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林間学校三日目・午前

気付けば100話を超えてました。

書き始めて一年も経ちました。

我ながら良く続いたものだと思います。


それと昨日は忘れてました。

 二日目の午後が無事に終わった。

 運悪く骨折したり、はぐれたりする人がいたけど、誰も離脱していない。

 回復魔法についてはあまり教えてなかったから、結構聞かれて大変だったよ。


 回復魔法と言うのは属性魔法(無も属性)じゃないからね。

 結界魔法とか支援系の魔法もだけど。

 でも、僕からすると属性魔法であることに変わりはないね。


 前に言ったと思うけど、回復魔法は光魔法から離れた元々同じ魔法だって。

 確証はないけどね。


 そこは置いておいて、それらの魔法も結局はイメージでどうにでもなるんだ。

 だけど、そのイメージを伝えるのは難しくて、人体のことだから見せることも出来ない。


 そこで回復魔法のコツを教えることにした。

 癒しのイメージや気持ち、魔力コントロールとか。

 魔力のコントロールは巡るように施すのがコツなんだ。


 それは攻撃魔法を発射するというのと同じで、回復魔法は傷口より一回り大きく包み込み、そこをイメージによって修復する感じなんだ。

 だから癒しのイメージと気持ちに加え、魔力で包み込んで筋肉、神経、骨全てを巡らせるようにする。


 ま、一朝一夕で出来るものじゃないけど。

 回復魔法は使って覚えないといけないし、怪我をしてなかったらあまり効果がないからね。

 実際に治すから上達するんだ。

 だから、回復魔法の使い手は少ないとも言える。



 森の中を逃げる鬼ごっこはあれだったね。

 木に登ってやり過ごすパーティー、罠を張り巡らせるパーティー、背中合わせに立ち向かう勇敢なパーティーとか様々だった。

 僕達は普通に進んで、魔力感知で見つけ、撃破するって感じだったね。


 パーティーごとに特徴が出てたけど、頭が回るパーティーは先に罠を張り巡らせたり、拠点を作ってたりしてたんだ。

 そこが採点対象とかでもあったんだろうね。

 視野が広いとか、戦術を組んでるとかで。


 ま、僕達は普通にその場で対応する方が楽だったし、多分教師達も僕達はこうすると思ってたと思う。

 実際は力でねじ伏せる方になれてて、誰も思い付かなかったいうね。

 フィノやクラーラでさえも僕がいれば大丈夫だと安易に考えてて、罠にはまった時は素直にやられたって思ったよ。


 でも、負けなかったけど。

 結界が使えなくても身体強化とかさえ使えれば対処できるんだもん。


 それと僕達のパーティーは禁止されたことが多かった。

 魔力遮断は一回使ったら卑怯ということで禁止され、魔物の魔力に波長を変えるのも禁止され、属性魔法は地形ぐらいならいいけどやり過ぎはダメだと言われた。

 例えばそっくりな人形を作るとかだね。


 それでもどうにか生き残ったけど。



 そして夜。


 いやートランプは流行ったね。

 うん、あり得ないほど流行った。


 リバーシとかもいいけど如何せん二人しかできないし、人生ゲームは時間がかかってこういった時にするもんじゃない。

 ジェンガは余計な集中力とか使ってイラついてた。


 でも、ババ抜きとか、神経衰弱(名前の通り過酷だ)とか、ピラミッドとして遊んだり、ダウトなんて貴族としての何とやらってやつだった。

 僕としてはダウトはそこまで考えるものじゃなかった気がするんだけどね。

 あれは嘘つくとかじゃなく続き番号を言って捨てるだけだから顔に出ることはないもん。

 ……多分。


 こほん。

 僕達は大富豪したり、七並べしたり、人生ゲームでフィノが妄想に旅だったりだったね。


 かなり盛り上がったから需要が伸びると思う。

 お金はもう一生分ぐらい持ってるんだけど、あって困るようなことはない。

 今度教会と孤児院に寄付しておくことにしよう。

 ついでに玩具屋さんも開いたりしてもいいかも。

 大会とか開いちゃってさ。


 うん、提案書に書いて提出しておこう。



 それはさておき、今日は三日目だ。

 昨日の鬼ごっこで疲労が残っている所が多く、見るからに眠そうだ。

 昨日遊び過ぎたんだろうね。

 フィノ達にはぐっすり寝られるようハーブティーを渡しておいたから……


「ふあぁ~……ねむ」

「ふあくっ……」

「一々我慢するなよ。我慢は身体に悪いと聞くぞ」

「べ、別にいいじゃない」


 そうでもなかったみたいだ。

 

 男の子は欠伸をしても特にないけど、女の子は恥ずかしいのだろう。


 フィノは欠伸をしても可愛いし、軽く噛み締めて手で覆う上品な感じ。

 ま、僕の前だけだけど。

 偶に欠伸の真似をして肩に頭を乗っけてくるときがあるけどね。

 流石に僕はしないけど、嬉しいから何もいってない。


「皆眠そうだね」

「フィノは大丈夫?」

「うん、シュン君との訓練の方が疲れるよ」

「それはごめんなさい。ははは」


 フィノが頬を抓って来る。

 別に怒っているわけじゃないのは笑みを見ればわかる。


「朝っぱらからイチャイチャイチャイチャしやがって。おかげで目が覚めたぜ」

「そうね、甘くて目覚めは最悪だけど」

「良いじゃないですか。いつものことですし」

「お二人が自然体だと疲れもそこまで感じるものじゃないですよ」


 周囲を見渡すと、他のパーティーも同じようにこっちに目を向けていた。

 なんかおかしくない?


「周りのことは気にしないの」

「いや、気にしようよ。見られて悪いとこはしてないけどさ」

「なら、構わないよ。シュン君、疲れたから支えて」

「ちょっ……仕方ないなぁ」

「ふふふ」


 少し大胆なフィノも良いかも。

 それに少しは疲れてたんだろう。

 周りに寄り添っている二人がいるのは見間違いのはずだ。




 朝食に元気が出るようピザを焼き、組み合わせはおかしいけど魚のスープと果物をデザートにする。

 疲れているからこそしっかり食べないといけないし、食べやすい物を作るのが料理人だ。


 僕は魔法使いなんだけどね。

 でも、本職は……どっちだろ?


「で、今日は何するんだっけか? 午前は昨日と同じだったよな?」

「同じだったと思うけど、違うとすれば呼ばれたパーティーが戦うぐらいかな」

「今日はパーティー戦のトーナメントがあるんでしたね」

「私達は四人で出るんだったわね」

「うん。僕とフィノは解説に呼ばれてるし、結界の維持や整理、指摘もしないといけないからね」

「そっちも大変ですね。頑張ってください」

「皆も頑張ってね。シュン君の弟子なんだから優勝しかないよ!」


 僕とフィノが出れば上位確定だからね。

 なら変なルールを設けるより、僕とフィノを解説の方に回して分析力を確かめる方がいいって聞いた。

 いずれどこかの領地を治めるならその力も必要だってね。


 既に治めているんだけどね。

 人がいないから治めてないのと同じだ。

 一応屋敷の維持費や管理費とかは払ってるけど、住民税とかはないから収入による税を治めることはしてない。


 多分ことが終わればフィノと結婚的な感じになるでしょ?

 そうなったら領地が増えると思うんだよね。

 まだわかってないことだけどさ。


「シュンが結界を張るってことは思いっ切りやって良いってことだな?」

「そうだけど、流石に学園や闘技場で使っている魔法をそっくり使うことはできないよ。使えても魔力が持たない」

「シュン君でも瀕死になる前に外へ飛ばす結界が精々だよ」


 フィノの言う通りだと思う。

 解析はまだできてないし、アルカナさんでもかなり難しいと言っていた。

 似た魔法は無理矢理作れるだろうけど、維持できなくて意味ないね。

 流石古代技術だって感じ。


「午後からは自由行動ですが、お二人はまだあるんでしたよね?」

「うん、流石に午前で終わるものじゃないからね。トーナメントだから決めたことをしていても困るだろうし」

「負けたら課題が出されるのだったわね。優勝は単位と何か貰えると書いてあったわ」


 単位ね。

 僕達にはそれほど縁がないものだ。

 あれ? おかしいなぁ。

 学生としては一番縁があるはずのに。


「といっても僕達がずっと拘束されるわけじゃないよ。呼ばれたら行くって感じ。結界は一度張ってしまえば魔力を注ぎ続けるだけだからね」

「それが難しいんだよ? ま、シュン君だから当てはめるのは無理かもしれないけど」

「何に!? 常識じゃないよね? ね?」

「ふふふ」


 何なんだぁーっ!

 絶対に常識だよ!

 え?

 結界魔法って一度張ったら魔力注ぐだけで維持できるんじゃないの?

 そうじゃなかったら眠っている間も結界を張り続けるとか無理じゃん。


「シュンが非常識なことはいつものことだ。そんなことよりも――」


 重大なことだよ!

 僕の尊厳に関わっていると思うんだけど!


「シュン君、私は分かってるから落ち着いて。非常識でもシュン君はシュン君だから」

「や、それって非常識って言ってるよね? ……ま、いいけどさ」

「非常識ってことで続けるぞ」


 最近風当たりが強くなってきた気がする。

 レン達も気安くなったと思えば良い事だけど、ちょっと違うくない?

 此処で何か言ったらさらに言われそうだから我慢するけど。


「ドツボに嵌まりそう、とも言うよね」

「……そだね」


 はああああぁ~……。


「シュンとフィノがいないということはそれだけ苦戦すると思うわけだ」

「そうかしら? 私達は大会で上位組なのよ?」

「いえ、これは学年別ではありませんから少々きついかと思います」

「それに先ほどシュン様が言ったように結界が違います。戦い方も考えなければなりません」


 僕が見た所、アル達は三年の中堅クラスと同等だと思う。

 流石にトップ人が一緒のパーティーになっているとは思えないけど、無いとも言えない。

 雪合戦の時のように何か企んでいるとも限らないわけで、僕が教えているのは周知の事実だから戦って勝とうと思う所がいるはずだ。

 新生徒会長さんとかね。


「僕から言えるのはアルを前衛に両脇をレンとシャルが補助し、クラーラは皆の支援と状況を分析すること」

「わ、私が司令塔ということですか!?」

「そこまでは言わないけど、どうしてもクラーラは後衛になるからね。全体を見渡せる人が状況を分析するのが一番だ」


 僕みたいに空間を認識出来ればまだいいかもしれないけど、出来ないからね。

 出来ても僕は指示に従った方がいいと思う。

 あまり人を動かす経験をしたことないからね。


「で、出来るでしょうか……」

「大丈夫よ。分析と言っても危なかったらどこから来るっていうだけで良いわ。来るのが分かれば避けるか、防げるもの」

「そうですね。クラーラはシュン様から声を大きくする魔法とか教わってたでしょ? それを使えば僕達にも届くと思う」

「だな。前衛の俺だって攻撃や人が抜けたら言うし、援護が欲しい時は言う。司令塔じゃなくて、全体の様子を口にするって思えばいいんじゃないか?」


 アルの言う通りだ。

 ちょっと言い方が悪かったみたいだね。

 でも、皆が他の所の役割を知るっていうのは良い事だ。

 それだけで連携に大きく関わって来るからね。


「私達は作戦を聞かないでおくね。シャル達の上達を見せてもらうよ」

「そうだね。その方がどこまで上達したか分かるってものだ。優勝は難しいかもしれないけど、上位十六パーティーの戦闘解説は全部僕達が行うから頑張ってね」

「おう! 絶対決勝トーナメントまで駒を進めるぜ!」

『ええ(はい)!』


 ペース配分が鍵になってくると思うけど、皆の成長を楽しみにしてるよ。






 良い匂いがします。

 食欲をそそられる、僕が大好きなあの料理の匂いです。

 いえ、僕だけでなく、父様や母様、ローレ兄様も、もちろんフィノ姉様も大好きな、王国で今はやりの料理……カレーです!


「ふはぁ~……良い匂いです」

「そうだね、今まで嗅いだことのない良い匂いだ。お腹が空いてきたよ」


 そうでしょう、そうでしょう。

 見た目はあれなんですけど、食べれば吹き飛びますし、あの辛さが病みつきになるんです。

 僕は野菜が小さい甘味のあるカレーが好きで、ライスよりもパンに付けて食べたいです。

 フィノ姉様は辛いのが良いみたいで、母様と一緒によく食べます。


 シュン兄様が失礼なことを言ってましたけど、いくら健康に良くても食べ過ぎれば、という意見には僕も同意します。

 でも、相手は家族とは言え女性ですから禁句は言えません。

 そこに気付き食事のバランスを変えるのは素直に称賛します。


 僕に出来ないことに文句言っても仕方ないんです。


「ふぅー、暫く休憩だな。で、この匂いは何だ? 一日目の夕飯の時も似たような匂いが漂ってたが……うっほ!」

「な、何よいきなり……きゃっ! バカっ、アホっ、スケベっ!」

「うげっ、ぐべっ、ぐふぅぅ~……ナイス振り上げ……チラリズム、さいこぐはっ、そ、そこわあああああああッ!」

「な、何言ってんのよ! つ、潰すわよ! 握り踏み潰すわよ!」

「あ、ぁ……へ、変な……かい、かん……が!」


 き、気持ち悪いです……。

 リアはレックスが変な扉を開ける前に足を離してあげてください。

 聞いているだけでこっちも縮んじゃいます。


 まあ、レックスの気持ちもわからないことはないですけど。

 そこは見ちゃいけないところです。


「この匂いは何でしょう? シル様は知っているのですよね?」

「これはフィノ姉様達のパーティーが作っているカレーという料理の匂いです。作るのは手間なんですけど、ライスにかけても、パンに付けてもいける万能な料理です」

「テレスタでも作られ始めた料理だね。確か原材料は香辛料で、配合で味が変わる魔法のような料理と聞くね。健康に良いということで流行とか」


 まだ王国でしか作られていないかと思ってましたが……あれは庶民でも食べられますし、『ラ・エール』で作られていたはずですからそこから広まったのかもです。

 作るのは手間ですけど、配合が分かれば似たようなものは作れます。


 香辛料も迷宮都市で偶に出ますし、そこまで高いものではありません。

 カレーは確かに高いですけど、スープ類は安いです。


 それにしても良く知ってましたね。

 アルタの情報収集能力ですか……。

 そうだとしたら幅広い気もします。

 ですが、シュン兄様のことを調べれば手に入るものです。

 これはそういうことではないのでしょうか?


「ぐぬぬ~……どうしたらいいのです……」

「何をかい? シル君」

「え? あ、や、そのですね……」


 ま、拙いです!

 思わず呟いちゃいました!

 ど、どうにか誤魔化さないと……あ、そうです!

 あれがありました!


 ちょっと……どころではないですけど、使い道が違いますがこの際仕方ありません!


「匂いを嗅いで思い出したのですが、出発する前にフィノ姉様から貰った指輪を覚えてますか?」

「今付けてるやつだね。魔道具なんだよね?」

「はい。この中に食材も入ってまして、確かめてみた所カレーの材料が入っているようなんです」

「なんだと!? シル、お願いだから作ってくれ! 俺も食べたいんだ! 汗も掻くんだろ?」


 本音はそれですね。

 そこまで汗掻きませんし、辛いのはあまり好きじゃないです。


「でも、点数が引かれるわよね?」

「ですから、どうしようか迷ったんです」


 実際は違いますが、この指輪をくれたシュン兄様に感謝します。

 指輪だけはですよ!


「でも、お姉さんのことは良いのかい?」

「どういう……くっ」


 そうでした。

 フィノ姉様に褒められる計画が……!


「でも、上手く作れたら褒められるかもしれないね。味見をお願いしたり」

「あーん、ですか!」

「そこまでは言ってないけど……似たようなもんじゃないかな」


 これは使わざるをえないのではないですか!


 はっ!

 ですが、これは上げて落とすという常套手段……。

 いえいえ、最後にあげられましたからよく分かりません。


 どうにせよ、これはその気にさせる寸法ではないですか?

 これが何に繋がるのか分かりませんが、もしカレーに変なものを入れようものなら……悪魔(しゅんにいさま)が黙っていませんよ!


 シュン兄様なら仮に毒を食べてもぴんぴんしているはずです。

 し、心配なんてしてませんよ?

 ぼ、僕がしっかり見ていればいい事ですし、全然、そう、これっぽっちもシュン兄様のことなんて……。

 一応、アルタの様子を気を付けておけばいいんです。


 これはフィノ姉様のついでです。

 フィノ姉様を悲しませるわけにはいきませんからね。


「仕方ありません。これは試験ではありませんし、思い出づくりの方が大切です。仕方ないですね。カレーを作ります」

『仕方ない。本当に仕方ない』


 はい、この匂いが仕方ないんです。

 僕達のせいではありません。




「これがカレーか……まるでうッ……ッ……(パクパク)!」

「レックスゥ……今、何て言うとしたのかしら?」


 ひえぇぇぇ……。

 こ、怖いです……。

 拳から湯気が出てますよ。


「今のはレックス君が悪いね。今の一撃は僕でも防げそうにない」


 アルタが冷汗を流しながら言います。

 どこか笑みも引き攣り、震えています。

 そういう僕も鍋を掻き混ぜる手が止まり、震えていました。


「分からなくもないですが、不謹慎なのは変わりません。同情の余地はないですね」


 リリの言う通りです。

 僕だって最初に見た……今でも思いますが、口には出しません。

 フィノ姉様とかじゃなく、言って良い事ではないですから。


「そ、そろそろ出来上がりそうですから、リリ達は肉を焼いてくれますか?」

「良い匂いだね。肉はこのまま焼いていいのかな?」

「出来ればパン粉を付けて油で揚げるとか、卵とチーズが好きなんですけど、ここには材料がないですからね」

「カレーに肉は合いそうです。見た目はこってりしていて脂っこそうですが、材料から見ると野菜もあって健康的ですね」


 何事もなかったかのように調理を続けます。

 レックスとレイアは元々料理に手を出さない役割だったので構いません。


「パン粉を付けるっていうのもいいけど、俺は卵とチーズが良いね。まだ食べたことないからどっちも食べてみたいけど」

「私は野菜カレーが良いです。ハンバーグとかコロッケとかも合いそうですね」

「カレーのトッピングはいろいろあるみたいです。香辛料でまた味が変わりますし、小麦粉で作ったパスタにかけるカレーうどん、海の幸を入れた海鮮カレーとかもあります。夏バテにも効果覿面らしいです」


 詳しいことは分かりませんが、確かに夏に食べたいと思うかもしれません。

 その後にアイスとか食べるのが僕は好きです。


「辛さはどうですか? これは大丈夫だと思いますけど」

「僕はもう少し辛いのが好みかな。でも、初めてはこれぐらいで良いと思う。少し舌がピリピリするしね」

「私はこれが丁度良いですけど、シュン様が作っておられるのは辛いのでしょうか?」

「多分辛いと思いますよ。後で少し分けてもらいますか?」


 フィノ姉様に食べてほしい、なんてことはないですよ?


「確か少し時間があったんだよね? 次の試合までだけど。――お皿くれる?」

「はい、一時間ぐらいありますね。――隅においた方がいいです。肉だけ食べたいというのもあるかもしれませんし」

「流石リリさんだ。――シル君、ちょっとお願いがあるんだけど」


 なにやら二人はあれみたいです。

 どこかフィノ姉様とシュン兄様みたいに見えました。

 意外に二人の相性がいいのではないですか?

 意外ではないかもです。


 ただアルタが問題ですよ。


「シル君?」

「え? あ、はい。お願いですよね?」

「大丈夫だとは思うけど、焦さないでよ?」


 焦しませんよ。

 シュン兄様……匂いで気付きませんよね?


「初めて会った時に言ったことを覚えてるかな? 一度お兄さんと戦ってみたいってやつだけど」

「はい、覚えてますよ。戦いたいんですか?」

「まあ、端的に言えばそうだね。丁度機会も良いわけだし、食後の運動としてもさ。お兄さんとお姉さんはトーナメントに出ないともう言うじゃないか」

「あのシュン様と戦いたいのですか!?」

「ははは、失礼な言い方だけどそうだよ。圧倒的な力ってのに興味がある、って感じかな」


 そう言えばそうでした。

 フィノ姉様達は実力差があり過ぎて出ないと聞きます。

 流石ですね。


「シュン兄様は断るほど狭量じゃないですし、言うだけならタダですから構いません」

「おや? お兄さんを褒めるのは珍しいね。お兄さんのこともしっかり分かっているようだ」

「そうですね。アルタさんにも驚きましたが、シル様にも驚きました」

「なっ!? そ、そんなことないです! し、しし失礼なことを言わないでください!」


 そんなに言うんだったらシュン兄様に頼みませんよ!

 全く、もう!


「て、敵の情報を得る、これはどんなことでも大切と言えるのです! フィノ姉様を守るにはシュン兄様のことを知る必要があったのですよ! そう、そうなんです!」

「わ、わかったよ。敵を知り、己を知ればってやつだね。俺にその情報を教えてくれるかい?」

「アルタさん! そんなこと言ったら――」

「いや、戦うならシル君の言った通りでしょ? 観察してきたシル君から情報を得るのが一番なんだよ。勝てるとは思ってないから、驚かせるぐらいはしたいのさ」

「そ、そうなんですか。確かにシュン様が攻撃を食らったという情報を聞いたことがありません。辛うじてフィノリア様が戦闘モードで掠らせるとか……」


 そう、フィノ姉様は凄いんです!

 あの悪魔のシュン兄様と互角に渡り合えるんですからね。


 悪魔で思ったんですが、悪魔の婚約者と言うのはどうなんでしょう。

 悪魔チックなフィノ姉様は良いですけど、囚われの……想像できません。

 それにしても小悪魔なフィノ姉様は良いですね!


「って、何想像してるんですか、僕は……」

「何か言ったかい?」

「い、いえ! 何でもないですよ?」

「「何故疑問形(なんですか)?」」

「そ、そんなことよりもシュン兄様の情報、特に苦手とすることですね! いいですよ。少しくらいなら」

「そうかい。ありがとう!」


 これだけ喜んでくれる、のは……もしかして!

 さりげなく情報を盗むという奴ではないですか……!


 くっ、了承した後に否定するのはダメです。

 こうなれば……嘘を教えるしかありません!

 アルタには悪いですけど、確定していないので仕方ないんです。

 嘘を付いてもわからないと思いますし、そもそもシュン兄様が苦手にしているのが何なのか知りません。


 攻撃・防御・回復に支援、どれも出来ますし、護身術と言いながら剣術は一流です。

 短所と言えば身体能力ですが、身体強化等でどうにでもなります。

 反応速度もあれですし……


「ふむふむ……」

「今回は関係ありませんけど、仲間思いですし、結構お人好しですからね。アルタの実力が分かるまで手を抜くと思います」

「最初が肝心ってことだね」

「そうです。あと……シュン兄様が苦手とするのは――」

「あ、なるほど……」


 少し本当のことを混ぜ、アルタに偽の情報を教えます。

 少し心が痛むのは、本心ではアルタがそうであってほしくないと思っているからです。

 シュン兄様の身を案じているわけでは……ないと思います。

 負ける姿が想像できないですからね。


 ですが、万が一、があり得ます。

 被害はシュン兄様だけに留まると決まっているわけでもありません。

 僕が周囲に被害が出るようなことをしてはいけないんです。


「ありがとう、シル君。シル君の情報が正しいと証明してみせるよ」

「任せました」

「応援していますね。その前に昼食にしましょう。――そちらの仲良しさんも準備が出来たので来てください」

「おお、早くしてくれ! そのう「(ギンッ)」……カレーとやらを!」


 懲りない人ですね。

 それに復活速すぎです。

 どれだけ食い意地が張ってるんですか。




 この時の僕は、先ほどの情報が誰かが聞いているなどと思いも知りませんでした。

 怖い思いをすることになりましたが、本当のことを言わなくてよかったと心底思います。


最後の方で触れている弱点の話ですが、結構迷いました。

どんな話でも何を出して、何を隠し、どこまで読者に見せるか。

伏線もですが、こういった先の展開をワクワクさせるフリとでも言うのですか? 書き方が何度やっても難しいです。

苦手な部分を書くべきか本当に迷いましたが、後に備えて書かないことにしました。

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