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ロロ専用馬車

完全に忘れてました。

文字数は少ないです。

 翌日。

 出発を控えた二日前だね。


 収納袋に改めて道具を入れて準備を整え、早く移動するためにロロに馬車を引かせることとなった。

 フローリアさんと相談した結果そうなったんだ。


 ロロは成長したことで格が一段階上がり、身体を小さくすることができるようになった。

 これを使って半分ほどサイズを落とし、大きな馬車を使って移動する。



 もっと格が上がれば人化出来るようになるとか。


 今思えばロロって本当にシルバーウルフなのか怪しいところがあるんだよね。

 ファチナ森林にシルバーウルフはでないし、拾った時は弱って捨てられたとも思えない。

 母親がいれば師匠が気付いただろうし、魔物にしても成長も早すぎる。


 いや、別にシルバーウルフじゃないからどうってことはないよ。

 別の何かでもロロであることには変わりないし、大事な家族だからね。

 でも、正体だけは知っておきたい。

 帝国のシルバータイガーのレコンみたいなこともあるかもしれないしね。


 てか、シルバーウルフにしても大きすぎなんだよ。

 あっちは成人しているのに、こっちは多分生まれて十年も経ってないのに一回り大きいからね。

 毛並みの柔らかくて、僕の影響を受けてたりして。



 話を戻すけど、今はフィノとロロと一緒にドワーフ族の族長ドワンさんの所に来ている。

 馬具……じゃなくて狼具? 馬車を引かせるための綱作りと、馬車を改造して魔法を組み込む改造するため。

 早い移動になるから揺れないようにするとかの対策をね。


「この子がロロです。後は調整だけと聞いてたのですが……」

「ウォン」

「お、おうよ! 後はロロ、の身体に合わせてベルトを締めるだけだ。騎乗用は持ってんだろ?」


 家族でピクニックに行ったとき使った奴だね。

 手を差し出すから出せってことだろう。


「ふむ……これなら大丈夫だろう」

「何がですか?」

「何だ、聞かされてなかったのか。この鞍にベルトを固定して引かせるようにするんだ。その方が付け替えもしなくて済むしな」

「シュン君はロロちゃんに乗って戦う時もあるもんね」


 フィノと騎乗特訓する時もあるからね。

 エアリは翼があるから空飛べる。

 で、僕が育てたロロは風魔法が使えるから空を駆けれるんだ。


「問題は馬車の方だが、一応王から依頼を受けて強度と揺れが少ない馬車を作っておいた」

「それがこれですか。重そうですけど、ロロならこのぐらい大丈夫ですね」

「くぅ~ん」


 そうだとでも言っているのかな?

 それとも力持ちじゃないと怒ってるのか。


「狼が馬車を引っ張るのは珍しいが、竜で引く奴もある」

「小型になればそこまで目立ちませんし、今回は速度が大切ですからね」


 ローレ義兄さんに言われた通り、襲撃が予想されるから速度が必要で、獣人族側から噂の真偽の協力……とまではいかないけどそんなニュアンスが漂っていたみたい。

 馬でも良いと思うけど、行く場所は馬じゃきついし、長距離を行くからやっぱりロロが良いって言われた。


 それに獣人族の集落は魔物が多くて馬が怯えるかもって。

 その点ロロなら威圧で近寄らせないようにできる。


 フローリアさん達の馬ならロロとエアリの住む世界亜空間に入れておけばいい。

 逃げないように馬小屋も作ってさ。

 森に入ったらどうせ馬と徒歩移動になるし、僕とフィノはロロの上だけど。

 エアリは空になるし、大きくなったけど小さくなれないから、もし襲撃されたら狙い撃ちされちゃう。




 馬車は見た目普通、いや少し大きな車体だ。

 結構な人数がいるから六車輪の商人の馬車みたいな作り。


 水を弾く白い布のアーチ型の屋根、樽が括りつけられる側面と金属で覆い強度を上げ、ドワーフの技術で木のように仕上げられている金属車体と車輪。

 車に使用されている技術も入っていて、車輪にゴムを付けてロロが苦労しないようにしてあるね。


「外見だけなら怪しまれないね。似た様なのを見たことあるし」

「ロロちゃんが馬車を引く時点で目立つと思うけど、ソドムを抜ければ人里を離れるから大丈夫かな?」

「最悪幻術でも掛けるよ」

「それもそうだね。そのための魔法だもん」


 案外気づけないものだからね。


「普通の馬車に細工して、多くの人が入れるよう空間を捻じ曲げてもいいんだけど……」

「獣人族の集落は王国外にあるから関所を通らないといけない。自国ならいいけど、バラクとソドム、その先は分からないの」

「中を検められたら拙いか」


 なら、機能を取り付けるにしても考えないといけないってことね。


「今は暑いから冷房……いや、風を吹き出す魔道具を取り付けよう」


 収納袋からミスリルとその他の金属、魔法に優れた素材、ひんやりとする薬品、その他使えそうなものを取り出す。


「風を吹き出す魔道具だと? ちょっと俺にも見学させてくれ」


 そこへ生産と酒だけを聞き分ける地獄耳で聞き付けたドワンさんがやって来た。

 それに続いて他の作業をしていたドワーフ達が集まり、結局いつもの様な感じになってしまった。

 放置されたロロはどこか悲しげだ。


 ま、これは応用が利くものだから知っていてほしいかも。


「吹き出すってことは風魔法を使うってことだよね。いつもの刻印じゃダメなの?」


 当然の疑問だ。

 唇に指を当てるのが可愛い。


「それだと使う魔力が多くなるし、刻印と魔道具はちょっと別物だからね。勿論刻印で魔石の補助をするけど」

「刻印ってのは使い手の魔力を使うんだったな」

「ええ、一般的に魔道具というと魔石から魔力を抽出します。刻印を魔道具の基板となる場所に刻めば魔法を籠めたりする必要が無くなります」


 壊れにくくなるし、魔石も小さくて済む。

 ただ、刻印を使えるのは魔力が一万は超えていないといけない。

 今のところ子供エルフ達に魔力を上げる遊びをさせて、将来刻印を使えるようになってもらう計画だ。

 勿論それは人族の間でもやっていて、外に出さない秘匿技術となっている。


「風をただ吹き出すってのは結構魔力を使うんだ。それを持続させるわけだからね」

「ずっと消費させることになるってことだね」

「そう。それは燃費が悪くて、いくら下級の風魔法でも使い続ければたまったもんじゃない」

「じゃあ、どうするんだ? 風を吹き出させるには風魔法だろう? まさか、扇ぐとでも言うのか?」


 おお、正解に近い。

 でも、ちょっとだけ違う。


「いえ、魔法を使わずコストを抑えます。魔力の状態で風を起こすんです」

「ほほう、で? どうやるんだ」


 せっかちだね、ドワーフは。

 多分ドヴェルクもだろうけどさ。


「まずは木材で羽を作ります。鳥の羽ではなく、平べったい形の扇みたいなものを四枚。それを軽くカーブを付けます」


 作っているのは扇風機の羽、所謂ファンやプロペラと呼ばれる奴だ。

 扇の持ち手のようなところに穴を空けて、ミスリルを芯にして他の金属で動かないよう固定する。

 丁度四枚の羽が十字になるように取り付ける。


「どっかで見たことがある形……どこだったっけ?」

「多分風車だね。中には違う物もあるみたいだけど、あれを小型化して風を送るための道具にしたらこうなるんだよ」

「なるほど! それを魔力で回転させて風を吹き出す! いや、送るってことか!」


 送るって言えば分かり易かったのか。


「はい、そうです。今回は時間もないので木で作りましたが、本当なら軽くて丈夫、少し撓る素材が良いかもしれません」

「本当に風が来るんだね」

「もっと小型化して……そうだね。紙をこんな感じに捻って輪っかを作るように留めていくと……風車っていう息を吹きかけて回す玩具になる」

「わぁ~、良く分からないけど面白いね!」


 風車って言い方は違うのに文字は同じなんだよね。

 読みが違うだけで漢字だとわかり難い。

 ま、こっちの世界だと漢字なんてないから文字も違うんだけどね。


「これは……かなり応用できるぞ。空気を送る……吸い込んでんのか? ってことは逆に空気も出すことができるってこと……換気出来るってことだな。他にも……ブツブツ」


 あっという間に思考の海に沈んでったよ……。

 この辺りがドヴェルクと違って、彼等なら先に風車を完成させようとするはずだ。

 だから、僕としてはドワーフに基礎を作ってもらって、そっこからさらに完璧な作品にドヴェルクがしてほしいんだ。


 お互いに職人だから人様の作品に手を付けられないとか、プライドがあるとかなら無理強いになるから言わないけどさ。

 考慮ぐらいはしてほしい。

 仲間内ではそういったことをしてるわけだし。


「そっか、魔法にしない方が魔力を使わなくて済むもんね」

「そ。軸にミスリルを使ってるから魔力消費も抑えられて……そうだ」

「どうしたの?」

「ずっと魔力を使うんじゃなくて、断続的に……羽が回転し続ける様にしたら良いんだよ! 馬車の勢いで回るようにしても良い!」


 前世でも似たような物があったはずだ。

 扇風機の自然? とか言うボタンがあった気もする。

 それは少し違うけど、車のエアコンは進む勢いで風を取り込んで出す奴があった気がする。

 普通の馬車だと難しいけど、ロロの場合人がいなかったら結構なスピードが出ると思うんだよね。


「シュ、シュン君?」

「え? ……あ、ごめん」

「ううん、真剣な表情のシュン君もかっこいいからいいよ。でも、無視はしないでほしい、かな?」

「う、うん! 本当にごめんね」


 僕としたことが、今までにない大失敗をしてしまった。

 フィノのことを忘れるとは……自分が許せない!

 フィノが一番なのにぃ!


「断続的に使うってことは、入れたり切ったりするってことだよね?」

「そうだよ。でも、魔力を完全に入り切りと消費が激しいのは何となくわかるよね?」

「魔石にも負担がかかるし、余分な魔力がどんどん出るって聞いたことがある」


 電気と同じってことだ。

 あと冷蔵庫を開け閉めすると冷気が逃げるのと同じだね。


「それを失くすために魔力が巡回する場所を作って、羽の回転数が弱まるとそこに魔力が通り、また回転する回路を付けるんだ」

「なるほど。それなら余分魔力が漏れなくなるね」

「完全になくすことはできないけど、ミスリルの周りを魔力を遮断する金属で覆えばもっと減らせるはずだよ」


 その技術は昔から使われている。

 同線の周りをビニールやゴムで覆っているのと同じで、魔石をはめ込んだ部品はメッキされている。

 もしくはそれに近い魔法が使われている。


「じゃ、早速作ろうか。まずはどこに取り付けるか中に入ってみよう」

「うん」




 大きさ拳二つ分くらいの羽を十カ所取り付け、天井に大きめな蓋つきの換気用も二つ取り付けた。

 丁度座っている所に当たる場所、邪魔にならない場所、両側に蓋とフィルターも付けて、ゴミや虫だけじゃなくて臭いにも対応出来るように刻印を刻む。


 寒さに関してはこの季節大丈夫だし、もし暑かったらその時冷房が出るように改良すればいい。

 でも、今までがそうだったから、これだけで馬車内は結構変わると思うんだよね。

 で、実際に使ってみて良かったら、他の馬車にも採用していくよう話し合われた。


「他に何か不便なことってあったっけ?」


 まだ時間はあるから、馬車の改良を楽しむ。

 結構フィノも楽しそうだし、やり過ぎない程度に、を心掛けてる。


「う~ん……食べ物とかは収納袋があるから大丈夫だよね。あ、振動とかはどのくらい違うの?」


 思わずお尻を押さえるほど痛いんだよね。


「どうせなら椅子みたいなのでも設置する? すぐに出られるようクッションみたいな奴だけど」


 車みたいにシートベルトがいる……かもしれないけど、馬車ってそこまでスピードでないんだよね。

 ロロしだいだけど。


「それに馬車の中って暇だよね。シュン君と話すのは楽しいけど、話すだけってのも面白くないと思わない?」

「遊ぶにしても難しいし、一応仕事だからね。カモフラージュ程度の範囲から逸脱しちゃダメだね」

「新しいゲームも目を惹いちゃうもんね」


 トランプぐらいならいいかもしれないけど、多分すぐに飽きるね。

 ジェンガなんてできるわけないし。


「ま、お菓子とか作っておけばそうでもないと思うよ」

「むぅ~……最近太ってる気がするけど……」

「やろうと思えば魔法でも遊べるし、フィノも魔道具とか作ってみる?」


 聞こえたけど、聞こえないフリをするのが男ってものだ。

 大丈夫、とか言うのが一番いけないからね。

 僕としてはもう少し肉がついて女性特有の丸みがあった方がいいと思うけど、フィノは身長もあるからモデルみたいな感じなんだ。


 ま、痩せてて綺麗でも構わないけど。


「んー? ま、気のせいだよね」


 ばれてないはずだ。


「魔道具かぁ……」

「何も魔道具じゃなくてもいいよ。ここ最近縫い物とかしてないでしょ?」

「うん、ゆっくりしててもシュン君と一緒だったもん。読書もしてないかな」


 それをしたいって思ってるかは別として、しなくても結構楽しい時間を過ごせてるってことだ。

 でも、散歩すらできない馬車の中だと時間があり過ぎるのも確か。

 道のりは長いから趣味みたいなものを持っていくのが、旅とか旅行関係の暇潰しだろう。


「何かしてみたいこととかある? 魔法と料理は教えたからね」

「シュン君が教えてくれるの?」

「僕が知ってるものだけだけどね。ダンスとか歌とか無理だしさ」


 家事はほとんどできるけど、物作りでも僕が出来るのは知識を生かした物で、鍛冶とか細かい部分は他人がやってる。

 僕に出来ないことはたくさんあるからね。


「歌……じゃあ、楽器とかどうかな?」

「楽器?」

「うん。私ね、小さい頃からヴァイオリンと横笛が好きなの。あんまり上手くはないんだけど、音色が心を落ち着かせてくれてたんだ」


 それがあったからまだ堪えれてたってことか。

 僕はそういうのは読書ぐらいだったけど、その後の虚空感は何とも言えない。


 ま、もうお互いに過ぎ去った過去で、そんな思いはしたくもさせたくもないね。

 かなり早い話、生まれてくる子供にはしっかりと優しく愛情を注ぎたい。

 僕が貰えなかった分もね。


「じゃあ、楽器を持っていこうか。商人っぽくするんだから楽器が吹けても良いと思うし、いろんな楽器を持っていけば売れるかも」

「いろんなってシュン君の世界の?」

「そうだよ。ピアノとか大きなものは無理でも、子供でも吹けるオカリナ、叩くだけの太鼓とか。流石に楽器の作り方は分からないから難しいのは頼むことになるけどね」


 オカリナはそこまでのものじゃなかった気がする。

 穴の大きさとか場所はあれだけど、自分の指の位置で決められたはず。

 ま、駄目だったら既存の楽器を持っていけばいいでしょ。


「じゃ、楽器にするよ。下手だったらごめんね」

「大丈夫だって。僕は楽器なんてほとんど吹いたことないもん」

「それじゃあ、シュン君の先生は私だね」

「ははは、よろしくお願いします、フィノ先生」

「ふふふ、よろしくね」




 馬車を改造している間に獣人の集落が荒野にあることを思い出した。

 半分は森、もう半分は荒野、一部分は海や湖に接し、荒野の先には砂漠もあるようだ。

 辺境付近と言うのもあるけど、魔物は海や砂漠に多く存在する。


 必然的に獣人族は強くなり、危険だけどその地域に適した種族が集まる。

 住むのは難しくて覚悟のいる日々だけど、そこは自分達に恩恵も与えてくれる場所だってね。


 実際の所は分からないけど、この季節だと砂埃や嵐、虫の対策、乾燥対策、海に近くなれば潮対策もいる。


「……ちょっとやりすぎたかな?」

「だね」


 見た目は変わってない。

 穴が開いたりしてるけど、それは羽を付けた部分だから、換気するためですとでも言えば大丈夫だ。


 問題は内部の様子。


「荷物で隠せばどうにか……」

「一般人は大丈夫だと思う。でも、魔力感知が使えたりすると魔道具だってばれると思うよ」

「ですよねー……」


 やったらどんどんヒートしていくのは仕方ない。

 ドワンさん達も興味津々で聞いてくるもんだから調子に乗っちゃって。

 うん、調子に乗って箍が外れてたのを認めるよ。


「それに帰りは獣人族の人を連れて帰るんだよ?」

「う……」

「楽器とか持っていくのなら荷物増えるよね」

「ぐ……」

「でも、収納袋があるね」

「そ、そうだよ。水とか置いておくけど、食べ物とかは収納しておけばいい。ロロも少しぐらい軽い方がいいと思うしね」

「ま、シュン君が、私の為に、してくれたと思えば怒れないよ。ありがとう、シュン君」


 ふふふ、よく分からないけど気分が良い!

 魔力なんて隠蔽してしまえば問題なし。

 やっぱりこの改造は間違ってないんだよ。


 背後からいろいろと聞こえてくるけど、決してフィノの尻に敷かれているってことはない。


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