勝ってくれ」

「勝利を願ってる、フィノちゃん」


 フィノはレイピアを抜き取ると半身に構えて凛と佇む。


「さすがは王族ですね」

「いえ、これは彼から教わっていますし、実践も半年ほど経験していますから」

「そうですか。……本当に彼は何者なのですか?」

「それを教えるわけにはいきません。国家機密並なものですから」

「あら、そうなの? じゃあ、これ以上詮索するのはやめておきます」


 女性教師も剣を今度は最初から構える。


「それでは、試合、始め!」


 二人は身体強化を施し、武器に魔力を通す。今度はどちらも先に動かずジッと相手の様子をうかがっている。こちらの観客もそれを固唾を飲んで見守る。十数秒経った頃、女性教師が先に動き先ほどまでとは違う目にも留まらない速さで肉薄する。


 フィノはそれを目で捉え、右斜め上から来る斬撃を背後に下がることで躱し、お返しにレイピアで脇を突く。それを身を沈めることで回避すると斬り付けた軌道をなぞるように斬り上げる。フィノは体捌きでそれを避け、お返しにレイピアを横薙ぎに振り横腹を斬り抜く。女性教師は後ろに飛んでそれを回避した。


『オ、オオオオオオオォォォォォ』


 観客から凄まじい地響きの歓声が起きた。僕もフィノがあれほど成長しているとは思わなかった。確かにフィノの実力はAランクと遜色がないけど、それは魔法があればの話であって、魔法がない場合はBランクに届けばいい方だと思う。いや、思っていた。


 だけど、今目の前で開かれている試合はBランクであろう女性教師に一歩も引かずに争っているフィノの姿がある。僕も周りに感化され一撃一撃に声を上げてしまう。


 数度打ち合いこのままでは決着がつかないと気が付いた両者は、示し合わせたわけでもなく二人は距離を取り一気に駆けだす。


 フィノは胸元を、女性教師も手首を狙って右上から斜めに切り落とす。二人が交差する瞬間ガツンッ、と大きな音がして二人の剣が上空へ弾き飛ばされた。

 二人はクロスした状態で固まり、両者ともに無傷のようだがこれ以上の戦闘は行えないだろう。


「そこまで、フィノリスは武器を戻して元に戻れ」

『オオオオオオオォォォォォ!』


 男性教師がそう言って名簿に何か書き足し、周りから先ほどよりも大きな歓声が上がった。

 僕はフィノが返ってきたため労いの言葉を掛ける。


「お疲れ様。手首は痛めてない?」

「大丈夫。負けちゃった……」

「仕方ないよ。魔法は使えなかったんだから、あそこまで戦えればいい方だと思うよ。だから、そんなに気落ちしないで」


 僕はそう言って隣に座ったフィノの頭を撫でて肩を合わせるとなぜか周りから「うそ、だろ……」「何頭撫でてんだ……」等と不満の声が上がった。


 何が嘘なんだろう? 頭撫でるのは当たり前じゃないか。僕のフィノなんだから。


 僕は嫉妬と敵意を背中に受けながら最後に自分の番が来るまでじっと受験生の戦闘を見る。

 結局僕達のグループは誰も教師から一本取ることが出来なかった。良いところまで行った人がいたのだが、それは教師が生徒のレベルに合わせたからであって、フィノの様に全力で相手をしたわけではない。


 そして僕の番が来た。


「それでは最後にシュン、前に出て来い」

「はい」


 僕は立ち上がって三人の方を向く。


「行ってくるね」

「そこは勝ってくるだろ」

「勝てると信じてるわ」

「シュン君、怪我だけはしないでね」

「うん、任せて」


 僕は三人から励ましの声を貰い、背後からフィノリア様がどうたら、このリア充めなどと声が聞こえたが僕は聞こえないふりをして武器を選びに行く。


 とりあえず使いやすいショートソードを取り、男性教師の下へ向かうと、男性教師は闘志を滾らせて僕の到着を待っていた。


 はぁ、これは本気でしたほうがいいということか。フィノ達にも勝利を望まれたしな。まあ、フィノが引き分けたのだからぎりぎりで勝つぐらいがちょうどいいか。


「やっと来たか。この試合を楽しみにしていた。学園長に言われた様に本気で行かせてもらう」

「生徒にもなっていない子供に本気を出すのですか?」

「ああ、俺の直感が本気で相手をしろと言っている。それでも敵わないと言わせてるんだぞ」

「わかりました。では、僕も本気でお相手します」

「おう! そうでなくてはな!」


 僕は男性教師から離れて右手で剣先を下向きにやる気がなさそうに構える。

 周りから「なんだ、あの隙だらけの構えは……」とか「やる気がないのなら受けるなよ」等と聞こえるが、僕の意識は戦闘用へと変わっていき次第に声が耳に入らなくなっていった。


 男性教師は額からたらりと冷や汗が流れ落ちた。恐らく、僕の雰囲気に当てられているのだろう。大剣を正眼に構えて僕を見据える。


「それでは、試合、始め」


 僕はその瞬間身体強化を施し、ショートソードに壊れない程度の魔力を通した。準備を一秒も満たない間に終わらせると十メートルの距離を二秒で詰め、男性教師が驚いて下がろうとしている所へ水平に剣を薙ぐ。


 ガンッ、と武器同士がぶつかる音が鳴り響き、観客の鼓膜を震わせる。そのまま連続で剣を隙があるところに向けて斬り付ける。男性教師はそれをぎりぎりで避け、大剣を体の正面を護るように構える。そのまま僕に突進して距離を取る。


「……早いな」

「これぐらいできないとAランクを名乗れません」

「そうだったな。では俺が挑戦者と言ったところか?」

「さあ、わかりません。ここにいる僕は受験生ですから」

「ふっ、そうだったな。では、今度はこちらから行くぞ!」


 男性教師は僕に向かって突進すると大剣を片手剣レベルの速さで斬り出し始めた。体捌きと細かな剣捌きがそれをさせているのだ。

 僕は剣で弾き体捌きで躱し、高速の剣撃の合間に剣で斬り付ける。男性教師も負けじと大剣を振う。


『オオオオオオォォォォ』

「す、すげぇ」

「先生も本気だよな」

「ああ、俺達とは動きが全く違う」

「ちっ」


 受験生の中にも戦闘の凄さが伝わり歓声を上げる者や感嘆する者、自身の実力を見直す者、嫉妬をする者などいろいろいる。


 僕はそろそろ決着を付けようと剣を繰り出す回数を増やし、身体強化に使っていた魔力を上げると大剣が上から来た時を狙ってそれをしたから掬う様に上へ弾き飛ばした。その隙に体を男性教師の懐の中に滑り込ませて首筋に内側から剣を当てた。


 シーン、とした静寂が辺りを漂う。そして、女性教師の宣言があると轟くように歓声が上がる。


「そこまで、シュンさんは武器を収めて元の位置へ」

『オオオオオオオォォォォ』


 僕は剣をボックスに入れるとフィノ達の元へと戻った。フィノ達も僕を見つけると肩を叩き歓迎してくれる。他の人も僕を見てキラキラとした目を向けてくる。


「やっぱりシュンは勝ったか」

「そうね、負ける姿が想像できないもの」

「シュン君、かっこよかったよ」

「ありがとう、皆。次はどうなるかわからないよ」

『ちっ』


 先ほどまでキラキラしていた目で見ていたのになぜ舌打ちを……。


「ゴホン、いいか、この後お前達は魔法試験を受けてもらう。場所は第二訓練棟だ。あそこに見える真ん中の建物な。それでは解散」


 男性教師はそう言って名簿を持って女性教師と話し合いを始めた。移動は僕達だけでしろということだろう。まあ、場所さえ教えてもらえれば大丈夫だからいいけど。


 僕達は本日最後の試験、魔法試験の会場に向かって行く。



剣を持って来ていたのに使わなくなったのは学校側が危ないと考えたからです。

なので、学校側で刃を潰した武器を用意しました。

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[一言] 「辺り一面増し色に雪化粧され、受付のある校舎入口までの道は多くの受験生の足跡が付いている」 →「・・・真っ白に雪化粧・・・」かな?
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