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道のり バラク

最近、スランプじゃないんですけど、そんな感じで執筆が進みませんね。

集中力が続かないっていうのが正しいかもです。

「片道一週間ぐらいかな?」


 ゴトゴト、ガタンと偶に車輪が跳ねる馬車の中。

 人のいない道を通って、遠回りをしても関係ないとばかりのスピードで行く。

 多少の障害は僕の魔法やロロの風魔法で更地に変え、草原を通っても車輪に付けた魔法が発動し軽快に進むんだ。


「今までにない長距離だけど、王国から魔法大国までの道のりを考えれば短いからね」

「ロロちゃんはかなりのスピード出してるもんね」

「時速四十キロ程度としても、普通の馬車の二、三倍。直線的で人がいない今なら七十キロぐらい出てるんじゃない?」


 車に乗るより速い速度だ。

 フィノだけでなく、馬よりも早いんだからフローリアさん達もどこか興奮している。


「すっげぇ……景色がぶれて見えるぜ」

「ぶれるというより、気付けば小さくなってるわ」

「これなら馬がいらないのが分かる」

「私達も付かれずに済む。シュン様フィノ様神様って感じ」

「こら、その言い方はないでしょう。気を抜くのは止めなさい」


 そういうフローリアさんも窓から目を離せない。


 窓には風が入ってこない結界が張られてて、安心して外の様子を見ることができるんだ。

 馬と同じだと思ってたら風で目がやられるからね。

 そうすると籠って来るのが熱気だけど、それは勢いよく回る羽が風を送って、上に付いている羽が換気してくれる。


「床に敷かれた絨毯? は何ですか? お尻が痛くないのですが」


 時間が無かったから柄とかはないけど、一センチくらいの毛がびっしりと生えた低反発の白い絨毯。

 少し衝撃を吸収する刻印が裏に刻んであるけど、この毛の弾力とびっしり感は高級品を思い知らせる。


「これは魔法大国の山に生息するスノーパンサーの毛皮だよ。絨毯にするならもってこいって聞いたからね」

「ス、スノーパンサー!? それに魔法大国の山って言ったら一年中雪で閉ざされた極寒の山ですよね!? 死に行くような物じゃないですか!」


 確かに寒かったけど、火魔法と結界を組み合わせておけば関係ない。

 氷魔法で雪を固定して埋もれないようにも出来るしさ。


 スノーパンサーは体長三メートルぐらいで、真っ白な毛皮を持つ可愛い魔物だ。

 二つ大きな牙が生えてるけど、可愛い魔物なんだ。

 肉食で獰猛な所もあるけど、屈服させれば懐いてくれて、ちょっと罪悪感を覚える豹だった。


 ま、全部が全部屈服するわけでもなくてね。

 フィノに襲い掛かった奴を叩きのめしたら屈服してくれた。

 そんな僕が護っているフィノが一番だと認識したようで、フィノにはゴロゴロと猫のように懐くよ。


「ロロにも遊ばせてあげたんだけど、見た瞬間に上位存在だって気付いてね。まるで家族みたいだったよ」

「帰ろうとしたらついてくる所もね。ロロちゃんの困った顔は笑っちゃった」

「くぅ~ん」


 エアリは寒い所が苦手らしく、風の強い春のような気候が適しているみたい。

 今度温かい所に空を飛んでピクニックにでも行こうかな、と計画中。

 ロロは狼だけど、犬じゃないし、どっちも雪に関係するから大丈夫だね。


「強くなったと思っても、蛙の中ということですか……はぁ」

「そう気を落としてはダメですよ」

「隊長……。そう言っても、護衛するのが複雑です」

「分からなくもないですが、私達はお二人が手を出す前に対処する役目なのです。護衛でもやりようがあると理解しなさい」


 そうは言うけど、皆飛躍的に強くなってる。

 僕はメディさん達の加護とかが無かったらここまで強くなってないと思う。

 魔法をばかすか使えるのも魔力量の上限がないからだしさ。


 フィノはそろそろ魔力量の上限になってきて、それでも三十万を超えてる。




 王国から二日、大体十五時間ほどで迷宮都市バラクに着いた。


「二年ぶりだね」

「うん、久しぶりな気もするけど、全然時間経ってないんだね」


 二年は長いのか短いのかちょっとあやふやだけど。


「まずは今夜一泊する宿を探しましょう」


 今は馬車から降りて徒歩で移動中。

 全員の身分確認があるからだ。


 馬車に物を置いて、ヤバそうな物だけ収納しておく。


 ロロだけはちょっと問題があるからそのままだけど、ここには召喚獣を連れた人が多くいるからね。

 狼型の召喚獣も結構いるんだ。

 鼻が利くから迷宮で利用できるんだよ。


「宿屋なら僕達が泊まってたビスマっていう高級宿屋が良いと思う。お風呂も付いてるし、部屋も広いんだよ」

「警備のなっていない場所へ泊るわけにもいきませんので、ビスマという宿屋にしましょう」


 ロロに驚いている通行人に苦笑しながら頭を下げる。

 ロロはこんなに可愛くて人懐っこいけど、見た目は狼だからね。

 怖いものは怖いんだろう。

 牙とかさ。


「お風呂気持ちよかったね。私としてはロリアの温泉が良いけどね」

「僕も温泉が好きかな。綺麗になったって感じがする」

「そう! 私も綺麗になったって感じがする、あと、お風呂上がりのミルクも良いね」


 そう言って僕の腕に絡みついて来るフィノ。

 最近発育も良くなって、フィノは着やせするタイプだからね。

 こうやってくっ付くとその柔らかさとか、出てるとこと引っ込んでるところが分かる。


 おくびのも出さないけどね。

 笑ってればこれぐらいどうにかできるはず。


「はしたない、と注意すべきなのでしょうが」

「お二人はこの関係性がしっくりきます」

「邪魔しないで見守るのが一番ですよ」


 こういうの女性は好きだもんね。

 今日はフィノと同じ部屋か分からないけど、きっとガールズトークとかするんじゃない?


 ボーイズトークは……


「あんなにくっ付いちゃって……羨ましいっす!」

「まあまあ、血涙を流そうとも俺達とは次元が違うんだ」

「お前達、考えを改めるんだ! いつもは男の中で訓練だが、今回は女の方が多いんだぞ? もしかしたら俺達にもチャンスが!」

『なるほど……。頭良いな、お前!』


 あるみたいだけど、ガノンを筆頭に嫉妬と欲に塗れてる。

 やるなとか言わないけど、そう言うのは聞こえるように言うもんじゃないと思うよ。

 白い目を向けられて、関係ない僕が申し訳ない気持ちになるから。


「次!」

「っと、僕達の番みたいだね」


 入国審査の順番が来た。




 僕とフィノは以前使ってた名前だけのギルドカードを使って入る予定。

 フローリアさん達はこの時の為に作ってる仮初の許可証。


 商人っていう名目だけど、それは収納袋っていう言葉でどうにでもなる。

 見る人が見れば普通の商人じゃないってわかるからね。

 特にここは凄腕の冒険者や探索者が多くいる場所でもある。


 各地を旅して珍しい物を売る旅商人ってことにしてる。


 だって、フィノは楽器持ってるし、僕も楽器と魔道具、フローリアさん達は武器とか、それに容姿が綺麗すぎる。

 僕は除外してもフィノとフローリアさんはそうだし、女性の方が多いのもちょっと問題があるからね。


 その所を突っ込まれそうだから。

 ま、二年前此処にいた時からポーション作りとかしてたし、問題はないと思いたかった。


「お前は……奇術師?」

「えっと……ああ、僕と握手したあの時の門兵さん」

「うむ、そっちの女の子はあの時の連れだろう?」


 初っ端で、ちょっと話が変わってきた。

 どうやら僕達のことを覚えていたようで、以前との違いを考えないといけない。


「お久しぶりです」

「あ、ああ、また迷宮に挑戦か?」


 な、なんて答えるの?

 こういう時はニコニコして怪しまれないようにするのが僕の役目だったっけ?


「今回は彼女達と一緒に物を売りに来たんです」

「ふむ。お前達は冒険者ではなかったか? それに学園へ行くと聞いたが?」

「収納袋を持っているんです。それに物はこちらで仕入れて売れますし、私達が売るのはこれでもありますから」

「なるほど、音楽でもあるんだな」


 フローリアさんがカモフラージュとして持っていた横笛を吹いた。

 貴族だったからその練習をしたことがあるんだって。

 というか、ナイスフォローだよ。

 本当なら隣にいる僕がしないといけなかったかもだけど。


「学園は丁度夏休みに入ったので、息抜きに来たのです」

「ほう、時間がおかしい気もするが、お前達ならあり得なくもないか」


 最短記録持ってるからね。

 隣にロロがいるのも納得の一つだね。


「売りに来たのは学園の話でもあるんですよ?」

「学園の話? ああ、最近学園の噂が良く聞こえる。特に文化祭とやらは大盛況だったとか」

「その文化祭で大盛況だったものを歌おうかと思いまして。時間がないので数日限りですけど」

「なるほどなぁ。時間があれば俺も聞かせに行かせてもらおう」


 それで納得したみたいで、僕ともう一度握手して何事もなく入国(入都市?)出来た。


「いや~、危なかったっすね。俺は楽器なんか使えないですから」

「ガノンは……手拍子とか?」

「そりゃあないですよ!」


 だって、楽器使えない、歌えない、だったらそれしかないじゃん。


「まあまあ、無事入れたということで、ビスマという宿へ向かいましょう」


 馬車に乗り込み、ロロに指示を出して向かった。




 バラクに滞在するのは二日。

 今日と明日で、三日後の朝早くに再出発してソドムに向かう。


 ビスマは高級宿屋だからロロの食事も出るし、大きな馬車でも置けるスペースを持ってる。

 移動中は交替で楽器と歌の練習をしてて、懸念していた暇という時間は特になかった。


 白雪姫はね、すでに歌が作られてるんだ。

 それだけ有名になって、クロスさん達が覚えている限りそっくり、少し危ない所を変えて歌にしたんだ。

 魔法大国公認で、原作僕? 王子様とお姫様は僕とフィノ、制作者はクラス。


 それを聞いたローレ義兄さんも話が変わってるけど歌を作ってね。

 城に務めてるメイドとか吟遊詩人、特に大人が子供に聞かせる童話として楽しまれているみたい。


 かなり大掛かりになったけど、結構恥ずかしい。

 僕が作ったわけじゃないから申し訳なくも感じる。


「悲恋の涙が零れた。眠り続ける真珠の如きお姫様に救世の王子はこう言った。『最後に……最後に、口づけをお許しください……!』。妖精達は二人の意を汲み口づけを許す」

『……それで!』

「そっと頬を撫で、唇が重なる。救世の王子は短くも長い口づけを惜しむ。願わくば目を覚まし一緒に居たかった……」


 かなりの大盛況だね。

 この時代? 世界の歌ってのは単調というか、物語を一気に言って楽器が奏でられるって感じなんだ。


 音楽が場の雰囲気を出すのはそうなんだけど、地球の歌みたいに一体化まではしてないね。

 ま、吟遊詩人自体が歌手じゃなくて、物語や噂を伝える伝道師みたいなものだからね。


「これをフィノリア様とシュン様が実際にしたのですか」

「シュン様はキスしてしまったのか?」

「いや、していないそうだ。流石に出来ないだろう」

「でも、とてもよかったそうよ。態と隠して見せないようにするとか分かってるわね」


 僕はこの日の為に作った幻術の魔道具を使う。

 一応太鼓? みたいな奴でテンポを作りながらね。


 幻術の魔道具には記録保存の魔法も入れられてて、オルゴールみたいに幻術が勝手に始まる仕組みなんだ。

 幻術を魔法として刻んで、出したい幻術を記録保存の魔法に組みこんで、魔道具を起動したら魔力が二つを同時に読み取る。


 だから、ピンで弾いた振動で鳴るオルゴールと同じ原理なんだ。


 作るのにかなり労力がいるからこれ一個しか作れなかったけど。


 でも、これは結構目立つから、ローレ義兄さんが渋ったんだよね。

 広めたいって気持ちもあって、実際襲われるかどうかも不明なんだ。

 だから、この魔道具を量産すること、それ以外はしっかり務めることを約束した。


 大体僕の素性は相手にばれてるからさ。

 むかつくけど僕の周りにいるフィノのこともね。

 だから、今更隠れて行くってのはあんまり意味ないことで、結局は息抜きの旅と整理の為ってのが理由なんだ。


 整理ってのは僕達がいない間に暗躍する人の粛清とか、各国との強化とか。

 ま、その辺の意味は目的と重なるね。

 遠征もそれが目的じゃないかってフィノ達から聞いた。


 うん、僕は言われたことを鵜呑みにしてるだけ。

 それでいいと言われるけど、ちょっと情けなく感じるよ。


「今日はここまでとします。明日もう一度行いますので、楽しみにしておいてください」


 僕達はそう言って頭を下げる。

 王族だから普通あり得ないけどね。

 僕とやってるうちに慣れちゃったってさ。

 ま、謝るんじゃないし許容範囲じゃないのかな?



 お金をくれようとする人を手で制し、それならばと宿代や食事代に変わって今夜は宴会騒ぎ。

 二日間練習した演奏をしたり、僕が知って前世の音楽も奏でたり、物凄く騒いだ。


 ビスマの女将さんからお礼も言われてね。

 今日の売り上げだけで一週間分、高級宿屋の売り上げが一週間分だからね。

 凄すぎるよ。


 人が集まったら屋台も着て、それがまた人を呼んで、音楽を聞きつけた商人や吟遊詩人達も集まって、って感じ。


 僕達が休んだ後もどんちゃん騒ぎだったみたいだよ。






 く……うぅ~……っ!


 今日はとっても疲れた。

 でも、久しぶりに楽器を吹いて、シュン君と笑って、楽しかったなぁ。


 シュン君は楽器もそれなりに使えてたけど、使えてるだけで音を外したりしちゃう。

 信じられなかったけど、同時にシュン君だね、とも思っちゃった。

 だって、シュン君はどこか抜けてるし、そのずれた音もシュン君みたいなんだもん。


 シュン君が知ってる歌はやっぱり異世界の歌って感じだった。

 でもね、音色やリズムはとても良くて、心に響いてくるの。

 皆に受け入れてもらえて私も嬉しかったよ。


 聞いた話では楽器の種類も歌もシュン君がいた世界の方が凄くて、差がはっきりしてるって思った。

 行ってみたいと思うけど、それはシュン君に悪い気はする。

 いい思い出はあんまりないっていうもの……。


 あの悲しい笑みはあんまりっていうより、ほとんどないんだと思う。

 私も二年前まではそうだったから強くわかる。

 だから、私はシュン君にそんなこと言わないし、シュン君が私と楽しくして入れるのなら私も楽しいからそれでいいやって思う。


 偶にシュン君が前世の記憶ってのを幻術で見せてくれるからそれだけでもいいと思うの。


 やり過ぎな所は私がしっかりリードしないといけないけどね。

 最近はシュン君を弄るって言ったら悪いけど、子犬みたいな様子が楽しくてついつい遊んじゃう。

 これも愛なんだと、シャルやアルの関係を見てたら思うの。


「フィノリア様は本当にシュン様が好きでらっしゃいますね」

「そうだよ。だって、私の闇を払って幸せを教えてくれるんだもん。詩のフレーズを借りるなら光その物、かな?」


 うん……シュン君は私を照らしてくれる光。

 多分、シュン君にとっては私が光になると思う。

 おかしな話だけどね。


「あの頃のフィノリア様は見ていて心配でした」

「そんなところを英雄として名を馳せ、しかも好きな女の子のために大会に出て優勝する」

「褒美をもらう時も凛々しかったと聞きますよ」

「知っている女性達の中では羨ましいという声が大きいですからね」


 ちょっと恥ずかしい。

 でも、あの思い出は何時までも色褪せないで心にあると思う。

 私が変わった日で、運命の日で、結ばれた日で、一つになった日だと思う。


 本当の意味で一つになるにはまだ困難がたくさんあるけど、シュン君と私なら神様だって倒せるはず。

 そのために毎日頑張ってるんだもん。


「先ほどの劇も素晴らしいものです。本物を直に見たかったと悔やみます」

「ふふふ、もうしたくないよ」

「どうしてですか?」

「だって、その時は良かったんだけど、今思うととっても恥ずかしくて、あれはあれで完成なの。色褪せないである、一度っきりの劇だよ」

「フィノリア様が惚気ちゃってます! 羨まし過ぎて、私も男が欲しくなりますよ」


 女の子はこういう話が大好き。

 私だって……シュン君がいるからそこまでじゃないけど、ちょっと以上に気になる。


 一緒の部屋じゃないのはちょっと嫌だったけど、これはこれで楽しいかも。

 シャルやクラーラと一緒に話すのとはちょっと違う感じ。


「そう言えばフローリア隊長はどうなったのですか?」

「え? ど、どうって……特にないですよ?」

「あ、その狼狽えようは怪しいですよ? フィノリア様がオープンしてくださったんですから隊長も!」

『隊長!』


 そう言えばシュン君も気にしてたっけ?

 私とはまた違う感覚だと思うけど、人の恋愛に興味があるのは男女関係ないんだね。


「私も知りたいかな?」

「フィノリア様まで……!」

「だって、フローリアはただの部下じゃないんだよ? 将来は分からないけど、私やシュン君の下に就くかもしれない。そうなったら結婚祝いとかするんじゃないの?」


 シュン君なら絶対にする。

 しないと考えられないもん。


 きっと変な道具を渡したりするんじゃないかな。

 いや、案外ベッドとか赤ちゃん用のとかかも。

 そうなったら私達の子供にも……ふふふ。


「さあ、教えなさい。私から命令するよ?」

「隊長、観念してください。王族から命令されたら仕方ありませんって」


 フローリア以外は皆敵。

 それも恋に飢えた猛獣達?

 私は違うけど。


「うっ……はぁ、仕方ありませんね」


 なんだか悪い気と言うより、ワクワクしてきた!


「フィノリア様も性格が変わられて……」

「明るくなったって言われるよ。良い事だと私も思う」

「うっ……その通りです」


 ふふふ、こうなったのもシュン君のおかげ。

 自分でも前の暗い内気な感じより、断然こっちの方は良いと思うもん。

 ちょっとシュン君に影響されたところもあるけどね。


「それで、どうなの?」

『どうなんですか、隊長!』


 フローリアは皆に詰め寄られて頬を赤くする。

 きっと良い進展があったんだ。


「ごほん。そのですね……今の所何度かお付き合いと言いますか、お出かけと言いますか……」

「デート、ね」

「は、はい! そのデートをし、食事も『ラ・エール』でしています」


 シュン君が作ったお店だったはず。

 作ったっていうより、今も頻繁に顔を出してるからオーナーって感じかな?

 あそこのオムライスとアイスが美味しいんだよね。


 二つは思い出の料理だもん。


「相手はどんな方なんですか?」

「聞いた話では平民? それなりに出来た男性と聞きますけど?」


 顔を赤くするフローリアも可愛い。

 このギャップに落とされたのかな?


 私は……吊り橋効果もあったと思うけど、お互いに一目惚れだったと思う。

 私は男装してたけどね。


「相手は平民です。ですが、優しくもここぞという時は自分を曲げない男らしいところがあります。商売をしていますから、まあ……」

「お金もそれなりってことですか?」

「そ、そうなります、ね?」


 玉の輿?

 でも、フローリアは元伯爵貴族の娘だったはず。

 今は縁が切れているような物で、フローリアも十年以上会ってないって言ってた。


「名前を聞きはしないけど、馴れ初めは?」

「い、言わないと――」

「ダメね」

『はい』


 ここぞとばかりに息を揃える。


「馴れ初めは……フィノリア様がシュン様から料理を学び始めたのが切っ掛けです」

「私達が?」

「はい。こう言っては何ですが、通常王族の方が料理をされるということはなく、それを見ている立場から申しますといろいろとあるのです」


 でしょうね。

 毒見とか、包丁とか危ないでしょうし。


「不安要素は置き、その影響は私達女性側に出ているのです」

「どういうこと?」

「フィノリア様、それはですね」

「私達も料理をしておくべきでは?」

「料理が出来たら男を引っ掻けられるのでは?」

「なら、学んでおきましょう」

「主が作れて自分が作れないのはおかしい」

「料理が出来て問題はありません」

「お二人の姿は睦まじく、とても幸せそうで羨ましいのです」


 あ、なるほど。

 私もシュン君から学ぶようになった切っ掛けもシュン君に食べてほしいからだもんね。

 本人から学ぶのはおかしいけど、結果は同じで調理している間一緒にいられるんだから嬉しかった。

 ううん、今も嬉しいよ。


 シュン君が胃袋を掴まれたねって言ってた。

 私も掴まれてるけどね。


「フローリアも御馳走して男心を掴もうとしたの?」

「い、いえ、私は単に生活費も浮くと聞いたので、遠征の際に皆が出来て私が出来ないのは恰好が付かないと思っただけです」


 それもそうね。

 嘘ではないようだし。


「それがどう切っ掛けになったというのですか? たまたま御馳走することになったとかです?」

「いえ、結果的には御馳走してますけど、彼と会ったのは料理を学ぶにはどうしたらいいのか悩んでいる時ですね」


 確かにそこは悩むかも。

 シュン君がいたからいいけど、入なかったら料理長で、でもここまで簡単に進まなかったと思う。

 今なら全然で、剣の方が危ない気もするんだけど、包丁を持たせられないっていうものね。


 騎士ならどこで料理を学ぶってことになる。

 フローリアは妥協する人じゃないから、まずやってみようと思わなかったはず。

 失敗したら生活費が無くなるもん。


「それで休日料理店を彷徨い『ラ・エール』に辿り着いたのです。丁度時間帯の変わり目で店内に入れました」

「あそこの料理美味しいですよね」

「私も行きたいですけど、休日は大概人が多くて」

「私はこう言っては悪いですけど、シュン様の料理で構いません」

「あ、シュン様直伝だものね」


 別にシュン君の料理を独り占めしたいとは思ってないよ?

 何か違う気もするし。


「そこで彼と出会ったのですが」

『ですが?』

「最初の出会いは……そのー……」


 あーもう、じっれったい!


「ひゃい! お、お金のことまで頭が回っていなくてですね。お店に入ったのは良いですが、持ち合わせが足りていなかったのです」


 あ、展開が読めた。


「奢ってもらったんだね!」

「……はぃ」

『キャーっ!』


 運命の出会いじゃん!

 でもでも、私とシュン君の出会いも負けてないと思う。

 聞けばシロの話はいくつかあって、その中でも恋愛関係には私が出てくるとか!


 結局は結ばれなくて、でも最後は思い人であるシュン君とくっ付く。

 私のことに少しだけ触れてて、大会に出場して悪を倒す。

 優勝したけどシロは思いを固く閉ざして、両思いの親友シュン君に任せて身を引いたってロマンスなの。

 悲恋と純愛? とかいろいろ入ってて恥ずかしいけど人気なんだって。


 結局はシロの正体はシュン君だから同じなんだけどね。

 特にシュン君の偉業はここ二年で国民に広がってるし、ラ・エールはシュン君がって知られてるからね。

 貴族なのに貴族らしくなくて、誰にでも優しくどっか抜けてるから大英雄から思い人を奪っても、私との仲を見たら納得って話みたい。


「でも、運命の出会いは人それぞれ。フローリアの運命の彼との出会いは、誰よりも負けてない最高の思い出になったんだよね」

「ひゃ、ひゃい、しょのとおりでしゅ!」

「あ、隊長が赤くなった!」

「それは一種の悟り、哲学ですねぇ~」

「私も恋、したいです」

「あんたは付き合ってた子がいたんじゃないの?」

「ああ、最近身体が大きくなってきたのでちょっと……」

『犯罪者にはなるなよ』


 よく分からないけど、フローリアの話を聞かないと。


「フィノリア様の言う通り、どうしたものかメニューを見ている間に時が経ってしまい混み出したのです。丁度二人掛けの席に座って空いているのが私の所だけでして」

「そこにその彼が来たのね!」

「はぃ……。で、困っている私の様子で分かってくれた様で、私は恥を掻くことなく切り抜けました」

「え? ってことは……彼は自分から奢るって言ってくれたの!?」


 それって凄い……よね?

 シュン君だったら絶対そんなことしないもん。

 しないんじゃなくて、私の分も払うのが普通なの。

 奢ってるけど、何か違う。


「『貴方の様な美しい方と相席になれたのです。今日は記念に奢らせてください』……私の手を包みながら眩しい笑顔で言ってくれました」


 聞きたかったけど、甘い。

 口の中が甘いよ。

 私もこんな感じなんだと思うと何も言えない。


 皆は……彼氏いない人には同情するよ。


「でも、相手は商人なんですよね?」

「そう思うかもしれません。私も思いましたし、貴族の娘で騎士ですからね」

「じゃあ、どうしてです?」

「彼はラ・エールの料理長の親友らしく、それが分かってから共通点がいくつか出まして、特にシュン様の話題で盛り上がりました」


 ……え?


「それから何度か一緒に食べ、料理の方も本を取り扱ったりするようになったとかで学んでます。最近はお弁当を作ったりですね、はい」


 シュン君にはまだ黙っていよう。

 絶対言ったら挙動がおかしくなるもん。

 それにしても世間は狭いよ。


 シュン君が関わってばっかり。

 でも、あの加護の量を見たら当然なのかも。

 恋愛神の加護もあるもんね。


「はぁー、私、もう寝ますね。フィノリア様、お先に失礼します」

「ちょ!」

「たいちょー、甘っす! 虫歯になったら大変」

「貴方達が聞いてきたんでしょうに!」

「あれほど告られて拒否していた隊長に春が来て、私、私……恋に恋していないことが感激です!」


 ……私も眠くなってきたし、寝よっと。

 フローリア見てたらシュン君が恋しくなったし、明日は朝から腕にくっ付てるのが良いかも。


「フィノリア様まで!」

「皆、お休み」

『フィノリア様、おやすみなさい』

「ちょっと~!」


 次の日にはフローリアはいつも通りだった。

 やっぱりフローリアはフローリアだね。


フローリアの相手はパッと思い浮かんだので何故かあの人を選んでしまいました。

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