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怒りのシュン

「ぐっ、く……くそ! くそぉぉぉぉッ!」


 悲鳴と戦闘の音が響き渡る中、ここだけ静かだった。


 人外と称されるSSランクの圧倒的な力の前に一瞬で蹴散らされたアル達。

 まんまとシリウリードを攫われ、アルの悔しむ声が響き渡る。

 誰もがシリウリードが攫われたことに自分を責める。

 死を体現する力に恐怖し、身内に裏切り者がいたことに憤る。


「アル! すぐに治療するから動かないで!」

「じっとしていてください!」

「す、すまねぇ……ごほっ」


 一番ダメージが深刻なアルの治療を行うクラーラとシャル。

 レンもリリ達から回復魔法を施してもらい、沈鬱な思い空気が漂う中集まり出した。


「くそ、くそ……」

「分かります……分かりますから喋らないでください。悔しいのは皆同じなんです」


 クラーラの目から零れた涙がアルの頬に落ち、ギリリと鳴るまで歯を噛み締める。

 骨に罅の入っている拳も握られ、手甲を外しそっと手を添えるシャル。

 その目にも大粒の涙が浮かび、顔が歪んでいた。


 赤黒い炎で閉ざされた東門。

 その光景は彼等を更に暗くするのだった。


「もう、大丈夫だ」

「まだ回復しきっていません!」

「いい! それよりも!」


 粗方治療が終わり、全員が集まった所でアルは身体を起こす。

 そして、いつもの明るい顔を憤怒の形相に変え、一人佇む少年を射殺さんばかりに睨み付けた。


 全員の目も少なくない憎悪や怒りに染まり、その少年――アルタに向く。


 彼が本当に裏切り者なのか。

 あれだけ仲良くしていたアルタが。

 信用していたのに。

 お前のせいでシリウリードが。


 そう物語る視線が幾つも突き刺さる。


 アルはシャルの手を借りて立ち上がり、一歩ずつ近づきわなわなと怒りで揺れる拳を振り上げた。

 そして、文句の一つでも言おうとしたその時、


「お前のせい――」

「クラーラさん、シャルさん、リリは東門へ水魔法の準備を! 俺、レックス、レンさんは門を突破します!」

「なっ、なにを言っている!?」


 俯いていた顔を上げたアルタが、突然全員に指示を飛ばしたのだ。

 当然アルは訳が分からないと困惑するが、一刻の猶予もないと有無を言わさぬ口調で剣を構えた。


「俺は敵ではありませんよ。逆に国からシル君、シリウリードを護るよう指示を受けた護衛です」


 魔力が高まり、構えた剣に高密度の水が渦巻き始めた。


 アルタは地魔法だったはず。

 しかし、今はそれに気付ける状況ではなかった。


「ど、どういうことだ? 現にあいつは!」


 他の面々も意味が分からない、と首を振って説明を求める。

 アルタは舌打ちしそうに眉を動かし、一瞥することなく手短に答えた。


「誰が敵だと言ったんですか? 敵ですよ? 俺と敵の言うことどちらを信じると?」

「っ! だ、だが、共謀とも考えられる!」

「それこそ俺が残った意味がありません。今は外に出てシュンさんに連絡をしたいので、あの門を破壊するのを手伝ってください! 早く!」


 門へ足を向け、皆に無防備な背中を見せる。

 怒りに染まっていた皆は毒気を抜かれ、困惑した状態で隙だらけの背中を見ていた。


 展開が急すぎて付いて行けないのだ。

 突然の襲撃、頼りのシュンと連絡がつかず、SSランクという絶望、シリウリードの誘拐、敵かと思えば味方だという。

 訳が分からない。


 そんなアルタの背中に声がかけられる。


「ま、待って……一つだけ、一つだけ聞かせてください!」


 最も信頼しているリリだ。

 アルタはその声にピクリと反応し、振り返らないも足を止めた。


「アルタさんが敵ではないというのなら、何故……何故シル様が攫われるのを黙ってみていたんですか!? 護衛なら駄目でも戦ってほしかったです!」


 信頼していたのに、とアルタの胸に鋭い針が突き刺さる。

 拳を握りしめ、剣先がやや上がった。


「そうだね。でも、俺に与えられた指示は最悪の事態を回避すること。名目上シル君の護衛だったんだ」


 誰からの指示か。

 あの魔道具の通信先の男がそうなのだろう。

 少なくとも歳を取っていた声だったのでシュンではない。


「あそこで俺までやられるわけにはいかなかった。狙いはシュンさんだろうから。必ず通信しなければ被害が大きくなっていたはずだ」

「北門に向かったツェルさん達がいるだろ?」

「北門は時間がかかります。それに僕達の状況が分かりません。その分シュンさんが事態を知るのが遅れます。何よりあちらにも刺客が行っていることでしょう」


 すでに誰が裏切者か分かっているアルタは告げる。

 目を端に向けたその先では、先ほどまで治療を受けていたスティルの姿が無く、裏付けとなっていた。


「このことはシル君も知っていることです。シル君が自分と国や国民や貴方達を天秤にかけたんです」


 何を思い出したのか、アルタの口元が上がった。


「ですが、通信の魔道具は壊されました。どうやって通信を?」

「そう言えば、お前は誰かと通信していたって聞いたぞ? シュン先輩か?」


 破壊されたペンダントを見やり、シリウリードから相談を受けていたレックスが思い出す。

 が、アルタは首を振り、中指に嵌めた指輪を見せる。


「あのペンダントも通信の魔道具だけど、この指輪もシュンさんが作った通信の魔道具だ。シル君から手渡されていた物だよ」

「ってことは、元々襲撃があると知っていたのか?」

「いや、誘拐されるかもしれないところまでは俺もシル君も学園長も知っていた。大がかりな襲撃は想定外だったんだ」


 アルタは剣を構え、突撃の体制に入る。


「それにあのペンダントは壊れることでシュンさんに知らせる効果を持つらしいよ。元々は何かあった時の護衛用だったみたいだけど、刻印を壊してその効果だけ持つようにしたんだ」

『何ぃぃ!?』

「だから、あの門を壊すのを手伝ってほしい。まだシル君を助けられる時間があるから」




 ビスティアの襲撃を収めたのも束の間、シリウリード君が攫われるという報告が入る。

 今のビスティアから離れるわけにはいかず、初めてフィノと離れて行動する決断を取ることになった。


 今の僕は誰にも負けない。


 ビスティアを襲った奴。

 ガーラン魔法大国を襲撃した奴。

 シリウリード君を攫った奴。

 フィノと離れることになった原因を作った奴。


 僕はねぇ……今までにないほど怒ってるんだよ。


「シュンさん! 申し訳ありません! 俺の――」


 転移早々謝罪してきたアルタ。

 僕はその謝罪を受け入れず、逆に肩に手を置いて謝る必要はないと首を振って笑いかける。


 怒りで変な笑いになってないよね?


「謝らなくていいよ。皆が無事で何よりだ。抵抗していたら殺されていたはずだからね」

「すみません、シュンさん」


 フィノ曰く、態々このタイミングでシリウリード君を攫ったのは僕を誘き出す為。

 なら殺さなず人質にっていうのが当たり前だって。


 SSランクの煉獄という人物は超の付く好戦的な殺戮者で、強い者相手にはなんでもするそうだ。

 僕が日頃本気を出さないのは知られているし、同じSSランクとして戦ってほしいのなら僕の怒りを誘い出すって。


 だから、僕が大事にしている物を壊すのが一番で、それをしなかったのはしなくても僕が本気を出せるから。

 殺さないのは邪神の関係者だからだろうって。


 僕のセリフに身体を強張らせたアル達を見た。


「今まで黙っていて悪かったよ、ごめん。皆には怖い思いをさせたと思う」


 一言ぐらい文句を言われてもしょうがない。

 友達になれたのにいなくなっても仕方がない。

 それだけ死ぬ、死にそうになるというのは思っている以上にきつい所があるからね。

 相手は圧倒的なら絶望もある怠し。


 と、思っていたけど、アル達を僕は見くびって、下に見ていたようだ。


「シュン! 俺達を侮るな! 確かに強くて、怖かったさ。だがなぁ……それ以上に目の前でシリウリードが攫われて頭に来てんだよッ! 強くなったのによぉ、無駄だったのかってよぉ……」

「アル……」


 シャル、クラーラ、レン、それにシリウリード君の友達。

 皆、僕が思っていた以上に強かった。

 これが初めての戦争だったかもしれないのに。


「そりゃあ、これだけ大勢が殺気立って殺し合うのは吐き気がするわ。でも、人死には初めてじゃないのよ」

「わ、私は初めてですけど……今は、それどころじゃありません!」


 そっか、そうだね。


「いろいろと聞きたいことがあるだろうけど、それもシリウリード君を助けてからにしてほしい」


 僕達が戦っている相手とか、今から起きることとかね。

 ここまで来たら国も隠していられないだろうし、混乱を避けるためにも周知されるはず。

 だから、ビスティアでは僕の正体をばらしたんだ。

 士気を高め、不安にさせないために。


「だけどよ、どうやってシリウリードを助けるんだ? 相手はSSランクだし、転移できるからと言っても難しくないか?」


 アルの疑問に皆頷いて難しい顔になる。

 魔力が繋がっているペンダントがあれば簡単だった。

 でも、やりようはいくらでもある。


「SSランクに関してはどうでも良いと思いますよ。シュンさんもSSランクですから」

『は?』


 あ、そこは知らなかったんだ。


「あ、うん。僕は『幻影の白狐』っていう二つ名持ちのSSランクだよ。だからSSランクを倒せないこともないから安心して」

『いやいやいや!』


 うん、その反応は分かるけど、今は時間がないんだ。


「こほん。シリウリード君の場所は……うん、これぐらいの妨害なら対処できるから魔力を辿れると思う」

「さ、流石シュン様……」

「シュン君ってるわね」


 ぅ、くっ……久々に聞いた気がしないこともない。


「はぁ、もやもやしていたのが晴れたぜ。ま、シュン、俺達は足手纏いにしかならねえから頼む。俺達がしっかりしていればよかったんだが……」

「己惚れていたのかもしれないわ」


 そんなことないと思うけど。

 見た所煉獄っていう奴さえ出なければ作戦通りだったみたいだからね。


 だから、煉獄という奴は許さない。

 邪神のカードの一つだろうから潰してやる。


「ビスティアも襲撃を受けたのですよね? 大丈夫なのですか?」


 それはビスティアの心配ではなく、僕の心配みたいだ。


「魔力は減ってるけど、ポーションがあるからね。最悪、煉獄っていう人をどっかの大陸に転移させて逃げるよ」


 何も転移は自分を飛ばす魔法じゃないからね。

 ゲートを作って放り投げる、この方法なら魔法の抵抗が凄かろうが関係ない。


「何か、もう……卑怯を通り越してシュンだからって思うわ」

「それでも勝てない邪神というのが怖いですね」


 色々と何か言われるよりはマシ、かな?


「じゃ、僕は行くから無理しないでね」


 と、怪我をしているアルに視線を合わせて踵を返した時、アルタが僕の手を取って留めた。


「お、俺も連れて行ってください!」

「え? でも……」

「あっちにはスティルがいるはずなんです。せめてその尻拭いだけはさせてください! お願いします!」


 確かに不確定要素であるSSランクがいる今、魔力が減っている状態で二人と戦うのは止めておいた方が良いかもしれない。

 相手は学生であっても、邪神から力を授けられ、洗脳されているのなら気絶するまで来る獣人達の例がある。

 SSランクが強化されたらどうなるか……。


「わかった、連れて行こう」

「ありがとうございます!」


 アル達も行きたそうだけど、拳を握って笑みを浮かべた。


「アルタ、疑って悪かった。俺達の分まで頼む。今の俺じゃ、いつも以上に足手纏いだからな」

「そうね。シュンに無駄な魔力を使わせるわけにもいかないし、頼んだわよ。ぶっ飛ばしてやってちょうだい!」

「うん、任せて。僕に喧嘩を売ったんだから、オプションも付けて値引きせずに買わせてもらうよ」


 SSランク? 邪神? 知らないねぇ……。

 僕の大切な人を傷つけるのなら……ふふふ。




「いたっ!」


 こ、ここはどこです?


「クックック、ここは俺達の隠れ家の一つだ」


 古びた酒場、でしょうか?

 魔力感知が上手くいかないです。

 一体どこですか?


「……邪神の、ですか?」

「ああ、その通りだ。流石に知っていたか」


 名前は煉獄。

 凶悪な大剣、恐怖の刺青、狂気を孕んだ眼。


「どうして僕を攫ったんですか……」


 怖い……怖いですけど、これ以上の失態はできません。

 出来る限り情報を聞き出し、フィノ姉様達の力に……。


「知れたこと、俺は戦いてえんだよ! 肉を切った感触、骨を砕いた音、恐怖に苦痛に歪む顔、全て俺にこの上ない喜びをくれる! クックック、お前は極上の相手を誘き出す為の餌だ」

「それで邪神に……。そうまでして――」

「そうまでして欲してんだよぉ!」


 シュン兄様ですか……悔しくてたまりません。

 僕はこれだけはしないようにしようと思っていたのに、結局こうなって……!


 と、そこへ本当の裏切り者がやってきました。


「遅くなりました」

「スティル……ッ!」


 今までにないほど憎悪と怒りを覚えます。

 不甲斐無さもありますけど、あの楽しかった日常が嘘だと思うと……許せないんです!


「俺の名はアルティスだ。その名で呼ぶな、王子様」


 がらりと雰囲気も口調も変わっています。


「目的はシュン兄様みたいですけど、お前達なんて……敵ではありません! すぐに助けに来るはずですからね」

「おや? 王子様は兄君のことがお嫌いではなかったので? あれだけ嫌っておいて助けが来ると信じているとは。通信の魔道具は他にもあったのか……」


 くっ……人が不安に思っていることを!


「そうだったとしても、僕はお人好しのシュン兄様を信じているんです! 裏切ったお前とは違うんですよ!」


 言葉にしないと不安で仕方ありません。

 過去を悔やむことはもうやめました。

 ですけど、何故かシュン兄様のことを思うと……助けてくれないのでは、と。


「裏切った? 俺が、お前達を? ははは、俺がいつ裏切ったと? 勝手に信用したんだろう? 王子様の姿は滑稽だった!」


 ぐ、そう言うことですか!


「アルティス、ふざけるのも大概にしろよ? もし、あいつが来なければ命を持って償わせるぞ」


 心臓が握る凍る声に、嘲笑を浮かべていたスティル――アルティスの笑みが凍り付きました。


「も、申し訳ありません! あいつなら必ず来ます! ビスティアの方も手筈通りだったようで、楽しい戦いが出来るかと」

「ふん! 俺は強い奴を殺せればいい。楽しいのは分かるが、俺の気は短いってことを忘れるな」


 ビスティア?


「ああ、知らなかったのか。同じ時刻にビスティアでも襲撃したんだ。そうしないと弱ってくれないから」

「この卑怯者!」

「何とでも言うが良い。戦いは勝った者が正義、負けた者が悪なんだ」


 煉獄という化け物にシュン兄様が負ける……絶対に有り得ません!

 フィノ姉様を護るのならこのぐらい片手間で倒してくれます!


「そう言えば、アルタの奴はどうしたので? 揺れ動いている姿を見ているのは大変滑稽だった。何度笑いそうになったことか」


 僕は、こいつを一発殴らないと気が晴れません!


「アルタとはすでに和解しています! 罠に嵌めたと思っているようですけど、本当に罠に嵌めたのはこっちです! シュン兄様を嘗めないでください!」


 あのアルタが誰かと通信をしていた次の日。

 僕は決心したんです。

 もしアルタが敵だったのならそれは仕方のないことで、それなら率直に聞いてやろうとです。


 結局はアルタも僕に話しておこうと思っていたらしく、結果オーライでしたけど。


 と思えば、アルティスは顔を手で覆いクツクツと嫌になる笑い声を上げます。


「そんなことこっちも分かっていた。出来れば同士討ちしてほしかったが、まさか本当に聞くとは思わなかった。シュンを誘い出すことこそが俺の目的! 目の前で王子様がはいつくばっているのを見るだけで心が晴れる!」


 狂っています……!


「狂う? くはっ、狂っているに決まっているだろ!」

「くっ!」


 剣呑と狂気を孕んだ瞳。

 胸倉を掴まれ、その瞳が近づけられ恐怖を覚えます。


 手足を縛られ、魔法が使えないよう拘束もされ、抵抗が全くできません。


「俺はお前達のせいでこうなった! 帝国が負けたのも、両親が死んだのも、俺が狂ったのも、全部お前達のせいだ!」

「そ、それは……それは自分達のせいです!」


 僕達に責任がないとは言いません。

 ですが、邪神が何もしなければ、誰も暗躍しなければこうならなかったんです。


「くはは、確かにその通り。だから、俺は恨んではいない」

「なら、何故こんなことをするんです!」


 やはり操られてるってことですか!


「知れたこと。俺は何もかもがどうでもよくなったんだ。だから全てを壊そうと考えた。王子様、貴方に近づいたのも俺の為なんだ」

「邪神に力を借りてでもですか! 逃げただけです!」

「ああ、何とでも言うが良い。今の俺はどうでも良いからな。世界など壊れていいと思っているのだから邪神の手を借りようが心は痛まない。それよりもお前みたいにのうのうと過ごしているのを見ている方が腹が立って、全てを壊したくなるんだよ!」


 僕と同じようで違います……。

 最初は僕だってシュン兄様を恨みました。

 母上や兄上達が、ではなく、フィノ姉様に関してです。


 勿論母上達がいなくなったのは悲しい部分やどこか欠けたような気もします。

 ですけど、シュン兄様は……強くて優しくて僕が嫌っても邪険にすることが無く、フィノ姉様も明るくなって前よりも楽しいです。


 それは、僕が一人じゃなかったってことです。

 アルティスには……いなかったから……。


「クソ、俺をそんな目で見るなッ! お前なんかに憐れみを受ける理由はないッ!」

「ぐっ! がっ!?」


 魔法さえ使えれば……!


「お前が俺に? ふっ、笑わせるな! それにしても地べたに這いつくばる王子様……俺に優越感を与えてくれる、くはは!」

「っぅー……いくらでも言えばいいです! どうせお前達はもうすぐやられるんです! 今の内に吠えていればいいです!」


 僕にはわかるんです。

 もうすぐシュン兄様が来る。

 絶対に来るんです。


 僕を痛めつければ付けるほどシュン兄様がやってくれます。

 今なら、今ならシュン兄様に――


「弟をいじめるのはそこまでにしてもらおうか……屑共」


 その時、轟音が鳴り響いて天井が吹き飛び、怒りに染まったシュン兄様が降りてきました。

 魔力が荒れ狂い、優し気な笑みを浮かべていますけど、あれは本当に怒っています。

 口調が違いますし、魔力が可視化していますもん。

 それが頼もしく、煉獄の怖さも吹き飛ばしてくれるんです。


「お前がシュンかッ! この魔力、この力、この存在感、威圧、全てが俺の肉を滾らせる! ぶっ殺したくて血が沸くッ! 身体が疼いて、疼いてぇぇぇえええあああ!」


 だから、僕は――


「シリウリード君……もうちょっと待ってね」

「ぐすん……遅いです。フィノ姉様に言い付けてやります」

「ちょっ! ははは、それだけ元気なら大丈夫だね。――アルタ」

「はい」


 荒れ狂っていた魔力が収束し、フィノ姉様を護る時の怖く頼もしい目が向けられます。

 その横顔はかっこよくて、僕を安心させてくれます。


 安心したらちょっと癪に思いましたけど。


「こ、今度からシル……って呼んでも構いませんからね」

「……はは、ありがとう、シル君」

「君も、いりません……」


 ま、まだダメなんですから、早くそんな奴やっつけてください!

 そしたら、まあ、フィノ姉様との仲も認めなくもないです。


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