ファミリア会議開催
「い、いえ、僕はフィノだけです。フィノだけを生涯愛し、添い遂げると固く誓ったんです。ですから――」
「そうなのですか? なら、止めましょう。シュン様、フィノリア様、お互いに加護を持つ者として頑張りましょうね」
と、受け入れるふんわり美人な聖女様。
「は、はぁ、ありがとうございます」
変わった聖女様にフィノも呆気に取られた返答を返す。
そう言えばアルタも困った様な返事をしていたなぁ。
聖王の部下だと思うけど、多分シンシアさんを見たことがあるんだろう。
世界教の拠点は聖王国で、シンシアさんも聖王国に居て、アルタも聖王国にいたはずだからね。
誰もが驚きに沈黙する中、布がすれる音を立て近付いてくるお婆さんがいた。
「これ、シンシア。神の子シュン様、その伴侶フィノリア様、うちの孫が失礼しました」
と、困った笑みを浮かべ、ちょっと嬉しいことを……
「って神の子? 僕がですか!? それにシンシアさんはお孫さん!?」
「一般的に加護持ちは神の子、と称します。シュン様の場合それが幾つもありますから代弁者と言っても過言ではありません。それと残念ながら孫です」
残念なんだ……。
ま、まあ、嫌っているとかじゃなくて、言動に頭を抱えているって感じみたいだけど。
なんか同じ匂いがするんだけど?
「孫の能力は高いと思っております。が、何故加護を、と思わなくもありません。何か聞いていませんか?」
「い、いえ、加護はまあ、そのですね……神様が気に入った者や運命、とかですか? に与えるそうです」
「言ってよかったの?」
知らないよ!
でも、言ったからといって加護の価値が下がることはないし、逆に加護持ちは神に気に入られていると良くなるんじゃないかな?
「申し遅れました。私が世界教現教皇のシルヴィア・ヴァレンタインと申す者。つい最近までは一司祭の立場で教育をしていたのですが」
「なんか……すみません」
「いえいえ、シュン様に責任はありません。おかげで不正や腐敗を防げましたから。孫の婿探しに苦労しますが」
やっぱ同じ匂いが……。
「確か、シリウリードという弟君がおられたのではないですか? どうでしょう? 顔合わせだけでも」
同じだーッ!
でも、言っていることは分かる。
今の聖王国や世界教は力が落ちているっていうか、僕との縁が細いから今後の影響がどうなるか分かったもんじゃない。
シンシアさんが僕に迫ったのもその一つで、婚約者のいないシリウリード君にっていうのも分かる。
此処でそれを言う? とも思うけど、まだ会議が始まったわけじゃないし……フィノ、任せるよ、と念話を送る。
「全くもう……。シリウリードには自由に恋愛をしてもらおうと思っています。私も近々発表のあるお兄様も恋愛結婚の面が強く、少なくとも最初の一人は自由にさせたいですね」
周囲の反応にも気遣ったセリフ。
睨まれてシュン君だからって幻聴が聞こえたけど、流石フィノだ。
シリウリード君には苦労を掛けちゃうけど、うん、頑張ってもらおう。
「好きにアプローチしてよろしいと?」
「節度を守って頂ければ。ただ、現在此処に弟はいません。出来れば全てのことが片付いた後にお願いしたいと思っております」
シリウリード君に思いつく限りの魔道具を作ってあげよう。
魅了や惚れ薬とかを中和するとか、アルコールとかにも気を付けないと。
まだ飲める年じゃないからあれけどね。
「それは良い事だ。だが、将来兄君となられるシュン殿が一人顰め取らないというのは些か……」
「英雄ともなれば多くを娶り、その血を後世に残すのが義務。代弁者ともなれば尚更」
「それに我々はシュン殿の力を知らない」
やっぱり反対勢力? みたいなのがいたよ。
言い方も貴族みたいでカチンとくる。
僕も貴族なんだけどね。
僕の血を残しても良い子が生まれる保証も無い。
それに僕達の子には普通の生活をさせたい。
一般的な普通の枠は無理だろうけど、僕とフィノで愛情を注いで、片時も離れず、しっかりと生きられる術も教えて、まあ普通の家庭として育てたいね。
「それは我が王国に挑戦する、という意味でよろしいか?」
空気が悪くなったのを察し、ローレ義兄さんがグラスを持って近づいてきた。
「そ、そのようなことは言っておらん。私はシュン殿の我儘について――」
「我儘? 一人の者を愛したい、そう思うのが我儘だと仰る。貴族の中には一人しか愛さない者もいよう。それは英雄であっても同じ」
「だが、その血を残さねば途絶えてしまう可能性がある。それは王国の弱体に――」
「我が国はシュンに頼っているのではない。影響が少ないとも言わぬ。だが、影響があるのと依存は違う。王国は自らの力で発展を遂げている、これからもそうだ」
言外に王国の武力を舐めているのか、と聞いてるんだと思う。
レオンシオさんの目が剣呑になっているし、侮辱されたととってもおかしくない。
「それは帝国も同じことだ。そうであろう、レムエストル」
「はい。お二人は大変想い合っておられる。その中に亀裂を入れ災いを呼ぶのはどうかと思います」
ダグラスさんとレムエストルさんの援護射撃。
「嬉しいけど、なんか失礼しちゃう」
「本当のことだから何も言えないけどね」
両者が言っていることが間違いじゃないって分かる。
でも、どうしても二人目を、とは思えないんだ。
フィノに不義理なことをしたくないし、二人目を同じように愛せるかって言われたらそうは思えないもん。
「俺もそう思うぞ。それにな、今シュンに結婚がどうの、子供がどうのと言っても無意味であろう。早くても子供が出来るのは三年ほどかかる」
クロスさんもこちらに味方する。
「邪神の集団はそんなに待ってはくれない。だからこそ、全ての国と種族の意思を固めるためにこの会議を開いたのだ。シュンはその要となる存在だ。場を考えよ」
まあ、僕みたいな子供だと見て分からないものだから仕方ない。
それを確かめる発言だったかもしれないしね。
あわよくば、と思っていたのもそうだろうけど。
「聖王国もシュン殿とフィノリア王女殿下に味方しよう。我が部下より二人のことはよく聞いておるのでな。我は馬に蹴られて死にとうない」
「フェルナンド聖王の言う通りだ。馬では済まないだろうな」
ちょっ、二人とも何言ってくれてんですか!?
これも否定できないからあれだけど。
「それに技術は教えると言っておるのだ。文句を言える立場か?」
「で、ですが、シュン殿の力が噂通りだとすると」
「シュン様がそのようなことをするはずがありません。加護持ちがそのようなことをすれば神々の裁きを受けるでしょう」
メディさん達は加護を与えた人を良く見てるからね。
フィノのことを有難いほど心配してくれるぐらいだしさ。
「それこそ挑発するような言い方を止めるんだな。これからの戦いはシュンがいなければ負ける可能性が大いにある。シルヴィア教皇も代弁者だと認められた。この場に集まっている者がそれを理解できないわけではあるまい」
ローレ義兄さんにまで代弁者だとか言われるとムズムズする。
まあ、やってることは手出しできないメディさん達のお手伝いとかと思えばあながち間違ってないんだけど、いうほど敬虔な信者じゃない。
後ろめたさが凄いんだけど。
どうにか矛が収められた。
そもそも四大国に敵う国はいないし、こっちにはグランドマスターや各種族も味方に付いてる。
知らないところで話が進んだから、少しでも利を得ようとしたのかなって感じ。
「僕にはよく分からないや」
「シュン君はそのままでいいよ。そのままいてくれたら皆幸せになれるから」
「うん、間違ったらフィノが正してくれるもんね」
「引っ叩いて目を覚まさせてあげるね」
そ、それはちょっと……。
まずは挨拶、そして皆の意思統一をすることになった。
僕は氷魔法で部屋の涼しさを保ち、ローレ義兄さん達が話すことに捕捉しながら進めていく。
「纏めると、再来年の冬――一年半年後――の間に邪神の集団が攻めて来る。それをどうにか防ぎ、世界が終わるのを阻止しなければならないということだ」
「つい先日我が国とビスティアが襲われたのは承知のことだろう。それ以前にも各地で起きていた事件は邪神関係だと調べがついている。恐らくここ一年が濃厚だ」
「光神教に正式な回答を求めてみたが、探りを入れた時には上層部は蛻の殻となっていた」
「シュン様から頂いた魔道具と聖水で操られていた人達の解放に成功しています。まずは自国の中に同じ者がいないか対処するのが先でしょう」
四大国とシルヴィアさんが中心になって進めていく。
その光景に他の人達は事態が深刻なのを改めて思い知り、分からないことを質問して情報の共有を図る。
それでも信じられない様で、こんな質問が僕に飛んでくる。
「邪神はシュン殿を狙っている。言いたくはないが、シュン殿が離れたらどうなるのだね?」
フィノの眉がムカッと動いた。
でも、このことは聞かれると思ってたから相談して回答を決めてる。
「邪神の狙いは僕かもしれません。ですが、幹部や下っ端の連中が同じ目的だと言い切れません。ビスティアでは自分達の強さを見せつけることを目的としていました」
「うむ。我ら獣人は確かに強いが、何故かSランクはいてもSSランクはいない。我が愚息ハクロウも理由はどうであれ、自分の弱さに付け込まれていたな」
十分強いと思うんだけど、やっぱり魔法や魔力の運用法に長けてないとどうしても負けちゃうんだ。
僕は極端だけど、魔力で強化した一撃ならフィノや師匠の方がハクロウより上だと思うもん。
決して、怪力だとか言ってるんじゃないよ?
「相手が何処を攻めてくるか分からない、ということだな?」
「そうなる。だからこそ、アルセフィールで生きる全ての者達が団結せねばならんのだ」
四大国が手を組んだのだから反対できない。
「これは悪い事だけではない。今まで関わらなかった者達との交流が起き、更なる発展に繋がるであろう」
それは絵空事だと難色を示す面々。
クロスさん達の視線が僕に向かい、映像の魔道具の発動準備に入る。
「僕はこの一年間各地を回り、多くの種族や人達の協力を取り付けました。エルフ族、ドワーフ族、獣人族……そして、噂にある魔族とも」
「魔族……!」
誰かが控えめに零した。
四大国は知っていることで、世界教は魔族にいろいろとあるけど、神の意思を尊重するからそうでもない。
魔族の排除を企んでいたのは光神教で、今思えば戦争の激化や邪神のことを隠すカモフラージュだったのかもしれない。
「魔族は皆さんが思っているような残忍な人達ではありません。僕達と同じように暮らし、子供達は遊び、魔物を狩って、酒を飲み馬鹿笑いをします。種族柄手が先に出ますが、そんなこと言ったら人族も同じです」
「だがね、魔族と言ったら悪の象徴ではないか。二百年姿を見ないが、王国は二年前に襲われたと聞くぞ? 他の種族はどうだ?」
そこも予想されていた範囲だ。
参加している師匠とドワンさんに視線を向ける。
「エルフ族はダークエルフ族と既に話を付けております。先代族長フレデリア、並びに七長、相手側の族長ディネルースの意見は一致し、恐らく交流が行われるでしょう」
今のところ子供達の顔合わせを行って、ディネルースさんとディルトレイさんは転移魔法を使って世界樹を見に行ったと聞いた。
後のことはお互いに少しずつ近寄っていく努力をするしかなく、僕達はそれを見守るしかない。
「儂らも同じだ……納得は出来んが。まあ、顔を合わせなければいざこざも起きん。エルフ共が矛先を収めたのだ。ドワーフも負けておれんってところだ」
微妙にツンデレ口調なのはスルーして、ドワンさん達もドヴェルクだからと喧嘩腰になるのは抑えることにした。
ドヴェルクの族長ババルンさんも顔さえ合わせなければ、と渋々だけど納得してくれている。
お互いに毛嫌いしているわりに頑固な所は一緒で、自分達こそが一番だって職人気質なんだ。
「我ら獣人は特にないが、獣魔族と混同するのは止めて頂きたい、これぐらいだな」
「獣人は人族がルーツ、獣魔は獣がルーツだと聞いております」
と、腕を組んだバルドゥルさんと兄である象のカムラさんが言う。
亀のカムロさんはビスティアの復興に携わっているそうだ。
「まずは魔族がどのような人達なのか自分の目で確かめる所から始めてください。大戦の記録や歴史や伝聞で怖さややったことを聞き及んでいるのは分かっています。ですが、魔族からすれば当時の人族達が何をしたのか伝えられているんです」
訴える様に、分かってもらえるように告げる。
「俺達は短命だ。場合によっては獣人族よりも生涯は短い。他の種族と違い二百年というのは何代も積み重ねばならない」
「それが重い歴史となる。だが、歴史というのは当時の者達の都合の言いように書き換えられるのが常だ。今やっていることも未来でどう伝わるか分からん」
クロスさんとダグラスさんの支援。
ローレ義兄さんは無言で頷き、フィノはそっと手を握ってくれた。
「いずれ魔族とも何かしらの形で顔を合わせることになったであろう。今回はシュン殿が仲介となり、敵ではなく味方で現れると言うではないか。心強いとは思わぬか?」
聖王フェルナンドさんも分かってくれている。
「今更拒否できないというのは分かりました。未来のために覇魔族の力も必要なのだと。ですが、それは信用できるのですか?」
僕はそのセリフを待っていたかのように立ち上がり、映像の魔道具のスイッチに手を置いた。
「これは魔大陸とを繋ぐ映像の魔道具です。これで現魔王ポムポム様と通信会談を行います。魔族が信用できるかは、ご自身の目で、耳で、実際に言葉を交わして確かめてください」
そして、映像の魔道具のスイッチをONにして、念話を繋げる要領で魔大陸から伸びている魔力の回線に繋げた。
「お、おおお……女の子?」
「この年端もいかぬ少女が魔王だと?」
「いや、背後に控える女は夢魔族のサテラじゃ。夜の女王と名高い女じゃ」
サテラさんは有名だったのか。
映像に目を向けるとポムポムちゃんが手を振って、何か緊張感が和らいだ。
いつもなら手を振ったら怒るフィノだけど、ポムポムちゃんには手を振ったりしても怒らない。
何故かはよく分からないけどね。
「こほん。この方が現魔王ポムポム様です。魔族はエルフ族同様に長命種族で、ポムポム魔王様は魔法に秀でた妖精族でもあります。その寿命はエルフと同等で、老いることはありません」
これ以上の年齢話は拙いからやめておく。
二人に目配せを送って自己紹介に入る。
心の中では呼んでるから、ちゃん付けしてほしいとか小声で言わないでほしいな。
『初めまして、エルファレンの皆さん。私が現魔王ポムポムです。気軽にポムポムちゃんと呼んでくださいね』
やっぱり平常運転だ。
サテラさんは頭痛が痛そうに蟀谷を揉んで、皆は呆気に取られている。
その心情をお察しするけど、逆に魔族に対する好感に繋がればって思うよ。




