王女の気持ち
私は今日一日で今までの人生で味わったことのない騒動と出会い、感情、思い、気持ちを味わいました。
それも何もかも全部、隣で寝ている男の子のせいです。いえ、せいではありませんね。彼のおかげです。
今日一日、いえ、半日ほどで私はいろんなことを知りました。王宮では教えてもらえないこと、誰も知らないこと、城下で有名になっているお店等です。
私は彼に出会えてとてもよかったと思います。
私と彼の出会いは劇的でした。
私が予てから考えていた王宮脱出計画は上手くいきました。
脱出する前日に、私の実のお兄様が着ていた戦闘用の服を勝手に拝借して、動きにくいドレスから動きやすい身なりになれるように準備をしました。その後は陽も昇らないほど朝早く起きて身なりを整え、私愛用の杖を腰に差し、なけなしの貯金を全てポケットに入れると、誰にも見つからないようにこっそりと王宮を出ました。
時折、視線を感じたので、物陰に隠れえてやり過ごしました。
完全に脱出できた時にはすでに陽が目の前の高さまで昇り、慣れない動きと失敗は許されない緊張で私は疲労が溜まっていました。ですが、あと少しで私の願いが叶うと思うと自然に力が湧いてきました。
そのまま二層の貴族層を通り抜けて庶民層へと突入しました。
私はこの何々層というのがあまり好きではありません。なんだか差別をしているようでもどかしくなるのです。ですが、私の力ではどうにもなりません。力のない私がいけないのだと思います。
庶民層へ突入した私は第二区画を目指しました。第一区画と第二区画で迷いましたが、大通りに冒険者や人の多かったので第二区画を選びました。
第二区画の大通りを気を付けて歩いていると何やら人が集まっているお店がありました。ですが、私はそのお店を見るだけにしました。なぜなら、お父様に『人が極端に多い場所や極端に少ない場所には気を付けなさい』『路地裏には絶対に行かないこと』『信用できる人を得たら出来るだけ離れないようにしなさい』と言われていたからです。
これだけを聞くと私のこの行動がばれている気がしますが、そんなことはないと思いたいです。まあ、誰も追手が来ていないということはそういうことなのでしょう。
初めて来た城下町をじっくり鑑賞しながら冒険者ギルドを目指します。物珍しいお店がたくさんあって目移りが激しいです。
食べたことのない初めて見る食べ物やおいしそうな匂いを漂わせるレストラン、ちょっと覗いた商店街にあった食べ物等です。
た、食べ物が多いのは私が大食なわけではないですよ!? 朝食を抜いてしまったのでお腹が空いているだけなのです。
その証拠に冒険者が多くいた武器屋と防具屋、綺麗なネックレス等の装飾品が店先に飾られていた宝石店、魔力を感じるお店魔道具屋、宿屋等を覚えていますから。
お腹が空いて目がぐるぐると回りそうで出店の食べ物を見て手を加えて見ていると(今思えばはしたなかったです)、厳つい店主が私に気が付いて手を招いてきました。私はいけないことをしたから怒られるのだろうな、と思いながら怒られる覚悟をして店主の元へ行きました。ですが、その考えは私の思い過ごしなだけでした。
店主のおじさん、ベックさんという人は見かけによらず優しい方で、おいしそうに見ていた私に焼いていた串焼きを一本タダでくれたのです。
私はすぐには受け取らず、どうしてくれるのか尋ねたら、『坊やがおっちゃんの作った串焼きをおいしそうな目で見ていたからだ。そんな目で見られたらおっちゃん嬉しくて一本奢ってやろうと思っただけだよ』と言ってくれました。私はその言葉に感謝をして有難くその串焼きを貰いました。
私がおいしい串焼きをくれたおじさんに丁寧にお礼を言うと『可愛いね。もう一本おまけだ』と言ってもう一本くれました。私はそのお礼も言うと冒険者ギルドに再び歩み始めました。
これもお父様が『むやみに人の言うことを聞いてはいけません』『知らない人の言うことを聞いてはいけません』と言っていたからです。
私はお父様の言うことをしっかりと守っています。家出、いえ、城出をした私は既にいけない子かもしれませんが……。
大きな噴水のある広場を通り抜けるといよいよ冒険者ギルドのある大通りに到着です。
私は気さくそうな人物を探して冒険者ギルドの場所を聞きました。私が話しかけると何度か顔を赤らめたり、逃げて行く人がいたので悲しかったです。
今の私の服装は男物で、髪を後ろで束ねているからどこからどう見ても男の子のはずなのですが、どうしてでしょうか? 不思議です。
三人の人物に冒険者ギルドの場所を聞いて何とか冒険者ギルドに着くことが出来ました。私は怖い気持ちを押し殺して私の三倍はある大きな扉を開けて中に入りました。
聞いた話では冒険者ギルドの中は魔窟のようなのです。筋肉が山のように盛り上がった男の人やローブを目深く被った陰湿な魔法使い、朗らかな女性に見えるけど戦闘では鬼のようになる戦闘狂等がうようよしていると聞きました。どれも、偽物の英雄さん達に聞いたことです。あまり信用できませんが……。
あの人達の言うことはどれも信用できません。
初めて会った日に『絶対魔法を使えるようにしてあげるから、この俺『幻影の白狐』に任せろ』や『いえ、王女殿下の心の病を解決するのはこの私、本物の大英雄ですわ』と言ってきたのに、全て大嘘でした。私はいくら頑張っても進歩しませんでした。
私も悪いのかもしれませんがあの人達も悪いのです。最悪な人は英雄の名を好き放題にして私がいくらやっても出来ないことに腹を立てて、私に暴言を吐いてきました。
私は、私がいけないのだと思い、偽英雄だと思っても本物だったら国が危うくなる、英雄の言うことだから、と思い唇を噛んで悔しい思いをしながらも我慢しました。
まあ、内心偽英雄のくせに何言ってんだ? と思っていましたが。
だから、聞いた話を半分も信じていませんでした。ですが、想像というのは怖いものです。そうではないと思っていても、実際はそうではないのかと疑ってしまうものなのです。
私は意を決して中に入ると肩透かしを食らいました。中にいたのは大笑いするマッチョな男や派手なローブを着て頭を出した魔法使い、気さくに女性四人で話している優しそうなお姉さん達と聞いた話とは違っていたからです。
やっぱり嘘なんだと思いながら、私は依頼をお願いしようと話しそうな人を選んで近づきました。選んだ人は綺麗な顔をしたエルフの女性で、私はこの人なら信用できると感じたからです。
これで私の問題はあと少しとなると喜んでいると、お姉さんの一言で谷の底、いえ、海深く深海まで突き落とされました。
依頼をお願いするには十五歳以上若しくは親御さんご一緒でと言われたからです。ゴール直前で絶望の底まで叩き付けられた私は、王族あるまじき行動駄々を捏ねてしまったのです。
嫌だと何度も言い、お願いと何度も懇願しましたが結果は変わりませんでした。 次第にお姉さんも申し訳ない感じから困惑した感じに変わり、最後には呆れているような感じになりました。
私はここまで来るのに疲れ果てていたようで、その場にしゃがみ込んでしまいました。
もうだめなのだろうな……と思ったその時です。
私が入ってきたドアの方から一人の子供が入ってきたのです。私はそれをちらりと見るとやっぱり子供だと思いその場でぐずり始めてしまいました。
ですが、男の子は私のことを気にも留めずお姉さんと話し始めました。知り合いだったようです。彼はこの冒険者ギルドで顔を覚えられるぐらい何度も出入りしているのでしょう。
私は彼のことを最初の印象であまり優しそうじゃないなと思っていましたが、彼の言葉でその印象が違うとわかりました。
彼はこの状況の理由を聞いて私に声をかけてくれたのです。それも、優しく。私に優しく声をかけてくれるのは数えられるぐらいしかいません。だから、彼のことが気になりました。
しかも顔を上げた次の瞬間、私の中で何かが芽生えたような、弾けたような感覚が起きました。
彼も同じだったのか少し困惑した様子でした。
彼は私と同じ蔵の身長で私と同じ黒髪を短く切り揃えていました。着ている服は今日よく見た服の上に黒いコートを着てズボンと焦げ茶色のような色のブーツを履いていました。顔はカッコ可愛いと言った感じでしょうか。とにかくキュンとするのです。
その後彼にいろいろ聞かれたので本当のことを言うわけにはいかず、咄嗟に嘘を付いてその場を乗り過ごしました。
私が英雄の話をすると彼の様子がおかしくなり、混乱しているようでした。彼が聞いてきたのは英雄のことだったので、私はこれはまずいと思いまた嘘を付きました。心が痛いです。彼にはなんだか嘘を付きたくないのです。
その後もいろいろなやり取りがありました。私が少し落ち込んだら彼が慌てて可愛かったり、私がキョトンとすると顔をほんのり赤らめたりと、とてもいい人のようでした。
で、彼が確認を取っていると私はまたいらないことを言ってしまいました。仕方ないのでそこは本当のことを言いました。彼が若干引き気味だったので私は相当変な顔をしていたのでしょう。
その後に英雄のことが好きなんだねと聞かれたときは顔から湯気が出るほどカッとなりました。いつもはこんなことないのに、彼に言われるとこうなってしまいました。彼がいけないのです。彼の一言一言は私を乱します。
その後彼は何かを誤魔化しながら話題を変えました。
彼に、このままでは依頼を頼めないよ、と言われたので無性に悲しくなって黙り込んでしまいました。私がそうしていると彼が何やら呟いたので、私がもう一度言ってと言おうとしましたが、彼はなんと自分が私の依頼を受けると言ってきたのです。ところでなんでそんなに親しいのでしょう? アイネさんとは誰でしょうか? 無性に腹が立ちます。
私としては彼に指導をして……いえ、なんでもありません。彼の実力が分からないのでどうしたらいいか、迷っていると隣の方から綺麗な女性の声が聞こえてきました。それは彼が勝手にすると言った時です。
その女性がアイネさんという人みたいで、どうやらこのギルドのギルドマスターみたいでした。彼はそんな人と気さくに話せる人物のようでした。
その後は私のことを置き去りにして勝手に話が進んでいきました。依頼を受けるには彼が罰則を受けるようです。私はそこまでしなくても思っていましたが、心の中では誰かを犠牲にと思っていました。なのに彼はお気楽なんです。
そんな私達を見ていた冒険者達が、途中から茶化してきました。ここで、あの人達が言っていたことは本当だったんだとわかりました。疑ってすいませんでした。
しかも、その冒険者達を彼が挑発をして決闘をすることになってしまいました。彼の纏う魔力が変わったのに気が付き悲鳴を上げてしまいましたが、彼は私のことを見ると同情の目を向けてきました。恐らく、私がこの冒険者達が言った言葉に傷ついたのだろうとでも思ったのでしょう。間違ってはいませんが。
そこから彼はニヤリと黒い笑みを浮かべると、皿に冒険者達に挑発してしまったのです。私は悲鳴にならない悲鳴を上げました。恐怖でいっぱいです。
聞いた話では普段の彼の行動にしてはおかしすぎるということだったので、その理由を聞くと私は顔が赤くなるのが分かりました。だって彼は『私のため』だと言ってくれたからです。
ですが、すぐに我に返り彼にやめた方がいいと忠告しました。が、彼にランクを聞いて飛び上がるほど驚きました。彼のランクはAランクだったのです。
ギルドカードを見せてもらった時に大声で叫んでしまったのですが、彼が私の口を塞ぐことで難を逃れました。ですが、もっとほかのやり方があるでしょうに。
ふぁ、ファーストキスはあなたの手のひらになるところだったんですよ。口の方がいいですよ。あ、あなたなら許し……あー、何を考えているのでしょうか、私は。
Aランクだと分かっても彼が子供であることは変わりありません。私は彼の身を案じてハラハラドキドキしていました。
彼の決闘の理由を聞けば、私を心配したとか、信用できそうですとか、自分も怒っているとか言われたので頬が熱くなるのが分かりました。これはもう恋の始まりですね。はい。
私は私にできるだけ忠実になりたいと思います。それに、これは憧れの恋愛結婚に……と思いましたが身分の差があり過ぎました。せめて彼がSランクならばどうにかなったかもしれませんが、ない物ねだりをするわけにはいきません。
魔法のことで思い悩んでいるとそのことを見透かされ、アドバイスを貰いました。初めての経験でした。私に優しく身を案じてアドバイスをしてくれる、気安く話してくれるのは。それに誰も知りえないことならなおさらです。
その後の決闘では私は夢を見ているのではないかと何度も思いました。ですが、それは現実で今もなお脳裏に焼き付いています。
素人の私でもわかる荒ぶる闘志を剥き出しにした冒険者に対して、彼は波立たぬ水面のように佇んでいました。彼から感じる魔力はそこらにいる人とは違い、遥か底まで澄み渡る澱みの一切ない綺麗な水のようでした。
それを見た私は目が飛び出るほど驚き、初めて感じる魔力に魅了されてしまいました。というより、すでに彼という存在に魅了されているかもしれません。
その後からです。一気に彼の雰囲気が変わったのは。彼が内包している魔力を少しだけ煉り込むと一気に精錬され煉り込まれてしまいました。私は意味が分かりませんでした。これだけは自信のあった魔力感知を疑ってしまったほどです。
開始と同時に走り込んできた冒険者達に向けていつの間にか展開した水の弾丸で吹き飛ばし、聞いたことのない詠唱を呟くと炎が竜の形となり冒険者を襲います。
逃げ惑う冒険者を軽く追撃するドラゴンを消すと次の瞬間、冒険者と彼は空に浮き上がってしまいました。表情を見ればどちらの魔法か一目瞭然です。なぜなら恐怖と困惑、歓喜と忍耐、破壊と創造の表情を浮かべた冒険者と余裕の笑みを浮かべて笑っている彼なのですから。
少しの間空の旅をしていると彼は急に魔法を消してしまったのです。私はなんてことを! と思い彼を責めよう思ってしまいましたが、誰も墜落することなく地面に降り立ったのです。その仕業も彼の魔法です。冒険者の下から吹き付けた風が冒険者の堕ちる速度を急激に弱めたのです。
一体彼はどこまでの技量があるのでしょう?
全くわかりません。ですが、私はそれを怖いとは思いません。なぜなら、その魔法が私に向かないとなんとなくわかっているからです。なぜなんでしょうか?
一人の剣士が仲間に怒声を響き渡らせると、彼の実力に恐怖して落ち込んでいた冒険者達の息が吹き返りました。彼はそれを見ると悲観するのではなくまだやるのか、という表情をしていました。私もそう思います。
彼はまた黒い笑みを浮かべました。それを見た私は、次は何が見れるのだろうと内心ワクワクしていました。彼の魔法は吃驚箱なのです。
次に放たれた魔法を目にすると私以外の人も固まってしまいました。彼が使った魔法は誰にもできない魔法だったからです。土に命を吹き込むなんて。しかもその姿が私の知っている騎士団の団長だったのですから。
私が思わず団長の愛称を呟いてしまったのですが、彼に聞かれてしまいました。私を横目でちらりと見ると何事もなかったかのように土の騎士団に命令を下しました。まあ、あの方を知っている国民はたくさんいるでしょうから不思議に思わなかったのでしょう。名前は聞こえなかったのでしょうね。
土の騎士団は向かって来る冒険者達と相対し押していきます。ですが、地力のある冒険者が土の兵に勝つことで徐々に力の差が出始め、残すは剣士と相対しているレオの土団長のみとなりました。
団長は幾分か強いみたいで剣士を押していました。その剣技は団長の剣技に似ています。彼はどこで見たのでしょうか? 団長が勝てそうだと思ったその時、剣士が仲間の魔法使いに援護を頼みました。ああ、魔法使い、とても羨ましいです。援護を受ける前に不意の一撃が団長に決まってしまい、両腕を切り落とされてしまいました。その後魔法使いの魔法があたり団長が負けたのです。
私は知り合いであり心のよりどころの一人であった団長が負けてしまったことが悲しかったです。偽物だから仕方がないですが、もう少し強くてもいいのではないのかと思います。そう思い彼を見るとその考えが間違いだったことが分かりました。
私は魔力が足りなかった、ここまでの技量しかないと思っていたのです。それでもすごいですよ。すごいで終わらせてはいけない気もしますが。彼の魔力は先ほどから変わっておらず、減っている気配もありません。顔に張り付いている笑顔は王者の風格です。
次に使ってくれた属性は私に決闘が始まる前に告げた闇属性でした。闇に対する嫌悪意識が薄まったとしても王宮には嫌悪する人がたくさんいます。身分が高い人ほどその傾向が強いのです。私はそのせいで義母等から嫌味を言われ、肩身の狭い思いをしてきました。私の問題はこれも含まれています。
嫌悪を表す闇属性ですが、彼はかっこいいと言ってくれました。彼が使った魔法は『影縫い』です。『影縛り』とも言います。瞬く間に縛られた冒険者達は何が起きたのか分かっていません。私、外野の人もわかっていませんが、魔法だと言うことは分かっています。よく見えますから。
それよりも、一体彼は何属性持っているのでしょうか? 見たものでも火、水、風、地と闇の五属性ですよ。多すぎます。
縛られた冒険者の一人が光魔法で消し去ろうとしました。良い判断だと思います。
が、その冒険者は魔法を放つ前に気絶してしまいました。何が起きたのでしょうか。外野から見えたのは手のようなもので、一瞬しか見えませんでした。彼が何かをしたというのは分かりますが、この場にいる人、彼を除いた全ての人が分かっていません。
そう思っている間に四人の冒険者が沈められてしまいました。そこでやっとわかりました。彼は『影移動』を使っていたのです。
魔法が使えない闇属性持ちですが、勉強はしっかりしているので闇属性に何の魔法があるか、効果・性質はどういうのか等は理解しているつもりでしたが、彼の魔法は悉く私の常識を崩してくれます。そこに私は惹かれていくのですが……。
剣士が火で消せと言い、私もその案があったかと思い彼の魔法が消されてしまうと思い焦った気持ちで彼を見ましたが、彼は魔力を今まで以上に私が感知できるぐらい煉り込んでいました。
これは少しの間しか彼のことを見ていない私でも異常だと理解できます。少しの間であの規模の魔法が放てる彼が、これほどまでに魔力を煉るということは今まで以上の規模と演出の魔法なのでしょう。ワクワクする期待感とハラハラする緊迫感が私の心臓を刺激します。
彼が煉り込むのをやめるとすぐに魔法が放たれました。彼が放った魔法は私には理解できません。知りもしない魔法だったからです。又もやオリジナル魔法と詠唱です。
その魔法を一言で言うと『神秘』の一言でしょう。
突然訪れた暗闇。これは闇属性特有ですね。訪れたと思えば、星々が輝き、その輝きが増すと彼の手の動きに合わせて星が集まり出したのです。それはまるで星々の王のようです。
一つにまとまった星々は空高く舞い上がり、一斉に冒険者へと振り注ぎました。逃げ惑う冒険者達ですが何かに阻まれ逃げられず、敢無く星々、彼は流星群と言いましたか。それが当たりました。
そのまま音が消えると闇も明るさを取り戻しました。そこで見たのは地面に死体のように転がる冒険者、死屍累々といった感じです。その反対側には決闘開始前と同じように佇んでいる彼の姿が。
私はその姿を見て胸が締め付けられそうなほどキュンキュンでした。彼の姿は巷で言う白馬に乗った王子様だったからです。先ほどの星を操る姿が王子です。白馬は竜でしょうか。彼ならそのぐらいやってくれそうです。
アイネさんの勝利宣言に湧く外野達を尻目に、私は彼の顔をぽーっと見ていました。彼が近づいて来て何か言ってことは理解したのですが、意味を理解できませんでした。そのせいで彼に要らない勘違いをさせてしまい悲しませてしまいました。これは完全に私の落ち度です。
私が怯えた、恐怖を感じたと思ったのでしょう。彼の顔は今にも壊れて消えてしまいそうなほど儚い悲しみに満ちた笑顔でした。私に気を使ってくれているのでしょう。自分の気持ちを押し殺して……。私はそんなことしてほしくありません! 何で勝手に私の気持ちを決めるのですか! という気持ちを込めて彼の考えを否定しました。
彼はそれを聞いてとても安堵していました。私もとても安堵しました。
その後彼は僕がギルドを除名になっても気にすることはない、僕が絶対に魔法を使えるようにしてあげると言ってくれました。こんな危険を冒してまで私のために尽くしてくれる人はお父様達以外では初めてのことです。
そのおかげで彼に対する気持ちが急上昇中です。
その後もフリーズして一向に動かない私の身を案じてくれました。果てには自分の身を心配して、自分のことを気にしている場合ではないと言ってくれました。その言葉は深く突き刺さり絡み合って私の心の中に残りました。
その後アイネさんに連れられ私は彼の名前を初めて知りました。彼の名前はシュンと言います。とてもいい響きの名前です。あまり聞かない名前ですが、私の心の中にストンと入ってきました。
私は本当のことが言えず自分の名前をもじりました。
その後依頼内容について話し合ったのですが、お金が足りないと言うのが分かった時はとても焦りました。ですが、シュン君がそれでいいと言ってくれたので特例としてよくなりました。
彼はいったい何者なのでしょうか? 一国の王ですら無理な注文を言うことのできない冒険者ギルドの長と普通に話して接し、注文を付けることもできるのだから。気になって仕方がありません。
ですが、私もいろいろと隠しているのですから無理に聞くことはしません。しっかりと分を弁えています。王族だからと言ってわがままは許されません。というのが私の持論ですから。
依頼内容が私の想像していたものよりも過酷で彼に迷惑をかけてしまうようになりました。彼はそんなことを気にしません。自分なら絶対に私に魔法を覚えさせられると思っているのでしょう。私もそう思っています。先ほどの光景もありますが、ピンッと何かが来ているのです。
そして、彼とアイネさんが話し合っている間に私はあることを思い出しました。それは、私のお腹から講義をあげるものです。しかも彼がこれからどうするか聞いてきたところにです。タイミングが良すぎるでしょうが、私のお腹の虫よ……。
彼はその音を聞くと私の方を向きました。私は音が鳴ったことと彼に笑われると思い顔を赤くしてしまいましたが、彼は変わらぬ表情で私に昼食を食べたのかと聞いてくれました。私はその恥かしさを残していたため、口がきけず行動で示しましたが彼は上手く受け取ってくれました。以心伝心です。
しかもそのお店は彼が働いていた? お店のようです。私、とても気になります。彼の全てが。
べ、別にストーカーじゃないし……。
それを聞いて一瞬いいなと思いましたが、自分がお金を持っていないことに気が付きやめることにしました。なのに彼は「僕が奢ってあげる」「お腹空いてるんでしょ?」と言って私に奢る気満々でした。
私が恐縮している間に二人の会話は佳境を迎えていきます。何やら彼は私の依頼とは違う依頼を受けているようです。一体何の依頼なのでしょうと思い聞いていると、きな臭い話になってきました。
彼はその依頼の最中かはわかりませんが空の魔石を百個以上手に入れたようです。大きさは分かりませんが小さいものでも十万ガルはしますよ。五つあれば大きな家が買えます。
その後話が終わり客室を出ると彼に向ける不躾な視線がたくさんありました。私は女性に目を光らせると案の定、彼のことを狙っている目がたくさん見つかりました。私は彼を渡さないと思い彼の傍に今まで以上にくっつきました。今思っても大胆な行動だったと思います。
その後彼に手を握られた状態でレストランに行きました。
そこは白塗りの大きなレストランでわたし好みの外見をしていました。って、この店は私が大通りを通った時に人であふれていたお店じゃないですか!お店のマークは鳥の絵が描かれていて目を引きます。
彼にエスコートされるように手を引かれた私はお店の中に入って行きます。中はゆったりとしていて隅々まで綺麗でカップルが複数人いました。あとから聞いたのですが、このお店の装飾を手掛けたのは彼だったのです。
彼はどこまでその小さい身に秘めているのでしょうか。私は彼を絶対に仕留めようと心の中で強く強く誓いました。彼も何度か私のことを女の子として見てくれているので上手くいきそうだとほくそ笑んでいましたが、彼に性別を聞かれて咄嗟に男だと答えてしまいました。
これは仕方ないんです。自分の格好は男物で髪を男の子のようにくくり、男の子のような口調で話しているつもりですから。これは意外ときついんですよ? 彼にはばれているような気もしないこともありませんが……。
お店のやり方は斬新で上級階級の貴族が好むレストランよりも上品な雰囲気を漂わせています。恐らくあの植物とクリスタルの明かりでしょうか? が引き立てているのだと思います。
料理のメニュー表を見ると聞いたことのないものばかりが載っていました。私は絵と説明を見ながら何とか理解しようとしましたが詳しくは分からず、彼に何度も質問してしまいました。
私はどれもおいしそうだったので彼にどれがいいか聞くと、おむらいすなる物がこのお店では人気だと教えてもらいました。特に説明文の『あっさりとした食材を使用し、脂っこいものをできるだけ減らして作りました。女性向けとなっています』、というのがいいです。
オーダーを聞きに来たのは私より頭一つ分背の高いネネさん、と呼ばれる女の子でした。彼に聞いたところこれでも成人しているとのこと。城下にはいろんな人がいるのですね。
その後も彼はこのお店のルールを細かく説明してくれました。彼はこのお店のオーナーみたいです。詳しく話してくれないので良くは分かりませんが。
おむらいすはふんわりトロトロの卵の中にパラパラの穀物が野菜多めで入っていて、食べやすかったです。飲み合わせのフルーツジュースは手作りのようでしたが貴族が飲む物よりもすごいです。そこへ料理人兼支配人、所謂オーナーが現れました。
オーナーは彼ではありませんでしたが、こんなすごい料理や画期的システムを考えたのが彼だと言うので尊敬の目で見ると、彼は後ろ頭を掻いて謙遜していました。それにこの時初めて彼の魔法の神髄、すごさを知ったのです。
そして、彼から食べている間にいくつかの質問をされました。魔法が使える者ならだれでも知っている魔力や魔法の知識を聞かれました。私はこれでも王族なのでいろんなことを教え込まれています。だから、自慢するように彼に披露しました。彼に驚いてほしかったのですが、彼は何の反応も示しませんでした。
私はあれ? と思いながら、まあ、シュン君ぐらいの使い手なら知っていても当たり前か、と思い直しました。
次に聞かれたのが私の現状、もとい問題点の理由でした。それを聞かれた私は、至福の時が一気に粉々に崩れていく音が聞こえてきました。
過去の出来事、義母達からの虐め、自分の無力さ等を思い出してしまったのです。
魔法の使えない理由なんてわからない、魔力が膨大にあるのに使えない、逆に怖がる始末。理由が分かれば苦労なんてしませんし、こんなところに来ていません。
私は悲しい気持ちが吹き上がり泣いてしまいました。私は少し怒っていましたが、彼が自分がしてしまったことに罪悪感を感じたみたいで、顔色が青くなるほど私のことを気にかけてくれました。
ですが、次の彼のセリフを聞いた私は我が耳を疑いました。彼は何と、私が魔法を使えない原因が分かった、と言ったのです。筆頭宮廷魔法使いでも匙を投げたほどだったのに、彼はそれをいともたやすく解決してしまったのです。
まだ、確証が得られていないみたいなので、原因を言ってもらえませんでしたが、私はその情報だけでも狂喜乱舞ものですよ。早く帰ってお父様に伝えたい! と思いましたが今帰るわけにはいきません。今帰ると彼に迷惑をかけてしまうからです。
なら、いっそうのこと完璧な魔法を使えるようになってからお父様やお母様にご報告しようと思いつきました。彼ならそこまでやってくれるはずですから。あの綺麗な星の魔法を使ってみたいです。
泣いていたのを忘れて拭き忘れた涙が零れそうになった所を彼が人差し指を擦って拭き取ってくれました。私はカッとなってその指を掴み取り、自分で拭き取りました。
彼はなんてことをしたのか理解しているのでしょうか? あ、でも私が自分を男だと言ったのがそもそもの原因ですね。はい。
私の訓練内容は講義からということになりました。
どうしてなのでしょうか? 私の説明に不備でもありましたか? と思いながら、彼の講義を初めようとすること一分。私の常識が脆く崩れ去りました。
講義前にどこからか取り出した……って収納袋! そんなものを持っているのですか! しかもこの紙は真っ白じゃないですか! こんな紙は見たことがありません。
慌てて彼にこの紙は何かと聞くと自分が作ったと答えたのです。紙の作り方を知っているのは一部の職人だけで秘匿されています。それほど高級品なのですが、この紙は簡単に魔法で作れると言っていました。
ならば、売ればいいのでは? と聞いたところ、お金に困っていないと返されました。まさかのその答えです。一体どのくらい持っているのでしょうか? 私が思う金額は王金貨ぐらいでしょうか。私はそのぐらいあれば一年間は遊んで、いえ、遊び放題で生きていけます。
また、作るのは簡単らしいのですが、作るのに炎の竜を作り出せる技量と時間がいるそうです。なら普通の人には無理ですね。
そして講義始まりました。講義が始まって一分常識を立て直した壁が粉々のサラサラの修復不可能なまでに崩れ去りました。
何と魔力にも種類があったのです。しかも属性までもが……。そんなこと誰も教えてくれませんでした。
ですが、その理由が異端だと言われるのなら理解できます。人は理解できないことを異端だと決め、邪心の教えだ、神の教えに背くものだ、忌み子だ等と言いふらします。理解できないそのポンコツ頭がいけないのでしょうに……。私はそんなことをしません。理解できないのなら、なぜ知っている人は理解できているの? と思えば、そう考えることが間違っていると思えるでしょう?
魔力には純度と質があり、それは魔力制御や操作をよくてくれるものなのだそうです。私は半信半疑で聞いていました。
ですが、彼の説明を聞いて彼がはっきりとあっていることが分かりました。
綺麗な絵の魔法発動のイメージ画像。彼は絵も上手だったのです。私が彼に勝てる所なんてあったでしょうか……。
彼が言うにはイメージがより鮮明且つ理論立てられているほどその威力が上がり、消費魔力が下がるそうなのです。
絵に描かれていたのは火魔法のイメージで、私が想像するようなただ単に火が出来るだけのものと彼が想像しているという火が着けられるまでの成り立ち。
彼は私に質問をしながら、実験もしてくれました。あたっていると自分のように喜んでくれる彼を見ていると、私は意欲を持って取り組むことが出来ました。
火の実験はとてもすごいものでした。当たり前のことで誰も知らないことだったのです。考えもしないことを考えるのは途轍ものなく凄いことなのです。私には意味が分かりません。
火を着けるには燃えるものと空気サンソなるものと火種がいるそうなのです。実験でそれを証明されたときは崩れ去った常識があった場所から、新しい芽が生えてきました。そのぐらい新鮮だったのです。
その後のくだらない私の質問にも懇切丁寧にわかりやすく答えてくれる彼は、私にとってとても大切な存在となっています。それ以上に私は既に恋をしてますがね。
これがイメージによる純度らしいです。他にも魔力感知で理解できる気持ちによる純度があるらしいのです。
純度は気持ちが澄み渡っているほど、安定しているほど高まるそうです。聞いたところこちらの方が主に大切なようですね。
悪人は何度も感じたことのある気持ち悪い魔力なのです。ですが、悪人の魔法は悪意が籠っているため純度が精錬されるそうなのです。だから、暗殺者は強いのですね。
その時私の内心に抱え込んでいた気持ちを見透かされてしまいました。というより知っていたみたいです。一体どこで知ったのでしょうか? 訓練場でしょうか。
次に質についてです。
その説明をするために彼はまた新しい魔法を見せてくれました。両手から器用に同時発動された魔法は彼の手のひらの上で止まっていました。その魔力の塊を魔力感知で調べると、その存在の違いが一目瞭然となりました。
普通の反応を示す魔力の塊に対してもう一つの魔力の塊はどこまでも澄み渡り、そこにある物と認知できそうなぐらい清らかに佇んでいたのです。
それを告げると彼はこの球の説明をしてくれました。綺麗ですごい魔力の塊は同じ魔力量だったのです。私は凄い魔力が込められていると思っていたのに裏切られました。
質は純度以上に凄いもので、魔力制御や操作だけでなく、消費量、威力が悉く上がるそうなのです。その修業はただ単に精神を統一させるだけだと言うのです。彼に言わせればそれが難しいらしいのです。
私もよく考えてみれ雑念を無くすなんてなかなかできません。
彼は魔力について話し終えると時計をちらりと見て私にデザートを食べるかと聞いてきました。私は甘いものに目がないので首が取れるほどの勢いで縦に振りました。
やはり私は食い気なのでしょうか。太るまでは食べないのですがね。
そう言うと彼は服を着替えながら、厨房の方へ向かって行きました。それからかすかに聞こえるやり取りを聞いていると彼が誰かに料理を教えているようでした。その料理は氷魔法を使っているみたいなのです。残念ですが私には出来ませんね。
しばらくすると服を脱ぎ、両手に銀色の器を持った彼が帰ってきました。
私の前に置かれた器の中には黄色味を帯びた丸い個体が二つほど入っていました。彼に言われるままスプーンでその物体を掬って食べてみると、私は覚醒しました。
私は興奮して口調が元に戻ってしまいました。それ以上に彼に迫ったことが恥かしいですが。
冷たくて甘いこの食べ物はあいすくりーむというものらしいです。彼は本当に何でも知っています。絶対に仕留めますよ。待っていなさい、シュン君。
恥ずかしくてそんなこと出来ませんが……。せめて私が女の子であることは打ち明けたいですね。
少し彼に脅されてしまいましたが、とても至福なひと時でした。
アイスクリームを食べ終わる頃には陽が半分も暮れていました。この時間になるとみんな家に帰ってくそうです。だから、彼に家に帰る? と聞かれたときは大いに取り乱してしまいました。
だって、彼と離れたくないし、帰ったらまた虐められるし、肩身の狭い思いをしないといけないから……。お父様達にも迷惑をかけてしまう……。
私が駄々を捏ねると彼は困ってように溜め息を吐きましたが、私に自分を同じ宿屋に泊るかと言ってくれました。私はうれしくなって頷きました。
ですが、宿屋についてみれば宿は空いておらず、野宿になってしまうところですた。それに気を利かせたのが彼です。
彼には感謝してもし尽くせませんが、今回の事だけはどうしたらいいか迷っています。この年で男の子と同じ部屋、しかも同じベッドで寝るだなんて……。
心の準備が出来ないまま彼に手を引かれてやってきました。私が意を決して一緒に寝ようとしたとき、彼はまたしても爆弾を投下してきました。なんとお風呂はないからどうする? です。
私はいろんな事を想像してしまい爆発寸前になりましたが、それを見た彼が言葉足らずだと理解して、私に詳しく魔法でできると言ってくれて私の思い過ごしだとわかりました。
ですが私が悶々している間に彼は嫌な方へと思考が流れたみたいでこの部屋から立ち去ろうとしてしまいました。それを見た私はサーと血の気の引く思いに駆られ、慌てて縋るように彼の手を掴み取りました。大胆でしたね。
私はぽろぽろと大泣きしながら、彼にここにいてほしいと切実に訴えました。だって彼と別れたくないんだもん。ずっと、永遠にいたい。そう思える人にやっと会えたんだもん。
彼は残ってくれました。私が落ち着くまで背中を優しく包み込むように撫でてくれました。とても気持ちが良かったです。時折、彼は私のことを女の子扱いしてくれるので、なんだかうれしいです。あっちのけがあるのでは? と思いましたが、反応を見る限り違いそうで安心しました。
何で知っているかというと王室の一角にある資料室にそんないかがわしい本があったのです。少し読んで顔を真っ赤にしたいい思い出です。誰にもばれていませんよね。黒歴史です。
泣き止んだ私が疲れていることを察した彼は私に寝たらと言ってくれました。早めに引き上げたのもそのせいでしょう。
私は彼に感謝をしながらベッドに横になりました。彼も私の横にいます。とても恥ずかしいですが、眠気が勝っているためそうでもありません。
目が覚めると目の前に彼がいて吃驚変な声を出してしまいました。そして私は自分の部屋と勘違いしてしまいました。彼は怒ることなく私が気付くまでそっとしてくれていました。教えられていたら悶絶していたでしょう。
夕食は彼と同じ料理にしました。彼と同じものにしておけば間違いないと私の直感が言っていますから。
その直感は正解でした。王宮でも食べたことのないものをこの半日で四種類も食べたのですから。おむらいすにフルーツジュース、あいすくりーむ、このハンバーグです。
私は一心不乱にお行儀など考えずに食べました。ここには小うるさい侍女もいませんから。
おいしいことを伝えるとまたしても彼のおかげのようでした。本当に彼は何者なのでしょうか。気になります。すごく気になりますが、私も話していないため考えるのをよしましょう。いずれ教えてくれる気がしますから。
と思ったら彼が少しだけ過去を話してくれました。とてもとても辛い過去です。彼は捨て子だったのです。そこで雷光の魔法使いに合ったそうで、弟子となったみたいなのです。私はなんていう人の弟子となったのでしょうか。
彼はまだ何かを隠しているみたいでしたが、家族達に苛められていたのは本当のことのようです。目に宿っていた光りが一気に消えた気がしますから。私が癒してあげたいと思いました。
私が悲しんでいると彼は私と会えたのだからどうでもいいと告白してくれました。いえ、告白ではないですけど。そのまがい物でもうれしい一言だったのです。
そこからの記憶が薄れているのはご愛嬌なのでしょう。
部屋に戻るとまた失態をしてしまいましたがすぐに思い出してどうにかなりました。混乱して変なことを口走ってしまった時は焦りましたが、初めて彼が焦ったように否定しました。なんだかうれしいですね。
体を魔法によって綺麗にしてくれた彼は着替えを私に貸してくれました。私はそれを彼がトイレに行っている間に着替えどうにかしました。ベッドに二人で横になるのは恥ずかしいどころのものではありませんでしたが、彼の魔法によって精神を統一することが出来たのでありがとうの念しか湧いてきません。
そのあとどのくらいの時間が経ったのか分かりませんが、私はぐっすりと久しぶりに眠ることが出来たのです。