ガーラン魔法大国
私の勝手な都合で投稿が遅くなると思います。
そのため今回投稿したこの話の文字数が少なくなっています。
都合というのは簡単に言いますとMFブックスに応募しようと思っているからです。
この作品も応募していますが、今考えているのは皆様から頂いたご指摘と反省点を活かして書いていきたいと思っています。
作品はまだあまり考えていませんがテンプレ物のクラス全員が勇者召喚される話となります。
なので、近々投稿すると思うのでよろしくお願いします。
出来るだけ誤字脱字等を無くしていきたいと思いますが、日本語が一番まずいのでそこのところを指摘してくださると有難いです。
ガーラン魔法大国。ガーランは四大国とは別の大国の一つでジュリダス帝国とシュリアル王国に並ぶ国力を持っている。特に魔法に関しては他の二国を遥かに凌ぎ、魔法の新技術もこの国から生まれている。
だけど、ガーランは国土が小さく保有する兵力もそれほど多くわない。質はいいが量が少ないというわけだ。それに、各国から入学する子供や研究者が多くいるためガーランに新技術の魔法が留まることは少ない。
また、世界から魔法大国は独立している国でもある。戦争を禁止し、何者の権威を受け付けない代わりに技術の提供をし、留学を受け付け、力を持ち過ぎてもいいようになっている。
そうすることでこの四大国との均衡が保たれている。
百年前の帝国世界制覇騒動を除けば魔族との戦争もなく、平和な時を過ごせている。未だに帝国が怪しげな行動をすることがあるが、現皇帝がそう言った思想の持ち主ではないためそこまで緊迫している状況にはない。精々、気を付けようと働きかけるぐらいだ。
僕が解決したあの事件は王妃を主導にし、謎の黒尽くめの邪神組織が暗躍していただけだから帝国は関係がなかったそうだ。完全にないとは言い切れないけど……。
僕は前に帝国は絡んでいないといったけど、だってそうでしょ? 王妃の独断と言えど、帝国に仲間がいないと王妃がフィノの婚約者を帝国の人間で宛がうことは出来なかったのだからね。
僕の深読みかもしれないけど、今年は元フィノの婚約者帝国の第四皇子が合格すれば入学してくるはずだ。あれから何もないけど、気を付けていたほうがいいと思っている。
僕達は途中で立ち往生していたアル達を助けて、一緒にガーランに向かっていた。
アル達はリュシオン公国の人間らしくて、ここまで来るのにひと月掛かったそうだ。
リュシオン公国は豊かな土地ではあるけど、砂漠に囲まれた土地にあり移動するのに時間が掛かるため、あまり他の国と国交が行われていない。それでも、自国にある豊かな土地を活かして国を栄えさせている立派な国だ。
何とか五日前の夕方までにガーランに着くことが出来た。聞けば年に稀に見る大雪だったようで、毎年行っている除雪工事が間に合っていなかったそうだ。それでもあと三日もすればガーランの主要道二十キロを除雪できると言っていた。
「なあ、シュン。そんなに魔力を使って大丈夫なのか? 半日もあの魔法を持続させてたんだろ?」
馬車と馬を預けられる宿屋を探している最中にアルが隣まで来て心配そうにそう言った。後ろでフィノと楽しく談笑しているシャルを見れば、目が合い同じような顔になった。
「ちょっときついけど大丈夫だよ。明日になれば魔力も回復しているだろうからね」
僕はアルに大丈夫だと手を振って心配は無用だと言った。
ガーラン側が除雪しているところと繋がるまでに移動した距離はおよそ二十キロ弱だった。その間に消費した魔力は三十万ぐらいで、その五分の一ほどが休憩で回復していた。
僕の膨大な魔力量だから出来ることだけど、普通の人だったらできないことだな。アルとシャルのような反応が普通なんだ。
道が繋がった時も同じような顔をされたっけ。
「お前はどれだけ魔力量があんだよ……。俺だったら一キロも行かない内にガス欠になるぞ」
「私も魔力量には自信があったけどシュン君の前では霞んでしまうわ」
「ふふふ、シュン君は凄い人なの。あれくらいシュン君にとってみれば簡単なことなんだよ。私にはちょっと無理だけどね」
二人は僕の魔力量に驚愕して、フィノは口に手を当ててクスリと笑うと僕を見て謙遜をした。
フィノもできると思うけどね。まあ、魔力が尽きかけるからやらせはしないけど。
「俺もそれぐらいの魔力があればなぁ、自身を持って入学試験を受けられるんだけど」
アルは見た目と違って少し繊細で自信を少し下に見る傾向がある。まだ戦闘したところを見たことがないから良くは分からないけどね。
「あんたは何を言っているの? シュン君と比べるのがいけないのよ。あんたが一度量った時は相当な量があったでしょうが。今でも伸びているのでしょう?」
シャルは話し方が変わって親しみやすくなった。性格は明るくてお節介を焼くタイプに感じる。
僕が考えていてように二人は幼馴染で、両親が親友で子供の時から一緒にいるみたいだ。
アルは見て分かるように火魔法が得意で性格と一致する回復魔法が使えるみたいで、シャルは水魔法と補助魔法が使えるようだ。
感じる魔力量は平均年齢の魔力量よりも多く感じるから、シャルが言っていることは本当なのだろう。
「そうだけどよぉ、こう、試験前にこんな凄いものを目の前で見せられちまったら自身無くさねえか? しかも同じ受験生なんだぞ」
アルが肩を落として不安そうにシャルに言った。
いつものことなのかシャルはそれを聞いて肩を竦めると、やれやれと言った感じに額を持って目を瞑った。
「何度も言うけど、あんたは自信を持ちなさい。自信さえつけば言うことがないっていうのに……まったく。はぁー……ところで、シュン君が凄いのは分かったのだけど、フィノちゃんはどうなの? やっぱりシュン君と一緒にいるぐらいだから相当出来るんでしょ?」
シャルは溜め息を一つ付くと項垂れているアルから目を離し、隣で笑っているフィノに期待を込めた瞳でそう言った。
フィノは眉をピクリと上げるとニッコリと笑って答えた。
「いえ、そうでもないよ? 私はシュン君の足元にも及ばないと思う。足元は言い過ぎでも実力はかけ離れているの」
「そうなの? シュン君が一緒にいるんだから強いのかと思ったんだけど……。それに私の直感が外れるだなんて」
「だって、私はシュン君に一度も勝ったことがないもの。私は全力でシュン君は半分も力を出していないのよ? この前の練習で奇襲をかけたのに笑って躱されたんだから。近距離で放った魔法を避けるんだよ?」
フィノはこの前迷宮で行った魔力障壁特訓のことを言っているのだろう。
フィノは謙遜しているようだけど、間違いなく学園で上位に着ける実力を持っていると思う。
シャルはそれを聞いて訝しむように両手を組んでフィノに聞き返す。
「まだシュン君が戦ったところを見たことがないからよくいえないけど、奇襲を掛けられるものなの? あの魔力量と魔力制御能力があるんだから実力も相当あるのよね? そんな彼に奇襲を成功させたんだからやっぱりフィノちゃんも相当な実力者だよ」
「そう、かな? 私は最近魔法が使えるようになったばかりだから、通常の魔法使いがどれくらいの実力なのかわからないんだよね。見たこともあるんだけど、私の魔法の師匠はシュン君だし、目標もシュン君だから、自然と基準がシュン君になっちゃうんだよね」
フィノは僕を見ながらそう言った。頬がほんのりと赤くなっている。僕も赤くなるのを感じたけど、隣でアルがジト目で見てきているのに気が付いて、頬を掻いて誤魔化しておく。
それでも誤魔化しきれず、アルが何かを言う前に話を進める。
「僕から見てもフィノは相当な実力者だよ。アルじゃないけど、もっと自信を持って」
「おい、シュン。それはないんじゃないのか? さすがに傷付くぞ」
「ははは、ごめんごめん。アルも自身を持った方がいいよ? 魔法は感情にも作用するからね」
僕は恨めしそうに下から見上げているアルに苦笑して軽く助言を与えることにした。
「そうなのか? そんなこと聞いたことがねえぞ」
「そうね、私も初耳だわ。シュン君、どういうことなの?」
やっぱり一般的には知られていないことなんだな。魔法は精神力を使うのだから感情が関わってきていてもおかしくないというのにね。
「そうだねー……あまり知られていないことだから信じるかどうかは別になるんだけど、勉強は覚える気がある方が覚えるよね?」
暗記なんかもそうだ。覚えようという意志があれば、強いほど人というのはそのことを覚えやすくなるし、記憶に留めておこうとする。そういった意志がない火とは覚えようとしないのだ。
もっと言えば、衝撃的なことは覚えやすいし、自身に関係しているものほど覚えやすく、どうでもいいことほど忘れやすい。
「そうね。いつもは覚えられないことでも、必要にかられたら覚えちゃったものね」
「そうそう、シャルの勉強嫌いには困ったものだ。いつもは五分も経たずに寝るのに、家を出た一か月は一時間も粘っていたんだからな」
「し、失礼ね! そういうアルだって良く寝てるじゃないの!」
「馬鹿言うな。俺はノルマをクリアした後に寝てるんだ。シャルが寝ている間に俺は勉強してるんだぞ? それなのに、シャルが終わっていないから俺は遊べなくて付き添ってるんじゃないか。まあ、隣で寝るのは悪いと思ってるが、それでもほとんど起きてるぞ」
僕が言ったことを感慨深そうに大きく頷いているシャルにアルが茶々を入れると顔を真っ赤にさせて言い返したが、逆にアルが平然とシャルに辛辣なダメ出しをした。それを聞いたシャルは何か言い返そうとして言い返せず、隣にいるフィノに慰められながらとぼとぼと付いて来ていた。
シャルは勉強が出来るようなタイプに見えるけど実際は出来ないようだ。逆に粗暴そうに見えていたアルはしっかり者で勉強ができるみたいだね。人は見かけによらないということだ。
僕が二人を感慨深く見ているとフィノの慰めている声が聞こえてくる。そして辺りで聞いていた通行人から笑い声が聞こえた。
「折角第一印象を良く決めたっていうのに、これじゃあ意味がないじゃない。逆に大暴落じゃない? フィノちゃんは私のことどう思ってるのよ」
「私? 私は勉強できなくてもいいと思っているよ? 勉強は出来る出来ないじゃなくて、するしないの問題だし、切欠があれば覚えられるのならいいじゃない。私も勉強はそこまで好きじゃないから同じだよ」
「フィノちゃんは優しいのね。これから私達は親友よ。親友! なんていい響きなの。いいわよね、フィノちゃん!」
「うん、親友になろう、シャル。私の初めての親友だから仲良くしようね」
「私も初めてなの! 奇遇ね。これからは一緒に遊んで、切磋琢磨して、冒険しましょう」
二人は互いに握手をしていい笑顔になると、手を繋いだままニコニコと僕達の後ろを歩いている。
「なあ、シュン。本当にフィノは勉強できないのか? 俺が見た感じ、出来ないようには見えないんだが……」
「よくわかったね。相当できると思うよ。試験がどの程度なのか知らないけど上位には入ると思うね」
「マジか……。これは黙っていたほうがいいのか、伝えた方がいいのか迷うな。いい雰囲気を醸し出しているのに、その雰囲気をぶち壊す勇気は俺にはない」
「僕にもないね。フィノも勉強が出来ないって嘘を付いているわけじゃないから、何とも言えない気分だよ。まあ、試験の結果が出ればわかることだからその時に考えようか。悪い方に転がったらこちらでフォローしよう」
「そ、そうだな。はぁー、シャルは何て不幸なんだ」
アルはシャルがこの先どうなるのか不安に思い天を仰いで両目を隠すと、最後にそう呟いて軽く嘆いた。
僕は苦笑するしかなく、フィノが本気で言っているように感じるからあとで注意しておこうと決めた。
それから少しして馬車と馬を預けられる宿屋を探し出したから、一旦別れて部屋に荷物を置くことにした。
宿の値段は少し高めだったけど、入学試験前だというのに部屋がまだ空いていたからよかっただろう。まあ、この大雪も関係しているだろうけどね。
荷物を部屋に置いた僕達はこれからの四日間をどうするのか決めるために軽く話し合う。
「シュン君、この四日間はどうするつもりなの? 勉強? それとも魔法の練習?」
「うーん、勉強はもういいだろうから前日の昼間に復習をしておこう。魔法も実技試験に支障がない程度に軽く体を動かす程度でいいよ。試験内容は明後日張り出されるんだよね?」
「そうだよ。不正が起きないように試験直前に知らされることになってる。大体出てくるところは決まってるから確認程度に見るっていう感じになると思うよ。実技試験も同じだと思う」
「じゃあ、明日はゆっくり観光しようか。明後日からは試験内容次第っていうところだね。ツェルとフォロンは好きにしていいよ」
「わかりました。では交替でお供させてもらいます。フォロンもいいですね?」
「ええ、お供させてください」
僕達は数分話し合った後一階へ戻り、先に戻っていたアル達と合流した。
アル達の後ろにはヴァシリールさんが待機し、その隣には軽装の革鎧を着たエルフらしき女性が立っていた。
「待ってたぜ、シュン。早速で悪いんだが、お願いを聞いてくれないか?」
「うん? それはいいけど……こちらの女性は誰? もしかして、馬車に乗っていたもう一人の人?」
僕はアルの後ろで僕を見ているエルフを見ながらそう言った。
エルフの女性は流れる様な薄緑色の長髪を右肩へ束ね、無表情だけどエルフの特徴である綺麗な顔に少しきつめな目と小振りな口が付いている。
「わかってたのか。まあ、いいや。このエルフはレーレシアン・シュリーリ。ヴァシリールと一緒で俺達の……魔法の師匠兼護衛だな」
「女性を指さして『この』という紹介があるか! 馬鹿者が。すまない、紹介に預かったレーレシアン・シュリーリという。レシアと呼んでくれ」
「い、いてててッ! 痛いって! もう言わないから許して! お願い!」
レシアさんはアルの傍まで近寄ると、アルの耳を上へ抓り上げたまま僕に手を差し出してきた。
身長差があるから相当痛そうに見える。
「僕はシュンと言います。レシアさん、よろしくお願いしますね」
「こいつから聞いた。レシアでいい。それから気軽に話してくれ。肩が凝ってしまう。それで、そちらのお嬢さんはフィノでいいのだろう?」
僕とレシアが手を握ったあと、レシアが僕の後ろにいたフィノに声をかけた。
フィノはシャルとの話を中断させてレシアに挨拶をする。
「うん、フィノで合ってるよ。これからよろしく」
「ああ、よろしくな。シャルが迷惑をかけるだろうが根気良く付き合ってやってくれ」
「レシア! 何てことを言うのよ! それこそ失礼なことよ!」
「ふふふ、任せて。何てったって親友なのだから」
その後少し談笑し、夕食が出来上がったとのことでアルのお願いはその時に聞くこととなった。
「で、アル、お願いって何?」
僕は夕食を食べ終わって最後に飲み物を口にしながらそう切り出した。
アル達も食べ終えてお腹を擦っている。
フィノはいつもと違って控えめに食べ、上品に完食させていた。
久しぶりに王族っていう感じの食べ方だった気がする。いつもなら両手に何か持っているからな。
まあ、それも可愛いから僕としては嬉しいんだけどね。
「ああ、そうだったな。忘れてた」
「あんたねぇ……。これアルが言い出したことでしょうに」
「別にいいじゃねえか。思い出したんだからさ」
「違うでしょうが。シュン君が覚えてたんでしょ。これだからアルは……」
またしても二人の言い合いが始まった。
お互いに嫌い合っているわけじゃないから、僕達はそれを微笑ましい気持ちで見ている。フィノも二人のじゃれ合いを邪魔しないように大人しく笑みを浮かべて見ている。
僕はそろそろ頃合いかと感じ、もう一度聞く。
「そろそろいいかな? それでお願いって何?」
「あ、ああ、お願いっていうのはな、そのー、えっとな……」
「ああもう! アルが言い難いのなら私が行ってあげるわ! シュン君、お願いっていうのは私達に魔法を教えてほしいのよ」
隣で恥かしそうにしているアルを放かってシャルは真剣に言った。
「僕が魔法を教えるの? レシアじゃダメなの? 師匠なんでしょ? 魔法に長けているような感じがするけど……」
僕がそう言うと隣のテーブルでツェル達四人と食べていたレシアが僕の方をちらりと見た。
その目には僕を値定めする様な、実力を測る様な光があった。
戦闘狂でないことを祈ろう……。
「よくわかったな。大きな声では言えないが、レシアはリュシオン公国に十人といないSランク冒険者の一人なんだぜ」
「え!? Sランク冒険者!」
僕の耳に顔を近づけて話すアルに僕は軽く驚いた様な表情と仕草をした。
さすがにSランクと聞いて無反応はおかしいと思ったからだけど。
フィノにも聞こえていたみたいだけど、僕が世界に十人といないSSランク冒険者だと知っているから変化がない。
二人はフィノには聞こえなかったと思ったみたいで先に僕がフィノに教えることにした。もちろん耳打ちだ。
「フィノは僕が基準になっているみたいだけど、世の中でSランクと言ったら相当凄いんだよ? 驚いた表情でもしといた方がいいよ」
「あ、そうだった。ごめんね。……レシアって凄かったのね。でも、そんな人の弟子なのになぜシュン君に魔法を教わろうと思ったの?」
フィノは上手く驚いたような表情と声を出して、すぐに話題の転換を行った。
二人はその流れに流されて、気まずそうに答える。
「そうなんだが、レシアが教わるんならシュンがいいだろうというからなぁ。俺もシュンの魔法を見た後じゃあ納得してしまうんだよな」
「私もよ。それに馬車の中でレシアも見ていたそうだけど、シュン君と同じようなことは出来ないっていうものだから、ね。それにレシアは弓使いで魔法がそれほど得意じゃないっていうのもあるのよ」
「レシアがそこまで言うもんだからさ、シュン、頼むよ。この通り」
「私からも頼むよ。私達に教えてくれない? お礼できるものは何もないのだけど……リュシオン公国に来ることがあれば家に招待するわ」
二人は真剣に僕を拝むようにお願いしてくる。
レシアを見れば素知らぬ顔をしているけど、その口の口角が少しだけ上がっていることから若干楽しそうに思っているのだろう。もしかするとこれも僕の実力を測るためなのかもしれない。
悪い人ではないみたいだけど、なんだか意地が悪い。
「シュン君、別にいいんじゃないの? 魔法の練習をするんだからその時に見てあげればいいと思うけど」
フィノが二人の真剣さを感じ取り、二人を助ける。
教えるのが嫌なわけじゃないからいいんだけど、なんか思い通りに進んでいるようで癪に障る気がする。
「はぁー、まあいいけど」
「「いいの!」」
「う、うん。だ、だけど、僕でいいの? 僕の実力を完全に把握したわけじゃないし、もしかしたら僕が嘘を教えるかもよ? まだ会って一日も経っていないのに」
僕は嬉しそうな顔で詰め寄ってくる二人に引きながらそう言った。
「まあ、そうなんだけどさ、あそこまで魔法が使えるんなら実力は相当だと思うし、レシアに無理だと言わせた魔法の技術を持ってるんだろ? なら、教わって損はないわけだ」
「それに、教わると言っても新しい魔法とかじゃなくて、戦闘訓練や試験に出てくる内容の予行をしたいのよ。お互いに利があると思うのだけど……。シュン君はフィノちゃんの師匠なんでしょ? 嘘付けるとは思わないわ」
二人は一度顔を見合わせて笑顔になると、僕に何をそんなことを、といったようにそう言った。
僕は仕方がないと溜め息をついて二人に了承する。
「まあ、いいよ。僕達にも利があるみたいだから教えてあげるよ。今日は時間がないから無理だとして、明日からでいいよね。場所は……外は大雪で無理だから、冒険者ギルドの訓練場を使わせてもらおう。細かいことは明日の朝、朝食の時間に決めよう」
「ああ、それでいいぜ。試験前にシャル以外の奴と闘えるのならいい経験になりそうだ」
「私もよ。フィノちゃん、明日からよろしくね」
「ええ、私は負けないよ。シュン君の弟子なんだから」
この後すぐに部屋へと戻り、明日に備えて休むこととなった。
「ごめんね、フィノ。明日は観光に行くって言っていたのに、こんなことになって」
僕はベッドに入った後、隣のベッドで寝ているフィノに勝手に決めたことを謝る。
フィノは一瞬キョトンとしたあと、クスリと笑って言う。
「いいんだよ、シュン君。私も試験前に同じ受験生と闘ってみたかったから。自分の実力を測るのに丁度いいと思うよ」
「そう? ならよかった。観光はまた今度一緒に行こう」
「うん、二人で行きたいけど、シャルとアルも一緒に行こうね」
「うん、わかった。おやすみ、フィノ」
「おやすみ、シュン君」
僕は二人で観光に行けないことを少しだけ残念に思いながら、明日に備えて寝ることにした。
まあ、ツェルとフォロンが付いてくるから二人でのデートにはならないんだけどね。
次の日。
僕達はいつもの時間に起きて身支度を整える。
今までと違い、部屋の中が寒く窓やドアの隙間から凍える空気が肌に吹き付け、一気に目を覚まさせる。毛布に包んでいたい気持ちをねじ伏せて朝食を食べに一階へ降りる。
一階に降りるとまだアル達は来ていないようだからゆっくりと朝食を食べ始めることにした。
食べ始めて十分ほど経った頃、アル達が現れた。だけど、髪が跳ねていたり、涎の跡が見えたり、眠気眼だったりと身支度までは完全に整えていないようだ。
「おはよ~」
「おはよう、アル。……大丈夫?」
僕達の隣のテーブルに腰を掛けて眠たそうに突っ伏したアルに声をかけた。
「お~う、だいじょうぶだ~。昨日、ちょっと興奮して寝るのが遅くなっただけだから~」
「そ、そう? 試験も近いから体調管理はしっかりしないとね。今の季節は寒いから風とか引かないように」
「ああ~、気を付ける。シュンは、母ちゃんみたいだな」
甚だ遺憾だけど、まあ自分にも若干思うところがあったからスルーした。
シャルも同じようだけどだらしない仕草を取らないように努めている。
「お! 朝食が来たか! 今日の朝食は……オニオンスープと焼きたてのパン、メインはグラタンか!」
給仕のお姉さんがアル達の元へ朝食を持ってくると文字通りアルとシャルは覚醒した。
瞬く間の間に平らげていく二人の食事風景を見ながら、僕とフィノは残り少なくなった朝食を口へと運ぶ。
「ふぅー、食った、食った。お腹いっぱいだ。もう食べられない」
「おいしかったわ。寒いから余計に暖かいものをおいしく感じたわ」
二人はオニオンスープとパンのお代わりをして満足そうな顔をしている。
「じゃあ、詳しいことを決めようか」
僕が二人の方を向いてそう言うと、二人は待ってました! と言わんばかりに僕の方をキラキラした目で見てきた。
僕とフィノはそれに苦笑して細かいことを決めていく。
「時間は食べた後にすぐ動くっていうのもあれだから、十時頃を目安にしよう。午前中は二人の技量を見せてもらう。もちろん、僕達のも見せるけど訓練場の中でするわけにはいかないから少しだけね」
「……訓練場でできないってどういう意味だよ」
「明日発表の試験内容次第で明日からどういった練習にするか決める。基本的に午前中が基礎練習で、午後から模擬戦とアドバイスをしていく。何かある?」
一通り言い終わったところで二人に確認を取る。
「特にはないな」
「私もよ。基本はシュン君に従うわ」
「わかった。じゃあ、十時ごろに冒険者ギルドに集合ということで」
「「了~解」」
僕達は細かいことを決め終ると時間まで一時間強あるから、軽くギルドのある場所の周りを見ることにした。
十時前になった所で冒険者ギルドへと戻り、アル達がくるのを待つ。
この辺りは季節で出没する魔物の種類が異なり、今の季節は氷系や寒さに耐性のある魔物が多く出没する。だけど、冬眠する魔物も多くいるためそれほど多く出没してくるわけではない。
春は繁殖期となるから魔物の出没数が大幅に上がり、夏と秋は他の国と同じくらいの出没数だと思えばいい。
待っている間に依頼版に貼られた依頼を見てみても街中の依頼が多く、討伐系の依頼が少ないと感じる。通常がどのくらいなのかわからないけど、ガラリアや王都とは半分ほど違う。採取系の依頼は他の所よりも多く、季節ごと採取できる物が変わるため依頼数は変わらないのだろう。
冒険者達も繁殖期の春にお金をたくさん稼ぎ、夏から秋にかけて冬に備えて動くようにしているらしい。
だから、現在活動している冒険者達は備えが十分ではなかった者や冬の依頼が目当ての者、僕達のように他所から来た者等が活動することになる。
また、ガーランの冒険者ギルドの依頼には国が依頼しているものがあるそうだ。それには春の繁殖期を乗り切るための依頼や季節ごとに重宝される薬草などの採取のことだ。個人でも依頼できるけど依頼料が割高になるため、国からも依頼を出して薬草などが切れないようにしているとのこと。
「待たせたな。早く始めようぜ」
依頼版を見ている間にアル達が僕達を見つけて声をかけてきたようだ。
振り返ってみると朝食の時についていた寝癖と涎の跡がなくなっていた。しっかり身支度を整えたようだな。
アルは両手に赤黒い小手を付けている。小手には高そうな魔石がはめてあり、魔武器となっているようだ。感じる魔力からして軽量化と火属性の能力上昇が込められているようだ。
シャルの手には鞭が握られ、腰には杖も付けている。杖は少し高い魔力効率のいいもので、鞭は先端に金属が付いていて殺傷能力のある型のようで、素材はしなやかな蛇皮と植物の芯みたい。
「訓練場も空いているみたいだから早速始めようか。まずは、二人がどれくらいできるのか知りたいから、まずはアルからかかってきてよ。フィノとシャルはツェル達と一緒に離れて見ていて」
「わかった。私達は離れて見ておくね」
フィノはそう言ってツェル達と共に僕から離れていく。
「俺からか? ああ、緊張するな」
「アル、模擬戦なんだからしっかりしなさい。シュン君を倒すつもりで行くのよ。もしかしたら勝てるかもしれないのだから」
「あ、ああ、頑張る。だけどよぉ、シュンに勝つのは無理じゃねえか?」
「ああもう! じれったいわね。最初からそんなに弱気でどうするの! シュン君がどれだけ強いのか分からないのよ? 仮に強くても殺されることはないのだから、自分の力を精一杯出し尽くしなさい! いいわね!」
「お、おう」
少し緊張し動きの硬かったアルにシャルが発破をかけてほぐすと、シャルは離れてフィノの傍でこちらを向く。その顔には先ほどの強気な顔はなく、少し心配しているような顔になっていた。
僕とアルは十メートルほど離れて向かい合って構える。アルは右脚を前にして左手の拳を肩のあたりに構え、右手を水平よりやや高くしている。重心はやや前に来ていることから僕に突っ込んでくるつもりだろう。完全なインファイターということだろう。
対して僕は対極的な構えを取っている。今回使う剣はあの二本ではなく、カモフラージュ用の鋼鉄の剣だ。その剣を右脚を前に剣先を下へだらりと向けた構えだ。いつでも反応できるように全身の力を抜いている。
「開始は……フォロン、開始の合図を頼むよ。ルールは魔法アリ、怪我は打撲程度まで、終了はどちらかが戦闘不能か降参するまでとするね」
「かしこまりました。……では、両者よろしいですね?」
フォロンは数歩僕達の方へ近づくと僕とアルを見ながらそう言った。
「(コクン)」
「おう、いいぞ!」
僕は普通に頷き、アルは気合が入るように大きく答えた。
「それでは模擬戦闘……はじめ」




