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各地3

 エルファレンで決戦が始まって一時間後。

 丁度キメラが出現し対策が伝われ始めた頃の魔大陸ガレンシアでは――


「魔王様が来るぞ! 総員退避、退避しろ!」


 屈強で頑強で死を恐れない魔族兵が敵に背を向け、魔都バラクブルム方面へ全速力で駆けていた。


 現状を簡単に説明する。


 エルファレンに邪神の集団が出現したと同時に、ガレンシアでも次元の歪みを通り現れていた。

 ダークエルフ族元族長ディルトレイ・シンシルーが感知し、設置された本部からバラクブルムを囲むように布陣するファミリアの兵士達に伝えられた。


 此処へ現れた邪神の集団も他と同じく洗脳状態の捨て駒と魔物の群。

 他と違うのは捨て駒が魔族であり、エルファレンのランク設定より一段階上の強さを持つガレンシアの魔物であること。


 その数一万を超え、二万二届くかどうか。

 対してファミリアは五千にも満たない。


 七割が戦闘特化の魔族で、一割が妖精族等の回復支援特化の魔族、残り二割が半年の間に友好を掴んだ高ランク冒険者の集団。

 シュンの魔道具や大結界、この地に住む魔族の力によって徐々に数を減らしていった。


 それでも無尽蔵に湧いてくる魔物に回復が追いつかなくなる。

 キメラが出現する前に大結界内部へ魔石が投げ入れられ、街中で魔物が暴れる騒動も起きていた。

 防ぎきれなかったのは結界が小さい物まで弾く繊細なものではなく、魔石自体に邪神の力や敵意が無かったのが原因だ。


 どうにか吸血鬼族のスペンサー卿や巨人族のボゴイ達によってすぐさま鎮圧された。

 キメラの出現もディルトレイの感知が有利に運ぶ。

 キメラ自体の強さも他と同じであったために、魔族からしてみると多少の肩すかし感があったと言うべきだろう。

 高速回復こそ厄介だが、吸血鬼族はそれと同じ能力を持ち、巨人族が戦えばコアを簡単に破壊出来た。


 しかし、戦力が徐々に削れ、後のことを考えるとここらで一気に盛り返し、下がり始めた士気を再度上げなければならなかった。

 そこで魔族達を一斉に退避させ、魔王自らが前線に現れることになったのだ。

 洗脳されていた者達の殆どを解除できたのも大きい。


 魔王ポムポムちゃんが暴れたいだとか、面倒だから一気にやっちゃいましょうとか考えていないこともない。


「魔王様、退避終了とのことです」


 眼下に広がる魔物の群を見つめていたポムポムちゃんの下に、退避終了の報告を受けたサテラが声をかける。


「分かりました。では――」


 短い返答よりも、膨大な魔力の渦が答え。


 一斉に邪神の集団は動きを止める。

 それは死神の鎌を首にかけられたかのように錯覚したから。

 少しでも動けば、その時点で命が消える、そう思えてならなかった。


「私は、シュンさんほど慈悲深くありませんよ?」


 ポムポムちゃんは静かに詠唱する。

 くすくすと笑う様子はいつもと変わらないが、今は虫けらを嘲笑っているようにしか見えない。


 魔法の腕ならシュンに軍配が上がるが、未だにシュンよりも膨大な魔力を持つ底知れない歴代最強の魔王ポムポムちゃん。

 その魔力の質も異なり、シュンが燦燦と輝く希望の如き太陽だとすると、ポムポムちゃんは暗い夜に浮かぶ月光に照らされる高嶺の存在といった具合。


 よく見れば魔物達は地面に埋まりつつある。

 それは重力魔法が作用している証拠。

 すでに一つ目の魔法が作用していたのだ。


 そして、もう一つの魔法が今放たれる。


「殺生は好まないのですが、シュンさんとフィノさん、それから魔族達との約束ですからねぇ。まあ、貴方達が私の敵となったのが悪いのですよ。自らの選択を恨んでください。あれ? 魔法が効いていないゴミもいますね」

「魔王様、ここはあのセリフです。二百五十年前までよく使われてました」

「ああ、ここで使うんですね。こほん……『知らなかったのですか? 魔王からは逃げられません』」


 冷酷な笑い声がクスクスっと響き渡った。


 魔力の渦が付き出された小さな手に集束。

 一瞬時が止まる静寂が訪れた。


 ――超広域殲滅魔法『コキュートス』


 そう思った時には本当の静寂が支配していた。

 精神を永久に閉ざされ生命活動が停止する、ポムポムちゃんが使える最強の氷魔法。

 高い氷耐性を持つ魔物も、高速再生を持つキメラも関係なく、無慈悲に時の停止を与える。


 先代魔王に放った魔法でもあり、この魔法があるから魔族はポムポムちゃんを魔王と見なすのだ。


「ふぅー。私が相手をしては訓練になりませんからね。あとはこそこそ動く虫の排除に徹します」


 ポムポムちゃんはじわっと噴き出す汗を拭き取り、全く疲れを感じさせずニコニコ笑う。


「お疲れでしょう。お休みください」

「はい、少し疲れました。シュンさんに連絡も必要ですね」

「そのシュンさんから魔力を回復させる食べ物を貰っております」

「シュンさんの料理! 美味しんですよねぇ。サテラ、早くいきますよ」


 歓声が上がる城の方へ飛んで帰るポムポムちゃん。

 サテラは困ったように息を吐き、冷たい視線を凍った邪神の集団に向け、自らも城へ向かって飛んで帰る。


 一時して風が吹き、その時には邪神の集団は全て砕け散った。




 その頃のシュリアル王国は……


「やはりここが一番戦力が集中しているようだな」

「なんだ、怖気づいたとでも? ヒュドラを倒した英雄のロンジスタさんよ」

「フッ、俺は大英雄の手助けをしたにすぎん」

「その大英雄様がついておるんじゃ。負けるわけにはいかんのぅ」


 王都の四方に存在する四つの街。

 その中でも王都と直線上に位置するガラリア。


 あの時同様に四つの街はそれぞれ攻め入られていた。

 違うとすると、今回の襲撃を予知し入念な準備がされていたこと。

 そして、王都にも侵攻がある点だ。


 しかし、王都にはSSランクが二人、実力だけならSSランク候補と言われたグランドマスター、それに匹敵する猛者も存在する。

 四つの街には元Sランクのギルドマスターと各地から呼び寄せたSランク、半年で技術が進みSランクに該当する実力者が何人といた。


 前回と同じようにはいかないと誰もが考え、勝利を思い描いて戦場で暴れている。


 一際大きな体が目立つ禿げ頭の男――ギルドマスターのロンジスタ。

 隣には久しぶりに集った元パーティーメンバーがいた。

 そして、目の前ではヒュドラよりも一回り大きな巨体の名伏し難い異様なキメラが暴れている。


 力を滾らせ、準備運動をするロンジスタの下へ斥候が戻って来る。


「戻ったか」

「はい、あれはキメラで間違いありません。見た所、SSランクのタイタンの身体が中心のようです。報告通り弱点は際立っているようで、水系統を苦手とするでしょう。また、コアと思しき物が額にあります」


 刻々と大きくなるタイタンキメラに眉を顰めていた面々が怪訝そうな顔になる。

 報告では体の中を移動しているという話だったからだ。


「素体がSSランクの化け物ですから、コアで制御するにも難しかったのではないでしょうか?」

「まあ、弱点が剥き出しならそれに越したことはないのでは? ちと、巨大すぎるとは思うが」


 単眼鏡で覗いてみた所、確かに微かに光る赤いコアが見えた。

 その周囲の肉は盛り上がり、鼓動に合わせて胎動しているようだ。

 周囲の雨雲と物々しさが混じり、更にタイタンキメラの物騒さを増さしていた。


「伝令が入りました!」

「何だ? 手短に頼む」


 そこへ王都の総本部からガラリアの本部から緊急伝令が入る。


「報告した所、他の三つの街でも同様の強力な魔物を素体とするキメラが現れたそうです」

「薄々そうだと思っていた。同じ手口で油断を誘うつもりか……」

「総本部はこのタイミングは何か仕掛けてくると考え周囲を調べさせたそうです。その結果王都に要注意人物として挙がっていた発明家の姿が確認されたとのこと」


 こちらもタイミングよくタイタンキメラが怒りの咆哮を上げる。

 ガラリアの街を視界に治め、破壊するために走り込んできた。


「コアを調べた所発明家と繋がっていることも分かり、何としてもここで食い止めろ、とのことです」

「なるほど。発明家に当たるのは誰だ?」

「アリアリス様とアルカナ様両名とのこと。もし食い止め切れなかった場合シュン様自らが動くと」

「それはいかん! お前達、何としても俺達であの木偶の棒を食い止めるぞ!」


 邪神の存在を知っているロンジスタはシュンを消耗させてはならないと十分分かっている。

 少し大袈裟ではあるが、その様子がそれだけの強敵がまだ控えているのだと理解させられる。


「それともう一つ」

「何だ!」

「コアが剥き出しなのは罠の可能性がある。破壊が爆発に繋がる可能性が十分にあり、身動きを封じる方向で極力コアを傷つけるのを避けよ、とのことです」


 ロンジスタ達はまんまと嵌められるところだったとハッと視線を合わせ頷き合う。

 引退したとはいえ古参の冒険者である彼等でも、タイタンキメラの様な魔物とは数える程度しか相手をしたことが無かった。


 初めて見る魔物の対処法がAだとすると、少し変わった魔物でも同じAを攻撃しようとする。

 冒険者でなくとも切羽詰まっていればそう考えるだろう。

 それが剥き出しになっていれば尚更だ。


 しかし、シュンは報告でのみそれを聞き、元々そういった裏を掻くようなことをしてきたため可能性に思い至ったのだ。

 裏を掻くと言うより突拍子がないであるが。


「それでもシュンを今の段階で戦わせるのは得策ではない! 三つの街にも発破をかけておけ!」

「了解しました!」

「俺達もいくぞ!」

「「「「「おおおおおおおお!」」」」」




 王都ジュダリアの東西南北に位置する街ガラリア、ソドム、カンテ、セリオルそれぞれに新たなキメラが出現したことは直ちに王都へ届けられた。

 それを受けた解析班とシュン達による最悪を前提とする推測が行われ、無暗にコアを破壊しては駄目だと情報が向かったのだ。


 時を同じくして、王都正面から膨大な魔力と邪神の気配を纏った反応が現れる。


「グクク、死ね死ね! 他のキメラと同じにするなよ? 傷付けた瞬間にボカーンだぁ! お前等如き無能共が触れて良い物ではなーい! 屑共は俺の実験の糧となれることを栄光と思うが良い!」


 全体に狂った声が響く。

 遠目に見える巨体が喋ったかのように見え、ファミリ全体に不安が広がる。

 その不安は邪神の集団の力となり、指揮官達が声高らかに鼓舞する。


 シュンの遠隔映像魔道具により視認される。


 その正体はデュラハンキメラの上空に跳んでいる半異形の男、SSランクの一人神の指を持つ発明家に他ならなかった。

 邪神の力を組み込み作り出した最高傑作のキメラを送り出し、シュンのいる王都に突撃してきた。


 それは自らが出なければならないほど追い詰められている証拠でもあった。

 最高傑作だと声高らかにする道具を伴い出てきたのだ。


「私より上がいるものかッ! おってはならんのだッ! 私こそが世界最高の発明家であると証明してくれる!」

『アアアアアアアアアアア!』


 竜種の咆哮を超える雄叫び。


 シルエットは四本腕のケンタウロス。

 されどケンタウロスに非ず。


 下半身は青白い炎を纏った六本足のデュラハンの改造黒馬。

 上半身は腹部に黒金色に光る瞳の獅子を宿し、黒い闇を噴き出す鎧。

 左手にドラゴンの頭部が埋め込まれた巨大な盾と巨大な血濡れの鉈。

 右手に狼の頭部に角を付け、口から鋭い刃が出ている大鎌。

 白と黒の模様で描かれたフルフェイスの頭部は残った右手脇に抱えられている。


 正しくキメラという名に相応しく、絶大な恐怖を撒き散らしている。


「グククククッ、力が湧いてくる! 私の最高傑作よ、今こそお前の力を見せる時だ! その大鎌を持って無能共を裁くのだ!」


 刃渡り二十メートルを超える大鎌が持ち上げられる。

 流石の大結界もその一撃には耐えられないと誰もが悟り、勇気を奮い立たせた者達がどうにかしようと攻撃するもびくともしない。


 馬の身体は傷をすぐに修復し、ダメージなどお構いなしに踏み付け暴れる。

 身体から噴き出る青白い炎や黒い靄を浴びた者は苦しみにもがき、お守りを持ってしても完全に防ぎきれていなかった。


「一度撤退だ! 体勢を立て直せ!」

「それだと間に合わん! 防御陣を敷き防ぐのだ!」

「あんなもの防げるものか! これでおしまい――」

「馬鹿なことを口にするなッ!」


 指示も飛び交い、ファミリアの一部は瓦解寸前まで行く。


 デュラハンキメラの力に反応して雷が落ちる。

 一瞬それが止み、デュラハンキメラの頭部の隙間が怪しく輝いた。

 そして、振われる。


 轟く破壊音。

 割れる破裂音。

 吹き飛ぶ衝撃音。

 吹き荒れる爆音。

 しかし、命は終わらない。


 不思議と輝く幻想的な多重結界によって守られたからだ。


 その衝撃で逸らされた大鎌。

 その隙間を縫って極太の白雷が一人の陰に落ちる。


「奮い立て、ファミリアの勇気ある者達よ! 此処で終われば明るい未来は一生得られない! 後ろにいる愛する者達、守る者達の顔を思い出せ! 『神雷(かみなり)』!」


 落ちた雷は急速に膨れ上がり、巨大な矛を持つ雷の神と化す。

 それを危険視したデュラハンキメラが鉈を振るも雷の身体は傷一つ付けられず、神の力によって具現化した雷の矛が腹部の獅子に向かって投げられる。


 躱そうとしたデュラハンキメラの足が揺らぎ、周囲を謎の空間に包まれた。


「な、なんだこの空間は!?」

「これは捕える結界、お前の棺さ」


 背後から聞こえた声に発明家は振り向きながら飛び下がり、目尻を釣り上げ激昂する。


「き、貴様は!? アルカナアアアアアア!」

「覚えていたのかい? 二番煎じの似非研究者君。ま、まずはこれを食らいたまえ。雷反射結界起動!」


 矛は動いたデュラハンキメラの脇を破壊し、謎の空間――雷属性を反射する特殊な空間にぶつかり吸収される。

 吸収された雷は空間を跳躍して正面から勢いと威力をそのまま、否、全てを増幅させて腹部の獅子へぶち当たる。


 激しいスパークが迸り、そのスパークも全て謎の空間に吸収増幅される。

 その行為が込められた魔力が尽きるまで続く。


「アル、カナッ……!」


 怒りの籠った声は謎の空間から逃げ伸びた発明家から漏れたもの。

 雷以外は素通りさせてしまうのだ。


 発明家と同じく空に浮かぶアルカナ。

 眼鏡を指先で動かし、爆風に白衣を羽搏かせ鼻を鳴らした。


「上手く逃げたか。手先が器用なだけの二番煎じ君」

「二番煎じではないッ! 私の作品を愚弄するな! 嫉妬は見苦しいぞッ、アルカナ!」


 対極な様子を見せる二人。


 眼下では時が止まった戦場が再び動き始めていた。

 デュラハンキメラを警戒するアリアリスの号令の下、ファミリアは立て直し取り巻く邪神の集団を狙って突撃する。


「ふぉっふぉ、大きいのぅ。これは雷光殿に任すしかないか。雑魚をこちらで引き受けようかの」


 冒険者ギルドのグランドマスターが冒険者達を引き連れ、加護の力が籠った武器を手にキメラ達に襲い掛かる。

 騎士達は能力上昇の付与が施された馬に乗り、果敢に魔物の群を分断する。

 分断された魔物達はパーティーを組んだ者達に狩られていく。


「対策を取られているから二番煎じだと言っている。それが分からないとは本当に研究者かい?」

「私を馬鹿にするなッ!」

「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い。言われたくなければ私達が作った物よりも素晴らしい物を作ればいいだけ。それが出来ない時点でお前は私達、シュンよりも下なのだよ」


 発明家の顔が更に赤黒く染まる。


「あの空間は雷魔法と空間魔法を組み合わせた範囲指定型の魔道具だ。雷だけを吸い込み、亜空間で増幅、そして任意の場所から射出される。魔力の関係上連続で使えるものではないがね」

「あのような物で私の最高傑作が負けるはずがない! すぐに貴様等を殺し、辱め、シュン諸共嬲り殺してくれる!」

「大結界も壊せないお前にそれが出来るとでも? その最高傑作も、キメラも、全てただくっ付けただけじゃないのかい? お粗末すぎて笑ったよ。というか、二度殺すのかい?」


 アルカナは発明家など眼中にない笑いを浮かべる。

 発明家の口元に白い泡が立ち、黒い靄が周囲を侵食していく。


「なら壊してくれる! 私を怒らせたことを後悔しろ!」


 アルカナの目が細まり、邪神の力を分析する。


 発明家の身体は煉獄と同じように膨れ上がり、力を取り込んだ異形の存在へと変わった。

 肌を突き刺す邪神の力は魂を揺さぶる。


「それが話に聞いていた邪神の力か……。なんとも禍々しい力だ」

「グククク、もう遅い。こうなったからには誰にも止められん!」


 発明家は邪神の力を両手に集め、今尚雷に苦しめられるデュラハンキメラへ投げつけた。

 アリアリスがそれを止めようとするが、アルカナは触れるなと制止させる。


「あれに触ってはいけない。シュンから聞いているだろう?」

「聞いてはいるが、今の私なら問題なかった。態とだな」

「そうさ、態とさ。あいつに引導を渡すにはその方が良いと思ってね」


 力が膨れ上がったデュラハンキメラは前足を浮かし、空間を邪神の力を込めた大鎌の一振りで切り裂いた。

 余波をアリアリスが掻き消し、収納袋から完成したゼリー状の美味しいポーションを飲み魔力を回復させる。


「それに少しでも邪神の力を削っておいた方が弟子の為になると思わないかい?」


 その一言にアリアリスのゼリーを飲む喉が止まり、目をまん丸にした。

 そしてフッと笑い、魔法増幅器へと改造された愛用の世界樹の杖で軽く小突く。


「シュンは私の弟子だ。ついでにフィノリア王女もな」

「それはずるいと思うのだが」

「ずるいもへったくれもない。お前の方がシュンの弟子ではないか? 現に副所長だからな」

「む……いずれ私が所長となる予定だ。大体五十年後ぐらい」


 決戦に似合わない余裕ある会話をする二人。

 アリアリスは繰り上げではないかと思ったが口に出すことはなく、魔力を練り上げ加護の力を引き出す。

 アルカナも軽口を収め、収納指輪から一冊の本を取り出し魔力を注ぎ込む。


「余裕な態度を後悔するが良いッ! 私の最高傑作よ、私の力を思い知らせてやれ!」


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