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決戦開始、各地1

 大地を照らす太陽が突如遮られ、周囲は暗くなる。

 辺りは薄暗くなり、不気味さの漂う赤黒い雨雲が覆ったからだ。

 その雨雲の隙間を照らす轟雷。


 この雰囲気に飲まれ、映像の魔道具に映る人達の顔は緊張一色だ。

 少し視点を変えると高ランク冒険者や騎士達が弱腰となった者達に発破をかけていた。

 飲まれているのもあるけど、空気もピリピリと肌に張り付いて毛穴が広がり、邪神の集団がどれだけの強大さを持つのか感じ取ってるからだ。


 彼らの目の前には帯状に広がる第一波の群がいる。

 第一波と分かるのは八割以上が魔物で構成され、残り二割も安全な場所で指示を出す者と捨て駒の様な者ばかりだから。

 魔力感知で調べてみても煉獄のような大きな力を持つ者は見当たらない。


 魔物も一筋縄ではいかない大きな影がちらつく。

 上空には僕達が考えたワイバーンやドラゴンがいる。

 SSランクのヒュドラとかがいるわけじゃないけど、Sランクの魔物が点々と存在している。


「これはあの時と同じだと考えるべきだろう。頭となる個体を倒せば支配が解ける。そうだな、シュン」


 同じ映像を見ていたローレ義兄さんが確認してきた。


「少なくとも相手の戦場は混乱するはずです。ですが、魔道具を改良しないまま放っているとは思えません」

「破壊したほうが良いんだね」

「指示する人は安全な場所にいるはず。竜人族と竜魔族を中心に迎撃してもらいます。それだけでは疲労も溜まるので地上から魔道具で支援しましょう」


 ローレ義兄さんは頷き、前線に立つ義父さんに指示を送る。


『その対応はどこでも同じで良いんだな?』

「恐らくとしか返せません。ですが、Cランク以下は用意した魔道具で対処可能です」

『なら任せろ! お前は邪神がいつ出て来ても良い様に準備を怠るなよ。もしもの時は俺達を頼れ』


 一人でやろうとするな、というクロスさんの優しい言葉。

 強くなると感覚が狂うって言われたことがある。

 そうならないようにするためのセリフだと分かったよ。


「私もいるからね。一人じゃないよ」


 フィノやシル達がいれば僕はそうならない。

 でも、良い表せない気持ちが僕の中でしこりの様にあったのを気付けないでいた。




 ジュリダス帝国帝都バララーク。

 ここは総本部から連絡を受ける帝国本部となる。

 皇帝ダグラスがこの場に存在し、レムエストルとシュビーツが召喚獣のキャロと共に前線に立っている。


「斥候より伝令! 後十五分後に射程圏内! 繰り返します、十五分後に射程圏内です!」


 帝国では帝都を中心に主要都市七つが一斉に狙われた。

 その中でも帝都バララーク、補給地点、商業都市の三カ所は一万を超える魔物の群が確認された。


 各国が手を結んだことにより不要な砦の人員を都市へ戻し、防衛へ回していた。

 そして、敵の影が確認されたことで最低限の人員を残し、敵を挟み撃ちできるように行軍が始まる。


「本部より連絡! 魔物の群は上位個体に支配されているとのこと! その上位個体も魔道具によって支配されているようです!」

「わかった。シュビーツに伝令! 対空部隊と飛行部隊と連携し上空の敵を倒せ!」

「はい!」


 指示を受けた通信班がレムエストルに一字一句間違いなく指示を送る。

 受け取ったレムエストルは戦場を確認し、その場にあった命令を各部隊へ出した。


「上空の敵を倒し、敵の戦場に混乱を起こせ、とのことだ。先に超遠距離爆撃魔道具を使い駆逐していこうと思う」

「ドラゴンが数体いるという情報もあります」

「安心していい。見た所下位の竜種だ。あいつらのブレスは帝国が誇る結界部隊で十分防げるはずだからな。最悪、レコンに対処してもらう」

「私のキャロもワイバーン程度なら相手に出来ます」


 レコンと聞き、貴族達が驚きに染まる。

 が、すぐに納得と頷きを返した。


 あれから一年以上が経ち、レコンはロロよりも大きくSランクとして相応しいまで急成長を果たしていた。

 病気の影響で魔力の桁も通常の個体より大幅に多く、五十年生きているためSランクの中でも上位に匹敵する強さを持つ。

 下位の竜種では相手にならないだろう。


「だが、レコンはこの先に出てくる強敵の為に温存しておきたい。精密さに欠ける魔道具で急所を狙うのは難しいだろうが、翼に穴を開けることは出来る」

「なるほど。それぐらいの練度は積ませたつもりです。直ちに指示を送ります」

「他の者は地上に落ちてくる魔物、竜種のブレス、魔法に気を付けながら、遠距離中心で殲滅するようにしろ。統率個体は発見次第仕留め、魔道具があれば破壊だ。これを切り抜けば魔物の数が一気に減る。俺はこの剣を使う」


 魔道具を真っ先に使うというのは会議で決まっていた。

 強力でも精密さに欠け、中には広範囲に渡って影響が出る魔道具もある。

 混戦とならないこの段階で一気に相手の戦力を削るためだ。


「殺せ殺せぇ! 地に堕ちた軟弱な帝国に力を示すのだ!」

「「「「「武力こそが正義! 弱き者は生きる意味なし!」」」」」


 天幕から出ると、上空を飛ぶ一際目立つ竜から罵声が耳に届いた。

 それに呼応する異口同音の叫び声。


 その考えは甚だしく舐められたと奮起するところだろう。

 しかし、その声を聞いた帝国人皆が一応に驚愕を露わにする。


 それもそのはず。

 数年前に姿を消した軍部トップだった男の物。

 国王の次に権力を持つ、帝国が武力の国だと周囲に思わせていた人物でもあるからだ。

 権力志向で野心が強く、戦争を避けてきた帝国王族に思う所があったのだろうが、手段を間違えては元も子もない。


 そして、遠目からでも判断つく距離になった所で息を呑む。

 事前に知らされていたとしても、顔見知りが中にいれば仕方がない。


 完全に委縮してしまい、目に見えて士気が落ちた。


「やってくれる……」


 その様子に舌打ちしたいのを我慢し、苦々しい感情を露わにするレムエストル。

 シュビーツ達は表情こそ変えないが同じ思いのようで頷く。


 が、これぐらい想定してあった。

 国内から急にいなくなれば分かるというもの。

 戸籍を調べた甲斐があったということだ。


 それに、そのためにレムエストルは秘密兵器を授かっている。


「そちらがそう来るのなら、俺も手段を選ばない」

「では、やはりそれをお使いに?」

「そうだ。相手があの者であろうと、これからの帝国にははっきり言えば邪魔だ。父上と対立していたからな」


 納得したような護衛を引き連れ、最前線へと顔を出す。

 シュビーツは召喚獣のキャロの背に乗り、委縮する者達に凛々しさを見せる。

 そして、白馬に跨るレムエストルが人を割いて最前線へ向かう。


 腰に携えられていた質素でありながら神々しい剣を抜き放ち、再び士気が高まった。


 その剣はドヴェルク族が作った疑似聖剣。

 シンシアの聖なる加護の力が込められた武器だ。


「レムエストル……あいつを殺せ! 我らの手に最強の帝国を取り戻すのだ!」


 レムエストルの姿を視界に収め、男は口元を笑みに変え戸惑いも無く決断を下す。

 その言葉は覚悟を決めさせ、ファミリアに怒りを燃やす火種となった。


『皆も分かったであろう! あの者は自ら選んで邪神の手先となった裏切者の老いぼれだ! 自らが弱いことを棚に上げ、帝国を見限った反逆者でしかない!』


 拡声の魔道具によってレムエストルの声が戦場に響き渡る。


 男の乗るドラゴンが肌を刺す咆哮を上げるが、お守りが輝き硬直を防ぎきった。

 それを男は憎々しく見下し、罵声を浴びせながら指示を飛ばす。

 自らはドラゴンを操り、下方を向いてブレスの準備に入り優越感に浸る。


『今の帝国には不要! 堕ちたと思うなら思うが良い! 俺は思わないがな!』


 が、それもレムエストルが剣を振り下ろすまでのことだった。


 怯えて逃げようとするファミリアを護るように剣を構え、ありったけの魔力を注ぎ込むとその輝きは天を差すように伸びていく。

 そして、ドラゴンの口から炎が見えた瞬間、振り下ろされた。


「な、なに――」


 男の声も、吐かれた強力なブレスも、魔物ひしめく大地も、不気味な天さえも切り裂く一閃が轟音と共に放たれた。


『放てぇ! 上空の敵を殲滅しろ! 魔道具が壊れるまで攻撃を休めるな!』


 そして轟音の中に号令が響き渡り、真っ二つに切り裂かれたドラゴンが地上へ墜落する。

 同時に空を爆音が支配し、次々に地上へ落下していく魔物達。

 地上の魔物も吹き飛び、目の前の魔物の帯が左右に分かれ侵攻が止まる。


 城壁に設置された超遠距離砲撃魔道具『魔導砲』が使われたのだ。

 ファミリアの兵士が使う魔導狙撃銃から様々な弾丸の魔法が放たれる。

 地上では地面へ埋め込まれた魔導地雷が炸裂し、ファミリアも魔剣の類を持ち地上へ落ちた魔物達を仕留めていく。


 どちらも赤外線レーザーの様に工夫した魔力線を使い、引き金を引くだけで魔法を伝わせ発動させるチート兵器だ。

 魔導地雷は重さによって発動し、広範囲に渡って被害を齎す。

 魔剣も身体能力を上げる効果を持ち、村人でもゴブリンを易々切り伏せられる。


 さらに神器に彫られていた神々の紋章と同じレリーフのお守りが胸元で輝き、それぞれの武器にも同様に、レリーフを通して力と守護を与えていた。


「ごっ、ごふぉ……ば、馬鹿な……何故だ……あり得ぬ! こんなこと、あり得てはならん!」


 死ぬのも時間の問題となった血塗れの男。

 真っ二つとなったドラゴンに背を預け、周囲の音も光景も入らないほど放心し、夢ではないかと停止させていた。

 未知の武器により、一度も攻撃できずに敗れ去ったからだ。


「無様なものだな。地に堕ちたのはどちらだ?」

「レム、エストル……くそっ」

「この力は貰い物だが、高めたのは我々だ。ああは言ったが、名誉だけは護ってやる」


 男が首から下げていた宝石の魔道具を見つけ、奪い取るとすぐさま壊す。

 魔力枯渇の症状が現れ、レムエストルは一旦従者の方を借り天幕へ戻ることになった。


 最後にシュビーツと目を合わせて交替する。


『操られた者には聖水を使え! まだ先は長い! 少しでも怪我を負ったものは直ちに回復してもらえ!』


『はっ!』


『左翼右翼共に魔物を優先討伐! 召喚部隊は私に続いて高ランクの魔物を殲滅しろ! 突撃ぃぃぃ!』


「「「「「おおおおおおおおおお!」」」」」


 こうしてほとんど負傷者・死者を出すことなく帝国は第一波をやり過ごすことになる。



 その同時刻の魔法大国では――


「ふぉっふぉっふぉ……よっこらせ。『灼熱の業火、凍える吹雪、切り裂く突風、世界を構成する大地よ、等しく混じり一となれ、一は零となり無を作る、全てを消し去る虚無の魔法、カオスマジック・エレメント』」


 SSランク四源の大魔法使いデトレスによる大規模広域殲滅魔法が行使されていた。


 百を超えた腰曲がりの好々爺なデトレス。

 実力で言えば魔法王になっていて当然の人物ではあるが、王に選定されるより先にSSランクとなってしまったがために就けない。

 そもそも、デトレスは王位に興味が無かったのだが。


 弟子のフェルメラとクロス魔法王を脇に従え、背後に魔法騎士や冒険者達ファミリアが見守る中魔法を発動した。


 炭を燃やし大気を焦す炎の塊。

 触れるだけで生命を閉ざす氷の塊。

 空間を捻じ曲げる真空の刃の塊。

 濃密な魔力から作られた岩の塊。


 四つの塊は徐々に膨れ、迫り来る魔物達の頭上で一つとなり消える。


「し、失敗か? よく分からんが好機だ! このまま攻め滅ぼせ!」


 デトレスの魔法を知らない者達は魔物も含めて困惑する。

 止まった魔物達が再び動き出し、足を踏み出した直後無音が訪れた。


 耳鳴りの様な空気の振動がなくなり、呼吸もどこかきつくなる。

 ファミリア側から見ると空間が歪み始めているのが眼に取れ、誰もが驚きに息を呑んだ。


『結界展開! 大盾構え! 総員、伏せろぉぉ!』


 クロスの声が拡散し、ファミリアの兵士達は一斉に顔を庇って大地にしゃがみ込む。

 その瞬間、空間が揺らぎ光が漏れだす。

 そして、爆発的なエネルギーが光となって消えた場所から迸り、核弾頭もかくや、大気はうねりを上げ、轟音は骨まで竦み上がらせる大爆発が起きた。


 音が戻り、視界が回復する。

 そこで目にしたのはぽっかりと大きな穴が空いた大地と、消え去った魔物の群。

 上空からぱらぱらと焦げた何かが雨のように落ちる。


『これが我が魔法大国が誇る四源の大魔法使いデトレス最強の魔法だ! 俺達は恐れることはない! 王国の大英雄シュンから齎された魔道具もある! この勢いのまま駆逐しろ!』


「「「「「お、おおおおおおおおおお!」」」」」


 そして、帝国と同じように空も大地も埋め尽くす魔道具の魔法が放たれる。


「ふぉ、ふぉ……疲れたわい」

「デトレス様、後はお任せください」

「そうだぞ爺さん。背後でふんぞり返ってな」

「やれやれ、死ぬでないぞ。まあ、死んだらララは儂が貰っておこう」

「枯れた爺にやれるか! ゼッテー死なねぇよ!」


 騎士達の方を借り、軽口を叩いたデトレスは街の方へ消えていく。


「い、いかせる、か!」

「なんだ? まだ死んでいなかったのか」

「ふ、ふふは! お前達は終わる、もうすぐあの方が現れるのだから「うるせえよ」がふっ……」


 最後まで言わせないところがクロスらしい。

 というより、あの方が誰を指しているのか言われずとも誰もが分かっていることだ。


 先ほどまで誰もいなかったクレーターの先から巨大何かが近づいてくる。

 大剣を振り回して砂煙を掻き消し、一瞬にしてクレーターを飛び越えた。


『ぐあおああおああおおああああおおおあおお!』


 人っぽい何かは言葉になっていない叫び声を上げる。

 クロスとフェルメラはその異形――元煉獄に杖を構えたその時。


「クロス様! 僕達も戦わせてください!」


 聞き覚えのある声が止めた。

 煉獄と多少の因縁を持つ者、シル達だ。


 フェルメラは眉を顰めて死にに行くようなものだと怒鳴り帰らせようとするが、クロスがそれを止めた。

 シル達の覚悟を感じ取り、普段見せない真剣な表情で問いかける。


「死ぬぞ」

「死にません! それがフィノ姉様やシュン兄様との約束です! それに僕達だけで戦いたいとは言いません。僕の予想では二人でもあれの相手をするのは困難なはず。僕達のSSランクや加護持ちから授かった力が必要な筈です!」

「ダメに決まってるでしょ!」


 そしてバッと頭を下げる面々。

 そのためにシル達は数日であるがSSランク達から指導を受けたのだ。

 流石に煉獄が相手だと思っていたかは分からないが、シュンはこうなるだろうと薄々感じ取り少しでも実力を上げようと画策した。


 事実、クロスはシュンからシル達のことを細かく聞かされていたりする。

 勿論判断は任せると。


「シルの言う通り、俺達だけでは力及ばずだろう」

「ちょ――」

「戦うのは良いが絶対に死ぬのは許さん! 王命だ! 俺達が魔法で食い止めるからお前達は隙を突いて攻撃しろ! こいつが最高戦力だから倒す為なら長期戦になっても構わん! 和則はあるのだから決して危ない賭けはするな!」

『はい!』

「なんなの!? これも全部ロードベル伯爵のせいよ! もう!」


 地味に格闘も出来る強化した世界樹の杖で大剣と渡り合うクロス。

 背後や死角を見抜いて着々とダメージを与えるシル達。

 意外に面倒見が良く正面から視界を塞ぐように魔法を放つフェルメラ。


 一時間以上にも渡る彼等と煉獄の戦いの幕が上がった。


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