林間学校二日目
二日目。
寝る所は教室の壁をくり抜いた大広間みたいなところ。
そこを改修して魔法陣を組み込んだ箱部屋だ。
それなりに快適な空間で、服さえ着ていればそのまま寝れる王族でも大丈夫だろうね。
ま、フィノは野宿も少し慣れてるし、シリウリード君もそういうことに文句を言うタイプじゃない。
学年は別々で、四クラスで大体百人だから、五十人くらいだね。
男子が一見多く思いそうだけど、平民は女子の方が多くてね。
逆に貴族は男子が多いんだ。
学園はシュタットベルン魔法学園以外にも貴族だけの名門校やお嬢様学校、平民だけの学校や塾もある。
ガーラン魔法大国は名前からどの学園でも魔法を教えるけど、学園やそれに準するものはたくさんあるんだ。
だからこそここは中立の立場でいるわけ。
話を戻すけど、一日目はかなり体力を使って、皆疲れ切ってた。
遊ぼうかとも思ったけど、寝る人の邪魔をしちゃいけないし、明かりが漏れないよう結界を作っても良かったけど、僕達も早めに寝ることにした。
明日の朝が結構早いってのもあったからだ。
スケジュールでは、朝六時過ぎに起きて朝の準備をする。
かなり速いけど、朝食は教師が食材を提供してくれんだって。
去年はそんなことなかったみたいだけど、かなり危なかったらしいからね。
でも、早い者勝ちに近いみたいで昨日食べられなかったパーティーは待っていたみたい。
まるで何かの発売日を路上で数日前から待つ人の様に。
でも、昨日のお題を達成できたパーティーは個別に準備してあるみたい。
出来なかったパーティーだけが取り合いに近いみたいで、それでも数は決まってるから食べられないところはないみたいだね。
僕達の所は僕の料理だったからね。
カレーを作っても良かったんだけど、あれは一日寝かしたいから別の物にした。
まあ、匂いが食テロになったから果物しか食べられなかった人たちには悪かったね。
聞いた話では果物だけでも全員食べたんだって。
あれだけあれば誰かに聞くだろうし、後者の周りにもたくさんできていた。
調べてみた感じあれは誰かが植えたやつだね。
去年もあったみたいだけど、食べられるか分からなかったらしいし、去年はまだ貴族主義が残ってたから聞き難かったんだろう。
矜持や口当たりとかの問題で食べられないという我慢の子もいたみたい。
それを見かねて今回は準備されていたってことだ。
で、僕が作ったのは硬い果物の器を使ったグラタンだ。
こんなこともあろうかと、水分を失くしたホワイトソースを保存魔法をかけて持って来ていてね。
それに水魔法を加えて、風変りだけどパスタをご飯やマカロニ代わりに入れて果物のグラタンにした。
後はアル達が運んでくれたジャガイモとかを使ってサラダを作り、魔物の肉を熟成させて焼き肉にする。
タレはないから見つけた香草を振りかけて味付けした。
今日は魚とか欲しいかな。
軽く空飛んでみたら川と湖を発見したからね。
でも、寄生虫には気を付けないといけない。
ま、管理しているみたいだからそこまで危ないとは思えないけど。
因みにノール学園長は泣いて食べてた。
文化祭の時とは違うグラタンだからね。
でも、食べたのがノール学園長だけで、他の教師からジト目を向けられていた。
ウォーレン先生からちょっとくれないかと言われたんだけど、流石にね。
シュレリー先生が現れて連れて行ってくれた。
どうやら先生も尻に敷かれているようだ。
ぼ、僕はそんなことないようにフィノと仲良く……できるはず!
ちょっと自覚があるんだ……。
で、朝食――貰ったパンとかと肉を使ったスープと果物――を食べた僕達はスケジュール通り校舎の前にパーティーごとに集合する。
一応僕がリーダー的な存在だから点呼を取って報告する。
「これから何するんだったか?」
「覚えてなさいよ、全く。午前中はパーティー同士での訓練とかのやり取り。その間に協力して昼食の食べ物を確保しないといけないわ」
「午後からは四方に囲いを作って鬼ごっこ? をするみたいです」
「確かパーティーで移動し撃破するんでしたね。魔法は身体強化類と魔力感知のみ。属性魔法は魔物相手だけみたいですよ」
それは雪合戦と同じく僕が話してたやつだ。
ただ、普通の鬼ごっこでは面白くないからそうするんだろう。
撃破ってのはタッチのような感覚で良いと思う。
ここは特殊なフィールドじゃないから危ないことは出来ないもん。
パーティーで動かすのも迷子にさせないとか、怪我しても対処できるとか、連携とか、魔物に遭遇しても大丈夫なようにするんだね。
多少離れるぐらいならいいだろうけど。
範囲にはクラーラが言ったように囲いがある。
頑丈なテープが張り巡らされているんだって。
だから、そのテープを越えない限り本当の迷子にはならない。
迷子と言うより遭難だね。
迷子になっても魔力感知で探せるし、便利なものだ。
「さて、僕達も組むパーティーを決めようか」
「俺達の所は誰も誘いに来ないからな。自分達で良い所を見つけるしかない」
どういうことだ?
己惚れじゃなければいつも誰かが魔法とか聞きに来るのに。
フィノも……
「知らないよ」
みたいだ。
「その言い方じゃ勘違いさせるわよ」
「ああ、そうだったな。俺達が嫌厭されているんじゃなくて、どこのパーティーも組んで付きっ切りで指導してほしいから喧嘩になる」
「だからですね、私達が選ぶことになったんです」
「去年はまだしも、今年は二人の力量もわかってるわけ」
「なら、シュン様達が選ぶというのが公平、となったんです」
そう言う理由だったのか。
まあ、納得だ。
「責任重大?」
「いや、責任はないから僕達の気持ちじゃない?」
「恨みっこ無しと言っても選ばれるのは一つだもんね」
そういうことだ。
「ってことで、シュンはどっか組みたいところでもあるか?」
「どこって言われてもなぁ……シルウリード君のとこが良いかな?」
「シルは何時でも教えられるから他のパーティーが良いと思うけど」
僕としてはどっちでもいいけど、シルリード君はフィノと組みたいだろうなぁ。
でも、昨日は他のパーティーと一緒に居たっけ?
最初は同クラスや学年のパーティーと組むのが良いかも。
あと三年近く一緒にいるわけだしね。
ま、上級生から直接教わるチャンスでもあるんだけど。
どっちが良いかはわからないね。
「そうなると……パスタ君や魔法を教えた子達だね。中途半端に教えたから、幻術とかしっかり教えておこうと思う」
「そうだね。幻術は危ない所もあるし、見破られることも教えておかないと」
あの時は僕やフィノも抵抗しなかったから効いてたけど。
本当なら魔力量の差で幻術を打ち消してた。
観客の中にも魔力量が上回っていた人がいたと思う。
その人は僕の幻術に掛かっていた上に他の生徒の幻術があったから大丈夫だったんだ。
だから、もし幻術で何かしようとして失敗したら後味悪いからね。
教えられなかった危険性と対処法も教えないと。
それが教える側の務めだもん。
「それだと公平性に欠けるから、聞かれればいつも通り答えるよ」
「幻術魔法程度なら誰でも使えるからね。練習は必要だけど」
「いや、幻術は簡単に出来ないから」
そうかな?
火魔法が得意なら陽炎とかで幻術が作れると思うけどなぁ。
まあ、繊細さに欠けるアルには少し難しいかもだけど。
水魔法でも同じことが言える。
クラーラとレンなら出来ると思う。
「丁度良いですし、僕達も覚えます」
「それが良いですね」
「といっても、その子達が同じパーティーというわけじゃないわ」
「ずっと組んでおくってわけでもないんでしょ? なら、三つ四つ順番に組めばいいよ」
「それもそっか。じゃ、誘いに行きましょう」
あぁ……フィノ姉様と組めませんでした……悲しいです。
「そんなに悲観しないの。スティル君達に失礼だよ?」
「そ、そうですね。まだ時間はあるのですから行けます!」
「いや、そうじゃないからね」
どうしてもフィノ姉様と組みたいです。
せめてお話したいです。
隣でにこやかに笑っているシュン兄様にふつふつとして怒りが……。
う、羨ましい……ですけど、僕は我慢の子です。
こんなところで嫉妬は見せません!
「そうそう、一生懸命やればお姉さんもわかってくれるはずだよ」
「そうですよね!」
「最後までやり遂げればなおさらですよ。お姉さんは見ていてくれますよ」
「レックス、リリ……ありがとうです」
二人の言う通りです。
これはフィノ姉様ともっと仲良くする試練なんです。
絶対やり遂げてみせますよ!
「リリさんも扱い方覚えたんだね」
「あ、扱い方? は、はい、まあそうですね」
「何か言いましたか?」
『いや、頑張ろうね』
当たり前じゃないですか!
さ、皆の所へ行きましょう。
「この辺りでいいかな」
「そうですね。スティルも良いですか?」
「ええ、構いません。今日はよろしくお願いする」
『お願いします!』
こういう姿を見ると王族だと感じます。
と言うよりこれが普通なんですよね。
シュン兄様のおかげで気楽ですけど、忘れていてはボロが出ます。
ボロが出まくりと聞くシュン兄様が何もないのがおかしいです。
「で、今日は何するんだ? いつもの特訓じゃ面白くねえだろ?」
「そうね。昼食用の得物も取らないと受けないし」
「そっちは昨日の残りとチェックした地図通りに行けば大丈夫です。一応魔物を一体は倒しておきたいですね」
夕飯のこともありますしね。
シュン兄様が考えた保存魔法で肉は新品と変わりません。
悔しいですがフィノ姉様は便利だと嬉しそうでした。
「とりあえず、お互いに苦手な所を指摘し合うというのが良いのではないですか? この訓練は強くなるためではなくパーティー同士でのコミュニケーションにあるみたいですし」
「それもそうですね。趣旨に沿った訓練をしましょう」
「なら、まずはお互いのことを知るのが先だな」
「得意なことと苦手なこと、後はやってみたいこととか良いんじゃない?」
「そうだな。シリウリード様は学年主席であられるし、悔しいがアルタ殿は学年次席、俺も三席だから丁度良いであろう」
そう言われると過剰に集まって気もします。
戦力強化もあるんでしょうから、上の人は下の人に教える。
指導することは自分の練習にもなるとフィノ姉様は言ってました。
だから、僕も下の人に教えた方が良かったのかもしれません。
一応明日はそうすることにしましょう。
別に見下しているわけじゃありませんし、僕だって人に聞かれたりします。
何故かシュン兄様のことだったりしますけど、ね!
勿論男子生徒にフィノ姉様のこと聞かれるのも嫌です!
鼻の下伸ばしちゃって、まーッ! ですよ!
僕が苦手なのは攻撃魔法と威力がない事です。
魔力は多い方と言ってもフィノ姉様の半分もありません。
まあ、フィノ姉様は加護持ちですから仕方ないですし、シュン兄様は例外です。
六つって何ですか、六つって!
アルタは魔法自体があまり得意じゃないですけど、それでも使い方が上手く純粋な戦闘では僕より強いかもです。
リリは攻撃自体得意じゃないですけど、苦手の克服より回復や支援を強化したいらしいです。視野も広いですしね。
女子がいないと嘆いていたレックスはレイアに蹴られ、アルタと戦闘を繰り返すようです。
レイアはもっと魔力を扱えるようになりたいとのことです。
「スティルも魔力操作ですか?」
「はい。私は魔力もそれほどありませんので、魔力操作を上達させ消費を抑えようかと」
そういえばシュン兄様が言っていました。
魔力操作を上達させると無駄な消費が減り、もっと言えばイメージや精神を落ち着かせるのが良いと。
今はそんなことできませんからいつもやっている魔力操作で良いでしょう。
「じゃあ、レイアとスティルは僕と練習しましょう」
「僕はレックス達と特訓するよ」
「私は怪我に備えておきます」
「なら、戦闘中の支援や分析もお願いできるかな? 外から見るとでは違うからね」
「あ、分かりました」
これで全員決まりました。
後は練習方法を考え、いえ、先に二人がどれほどの物か知らないといけませんか。
「今は八時ですから、十時頃まで練習して食材集めに行くのが良いと思います」
「僕もそれでいいよ。午後は一時からだったね」
「不測事態に備えるということですね」
そういうことです。
少し離れ三つに分かれます。
スティルの所にも支援系がいたからで、お互いに情報を交換しながら分析と支援をします。
僕の所は土魔法で目標を作り、まずはそれに魔法を使ってもらいます。
分析は得意じゃないですけど、気付きぐらいは分かるはずですからね。
一応フィノ姉様から魔力感知でのやり方を教わっていますから。
あれ? シュン兄様でしたっけ?
ま、フィノ姉様で良いです。
シュン兄様の功績は我が身のように喜んでいるフィノ姉様の物でもありますから。
「スティルはあれですね」
「あれ、ですと?」
「はい。魔力に無駄な動きがあります。魔法を使う時は体内の魔力を集めて練って指先とかから放つんですけど、スティルの場合体内で練って指先へ移動させる、という順になっています」
「それだと折角練った魔力が分散して、放つ時に量が足りなくなって過剰の魔力を使っちゃうんだったわよね?」
「はい、レイアの言う通りです」
練るのと動きは一つにする。
それはシュン兄様もフィノ姉様も強く言っていました。
それだけで魔法発動の速度も違いますし、魔法を使いやすくなります。
「そうだったのか……」
教えた人が悪かったのか、それともシュン兄様の考えが新しいのか分かりません。
無意識によるものらしいですし。
「レイアはイメージ力と魔力の安定化が必要です」
「イメージってし難いのよねぇ……安定化もむずむずするし」
魔力の安定化と言うのは強弱を無くすことや供給の仕方のことです。
ダダ漏れにすると魔力消費は上がりますし、魔力を籠めれば威力は上がりますが、土の人形を破壊する必要は今のところ有りません。
適切な魔法を使い、適切な魔力量を見極める。
結局は魔力消費に繋がり、強いては戦闘で余力をいかに残せるか、に繋がります。
この四日ほど過酷ですが、いかに体力配分をするかも大切です。
森の地形や地図を作製することもですね。
一応簡易地図は配られていますし。
「私はこうしたいというイメージで行っていますが、シリウリード様はどうなさっているので?」
「僕は……スティルと似たようなものですけど、効果とかもイメージしてますね」
「効果とか? 火は熱くて燃えるとかってこと?」
シュン兄様が齎したあの知識は教えることは出来ません。
シュン兄様でさえこれを教えたら世界が混乱する、と言っているほどですもん。
べ、別に馬鹿にしているわけ……あれ?
何で庇ってるんです!
シュン兄様はどうでもいいです!
段階を踏んでこの世界の人が見つけないともしものとき世界が滅ぶ、と言います。
そこまではいかないと思いますけど、父様やローレ兄様もあり得ない話ではないといいます。
ですから、教えるのは表面だけですね。
「確かにそうですけど、その火がどうなってほしいのか、爆発するのか、燃え広がるのかってことです。『ファイアーボール』だけでも着弾と同時に爆発したり、燃え盛ることもできるということです」
「そうですな。そこのやり方の違いで魔法の効果が変わる。確かシリウリード様の義兄君であられるシュン様が考案された造形魔法もそれにあたるはず」
造形魔法は確かに魔力操作や制御が必要です。
ですが、基礎はイメージ通りに作れるかってところなんです。
シュン兄様が雪で作っていたグラウンドの造形も同じで、こういう形にしたいと思うのが大切なんです。
勿論造形魔法でも粘土をこねて形作るようにイメージすると簡単です。
「レイアは火力特化ですから爆発力を上げるようイメージするのが良いと思います」
「ちょっとやってみるわ。……爆発……と言うより爆散のイメージね……よし! 燃え盛る炎よ、赤き爆炎となりて我が手に集い、彼の敵を焼き焦せ、『ファイアーボール』!」
詠唱も少し変えてますね。
そこ辺りは以前教えていたはずです。
いつもより熱と燃える音を出す火の球は見事目標である土の人形にあたり、先ほどよりも激しい爆発音を上げて木っ端微塵にしました。
周りの人が何事かと見ているのが良い証拠です。
「やったわ! シル、出来てたわよね!」
「はい、向上してました。ただ、魔力が安定していないのでダメージを与え過ぎです。安定化は魔力操作を慣れるほかありませんが、寝る前とかに精神統一するのが良いと思います」
「そこはシルに教わった方法でやっていくわ。ありがとうね」
「いえ、頑張ってください」
魔力の安定化は命中度にも関わりますし、魔法特化であるレイアが後方で予測付かない魔法を放たれては前衛のレックスが気の毒です。
しかも魔法の威力が上がれば尚更ですよ。
「少しの助言でここまで変わるものなのですな」
「はい。魔法は個人でやり方が異なる時も多いですけど、基礎は誰でも同じです。魔力操作等を疎かにしてはならないってことです」
フィノ姉様の魔法が強いのはその影響だと聞きました。
なんでも魔法が使えない間も欠かさず魔力感知を行い、魔法を使えるよう魔力のコントロールを練習していたと。
僕はその姿が痛々しくて嫌いでした。
今ではフィノ姉様も明るく笑っていますが、二年前までは笑顔が見えなかったですからね。
そこはシュン兄様に感謝しています。
僕があの笑みを取り戻したかったですけど!
まあ、シュン兄様だから何です。
それを飲み込めるかは何度も言いますが別なんです!
「レックス、双剣は片手で使っている分一撃の力が弱い。勿論片手剣と同じだけど、双剣は手数で押すのがセオリーだよ」
「くっ……なら、どうして全部捌かれるんだ、よッ!」
「それは型通りで軌道が読みやすいからだよ。体捌きや筋肉の動き、構えでもわかる。それに支援魔法や身体強化もしっかり利用しないと」
「ガッ!」
何か凄まじいです。
双剣と言えば魔闘技大会でシュン兄様と良い勝負をしていたロンダークと言う帝国の冒険者がいました。
今はどこかにふらりと旅をしているらしいですけど。
なぜセシリアンヌ母様に雇われたんでしょうか?
そこがちょっと疑問です。
「身体強化は部分的に使うのは良いけど、攻撃の瞬間にブーストするのも良い。だから僕の一撃が優るんだ」
「いつつぅー……そういうが、そんな繊細なこと出来ねえよ。女に対して繊細な手捌きでうおっ!」
「燃やすわよ?」
レ、レイアは地獄耳です……!
「ははは、シル君達がやっているような繊細さはいらないよ。魔力を多く使ってもたかが知れてるから爆発力で攻める。あと、フェイントも織り交ぜて、不規則に変化するのも双剣の持ち味だよ」
「外から見ているとレックス様の方がよく動いて見えます。そこも考えた方がいいのではないでしょうか」
「体力切れになるってこと。支援もし難かったな」
「体術もあった方がいいのでは? 剣だけだと難しい時もあるだろうし」
シュン兄様もフィノ姉様も剣や細剣以外に体術も出来ます。
魔力を纏って攻守共に向上させるんです。
身体強化と違い魔力操作がしっかりできていないと難しい魔法ですね。
「私は一応貴族として剣を使いますが、普段は槍を使います。実家は槍の名手でもありますので」
「そうなんですか。僕の場合は力がないので防御に特化しました。今は攻撃の無さに少し情けないですけど」
「いえ、王族なら守りに優れていて問題ないかと思いますが。前線で兵の士気を高めるのも良いですが、後ろで倒れない将というのも良い物です」
そう言えばそうです。
僕にはレックスやレイアがいるわけですし、今のところアルタも信用できます。
僕の心情を除けば、ですけど。
「それにしてもアルタ殿は学生の腕を越えていますな。恐らくあれは全力ではありません」
う~ん、僕にはアルタの腕が凄いのは分かっても今一です。
話しながらレックスを捌けるので全力ではないと思いますけど。
「差し出口ではありますが、アルタ殿には気を付けた方が宜しいかと」
「どうしてです?」
やっぱりですか……。
スティルは何か知っているのでしょうか?
「それほど知っているわけではありません。ただ、隣の席ですから、シリウリード様がアルタ殿を何かと警戒しているのが分かっていたのですよ。警戒と言うより注意、という段階ですかな?」
気付かれてたんですか?
む~、上手く出来ていたと思うんですけど。
「ええ、まあです」
「この実力や器用さを見れば注意するくらいわかるというもの。ですが、それが私には怪しく思うのです」
「どのようにですか? 調べましたけど特になかったです。よくありそうな身分偽装もなかったですし、あの学園長先生がそのような不穏分子を学園にいれるとは思えません」
その点もあって余計にこんがらがっているんです。
シュン兄様と互角に渡り合えそうな学園長先生ですけど、絶対とは言えないのも確かです。
例えばあの壊す試験ではシュン兄様に負けて何かやってましたし、どこか悪戯好きだと聞きます。
実際生徒一人ずつの背後関係を調べて入学させるわけでもないですし、かなり前から手が入っていたらなかなか気づけません。
「怪しく思うのはこれほどの腕の人物を今まで聞いたことがないということ。どこからふらっと現れるというのは冒険者ならよくありますが、アルタ殿は貴族ですから」
「それもそうですか……」
「兎に角、注意は怠らないのが宜しいかと進言しておきます。何かあれば私の方でも微力ながらお力になります。過去のことは忘れ手を組まなければなりませんから」
「ありがとうです。今度お礼に王国の特産でも送ります」
帝国との過去、ですか……。
「シュン様、そろそろお昼を作りたいのですが、魔物の解体法を教えてください!」
「ずるい! 私は料理の仕方を!」
「ボクは少し手解きしてほしいなぁ」
フィノ姉様と言う人がいるというのに何をしているんですか!
アルタのことよりもこっちの方が大事です!
世界を救ってもフィノ姉様を泣かせるのなら天に変わって成敗してやります!
「フィノリア様、少し手解きぐほっ!」
「え?」
っと、思わず魔法を放ってしまいました。
失敗失敗。
僕が先に戦ってコテンパンにしないといけませんでした。
そもそもシュン兄様がしっかりしないのがいけないんです!
フィノ姉様の婚約者ならしっかりしてください!
まったく!
「ほんとシル君はお姉さん思いだねぇ。でも、しつこいと嫌われちゃうよ?」
「え?」
「当たり前じゃないか。お姉さんとお兄さんは両思いなんだから」
ぐ……確かにその通りです。
やり過ぎてシュン兄様を困らせるのは良いですけど、フィノ姉様を困らせるつもりはありません。
ぐぬぬ、僕は我慢しないといけないのでしょうか。
いけないんですよね。
王族の婚約を嫌がるというのも体裁が良くないですし。
いえ、これもアルタの作戦ですか?
僕を種に二人の仲を裂くとか、争いを起こすとかですよ。
でも、深く考えなければ二人の邪魔をしてはいけないという正論です。
…………もう!
わかりません!
こうなったらずっと注意してやります!
僕は安易な言葉で騙されるほど馬鹿じゃないですからね!
アルタとスティル。
どちらが敵か……。
今のところスティルが優勢ですが……お約束で行くと……。
面白く出来るよう頑張ります!




