ファミリア会議開幕前
ファミリア会議の通達を各地に送って、開催を一週間後に控えた。
会議自体は王国で行うけど、全ての国の人が集まるわけじゃない。
流石にそれは無理だからね。
使者が来るか、通信の魔道具か、この期間に条約とかを結んで任せているようだ。
僕は戦力を強化する魔道具とか聖水製作に携わって、今はフィノに加護の使い方を教えているところだ。
今の所、どうにか加護の力を意識できるようになって、ミクトさんの気配を掴めるようになってる。
加護が強いというのもあるだろうけど、僕と一緒にいた影響もあるんじゃないか、と力を与えているミクトさんが言っていた。
「フィノの加護は冥府の神ミクトランの最高位の物だ」
「闇魔法に適性と耐性と消費魔力の激減、その他の属性も恩恵があって、即死とかもしないんだよね」
「そう。冥府だからと言って闇だけじゃないんだ。光に対してもこの加護は強くなるし、アンデットに対して有効打を与えられる。呪われた武器も持てるし、邪神の攻撃にも耐性があるはずだよ」
邪神は運命、特に一人の人生に関わる道筋を司る中級の神だから、あれだけ不気味で悍ましい気配を持つ力でも闇ってわけじゃない。
負の感情と闇は似て非なるもので、今やっている魔法と加護の組み合わせに近い気がする。
煉獄の黒炎だって僕は使えるし、一番分かりやすいのは呪いかもしれない。
「この加護がしっかり使えていたら何か変わったと思う?」
フィノは震えそうな声で聞いてきた。
「そうだね……。加護も万能じゃないから、何も変わらなかったかもしれない。ありきたりな言葉だけど、そういったことで過去を振り返っても意味はないと思う」
「『もしも』は気にしても意味ないってこと?」
ま、そういうことだね。
ただ、思うなとは言えない。
そんなこと言ったらビスティアや魔法大国のことを悔やんで仕方がないから。
たくさんの人が傷付いて、亡くなって、今でも邪神の力になっているだろう。
出来れば過去に戻って対処したいとも思う。
「シルが後悔して自分を責めているようだったから、前を向こうって言ったんだけどね」
「心配していたよりも元気だったのはそういうことだったんだ」
シルは学園で事情説明を行っている最中だろう。
あの一件以来独り立ちしたとでも言えばいいのかな?
自分が出来る最善を選んで自ら行動しているように思える。
よく相談事もされるし、強くなる為に自分で考え、皆で話し合い、意見を聞いてくる。
「仲が良くなってくれて一安心だよ。そっか、悪いことばかりじゃないんだね」
緩んだ表情になって、納得したフィノ。
「何度も言うけど、フィノとの出会いだって良い事だよ。学園に入っていろいろあったけど、友達は出来たでしょ? 文化祭や林間学校、雪合戦もしたし、思い出はたくさんある」
全てを良くすることなんてできないんだ。
光があったら影が出来るように、良い事があればどこかで悪い事が起きる。
アルセフィールに住む全種族が手を組むのだって。
今だってそうだ。
前世での不幸は今の幸せで、いろいろと思惑が重なったけど力があるから最前線で戦う。
邪神の上司である神は捕まって牢獄行きだし、邪神だって狂うことはなかったはずだ。
「その思い出、これからの楽しい未来を守る為に困難を乗り越えるんだ」
「わかった。私も頑張るよ! 一緒に切り開いて、幸せな日々を勝ち取ろうね」
この笑顔を護るためにも僕は頑張るんだ。
それから数日後。
僕とフィノは一旦加護の練習を切り上げ、会議の準備と祭りの準備をしている。
会議の準備は主にローレ義兄さん達が中心になってて、僕やフィノは映像の魔道具の設置や料理の献立、一堂に各地の偉い人達が集まるから襲撃されないよう防衛準備もしないといけない。
祭りの準備はギルドと連携して取り掛かってる。
ギルドを通して各地に祭のことを伝えたり、転移魔法で物を届けて王都以外でも祭りを開く準備をして、祭りではエルフ達が作った料理や薬、ドワーフ達が作った武具や魔道具も売る予定だ。
僕とフィノは練習で作った加護の籠ったペンダントとかを売って、フィノに神様はこんな感じだと教える為に作ったメディさん達の人形も売る予定だ。
人形には秘密があって、あれは本当に神様の像なんだ。
これが布石になってほしいと思う。
「そろそろ来る頃だね」
「会議に出席するのは四大国のシュリアル王国、ジュリダス帝国、ガーラン魔法大国、ドミアス聖王国の王族四人。エルフ族、ドワーフ族、獣人族、魔族の代表四人。グランドマスターや他の国の代表者もだよね?」
少し緊張してきて、何度目かの確認をフィノに取ってしまう。
そんな僕の様子に呆れたようにクスリと笑って、少し恥ずかしくなる。
あ、グランドマスターは役職じゃなくて名誉職や顧問的な立場のお爺ちゃんだよ。
元々SSランクになると言われていた人で、結局はなれなかったんだけど、実力は今でもSSランクはあるらしいよ。
「そういう所が可愛くて好きだよ」
そこは格好いい……は無理だね、うん。
「後はシュン君やアリアさんと同じSSランクが二人だったかな? 帝国にいる荒ぶる鬼神アシュラ、聖王国の輝きの聖女シンシアの二人。魔法大国にもいるんだけど、もう歳だから弟子が来るんだったっけ?」
「鬼神に聖女かぁ。僕は白狐で、師匠は魔女や悪魔だもんね。なんか違う気がするよ」
「ふふふ、接してみればそうでもないんだけどね。噂だけだとどうしてもそうなっちゃうよ」
白狐が悪いとは思ってないけど、賢者とか大魔法使いとかなんか憧れるんだもん。
恥ずかしいと思う反面、何か良いなって思う。
「他にもSSランクはいるんだよね?」
「いるという話は聞くよ。でも、ギルドでも把握しきれてないところがあるの。煉獄がいい例だよ」
「敵に回っている可能性も高いってことか」
姿が一年以上見えないってのはそう思っていいのかもしれない。
「フィノもSランクの実力になるし、加護を使えるようになったら僕達の仲間入りかな?」
「そうなったらどんな二つ名がつくと思う?」
と、期待する笑みを浮かべて顔を近づけるフィノに、僕はうっと息が詰まる。
下手したらその二つ名がつきそうな気がするからだ。
「ぶ、無難なのは僕と対をなす黒狐とか? フィノも狐の格好にする?」
「ん~、それはぜひやってみたいんだけど、戦闘中はねぇ」
何か嬉しい。
あの白い狐のコートと仮面はお気に入りなんだもん。
「じゃあ、エアリもいるから天空の……黒姫? とか?」
「何で疑問形なの! でも、それは良いかもしれないね。シュン君は白だから髪も白くする? いや、似合わないかも」
もう少し成長したら白髪、いや、銀髪か灰色っぽい色なら大丈夫かも。
でも、フィノとお揃いの黒髪を変える気はない。
仮面を被ってれば黒髪でも問題ないしね。
「ま、二つ名は僕達が決めるものじゃないし、楽しみに取っておこっか」
「うん!」
これから活躍したら嫌でも付くだろうからね。
「参加するのはかなりの人数になりそうだね」
「各国の重鎮や王族が全員参加する今までにない大きな会議だからね。話の内容も一国が決めて良いものじゃないし、ここが一番大切で大事なところなんだよ」
四大国が手を取り合うところまで来ているし、元々確執があったのは隣国の王国と帝国だった。
不穏な聖王国は詳しい話を聞いてみないと分からないけど、世界教は信用できると思う。
光神教は音沙汰がなくなったから身を隠したんだろうね。
「だからSSランクとか凄腕の護衛が選ばれてくるんだね」
「そう、シュン君もその一人だからね。アリアさんはエルフ族の族長でもあるわけだし」
王国の護衛は騎士団長のレオンシオさんで、僕には他の役がある。
「それにシュン君は皆の中心なんだからしっかりしてよ。ふふふ、私も隣で支えるから頑張ろ」
と、僕の腕に抱き付くフィノ。
「緊張するから言わないでよぉ。まあ、フィノがいれば大丈夫だけどさ」
「嬉しいな」
「それに、いつも通りやるだけ。最善を尽くすだけだ」
そして、更に数日後、祭りの準備をする中、各国の重鎮が続々と集まって来た。
数日の間に魔大陸へ飛び映像の魔道具を繋いでテストを行い、打ち合わせを終了させる。
ビスティアに転移してバルドゥルさんを連れてきたり、何処にでも転移できるよう準備もした。
聖王国やグランドマスター達を除けばほとんどの人を転移で迎えに行ったんだけど。
「久しいな、ローレレイク国王よ。先代国王夫妻は息災か?」
「お久しぶりです、クロス魔法王。父も母もシュンのおかげで前より動かれますよ。ララさんもお変わりない様で」
にこやかにクロスさんがローレ義兄さんと握手して、背後に控えるメイド姿のララさんは会釈する。
そしてもう一人、恐らく魔法大国が抱えるSSランクの弟子って人だ。
僕と目が合い、じっと見ていたのがぶしつけだったようで睨まれちゃった。
そこに帝国から来た皇帝ダグラスと次期皇帝の皇太子レムエストルが近づいてきた。
第二皇子のシュビーツさんはいない間の纏め役をするそうで、訪れた時に成長して大きくなった召喚獣とも会った。
「初めまして、でよろしいかな? 余が今のところ皇帝のダグラスだ。とはいえ、この会議の終了までだがな。クロス殿も久しいな」
「レムエストルと申します」
この会議でレムエストルさんの功績を挙げて、王国はローレ義兄さんに王が変わったし、クロスさんも若手の方に分類されるから、タイミングとしては丁度良いとのこと。
聖王国はよく分からないけど、似たような感じになると思う。
「初めまして、ダグラス皇帝、レムエストル殿。私はシュリアル王国国王ローレレイク。過去の遺恨はひとまず流し、此度の招集に参加いただき助かる」
「いや、あれはこちらが悪かったのだ。それよりも此度の相手は強大であろう? 生き残る為にお互い手を取ろう」
そういうけど難しい所だ。
僕達よりも、実際に被害に遭った人や亡くなった家族は飲み込めないだろうからね。
だから、多分だけど連携とかの問題から防衛に関しては各国ってことになると思う。
お互いの国が離れているのもあるし、一応物資だけでも転移とかできるようにしても良いし、召喚獣や収納袋をたくさん作って聖水やポーションを持ち運んでおくとか対策を練ってる。
エルフ族や獣人族はそこまで遺恨があるわけじゃないから各国に配備できるし、魔族は危険な時に転移魔法で駆けつけることもできる。
魔族自体の戦力は一番高いし、あそこは魔物も十分に強くて、彼等は自由にさせた方が戦力になる、とポムポムちゃんが言ってた。
そして、すでに到着していたグランドマスターや各国の重鎮達が続々と集まって来た。
「ふぉっふぉ、久しいなシュンよ。いろいろと噂を聞いとるよ。この祭りでも何か売るとかのぅ」
「商業ギルドもシュン様のおかげでりょーさん稼がせてもらっとりまっせ。っと、ウチは商業ギルドの取り纏め役や。よろしゅうな」
好々爺しい笑みを浮かべた若々しい老人と、恰幅の良いそれでいてただものではない雰囲気を持つおじさん。
「初めまして。冒険者ギルドにはご迷惑をおかけしました。商業ギルドにも無茶な注文を助かってます」
「いやなに、それぐらいどうってはことない。若いうちに思う存分迷惑をかけるんじゃ」
「そうやな。ウチらは嬉しい悲鳴を上げとんのや。それよりも、そちらが婚約者のフィノリア王女殿下で? ごっつ別嬪な方を貰いおったな。羨ましい限りや。これも英雄の持つ力っちゅうわけか」
グランドマスターというだけはある。
フィノも一瞬で丸め込まれてしまった。
別に悪い事はないんだけどね。
各人は挨拶をそこそこに、この日の為に用意した円卓に座っていく。
この会議は誰かが力を持つようなことをしては駄目で、後のことも考えると平等性が覗える円卓が一番だった。
特に王国は僕の影響も強くて、今のところ中心だと思われてるからね。
実績から危険視はされてないけど、力・技術・種族といろいろと集まってるから今のうちに出来る限りそこを均等にしないといけないんだ。
だからこそ、この会議を開く意味もあるわけだ。
「師匠はこちらに」
「ああ、すまないな。それと何か飲めるものを頼む」
「では、フルーツミックスにしますね」
最早魔法を隠す意味も無く、空間に手を突っ込みドワンさん達に用意してもらったグラスを取り出し、皆の注目を集める。
グラスはキンキンに冷え、白い冷気が茶色いテーブルの上を徘徊する。
指を鳴らしてグラスに氷を入れ、そこに音を立てながらジュースを注いだ。
「ふぉー、美味そうなジュースじゃな」
「飲んでみますか? 他にもシュワシュワと弾ける炭酸、運動後に最適なドリンク、優しい甘味のある抹茶やエールではないですけど麦から作ったお茶もあります」
「うむ、抹茶とやらを貰ってみようかの」
「商売上手やなぁ。ウチは炭酸とやらを」
護衛の人が一口付けて、誰もが口を付けていく。
特に狙ったとかはないけど、やっぱり本音を聞くには美味しい物を食べてリラックスするのが一番だ。
祭りの準備を見てきただろうし、夏だからすぐに喉も乾くしね。
それから数分後、外に待機していた騎士から来訪の声が響いた。
四大国最後の一角聖王国の聖王と世界教の教皇が来たのだ。
入ってきたのは赤いマントを羽織った銀髪の壮年、付き従う煌びやかな鎧を着た騎士。
アルタは聖王の指示で学園に通っているけど、この場に来れる立場ではない。
僕とフィノは二人の存在感に目を惹き付けられる。
そして、次に入って来た悪魔、そう、僕にとって最悪のセリフを吐く女性が入って来た。
「貴方がシュン様ですね? 私なんか、どうです?」
部屋に入るなり僕を見つけ、駆け寄ると手を取りそう言ったんだ。
それも魅了する笑みを浮かべて。
「え? どういう……?」
僕はそう返すしかなく、頭の中は真っ白になってた。
ひしひしとフィノの様子が変わっていくのに、余計に混乱が広がるんだ。
「そのままの意味ですよ? 申し遅れましたが、私は聖女シンシア・ヴァレンタイン。同じく加護を持つ者です」
同じですよ~、と言われても……
「シュン君?」
ひいいいぃぃぃぃぃぃやあああぁぁぁぁぁぁ!
何でこうなるの!?
本を読むだけの時は登場人物紹介やキャラ紹介を何となくで見ていました。
自分で書く様になってそのありがたみが分かります。
第二皇子シュビーツの召喚獣の名前をどこかで出した気がするんですが、全く思い出せませんし、探し出せません。
もしかしたら出していないのかも……でも、猫がどうのと書いた覚えも……消したのかな?
それとですね。
フィノの二つ名の伏線的な会話がありますが、実際二つ名を考えてないので多分出さないと思います。
技名や詠唱を考えるより難しい気がして……。




