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お祭り

 夏真っ盛りのシュリアル王国。

 それ程気候の変化が激しくない王国だけど、夏の陽射しは強く肌を薄ら焼くほどだ。


 そんな王国は現在、他国種族問わずあらゆる人で賑わい、世にも珍しい物や普段見られない劇団があちこちで開いていた。

 ガヤガヤと盛り上がる世界初とも言って良い規模の祭りなんだから当然だ。


「すっげー! マジで祭りだな!」

「当たり前でしょ? もう子供じゃないんだから燥がないでよね。恥ずかしくなるわ」

「何だよ? そういうシャルだってうずうずしてるじゃないか」

「っ……わ、私はいいのよ」


 相変わらずの二人のやり取りを温かく見守る僕達。


「ここが王国……魔法大国とは違いますね。涼しくて過ごし易そうです」

「お城は白くて綺麗ですね。城下も整理されていて別世界みたいです」

「ふふふ、二人ともありがとう。これもシュン君のおかげなんだよ」


 会議が終わった後、フィノと魔法大国の学園へ転移した。

 シルに行くことは伝えてあったから特に問題はなかったけど、やっぱりアル達からちょっと言われたね。

 黙っていたことに怒るとか、水臭いって言われたけど、想像していたようなことにはならなかった。


 自分達の弱さにも痛感したらしく、今までよりも激しい訓練をしたいって。

 どうやらシルが攫われたのが良い方向にトラウマ? になったみたいだ。

 勿論二度とこんなことにはならないよう努めるけどね。


 で、一日魔法大国の復興手伝いをして、祭りを楽しむために王国に戻って来たってわけ。

 約束でもあったしね。

 復興中で夏休みってこともあって学園は休み、復興の手伝いもあるけど学生に手伝わせるほどじゃないそうだ。


「半年でこんなに変わったんですか」

「はぁー……シュン先輩、パネェっす」

「聞いていた話と違うわね……綺麗だけど」

「いや、祭りだから飾っているだけだよ。下の部分はほとんど変わってないからね?」


 半年前の王国を知っているシルとレックスは呆然としていた。

 僕のツッコミは正しいはずだ……多分。


「一風変わった祭りだね。リリは祭りに行ったことがあるかい?」

「何度かあります。魔法大国はこんな感じではありません。こう、魔法の祭りといった感じで」

「それはそれで面白そうだね。聖王国は祭りっていうか儀式みたいな感じだよ」

「ふふ、それはそれで見てみたいですよ」


 シルから聞いてたけど、こっちは良い雰囲気じゃないの。

 アルタには借りがあるから、もしリリとくっ付きたかったら応援するよ。


 因みにアルタの出身はテレスタ王国の伯爵家で間違ってない。

 でも、光属性に高い適性があったらしく、その時から教会と繋がりができた。

 聖王国とは十歳頃に繋ぎが出来て、秘密裏な仕事とか所謂裏方をしていたそうだ。



 僕とフィノは皆を引き連れ、観光説明をしながら移動する。

 観光できる場所は中央噴水広場、元スラム街の娯楽場、温泉施設、フラワーランド、造形施設や博物館、王国研究所系列店の数々に安らぎの旨味停、一応最後に僕の屋敷にも行く。


 ローレ義兄さんとローレライ義姉さんの結婚式は二日後に行われる予定だから、その二日間はこっちに泊まることになっている。

 他国の人が多く訪れるから宿は空いてないからね。

 それにあそこだったら魔族も呼べて、僕がいる間にアル達との仲を取りなせばいいんだよ。


「あー、やっぱ祭りは楽しいな。人が多いのがちょっときついけど」


 と、祭りから少し外れた路地で休憩を取り、アルが汗を拭きながら言う。


「あちらのことを考えると気が引けます。私達に出来ることはほとんどなくても」

「そうね。でも、今学園に居ても邪魔になるだけよ。支援のおかげで大分進んだから良いとして、私達がやることを履き違えてはいけないと思うわ」

「やるべきことをやる、ですね」

「私達がやること……ですか? 遊ぶ、じゃないですよね?」


 クラーラとシャルに疑問を投げかけたリリ。

 アルタやシルは何となくわかっていて、他はあんまりって感じかな。


「それも間違いじゃないよ。遊ぶっていうより元気な姿を見せて活気を戻すってところかな」

「フィノの言う通りだと思う。この祭りはそのために開いている所があるからね。皆が強くなろうと思って特訓するのもそうだよ」


 僕やフィノは忙しくなるから、アル達の特訓に付き合う時間が減る。

 一応クロスさんやノール学園長がその所は全体を見てどうにかするだろうけど、僕の方でもいろいろと考えてるんだ。

 各国の騎士を派遣するとか冒険者を雇って指導してもらうとかね。


 ま、僕が思いつくことは大概ローレ義兄さんとかも思いつくことだし、僕は僕で邪神に対して動くように言われてる。


「それにしてもお腹空いたっすねぇ。あ、肌に服が張りついてぐふっ!」


 突然お腹の音を鳴らして殴られたレックス。

 つられてアルもお腹を鳴らし、お互いのパートナーに頭を叩かれていた。

 そういう二人もとか思ったらフィノにニッコリ微笑まれたんだけど……。


 太陽を見ると真上からずれていて、昼はとっくに過ぎていた。


「この人の多さで鐘の音が聞こえなかったんだろうね。じゃ、お昼を食べにいこっか」

「あ、待って」


 そう思って腰を浮かそうとしたらフィノに手を取られて尻もちをついた。


「行く場所も分かるけど、今は人が多いんじゃない?」

「……そう、だね。僕が作ってもいいけど、祭りに来た意味ないよね」

「祭りで食べるのが醍醐味だ」

「勿論シュン君の料理が良いとは思うけどね」


 皆も頷いてくれて嬉しい限りだ。

 でも、そうなると……ちょっと困ったね。


「無難に露店で買って食べるとしよっか。夕食は僕が作るからさ」

「私もそっちで食べるね。シュン君の屋敷で食べることはほとんどないし、本当に綺麗なのが分かるんだよ」

「どういうことですか?」

「ふふふ、シュン君の屋敷にまだ行ってないから分からないかもしれないけど、王城の裏手にある山の天辺にあるの。そこから見る景色は凄くて、夜中にある花火も見れるんだって」

「それは面白そうだ。シル君は見たことあるのかい?」

「いえ、僕はありません。食べるときは昼間が多く、夜は城で食べてますから。花火も態々あげたりしません」


 有難味がなくなるしね。

 夏の風物詩、祝いや祭りの時に挙げるからいいんだよ。


 今日は準備というか確認の花火で、明日は各国の職人の大会? みたいな感じで、明後日は昼間の花火と夜の花火の二つがある。

 前者は結婚式の為で、後者は夜中に祝う盛大な花火だ。

 因みに僕も加わって魔導花火を上げるのもこの夜で、今日は確認のための小さい魔導花火を上げる予定。


「至れり尽くせりというか、シュンと親友になれてよかったと思うわ」

「話してなかったけど、公国から陞爵して子爵になったって手紙が来たのよ。『よくやった! そのまま仲良くしろ!』って、純粋に喜んで良いのか困る内容だったわ」

「それに比べて僕達は特にないですね」

「ただ、貴族様からのお誘いやお偉い様方との接点が凄く出来ましたけど」


 うん、皆苦労してるんだね。

 ほとんど僕に関わった結果だけど。


「皆もシュン君ってるね」

「いや、それちょっと違うでしょ」


 そうかな? って顔しないでよ!




 アル達に紹介するためにも『ラ・エール』で昼食を取ろうと思ったんだけど、それはまた今度の機会になった。


 今のうちに予約しておいて、全てが終わった時の祝勝会をそこで開こうかなって感じ。

 勿論僕達だけのささやかなパーティーだ。

 そのためにも勝たないといけない。


 その話は置いておいて、昼食を露店で買い食いした僕達はぶらぶら祭りを楽しむことにした。

 うん、午前とそんなに変わってないね。


「ここは遊び区画だね。中には景品を貰える奴もあるよ」

「弓の的当て、ボール割り、くじ引き、ビンゴ、クレーンゲーム! どれもシュン君発案で楽しいと思うよ」


 フィノには実際に試して遊んでもらったからね。

 特にクレーンゲームが気に入ったみたいだ。


 因みにゲームは魔法有り無しの二種類に分かれてる。

 ゲーム内容に魔法か魔道具が使われている物とそうでない物ってこと。

 魔法有りは浮かんでいるボールを魔道具のセンサー式幻惑弾銃で撃ち落とすボール割り、魔法無しはくじ引きや弓の的当てになる。


「ほぉー、よくこんなの思いついたな! お、あれなんか面白いんじゃね? 何々……ゴーレム対決、勝てば有名店の無料食事券……だと!?」

「アル先輩、こっちも凄いっすよ! 美男美女に勝負を挑んで勝てば一日デートできるみたいっす! あんなことやこんなことも出来るってことっす!」

「何!? あんなことやこんなことだと!? け、けしからん! シュンは何てもの……」


 何言ってんだか。

 てか、僕が考えたんじゃないよ!

 僕はフィノがいるから興味ないし? シャルとレイアのゴミを見るような冷たい目に気付いていないのは幸せなのか不幸なのか。


「申し訳ありません。うちのエロバカックスが変な道に引き込もうとしてしまい」

「ううん、良いのよ。うちのアホルも同じようなものだから。年頃だと思っていればまだいいわ。それに比べてシュン君はしっかりしていて羨ましいわ」

「そう? ふふふ、しっかり躾け、もとい私だけを見てくれるって約束してるから」


 こ、怖いよ。

 もも、勿論フィノ以外は眼中にないさ!


「シュン兄様……」


 下手な口笛を吹いていたら、シルが情けない物を見る目を向けてきた。

 や、やめてーッ!


「僕はシュン兄様のそういう所は真似しません」


 シルもいずれ分かる時が来るよ。

 男は時に黙ってないといけない時もあるって。

 それが夫婦円満の秘訣とか聞いたことがあるからね。

 まだ、夫婦じゃないけど。


「もぐら叩き? だって。得点に応じて景品が出るみたいだ。満点は温泉旅行券がもらえるらしいよ」

「私はこのピンボール、というのが楽しそうだと思う。こっちも得点でお菓子とかもらえるみたい。温泉旅行も行ってみたいね」

「そ、そう? 家族も誘って皆で良く?」

「え? ん~、出来れば二人、がいいかな……なんて」


 と、クラーラとレンは仲が良さそうだ。


 因みに四十秒で、五十以上叩くと十秒加算、七十以上を叩くと更に十秒加算、一分で百回叩けば満点だ。

 でも、皆ルールに則って渡されたハンマー一つで叩いてるんだよね。

 別にハンマーで、というルールはないんだから両手でやればいいのに。

 ハンマーが一つだから手を使う発想がでないんだけどね。


「夜中に来たかったかも」

「じゃあ、一緒に行きませんか? 夜遅くは無理かもしれませんが、夕暮れからなら」

「僕で良いのかい? 騙していた僕でも?」

「騙されていたのはちょっと傷付きましたけど、理由を聞けば仕方ない事だと思います。おかげでシル様は無事だったんですから」


 こっちも良い雰囲気だ。

 やっぱ祭りといったらこんな感じだよね。

 足りないものといえば浴衣だけど、それは夜に来てもらう約束だから問題ない。

 ペアルックだよ。


 隣でかき氷を食べていたシルの手が止まっているのを見て、先日の件を思い出した。


「あ、伝え忘れていたんだけど、今度聖女様とお見合い? らしきものがあると思うよ」

「聖女様? お見合い、ですか? シュン兄様はフィノ姉様を――」

「いやいや、とんでもないことを言わないで! こほん、シルのだよ」

「そうですか……え!? 僕!? ですか!」


 いやー、悪いね。


「悪いね、じゃないですよ! 一体どうして何故そんなことになったんですか!?」


 かき氷が勿体ない。

 まあ、所詮魔道具で作った氷だから安いし、シロップも安価な果物だからね。


「誤魔化さないで教えてくださいよ! 現実逃避したいのは僕ですよ! さもないと、フィノ姉様に『シュン兄様が聖女様と……』と泣きつきます」

「ちょ!? それはちょっといただけないんじゃないかな?」

「じゃあ、理由を説明してくださいよ!」


 まあ、理由を説明した所でもうお見合い自体は決定済みなのだ。

 ローレ義兄さんも悪くないと思ってるし、繋がりは薄かった聖王国と世界教と深めるには丁度良いとも言えた。


 小声で会議の様子とその時のことを話すとシルの表情が無に変わり、最後には何とも言えな顔となった。

 なってしまっていた。


「……仕方なかったのは分かります。僕には誰もいないですし、シュン兄様にフィノ姉様以外を、とは口が裂けても言いたくありません。政治面から言えばシュン兄様が的確なんですけど」

「何か、ごめんね。どうも複数人っていうこと自体に忌避感もあって。僕が取り過ぎても後が困るだろうし」

「世継ぎの問題ですか? 確かになりやすいでしょうね。はぁ、分かりました」

「ありがとう、シル。とっても変わってる人だけど悪い人じゃないよ。別にくっ付けとは言わないから、何かあったら協力するよ」


 それぐらい当然だ。

 なんかいらないみたいな顔をしているけど、絶対気のせいだ。

 でも、案外シンシアさんとシルは合う気がするんだよね。

 何となくだけど。



 数年後、シルとシンシアさんは正式に婚約することになるんだけど、それはまた別の話。

 その時に次代の教皇問題やシンシアさんの婚約者を名乗る相手も現れて決闘まで発展するんだけど……。

 やっぱり、シルって僕と同じような運命に愛されてる気がする。




 気が済むまで遊んだ僕達は一度城へ戻ることになった。

 理由としては義父さん達がお世話になったアル達に会いたいから。

 アルとシャルとレイアは公国出身の貴族の子供でもあるから。今こっちに来ているローレライさんと話し合いも出来るからだ。


 僕もこのところ忙しかったからちらっとしか顔合わせをしてなくてね。

 事実上初めてローレライさんと話すことになるんだ。


「あのー、僕達もいかないといけないのですか?」

「で、出来れば遠慮……無理ですよね」

「……」


 どこか諦めの境地に達しているレンとクラーラ。

 そして、まだ慣れていないから緊張でガチガチになっているリリ。


「大丈夫だよ。別に取って食われるとか、怒られるわけじゃないんだからさ」

「そ、そう言いますが……一平民如きが畏れ多いというか……無理です」

「あはは。これもシル君と出会ったが運命かな?」

「何ですかそれ!?」


 そんなリリに優しい声をかけるアルタ。

 シルは言いように憤慨して僕を睨んできたけど、僕のせいじゃないと思う。


「ぐ、ふ、は……ど、何処もおかしくないよな?」

「な、なな、何緊張しているのよ! 私達はフィノとシュンのご両親に会うだけなのよ?」

「ばっ! お前だって! そのご両親が王国のトップなんだろうが!」


 二人も慣れていない様で、さっきから何度も同じことを言ってる。

 てか、貴族である二人の方が緊張してない?

 肝試しの時もそうだったけど、何か見ていて飽きないね。


「城に入るのは久しぶりだ。ん? レイア、ひょっとして緊張しているのか?」

「わた、私だって緊張するわよ。が、柄にもなく悪かったわね!」

「いやいや、別にそんなこと少ししか思ってないさ」

「少し思ってんじゃないの!?」

「うんうん、それでこそいつものレイアだ。あ、エルフメイドだと……!?」


 最後のセリフが無かったらレイアも嬉しかったかもね。


「エルフ族は王国と交流することになったからね。まあ、手は出さないで」

「だ、だだ出しませんよ? シュン先輩は冗談がきついんっすから」


 それだけどもってたら考えてましたって言ってるようなものだ。

 後で折檻されると思うけど、冥福を祈っておくね。


「緊張しているところ悪いけど、時間も押しているから入るよ」

「お、おう!」


 そんな頼りのない返事に苦笑し、フィノは義父さん達が待っている部屋をノックして、続いて僕達も入る。

 入るとラフな衣装を纏った義父さんが椅子から立ち上がり、近づくフィノに軽い抱擁をした。


「よく来てくれた。私が先代国王ローゼライ・シューハン・ジュダリアだ。こっちが――」

「妻のアリスよ。二人がお世話になったわね」

「お母様!」


 フィノも義母さんには勝てないからね。

 そんなフィノに緊張が少し和らいで、物珍しげに見ている。


 そして、一人用ソファーに座っているのが青髪の女性がローレライさんだ。


「初めまして、でいいのでしょうか? フィノちゃんは久しぶりですね。シュンさんはちらっと見たことがあります」

「僕もちらっと見たことがあります。一応初めまして、シュンです。こちらが知っているかと思いますが友達となります」

「そうですか。貴方達のご両親とお話しましたよ」

『ふぁ、ふぁい!』

「ふふふ、レイアさんは元気なようで安心しました」

「いえ、ローレライ様もお元気そうで、此度のご結婚おめでとうございます」


 どうやらレイアはローレライさんの知り合いだったみたいだ。

 ま、レイアはレックスの婚約者だからね。

 王国と公国の関係だと見れば、ローレ義兄さんと同じだから関わり合いがあって当然かも。

 様子を見て来てほしいとか、話しをしてとかね。


「立ち話もなんだ。デザートも用意させたから座りなさい」


 パンパンと手を叩き、僕とフィノとシルは義父さん達の隣に座る。

 皆は緊張した様子で、アルとシャルが手と足を同時に出しているのは面白い。

 それを見てレンとクラーラは少し落ち着きが出ている。


 今なら若干分かるけど、皆の反応が普通なんだよね? うん。


「赤毛がアデラールで、隣がシャルリーヌです。二人とも公国出身ですね」

「二人のことはよく聞いている。娘と義息子が世話になったようだ。いや、シルも助けてもらったようだな」

「い、いえ、お、俺、私イテッ……」

「はっはっは、落ち着きなさいというのも難しいか。後程褒美を渡させよう」


 アルらしいよ。

 周りの緊張を程よく解してくれる。


「二人は幼馴染なのですか? どう見ても良いご関係な気がしますが?」

「い、いえ、そのような――」

「アル先輩とシャル先輩は良い関係だと思います。さっきも同じ行動をして良きぴったりでしたもの」

「そうでした」


 シャルは顔を赤くして小さくなってた。


「その服は魔法大国で流行っているのかしら?」

「は、はい。文化祭以降このような服が流行っています」

「ふ~ん……流石にシュン君が作ったってわけではなさそうね。レン君のも含めて魔法が掛けられてそうね」

「流石にそれは……魔法は施されていますが……」

「別に怒っているわけじゃないのよ? あの子は突拍子もないことをしでかす天才だから心配していたの。まあ、流石に女の子に失礼なことをしているとは思っていなかったけどね」


 そ、そんなこと僕、しねーし?

 だからしてないって!

 フィノが最近怖いんですけど……はふぅ。


「そちらがシルの友人アルタ殿だな?」

「はい。出身はテレスタ王国で、所属はドミアス聖王国フェルナンド聖王陛下直属部隊となります」


 空気が重く変わった気がする。


「先日の件は申し訳ありませんでした。ご子息を危険な目に遭わせ、剰え誘拐させて――」

「いや、その件はもう良い。フェルナンド聖王とも話がついておる。勿論の事、世界教のシルヴィア猊下ともな」


 びしっと揃って頭を下げる皆を手で止めて、少し居心地が悪そうなシルをフィノが優しく撫でていた。


「そもそもお前は命令に従っただけだ。不用意に動いて二人が死んでいたら、と思うとぞっとする」

「しかし――」

「顔を上げなさい。皆が無事でよかった、それで良いではないか」

「僕ももう少し慎重に動けばよかったと反省しています。それに結局煉獄にはシュン兄様しか勝てなかったんですから、ああするほかなかったと思います」


 ノール学園長やクロスさんでも倒せなかったことはないだろう。

 でも、それは通常の状態の煉獄なわけで、加護の力を出した煉獄には僕やフィノやシンシアさん達しか太刀打ちできない状態になる。

 後から分かったからこそ、シルとアルタの判断は間違っていなかったと言えるんだ。

 アル達が納得したのもそれが理由になるね。


「ですが、先輩達は自国の民ですらありません。アル先輩に至っては死にかけたと思います」

「いや、あれは俺の実力不足が原因だ。頭に血が上っていては駄目と言っていた俺が恥かしいぐらいだ」

「そう言いますが、政治面から見ると、世界の為だったとはいえ、その作戦で自国の貴族の子供を殺されかけたことになります」

「ま、まあ、そうなんだが……なぁ」

「私に聞かないでよ」


 そうなんだよね。

 でも、そこも話が付いているからこの場があるんだよ。


「そこも話が付いています。公国としては、自国の貴族が懇意にしている王国の王族を護った。そして魔法大国にも繋がりが出来たとし、問題にしていません。本人も、ご家族も自分の不注意だったと言っていますね」


 ここぞとばかりに頷くアル達。

 レン達はここまで発展するとは思っていなかったようで、少し驚いた様子で成り行きを見守っている。

 そもそもレン達が何かを言って変わる、という考えすらないだろうね。


「本音を言うと、今問題が起きると危ないのよ。それはアルタ君でもわかるでしょう?」

「はい」

「それでもけじめとして何かしらの罰を欲するなら、今度こそシルを守ってほしいと思うわ。勿論、貴方に命を差し出せ、と言っているわけではないわよ?」


 流石義母さんだ。

 然り、と義父さんも頷いている。


「守らないといけない子もいるんでしょう?」

「え? あ、いえ……」

「違うってことはないでしょうに。シュン君に憧れているのなら、そこもしっかり務めなさい」


 何、それ。

 フィノもうんうんと頷いて……確かにその通りなんだけどさ。


 でも、そうなると……


「シルもそろそろ良い出会いがあると思うよ」

「嫌味ですか!? 自慢ですか!?」

「え? そんなわけないじゃないか。まあ、お見合いが上手くいくと良いかなぁ、ってね」

「シュン兄様が勝手に決めたんじゃないですか!?」


 そんなシルの様子にどっと笑いが起き、この後は普通に談笑をして過ごすのだった。


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