お祭り間の訓練
アル達とお祭りを楽しんだ後、パーティに出席してシルヴィアさん達と交友を深めた。
やっぱり美味しい料理は心の扉を広げてくれるみたい。
全員が全員そうというわけじゃないけど、嬉幸せそうな顔は忘れられないよ。
シンシアさんとシルの顔合わせも行ったよ。
シンシアさんはフィノほどじゃないけど十分美人、それどころか僕が会ってきた女性の中では上位に位置するほどだ。
薄い太陽の様な金髪はサラサラで軽くウェーブ。
肌は少し焼けて健康的で、白い法衣がとても似合う。
やや青みがかった黄色い瞳はなんか凄い。
微笑みは優しくてそれだけで人を癒すから、加護云々じゃなくてシンシアさんは生まれもっての聖女の素質があったんだ。
年齢も少し上だから大人びて見えるけど、たぶん年上好きのシルには丁度良いと思う。
僕はフィノが一番だけど、どっちかというと年上が好きで、シルと僕は所々似てるからね。
あ、このことはフィノには秘密だ。
様子を見るに少し素直になれないみたいだったけど、シンシアさんに頭を撫でられたりして嬉しそうな表情を見せていた。
シンシアさんもそんなシルが気に入ったようで、一緒に料理を食べて会話が弾んでた。
それを見ていたフィノが「あーん」したり、腕を組んできたり……よく考えたらいつもと変わらなかった。
パーティと言っても祭りに参加できない皆の為の交友パーティだからね。
それに僕達はまだ成人していないから多少はね。
そして、翌日。
屋敷にアル達を起こしに迎えに行く。
昨日お祭りをほとんど堪能したから、今日は久々に特訓を行う予定だ。
お祭りの最中だから本格的なことは人員の関係で出来ないけど、そっちは僕達には関係のない事だからね。
それどころか各国の要請で邪神対策の戦闘法や新技術を、この場にいる面子に教えてほしいとのこと。
まあ、そこには僕の実力を見るっていうのもあるんだろう、ってフィノは言う。
大きな演習も出来る第一訓練場。
騎士のほとんどがいないけど、この場には各国の護衛や重鎮達が集まっている。
勿論、加護の力で邪神の集団が入ってこれないように対策済みで、怪我とかしないように例の結界を展開しておくのも当たり前だ。
「そんなに緊張しなくても誰も取って食べないよ」
「ば、馬鹿言うなよぉ……。おま、どんだけ凄い人……シュンも凄かったんだなぁ」
それで落ち着くってどうよ?
まあ、アル達が緊張するのも分からないこともない。
当初はアル達だけだったし、心構えができる前に連れてきたからね。
でも、これからはこんなものだと思ってほしい。
「まずは自己紹介からでいいかね? 私はドミニク聖王国で聖騎士長を務めているバランという。冒険者ならSランク程度と言われている。主に剣と聖魔法を得意とする」
と、年長のバランさんが場を纏める為にも率先して口を開いた。
続いて四大国のSSランク達が自己紹介を各人していく。
「私は世界教に身を置くシンシアと申します。僭越ながら輝きの聖女という二つ名を頂いております。戦闘は支援が殆どですが、偶にメイスも使います」
「俺様は荒ぶる鬼神のアシュラだ! ガキ共、お前達からも強い気配がプンプンしている! これから楽しみだな! 勿論己が誇る肉体のみよ! ガハハ!」
「私は魔法大国の偉人、四源の大魔法使いデトレスが弟子、フェルメラと申します」
バランさんは正義感のある見た目通りの人で、シンシアさんは言うまでもないね。
呼び捨てにしてほしいっていうアシュラは大の酒豪で、フェルメラさんに少し睨まれた。
まだ根に持つ? のかな?
で、各国が連れてきた凄腕の護衛が自己紹介して、師匠達も、最後に僕達がする。
因みにポムポムちゃんは流石に来てないけど、知り合いということで獣人族と変わらないギュンターが来ている。
バルドゥルさんの許可は得てるよ。
で、獣人族からはギュンターと顔合わせをしているハクロウと、その飼い主、じゃなくて婚約者のアスカさんが来てる。
「おいギュンギュン、魔族だってばれるなよ。ばれたら全身の毛を毟るぞ」
「そんなあほなことするか! お前こそ馬鹿なことをしてっとアスカさんが見限るぞ。ま、そうなったら俺が貰ってやるから安心しろ、単細胞恥狼くん」
「お二人とも? 馬鹿なことをするのなら躾けますよ?」
「「びくんっ!?」」
仲が良いのか悪いのか……やれやれ。
「知っているかと思いますが、僕が幻影の白狐や奇術師と呼ばれるシュンです」
「私は婚約者のフィノリアと申します。主にレイピア、火と闇魔法を得意とします」
「僕はシリウリードです。攻撃は得意ではないですが、水魔法と風魔法の支援が出来ます」
アル達は緊張のあまり声が出ない様で、僕が一人ずつ紹介して頭を下げる。
これにはレン達も緊張したようだ。
自己紹介も済んだところで、早速魔法の基礎から入ることになる。
「午後からは好きな相手と組んでもらいますが、午前中は基礎を中心に教えて行きたいと思います」
基礎と聞いてやっぱり眉を顰める人がちらほらと。
「色々と思う所があるかもしれませんが、実際此処や学園ではその成果が出ているのも確かです。文句は実際に試した後にしてくださいね」
上から命令されて嫌だというほど馬鹿な人物は来ていない様で、騒ぎも起きないままスムーズに訓練が始まった。
教えることはいたってシンプルというか、今までと同じことだ。
僕が教えられるのは魔法全般に限っているから、基礎の魔力操作と比較的実戦向きの戦力増加が期待できる『纏』、若しくは魔法使いには魔力圧縮や遠隔操作の技術だ。
「『纏』というのは古代技術の一つだと聞く。古代技術は総じてレベルが高く、使い勝手も難しいらしいが、シュン殿は我々に短期間で使えるようになると?」
「宰相のローデルヒさんも言っていましたが、僕の使用している『纏』で間違っていません。ですが、古代技術をそのまま使っているわけでもありません」
実際にババルンさんから返してもらった白銀の剣に雷を纏ってみせる。
以前よりかなり魔力を通しやすく、それでいてベヒーモスの角の雷との親和性が上がって威力が数倍に跳ね上がっている。
ヒュドラの核も僕の魔力に呼応して今までにない輝きを持つ。
流石細部まで拘った至極の一品を作るドヴェルク族だ。
ドワンさん達ドワーフが作った斬新さの極みのデモンインセクトの剣も同じだ。
善し悪しがあるんだからいがみ合わず切磋琢磨すればいいんだよ。
「では、どのようにしておられる?」
感嘆の声や唸り声が漏れた後フェルナンドさんが問う。
「そこで鍵となるのが魔力操作、この場合制御ですね。皆さん、武器や防具の強度を考えて魔法を纏わせることは出来ますよね?」
「俺のナックルやレックスの魔法剣みたいな奴……だな? ですよな?」
……今まで通りで良いよ。
こほん。
そのレベルならこの場にいる殆どの人が使えるみたいだ。
「二つの違いは威力もですが、性質や効果まで及ぶかどうかにあります。皆さんが使う魔法剣は魔法+武器といった感じで、火炎剣なら切った切り口を焼く、という現象になります」
「シュンが使っている『纏』は魔法×武器ということだな?」
「正解です、師匠」
まあ、師匠レベルなら簡単とは言わないけど、すぐに使えるレベルの技術だったりする。
「この雷を纏った剣は相手を感電させるだけでなく、切り口の鋭利化、剣速の上昇、効果範囲の増大、下手すると部分消滅もさせます。剣に膜を張っていて『纏』は魔法剣と違うでしょう?」
「ちょっと待ってください。剣に纏わせる技術ですよね? 何故、剣速が上がるのですか?」
「そこも『纏』の技術が高度だと言われる所以です。二つの違いに使う魔法の威力が桁違いだというのがあります。魔力感知が出来る人ならこの剣に纏っている雷魔法の威力が分かるでしょう。僕が使っている魔法を普通に放つと小さい山が吹き飛ぶレベルです」
「おま、そんな魔法使うなよ! 怖いじゃないか!」
「大丈夫だよ。シュン君がそんなヘマするわけないもん」
「フィノちゃんの信頼が凄いわぁ」
数人が息を呑む。
「そんな魔法を使っていたのか……。安全とは言えんな」
「そこで魔力操作が必要になるのです。先ほどの答えになりますが、これほどの規模の魔法を使うと身体に負担がかかります。その負担を魔力操作によって軽減させるのですが、多少体に影響が出てしまいます。自身の魔法が自身に影響が少ないのは知っていることでしょう? それでも微かな影響を受けます。その現れる影響が剣速なのです」
僕の動きも若干早くなるんだ。
纏う本体である剣――剣速を中心に影響を受けるからだ。
「それは分かりますが、聞けば聞くほど難しい気がしてなりません」
ここまでは普通の古代技術といわれる『纏』だからだ。
僕はそれに一工夫加える。
「『纏』は元々魔法剣から派生した技術なのは想像に容易いでしょう」
「似たようなものだからな」
「なので、最初に魔法剣を使います。そこから『纏』に発展させる方法を取ります」
言うのは容易い。
相当い苦戦するだろうね。
でも、この方法なら比較的何処が駄目なのか自分で見つけられるし、周りに出来ている人がいればコツも聞ける。
「分割して考える、ということだな」
「そういうことです。魔法剣は自分にダメージが入らないぎりぎりで使っているはずです」
「それでもかなり熱いけどな。ん? あ、そっか! 魔力操作が上手くなったから魔法のダメージを受けなくなって、ついでに威力も上がったんだな!」
今日のアルは冴えてるな。
レックス達もその実感があったのか納得だと頷いている。
「ですから、魔力操作はとても大切なんです。魔法の威力、消費量、精密度、遠隔操作と多くのメリットがあります」
「納得いかないけど、魔法大国では報告が上がっています。これからは基礎が大事だという時代に変わるでしょう」
まだ対抗心が消えないフェルメラさん。
他の面々もすでに効果が出ているのならと納得し、見ている義父さん達に逆らえないってのもあるんだろうけどね。
「手順ですが、魔法剣を使います。次に武器の隅々まで魔力を通し強化しますが、この時魔法剣と同じ属性の魔力を表面に、内部に相反する属性の魔力をイメージ分だけ流します」
『は!?』
「難しいというのは分かりますが、色で分けて想像すると簡単に出来ます。魔法はイメージで行使する技術なので、当然魔法を象る魔力も同じ性質を持ちます。例えば剣なら大概ひし形で、雷なら黄色を外側に、その内側に水の青色を想像します」
その後は頭の中でいろいろと想像するんだけど、そのぐらいはできるってフローリアさん達騎士が証明してくれてる。
冒険者だってできてるんだから出来ないとは言わせないつもりだ。
「仕上げにどのような性質の魔法にしたいのか、先ほどのは速度と切れ味に意識を置いた雷魔法となりますが、それを剣の、ひし形の外部に雷ならバチバチする現象を想像して『纏』とします」
魔法剣が『纏』になると雷は収まり、黄色い半透明のおーらが刀身を包むようになる。
僕の見解では魔力が元になっているから可視化された魔力、だけど魔法でもあるから半分魔法として色やオーラとして現れているんだと思う。
「一気に簡単になった気がするが……本当にそれでいいのか?」
「ええ、王国の騎士が証明していますからね。これの良い所は魔力操作を勝手に上達できるところです。武器の破損が多くなりますが、それは出来ない自分への叱責で、費用が掛かると考えれば嫌でも壊さないように上達します」
「色々と考えられているようだ! それなら魔法が苦手な俺でも出来よう!」
「アシュラは魔力操作を体でした方が良いかもしれないね。魔力は魔法ではないのでダメージはないし、上手くすれば爆炎パンチとかできると思う」
「おお! かっこよさそうではないか! ぜひ会得させてもらおう!」
どこか煉獄と似た雰囲気を持っているアシュラだけど、良い戦闘狂なんだと思う。
名前からしてイメージ通り陽気な人だ。
「魔法剣からの発展技かぁ……、ッし、絶対会得して今度は負けねえぜ!」
「俺も頑張るっす! 先輩、勝負っす!」
「おう? 俺に勝てると思っているのか、レックス!」
「がははは! 俺も参戦しようではないか! お前達の戦い方も興味があるんでな!」
あの二人はアシュラと相性が良いだろうから任せよう。
こっちにはレン、シャル、アルタが加わるかな?
クラーラ、シル、リリ、レイアは魔法の特訓だね。
「うむぅ……短期間で取得可能なのだろうか?」
「だが、出来なければそれまで。俺達には国の威信もかかっている」
「なる様にしかならないわね」
「ぐぬぬー……よく意味が分からん! 兄貴、もっと分かりやすく!」
「ふん、ギュンギュンには高度な技ということだ。負け犬は大人しくしてろ」
「お前も兄貴に負けただろうが! 大衆の前で恥かいた獣人族の恥じ犬」
と、自信なさげなセリフを吐く人たちもいる。
ギュンターは感覚派だから周りの人のを見ながら覚えなさい。
ハクロウは一々喧嘩を売るな。
似た者同士だから仕方ないだろうけどさ。
そんな中、やっぱり四大国の人達は違った。
「文句を言う前に実践してみようではないか」
「そうですね。出来ないことをやれと言っているわけでもありません」
「うむ! 逆に出来なければ負けると思っていいだろう! この場にいる者全てが国の代表といって過言ではないのだ!」
こっちの特訓は残っている騎士に任せればいいだろう。
元々そうするつもりだったからね。
次は魔法使い達の底上げ。
フィノの特訓の為にも魔法使い達に対する説明は任せてみることにした。
『纏』の技術も魔力操作が大切だから、さっきの説明を深く掘り下げていく感じになる。
「シュン君が説明したように、魔法使いなら魔力操作の重要性がよく分かったと思います」
「そのようです。が、それはこの場にいる者なら全員分かっていることでしょう」
「こういう言い方はしたくありませんでしたが、分かっているのと、出来ているのは違います」
フィノにバッサリと切られたフェルメラさんはムッとした表情を浮かべる。
王族であるフィノだからそれだけだったんだろうね。
「皆さんの技量が高い所にあるのは分かっています。これから教えることになる技術は魔力操作の出来が深く作用し、『纏』同様に危険な所もあるので注意が必要なのです」
「嘗めないで貰いたいですね」
「まあまあ、そう言いなさんな。自負や自信があるのは良いがの、そういうのは言われたことが出来てから言いなされ」
確か公国の宮廷魔法使いクレスメンお爺ちゃんだった気がする。
フェルメラさんはその一言にバツが悪そうな顔になって、軽く頭を下げてフィノに謝った。
お爺ちゃんに弱い感じ?
「これから教えるのは魔力圧縮、遠隔操作が主になります。っと、その前に魔力について軽く触れたいと思います」
「魔力とな?」
「はい。皆さんは魔力に純度と質があるのを知っていますか?」
それは僕がフィノに初めてした指導の話だ。
普段は教えないけど、このぐらいはと話し合って決めた。
「異質だからと止めておいた結果がこうなるとはな。結局、シュンは目立ってしまったか」
懐かしく思った師匠が話しかけてきた。
師匠は既に『纏』も魔力圧縮とかも使えるから、指導をお願いすることになってるんだ。
「まあ、仕方ないですね。良い意味で目立っていますし」
「だが、ことが終わった後は気を付けるんだぞ。色々と布石を打っているようだが、力を恐れる者や欲する者はごまんといるからな」
「もしそうなったらフェアルフローデンに行きます。魔大陸で少し観光するのもいいかもしれませんね」
僕と師匠が話している間にフィノの説明は佳境に差し掛かった。
「となると、蔑ろにしてきた瞑想や研究も大切だった、ということだの」
「魔法は自然から切り離されていません。火は水をかければ消えますし、物は必ず落ちますし、浮かんでいる石も魔力を切れば落ちます。その謎を解き明かすのが魔法使いなのです」
「ふぉっふぉ、面白い考えだの。エルフの魔力適性が高いのもそれが影響しておるのかもしれん」
「今はフィノリア王女の話を聞きましょう」
フェルメラさんと一緒にしておくべきかな。
「魔力圧縮は文字通り魔力を圧縮し、魔法威力、消費量、発動速度を上げる切り札となります。さらに圧縮し続けると物理的な効果を持つようになり、古代技術の一つ『魔力弾』となるのです」
「『魔力弾』の秘密は魔力操作にあったわけか」
「圧縮するというのは簡単そうですが、これもやはり難しいのですよね?」
「古代技術の基礎になるので難しいのはそうでしょう。ですが、こちらもイメージによって補うことが可能です」
フィノは分かりやすく説明する。
僕の知識では伝わり難かったことをこっちの世界流で分かりやすくね。
「魔力は言うなれば霧や水のような物です。分かりやすいのは物が入った袋の空気を抜く、泥団子を作る感じです」
「なるほど……危険性というのは?」
「当然圧縮するので下手な扱いをすると爆発します。そこまで圧縮するには物理的効果、『魔力弾』にしないといけないので最初の段階で慣れておけば問題ありません」
爆発!? と驚いた面々だったけど、フィノの茶目っ気に苦笑して安堵を浮かべた。
「あとは通常と魔力の減りが異なるのでこれも慣れが必要です。『纏』にも応用できる技で、私達魔法使いでも打撃戦を行えます。杖に通して強化出来ますし、身体強化も飛躍的に伸び、魔力圧縮の打撃は魔力を相手にぶつけることも出来ます」
「シュン様が使う『魔力通し』という技ですね」
「そ、クラーラの言う『魔力通し』は、練った魔力を打撃と一緒に相手の鎧とか無視して体に直接叩き込む技。私達は攻撃力がないから魔力を乱回転させて掻き乱すってところかな?」
その辺は前世でちらっと見聞きしたことがあるアニメとか漫画の技が使われてるんだ。
前世があれだからなんとなく似せた感じでしかないけどね。
「魔力圧縮か……他にも応用が利きそうだの」
クレスメンお爺ちゃんは研究熱心だ。
ローレライさん、もう義姉さんでも良いかな? は赤ちゃんの頃から知っている血の繋がったお爺ちゃんみたいな感じなんだって。
魔法の師匠でもあるとか。
因みにデトレスさんとは同期のライバルで、若い頃はブイブイいわせてたとか。
「僕があみだしたのは場の魔力を支配する魔力掌握、魔力を変化させる魔力変質、意図的に魔力を爆発させる魔爆とかですね」
「意図的に魔力爆発を起こさせるですって?」
「危険なのはわかっています。ですが、魔力を遠隔操作できるようになれば、魔力操作で自滅しなくなりますからね。だからこそ、あらゆる魔法の基礎である魔力操作は大事で大切なんです」
最後のそう締め括って、両者の特訓が始まった。
流石SSランクなのか、一時間もしない内に『纏』の初歩や魔力操作をものにして、今日中に実践レベルまで高めそうだ。
僕とフィノはアル達の特訓に付き合って、どんな技に進化させたい、特化させたいのか意志を汲んで指導する。
アル達は才能が十分にあるけど、この場にいる人達の誰よりも経験がないからね。
そこは仕方のない事だったりする。
師匠にレパートリーが増えていることに関心半分、呆れ半分の顔をされたのは心に残った。
その師匠も僕からあっという間に吸収して、自分のものとしているから人のこと言えないと思うんだけど……流石に口に出さなかった。
夕方前に特訓の成果を見るトーナメントを闘技場でして、ついでに国民の不安を取り除く種にさせてもらった。
こんだけ強い人がいるんですよってね。
僕も久しぶりに白狐の姿で出て、仮面を外してアピールした。
反発する人もいたけど、魔闘技大会と同じことをしたからほとんどの人が信じたと思う。
フィノも成長していて、目標だった水蒸気爆発を魔法で再現して嬉しかった。
爆発するシャボン玉とか、水玉とか魔法ならではの応用もして師匠冥利に尽きるってもんだったよ。
フィノも含めて師匠達と戦うように組んで、フィノは師匠自ら孫弟子の実力を見るって戦ったんだ。
まあ、結果は師匠の勝ちだったけど、師匠の雷や速さについて行けていたから御褒美が必要だね。
フェルメラさんは名指しで戦って、僕は本気を出した。
上には上がいるって思い知らせるのが目的じゃないかって、クレメンスさんに言われたからね。
そして、この日もパーティを行って、いよいよ明日がローレ義兄さんとローレライ義姉さんの結婚式が行われる。




